1章7節2項(43枚目) 屋敷に侵入する者たち

 風の仮面の適合者バイパーの姿でガクウ・ポルポが地上で騒動を起こしている際中、仲間である他の3人、レオレ・トフィー、ピルク・トフィー、ティアス・ティフィカルテは屋敷に通じる地下通路にいた。

 昨晩、仮面暴徒ブレイカーが拠点にする屋敷への侵入を試みようとした者たち、ホコアドク随一ずいいちの資産家の1人娘だったフランネ・フルスワットとその家に仕える執事見習いだったビルガー・クルクが利用していた通路にいた。

 昨晩、仲間の1人だったラピス・ヌルクが引き起こした火事で地下通路を隠していたボロ小屋は跡形もなくなっていたものの、その下にあった通路は無事だった。床の一画に隠れていた階段はき出しになっていたものの、下りることに支障はなかった。

 その地下通路は昼間の内に確認していた。利用できることが分かったため、彼らは作戦を見直さなかった。ホコアドクの外にいた仮面装属ノーブルが部隊を編成して、屋敷へと向かっていく姿を目にしたため、決行した。

 先頭はレオレが務め、その後ろにピルクとティアスが続く。

 当然ながら、レオレは姿を変えている。瞬時に戦闘に移れるように準備していた。

 無数の矢印が描かれている仮面を被り、黒に近しい灰色の肌に、黄金色に輝く首輪をして、胸部と背面がよろいを連想させるかのように盛り上がっている姿に変わっていた。

 その姿で先を進み、安全が取れた後ろを2人は歩いていた。

「これからの作戦なんだけど、ちゃんと覚えている」

 小声でピルクが私に話しかけてきた。私が暴走しないことを意識させるため、先刻レオレから聞いた段取りを尋ねてきた。

 全く邪魔臭い。

「おんぶするのを止めてくれたら、答えるけど」

 ピルクの質問に答えなくなかったから、条件を持ち出した。歩かせてくれないから拒否した。無理矢理ピルクに背負わされ、気分が悪いから言いたくなかった。

まま言わない。キミ、真っ暗な中、もたつかずに歩けないでしょう。置いてけぼりにされたくないでしょう」

 しかし解放してくれない。

 私の提言を取り下げた。

 私の身を案じているから運んであげている、と言っているようだった。

 取り残されたら、仮面暴徒ブレイカーが持つ100枚の仮面よりも大事なものに手が届かなくなるから、大人しく従っていなさい、と親切心から訴えかけているかのようだった。

「だから灯りを用意しようと言ったんだよ」

 でもだまされない。

 反論させてもらう。そんな気がないことは分かっている。

「昼間、ここを訪れたときに提案しなかった。暗いし、灯りがないと歩くのも危ない、と俺言わなかったけ」

 地下通路の具合と様子を確認するため、現地を訪れた際、口を酸っぱくして言ったことを思い出してほしい。

 そしてあのときの光景を忘れたとは言わせない。

 陽が届かないほどに通路が暗かったことを確認しなかった。周囲に灯りがなかったことを確認しなかった。ちゃんと目にしなかった。ここにいないガクウも含めた、4人で認識を合わせたのは私の気のせい。

「自分たちの行いのせいとはいえ、昨晩の火事により、周囲が荒れ、道具が揃いそうにない状況でも探すことすらしなかったのは誰だったかな。

 誰も取り上げないから、俺がそのように主張しても聞き入れなかったのは誰だったかな」

 安全に進むことを考えるなら、周囲を照らすための光は必要だった。考えるまでもなく、その光景を目にすれば、自然と思い浮かぶ。

 しかし照明器具を見繕みつくろう選択には至らなかった。

 私を除いて、誰も行動しなかった。

「俺だけでも探そうとしたら、止めたのは誰だったかな」

 私を背負うピルクは自ら動いてもいなければ、立ちはだかってもいない。

 私の抑止に動いたのは指揮官代理のレオレ。傍付アテンダント風情が意見するな、と上から目線で私を押さえ付けたのは彼女ではない。

 仲裁に入らなかった辺り、同罪ではあるけど。取り持つことすらせず、黙って見ていたから、結局同じこと。

 味方になれ、とは言わないけど、仲立ちくらいはしてもよかったのでは。一応、同じ目的を掲げている仲間でもあるわけだから。

「人のせいにするけど、強行しなかったのは誰だったかな」

 生意気にもピルクはやり返してきた。今までの行動にケチをつければ、逆に指摘してきた。反撃してきた。

「殺す、とお兄様に脅されて、抗うのを止めたのは誰だったかな。気のせいじゃなければ、それはティアスじゃなかったけ」

 確かにその一言で私は諦めた。命がかかっているから仕方がない。あのとき、殺されるわけにはいかなかったから。

 そのことを持ち出されると、文句は言えない。

「分かるよ。しがみついてでも屋敷に向かわなければならない、大事で個人的な理由があるから、お兄様に逆らうのを止めたことくらい、知っているよ」

 私が難癖をつけていたら、ピルクが痛いところを突いてきた。厳しいことを言ってくれる。

 彼女の言う通り、私は仲間内で掲げている目的よりも優先すべきことがある。

 だから、それ以上、進言しなかった。

 受け入れざる得ない一言だったから、引かなければならなかった。殺されてしまえば、元も子もないから。

 私がレオレよりも上流の方に仕えていても、私自身が偉いわけではない。その方を支えるに不都合が生じないよう、ある程度の配慮はいりょはあっても、全てが許されるわけではない。

 警告されれば、大人しくするしかない。冗談ではないことくらい、理解しているから、早々に手を引く。どうしてもやり遂げなければならないことでもない限りは。

 彼女に背負われているのもその一環。不本意だが、個人的に果たすべき事柄があったため、仕方なく、身を預けている。

 ピルクの言う通り、私は足手まといだから。

 地をえば、転ばずに済む。暗さで生じる問題は解決する。

 しかし屋敷に到達する時間も比例して、長くかかる。

 それでは別の問題が生じるだから、彼女に密着している。

 女性特有の膨らみにぶら下げた手が当たっているが、別に嬉しくもない。姿勢上、股間を背中に押し付ける形になっているが、興奮も覚えない。

 状況にかこつけて、喜んではいない。不貞腐ふてくされ、気分を害しているから、それどころではない。自分と仲間に対する苛立いらだちを抑えるのに力を使っているから。

「分かっているのなら、怒らせないでほしいんだけど」

 ピルクが分かり切っていた事案をえて伝えてきたから腹が立った。抑え込んでいた溜飲りゅういんが込み上がり、噴出した。

 理解しているのなら、私の問題を蒸し返さないでほしいんだけど。

「引いたんだから、怒らないでほしいんだけど。それに敵に見つかるわけにはいかないから、明るくできないことも知ってほしいんだけど」

 ガクウの行動が陽動だと気づかれるわけにはいかないから、情報をできるだけ与えない措置を取っているのは分かる。この場所に仮面暴徒ブレイカーがいる可能性を考慮こうりょして動いていることは理解している。

 私を先行させない要因も含んでいる点を除けば、うなずけること。相手に察知される機会を減らすためとはいえ、その点だけは同意できない。

 彼女たちはそれを表立って認めることはしないんだろうけど。指示を出したレオレであれば、尚更なおさらな。

「それにここまでふらつかずに歩けているでしょう。キミは見えていなくとも、お兄様と私の問題にはならないから、安心してすがっていていいよ」

 そして私の懸念けねん払拭ふっしょくするほどに安定して歩けているから、異議を唱えることがはばかれる。

 何度も同じ場所を踏み、足の踏み場に支障がないことを確認してから、前に進んでいない。

 恐る恐る足を前に突き出し、転倒しないように歩いているわけでもない。

 慎重と安全を重視した歩行ではない。

 足元が暗くとも光を必要とせず、いつも通り、その辺を歩くかのようである。特別、速度を緩めることなく、スイスイと前へと進んでいる。

 だからこっちから口出せなかった。

 結果を出しているから言い出せなかった。ピルクがきっかけを作らない限り、不満は言えなかった。

 私が提案するよりも前に打開策を練れていたからこそ、レオレは私に動かないように指示したわけである。無駄に危険性を高めないために止めたわけであり、聞き入れなかったわけである。

 単純に階級が低いから見下しているわけでもない。レオレの性格からすれば、含まれていないわけでもないだろうけども、私が大した意見を述べたわけでもなかったから、取り合わなかったわけである。

 レオレとピルクにしてみれば、周囲が真っ暗なことなど、造作もない要因だった。

 特に気に留める必要などなかったから、レオレは私をないがしろにしたわけである。

 私にとっては困難な事柄であっても、彼らにしてみれば、些末さまつに過ぎなかった。

 それで私の口を封じたわけである。私の行動目的をよく理解していたから、脅して、終わらせたわけである。

「誰が聞き耳を立てているか分かったものじゃないから、実行直前まで、手の内を明かせなくて、悪かったね。作戦を成功させるためとはいえ、お兄様も忍びない気持ちでいたはずよ」

 噴き出した私の怒りをしずめるため、なぐさめにかかるピルク。彼女は本当にそう思っているかもしれないが、彼は怪しいところ。態度でも示そうとしないから、信じられることではない。歩み寄ってくれる努力が目にできないから、全然説得力がない。

「おっほぉん」

 その張本人が咳払せきばらいした。かすれる程度だったけど、反響した音が耳に届いた。

「お喋りはそこまでにしておけ。敵地に近づいているから慎んでおけ」

 先頭を歩いていたレオレが私たちに注意を入れてきた。存在をギリギリまで隠しておきたいためか、できるだけ静かな声量で伝えてきた。

「そしてピルクはそこで止まれ」

 始めに合図を鳴らしたのは自分の言葉に耳を傾けさせるため。ボッソとした音を拾ってもらうため。

 私たちに対する注意は然程重要ではなく、この内容を届けたかったがために介入したんだろう。いさめるのはついでで、これをやりたかったがために行動を起こしたんだろう。命令を耳にする姿勢を整えるための準備を施したんだろう。2人の間で通じる能力でもいいけど、エネルギーの節約を考えれば、これが合理的だったんだろう。

 全てはレオレの心の内だから、答えは知らないけど、考えられるとしたら、そんなところだろう。

 彼女の歩みを止めた理由は分からないけれども。

鍵認証キーセンス精緻挙動オペレーション

 その答えはすぐに分かった。能力を発動させるがために待機を命じたわけである。ピルクの足音が聞こえなくなったのを確認すると否や、実行に移したわけである。

 バッシュゥウウゴオオオオオオン、と地下通路中に響き渡らせる音ともに。

 時としては短い間ではあったものの、私とピルクが言い争っていたときに発していた声量と比べるまでもない、大きな音がとどろき、酷い揺れも伴った。

 私が地面に転がっていないことを察するに、ピルクは立ったままでいるんだろう。私をおぶったまま、直立していることは想像できる。物ともせず、私を放り出さずにいることからして。命令されてから止まったときと変わらないままの姿勢でいるんだろう。

「さて、進むぞ」

 そう言うとピルクは動き出した。先頭を行くであろうレオレに続いて。

「思い違いしないで。事前に聞いていた通りの道が塞がれていたから、お兄様はそれを取り除いただけ。大きな岩が邪魔だったから、キミの言うところの馬鹿力で開通させただけだから」

 私がとがめるよりも先にピルクが口を開いた。先ほどの注意を自ら率先して行ったことに対する、私の文句が飛ぶ前に止めに入った。彼の代わりに状況を説明した。

 進むべく道の障害を取り除くためにレオレが動いたことを弁明した。先を目指すためにもたちはだかっていた岩を壊したことを。砕いて、砂利にした理由を。

「私たちは仮面暴徒ブレイカーが持つ100枚の仮面を手にするために屋敷に向かっている。ガクウが周囲の注意を引きつけている間に屋敷に侵入して、仮面を探し出し、そして持っていくことを目指して、行動している」

 私が答えないものだから、ピルクは私に問うた作戦の内容を自ら簡潔に説明した。

「彼が仮面暴徒ブレイカー仮面装属ノーブルを相手におとり役を演じてくれているとはいえ、それも長くは続かない。私たちが目的を遂げるまで、都合よく稼いでくれるとは思わない方がいい」

 だから察知される危険を冒してでも実行したわけである。

 時間短縮のためにじ開けたわけである。注目されるよう、ガクウが派手に動いてくれているとはいえ、その時間がいつまでも持つことがないことくらい、レオレは分かっていたから、時間をかけない方法を取ったわけである。

「文句は紡がない。最短で着くには他に方法はなかったんだから」

 彼女の言う通り、時間をかけずに辿り着く方法はなかった。異変を感じ、人が駆けつける可能性を高める結果になっても他には考えられなかった。

 伝え聞いていた通りの状況になっておらず、屋敷への侵入を阻止する手筈が整えられていたから、その排除に動いただけである。

 彼女たちが持つ力や仮面ではどうすることもできないことくらい、分かっている。短絡的かつ単純ではあるものの、力ずくで道を作る以外、最短で片付ける方法がないことくらい、思い至れる。

 だから分からないわけでもない。

 状況を知れば、余計に納得できる。自分たちに注意したことをそのまますぐにやってしまう点に目をつぶれば、不満は消える。その点自体は消えやしないが、引くことはできる。口をとがらせることはできない。

 自分がより良くできるのであれば、まだしも。できない以上、非難するわけにはいかなかった。

「それにこうしたおかげで目的地に辿たどり着けたのだから」

 そう、私たちは屋敷の地下室に足を踏み入れていた。地下通路の先にあった扉を潜ると、目指していた場所だった。

 周囲が明るく、階段があり、部屋に通じるであろうかんぬきが掛けられている1つの扉が見えた。普段立っているであろう見張りは目にしないけど、それを除けば、事前に受け取っていた情報通りだから間違いない。

 こうして誰にも邪魔されることなく、着いたのだから、あまり強くは言えない。

 それに非難したところで流されるだけだから口にしても仕方がない。

「これでキミが再会したがっていた人と対面できるわけだから、怒らないでね」

 私は彼女のなぐさめる言葉を聞いていなかった。レオレに構っている場合じゃなくなったから無視していた。

 私はレオレを追い抜き、かんぬきのある扉の前に立っていた。敵対する者が誰もいないことに託けて、駆け出していた。地下通路を抜けたときから、ピルクが私を背負うのを止めてくれていたおかげで実行できた。

 2人に呼びかける前に扉へと手をかけた。かんぬきを引っこ抜き、躊躇ためらうことなく、開けた。敵がその先にいるかもしれない可能性を考慮こうりょすることなく、扉を勢いよく引いた。

 急いでいたから仕方がない。私が一刻も早く会いたい、あの方がこの先にいるから待ちきれない。単独行動で先に屋敷へと侵入し、私たちに情報を流していた、私の愛しき者に久々に触れられるのだから、悠長ゆうちょうにしていられない。

 送り出すことに反対し、離れたくなかったから衝動しょうどうが止められない。

 彼女の意思が固く、止められなかったことに酷く後悔しているから尚更なおさらに。眠らされ、気づいたら、いなくなっていたから余計に。

 不甲斐ふがいなくもあり、さびしくもあり、落ち着けず、いつ行動に移せるかとソワソワしていたから、無理もない。自分の欲求に歯止めが効かなかったから、どうしようもない。

「俺の伴侶のクーシャ様。長い間、待たせることになりまして、申し訳ございません」

 だからティアスは前のめりに行動してしまった。

 溺愛できあいする者が手の届く距離にいたがために後ろから助言し続けているピルクを無視して、部屋の中に入った。こがれにこがれていたために突っ切った。

 しかし現実はそう甘くなかった。

 念願の再会にはならなかった。

 部屋にいるのが、ティアスが会いたがっていた、クーシャ・プラーネだけだったなら、その者は感激で涙を流していた。彼女の他に部屋の中に誰もいなければ、クーシャの温かみを感じるため、肌を晒して、り合わせていた。

 理想通りであれば、人目をはばかることなく、彼女の柔らかさを堪能たんのうしていた。レオレとピルクの視線を気にすることなく、クーシャを味わっていた。仮面暴徒ブレイカーが持つ100枚の仮面の回収を放棄して、汚れている彼女の体をぬぐっていた。衣服をまとうことなく、生まれたままの姿で閉じ込められていたクーシャのけがれを払うことに邁進まいしんしていた。

 しかしクーシャの他に見知らぬ男が1人、扉を開けた先にいたから、ティアスは彼女に飛び込まなかった。

 仮面装属ノーブル仮面暴徒ブレイカーの戦いに交わりたく、仮面展意の統治領域インテル・フィールドから遥々はるばるやってきたクスディ・ドーハの姿がティアスの視界に真っ先に入ったから、踏み止まった。蒸発していた理性を取り戻し、思い浮かべていた数々の妄想もうそうを実行に移さなかった。

「何を見せている」

 享楽きょうらくに浸る代わりに制裁を下していた。顔を真っ赤にして、叫び声を上げていた。仮面暴徒ブレイカーの拠点であり、すぐ上にその集団がいることを忘れて、大声を張り、そこにいた男に蹴りを入れていた。

 その攻撃は1発では済まなかった。ティアスは何度も続けた。引いては撃ち、引いては撃ち、と蹴撃しゅうげきを何度も繰り出し、その度、わめいていた。地上に届くのではないのかと思うほどに荒げていた。

 男も男で金的に集中砲火され、激しく痛がり、転げ回っていた。痛みを和らげようと股間を押さえる両手の上から容赦ようしゃなく踏みつけられ、絶叫していた。仮面暴徒ブレイカーに気づかれるのではないかと思うほどに苦しんでいた。

 ただでさえ、地面を震わせ、仮面暴徒ブレイカーに怪しまれ、ここに来る可能性を高めているときに、ティアスはさらに上昇させる真似を起こした。

 理由があったとしてもやっていいことではない。信じがたい、目にしがたい、けがれた光景であったとしても、敵が押し寄せる事態にならないことを考えれば、耐えがたくとも我慢するべきであった。

 愛おしい彼女の側に男が転がっていたとはいえ。

 クーシャと同様に生まれたての姿であったとはいえ。

 上体が縄で縛られ、隠すことが難しかったとはいえ、女性が嫌がることを気遣わず、盛り上がった突起物を目にできるように股をおっぴろげにしていたとはいえ。

 また着飾らない格好を見られることに対する気恥ずかしさを女性に感じさせる気遣いを男が見せていなかったとはいえ。

 部屋に照明器具がなく、扉が開くまで真っ暗で彼女に姿を見せる懸念も、彼女が見られる心配もなかったとはいえ。

 暗闇に乗じて、強姦ごうかんされるかもしれない恐ろしさを抱かせられていたとはいえ。

 及んでいた可能性に行き当たっていたとはいえ。

 あり得ないことではあるものの、お互いの性差を見せ合い、味わい、交わっていたかもしれない、嫌悪な想像が思い浮かんでいたとはいえ。

 全裸で異性の近くにいた女性が平気そうな素振りでいたとしても、自身のはらわたの煮えくりが抑えつけられない状態に追い込まれていたとはいえ。

 自身よりも先に彼女と楽しんでいたのではないかと疑ってしまうような場面を目にしてしまったとはいえ。

 殺したくもなる衝動しょうどうに狩り立てられていたとはいえ。

 自身の女を奪われ、凌辱りょうじょくに対する懲罰ちょうばつを男に執行することを固く決めていたとはいえ、感情に身を任せて、今、行動するべきではなかった。ティアスが彼女に執着してきたとはいえ、鬱憤うっぷんは後に回すべきであった。

 ガクウも、作戦も、さらに身の安全も含めれば、尚更なおさらに。

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