1章8節

1章8節1項(50枚目) 戦場に於けるクスディ・ドーハ①

 あの、クソがあ。

 何が味方になれだ。窓から外に放り出しやがって。

 俺が持っていた仮面の1つを仮面暴徒ブレイカーから取り戻し、それを返してくれたと感謝していれば、殺しにくるとは。

 仮面暴徒ブレイカーに本気で捕らえられたときも相当ムカついたが、それ以上だ。俺が持ちかけたとはいえ、無防備な俺を地下室に閉じ込めてくれやがったことにも腹が立ったが、自ら引き込んでおきながら、始末の方向に事を進められた方が余計に我慢ならん。

 はっ、まあ、運よく助かっちゃあいるけど。

 落とされた先に人がいてくれなきゃ、大怪我していた。

 腕が縛られていたせいで受け身も取れなかったから、その下敷きがなきゃ、死んでいたかもな。そのおかげで衝撃しょうげきが和らぎ、動けている。

 道化の仮面の適合者バイパーの力でいくらか器用になったとはいえ、五体が不自由だとどうにもならん。普通に危ない。

 痛い目にったことには変わらんけど、最悪じゃなかった。楽しみが途中で潰えず、よかった。

 まあ、その後が大変だったけどな。

 見たことがある仮面の適合者バイパーに見られたのがヤバかった。2度、屋敷で倒した牛野郎に目を付けられたのがクソだった。

 仮面装属ノーブル仮面の適合者バイパーじゃなかった。仮面暴徒ブレイカーが着ている上着だから、同系統の仮面で姿を変えているわけじゃなかった。

 馴染なじみのある奴だった。俺が一方的に知っているだけであっちは知らんだろうけど。

 まあ、俺の見解の正しさはどうでもよかった。

 仮面装属ノーブルだろうと、仮面暴徒ブレイカーだろうと、戦わなければならなかったからだ。

 実際、問答無用だった。俺を目にすると突撃してきた。

 攻撃するのも当然だ。怪しい奴がいればな。それが仮面の適合者バイパーであれば、尚更なおさらだ。

 勢力的に負けている、仮面暴徒ブレイカーの一員だったら、俺もそうするわ。仮面の適合者バイパーじゃなくても、味方じゃないのが確実なら、速やかに消しに行く。

 戦力差を埋めるためにも倒しておく。放置していれば、それだけ押される展開を迎えやすくなるから、今のうちに削っておく。今も十分に押されているだろうから、さらに激しくさせないためにも潰しておく。逆に自分たちが勢いづくためにも殺しておく。

 ごちゃごちゃ理由をつけるが、単に、自分の楽しみが奪われたくないから、そうするさ。生き残らなければ、楽しむことなんてできないから。この苦境を乗り越えんと必死になるさ。

 奴がどう思ったか知らんが、倒すことだけは間違いなかった。そうでなければ、自慢の角を突き出して、俺に向かってはこない。

 まあ、逆に倒したけどな。

 最初に出会ったときのように金的を狙ってな。

 突っ込んでくる奴に向かって、スライディングして、直撃を避けた上で攻撃した。牛野郎の突進力を利用するため、右足を蹴り上げた。勢いに負けそうになったが、ぶっ飛ばすためにも退かなかった。一点に衝撃しょうげきを集中させるため、弾かれることなく、突き出したままでいた。

 そのせいで落ちたときよりも痛い思いをしたが、その甲斐あって、奴は宙に浮いた。前のめりになって、地面を滑っていった。うつむきに派手に転ばすことができた。

 男にとっての急所をやられ、かなり痛がっていた。立ち上がれず、受けたところを押さえていたくらいだから。

 俺も右足の感覚が麻痺まひっていたけど、そんなのを無視して、立ち上がった。折れてはいなかったから、引きりながら、そいつに近づいた。

 そして止めを刺した。

 首元を思いっ切り踏みつけて、事を切らせた。ゴキッと音を鳴らす一撃で終わらせた。

 両腕が使えれば、もう少しマシな手でいけたが、考えても仕方がない。今頃になって、縄が解けて、締め上げられていた両腕が自由になっても嬉しくは・・・あるけども、遅すぎだ。ここまでの犠牲を負わずにいけたはずだが、まあ、過ぎたことはよそう。倒せたわけだから。

 すぐには起き上がってはこないだろうが、後々のことを考えて、仮面をぎ取った。力を持ったまま、放置するわけにもいかないから、無力化を図った。仕返しに来られでもしたら、困るから、姿を解かした。

 悶絶もんぜつする一撃だったろうが、死ぬほどではなかった。気絶程度だったから、仮面は外れなかった。

 だから倒れた男の手を借りて、仮面を外して、俺のものにした。

 誰かに使われ、そのせいで俺に迷惑がかかるといけないから、私物化した。

 俺も使えるか知らねえけど、取っといて損はない。直接使えなくても、それなりの道で使えるから。

 こうして牛野郎を倒せたところでやっと一息つけた。

 こうしてふけっていられるのは、誰の勢力にも味方していないからだ。

 一度は味方になろうと決めた奴らもいたが、いまさら手を組む気はない。仮面暴徒ブレイカーにしても、あの女たちにしてもだ。手酷く扱うなら、それなりの態度を取るだけだ。

 その答えが忙しく働かないということだ。思いのままに過ごすさ。

 ちょっかいをかけてくる奴の相手はするが、わざわざ喧嘩けんかを売りにはいかない。そういう目的で動いているのならまだしも、余計な火種は作らない。目の前のことに気を取られ、面白いことを見逃してしまうかもしれないから。

 そういう理由があって、窓から落とした、あのクソ女のところにも行かない。腹は立ったが、今はそういう場合じゃない。あの仕打ちはどこかで会ったときに返しておくさ。

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