1章6節

1章6節1項(33枚目) 野次馬根性

「はああ、何だろうねえ」

 仮面暴徒ブレイカーあこがれ、気取っていた、村のチンピラを締め上げ、ホコアドクを目指したはいいが、順調にはいかなかった。

 途中、道に迷ったせいで予定していた日数よりもかかってしまった。

 陽は昇っては沈み、沈むと同時に月が昇っては沈み、また陽は昇っては、を繰り返して約7回。雲にさえぎられ、陽や月を拝めないときもあったが、それも含めた上での約7回。

 仮面暴徒ブレイカーの仲間だとうそぶいた、あいつらが言ったように3・4日で着かなかった。慣れない場所だったから迷いに迷った。仮面展意の統治領域インテル・フィールドとは勝手が違い、苦労して、やっとのことで興味がいた場所に踏み入れられた。

 1週間近くかかって、待望していた町に着いた。

 到着が遅れたのは土地勘がなかったからだけではない。

 正しい情報とはいえなかったから、難航した。適当だったから、すんなりとはいかなかった。俺に分かるよう、説明してくれなかったから、上手く事が運ばなかった。

 そのことで怒りに震えた。道をまともに教えられないことに。痛めつけられた腹いせで俺に嘘を吐いたことに。仮面暴徒ブレイカーが広めた空気に当てられ、何も考えもせず、ただ手を抜いて利益をかすめ取ろうとしていた輩が随分ずいぶんと粋がったことに。

 こんなことなら、嫌でも一緒に連れて歩くべきだった。俺が目指す、ホコアドクに行ったことがある経験者を優遇しておくべきだったな。

 悪党の一味だと思われたくなくて、すぐに始末したのがいけなかった。問題だと決めつけるのが早すぎた。始末することには変わりないから、恩情をかけてやるのも悪くなかった。そのときが早いか遅いかだけだから、もっと目標のことを考えるべきだった。

 1人でもいれば、もっと早くに着けた。

 思い直しても、結果は何も変わらんけどな。

 しかし道に迷っても問題はすぐに解決した。

 日頃の行いがいいせいか、幸運はすぐに訪れた。

 そんなとき、ちょうどよく、道を教えてくれる者たちが現れて、嬉しかった。例え、人相が悪く、金品をかすめ取ろうとする盗賊であったとしても、それは変わらない。その者たちがからんで来てくれたおかげで道を正すことができたのだから。

 同じ失敗をしないよう、道案内させたのが功をなした。下手に時間を食わずに進むことができた。

 抵抗されないよう、手足を引きちぎったのも功をなした一因だろうな。サボらないようにと思ってやったことだが、そのおかげで下手な抵抗されずに済んだ。生き永らえる道は俺に従うしかない、と素直に受け止めてくれたから、サクサクと進めた。大人しく話してくれたからこそ、道は開けた。

 四肢をもいだ程度で諦めるしかない心意気だったから、あっさりといけたもんだろうな。雰囲気に流され、行動を起こしただけの貧者では容易いと言うことだ。まともに思考を巡らせることなく、決断したくずでは大した障害にもならんと言うわけだ。

 そんな奴は1人いれば、十分だったから、残りを目の前で始末したのもその助けになっただろうな。暴れてくれず、下手に疲れずに済んだ。止血してでも生き永らえさせた価値くらいはあったというわけだ。

 とはいえ、見逃しはしなかったけどな。

 感謝はしても、手を緩める理由にはならない。

 ホコアドクへの道順とその場所の動向を探るための情報収集の邪魔になると判断して、立ち寄った町の近くで始末した。人目のつかないところで生き埋めにした。治安組織に目を付けられ、足止めを食らいたくないから、処分した。

 口を縛った上で土を被せたから、もうこの世にはいないだろう。助けを呼ぶための声を上げられないから、間違いなく、死んでいるだろう。

 やりすぎかもしれないが、俺は被害者である。金品を狙い、暴力を振るわれたのだから。道化の仮面を被って、あっさりと返り討ちにはしたが、仕掛けたのはあっちが先だ。数に頼り、俺を襲った報いだ。

 俺はやり返しただけにすぎないし、道理を守るつもりのない奴を人間扱いするつもりもないだけだ。相手を選んで非道なことをしているだけだ。痛い目にいそうになった瞬間に道理を持ち出しても遅いわ。徹底的に強いてやる。

 しかし事情を知らない者からすれば、俺は間違いなく、悪党であろう。

 俺の仕打ちを見れば、事情を説明しても信じてもらえないのは明白だ。大多数がそうであり、俺だって、そう思うわ。

 顔が売れている凶悪犯でもない限り、周りは加害者を擁護ようごするに違いない。俺程度に簡単にひねられる奴が有名だと思えないから、期待するだけ無駄だ。

 いくら仮面暴徒ブレイカーの影響で周辺地域の治安が悪くなっているとはいえ、そんな光景を堂々と見せつけられれば、治安組織が動かないわけにはいかない。

 よほどの脅威きょうい、分かりやすく言えば、仮面暴徒ブレイカーがホコアドクで働いた悪行を味わわせるくらいのことをやらなければ、見逃されないだろう。

 仮面暴徒ブレイカーの関係者だと、はっきりと分かる物を身につけていない限り、無理であろう。

 どっちにしても俺が求める情報は手に入らない。危ない人間だと思われれば、警戒心を抱かれ、距離を取られることになるし、相手になろうとする者も現れないだろうよ。面倒事には関わりたくないし、被害も受けたくないから、自然とそうなる。俺も無駄に費やしたくないから、同じ状況に立ち合えば、そうするわ。

 無理強いでやるのもやぶさかではないが、変なところで時間を使いたくないから止めた。関わりたいところで頑張りたいから、大人しくするに越したことはない。

 ほどよくしていたこともあって、行く先々で俺が知りたい情報はつかめた。さすがにホコアドクまで案内してくれる者はいなかったが、こうして町に到着できた。

 いくつものの目印を教えてもらえたから、1人でも行きやすかった。通るべきものが所々にあったから、道を見失わずに済んだ。見当たらなくても探せば済む問題だったから、そこまで苦労はしなかった。

 それでも見当違いな方向には進んでしまったし、そのせいで時間もかかってしまったが。

 しかし俺が堪能たんのうできるであろう場所に来れたことに比べれば、些細ささいなことだ。

 突然現れ、1つの町を根城にしている仮面暴徒ブレイカー。正確に言えば、いくつかの町や村を押さえていたが、そんな細かいことはさていて。

 未だに誰からも討伐されずに居座り続けていることは統治領域フィールドの垣根を越えている。正確に言えば、境目に近しい場所だったから拾えたわけだが、そんな細かいことはさていて。

 過程はどうであれ、驚いたことには変わりなく、さらにこの町の最終的な監督役である、仮面装属ノーブルがようやく動くことに興味がいた。

 1年近く町を支配する悪党を潰すため、統治領域フィールドの統治機構が軍勢を率いて、討伐に動いたから心躍った。

 討伐したことだけを伝えるかのような動きではなかったから交わりたくなった。

 衆目に晒されることになっても、確実に潰そうとする気概が感じ取れたから気になった。

 まるで因縁の相手に差し向けるかのような勢いだったから、き上がる衝動しょうどうが抑えきれなかった。気になって仕方がなかった。

 勘違いであれば、それはそれでいい。流れてきた情報が大げさであっても、それはそれでいい。関わったがために死んだとしても、それはそれでいい。

 ともかく退屈な日々を打ち破る可能性を秘めているのなら、行動する理由にはなる。刺激なき、人生など、面白くもないから、殺されたとしても全く構わん。死に際になっても後悔などしない。死にかけにならんと分からんことではあるが、そのくらいの念はある。

 少なくとも懐古かいこ主義に磨きがかかった実家にいた頃に比べれば、大いにマシだ。

 怠惰たいだに生きなければならない過去よりも今の方が充実している。自立しても常に楽しかったわけでもないが、見出した楽しみすらも取り上げられていた昔と比べれば、気持ちは上々だ。

 特に仮面装属の統治領域ノーブル・フィールドで起こる騒動をぎつけてからは胸のトキメキが止まらない。ウハウハで、ウキウキだ。

 この体が激情に満たされるのなら、どこにでも飛び込むさ。抜け殻になって、干からびて、ただただ生き永らえるよりはマシだ。短い人生であっても、うるおいに満ちあふれていれば、それでいい。

 仮面の適合者バイパーがいる中に身を投じることになっても関係ない。仮面を持っていなくてもそうしていた。命をなげうっていたに違いない。

 危険なのは百も承知。喜びを感じられるのであれば、あらゆる犠牲を払ってでもおもむくさ。

 命を大切にするのなら、実家など、飛び出していない。忠実に受け継いできた想いをずっしりと胸で受け止め、次代につなげていたに違いない。

 それだけは自信を持って言える。過去に戻れるチャンスを恵んでやると言われても、クソ喰らえ、と言える自信はある。俺が求めるのは未来にしかない。心拍数を跳ね上げる出来事に巻き込まれる日々にしか興味はない。

 これからの出来事が分かり切った過去に用はない。痛い目にうこともない安全にはすがらない。未知にぶつかりもしない時を過ごすのは面白くもない。未来にだって、同じことが言える。

 俺の至上はそこにはない。俺が笑えなければ、いくらでも否定してやる。

 世間一般で間違いであることを冒すことになっても、周囲の意見を拒絶してやる。排されることになっても構わん。ズタボロな目にわされることになっても構わん。

 ともかく俺が楽しめればそれでいい。傷つくのも1つの楽しみだ。俺の未熟さに気づける、いい機会だ。

 悔しく思ったのなら、さらなる研鑽けんさんでも積むさ。より多くの騒動に巻き込まれに行けるように準備をしておくさ。

 周囲など、割とどうでもいい。俺が欲するものが手にできるよう、気にかけているだけであって、割に合わなければ、平気で手にかける。与しないのであれば、生かす価値はなく、処分する方向に走る。

 むしろ俺の楽しみを奪うかもしれないから早々に片付ける。俺の目的を遠ざけようとする輩に慈悲じひを恵んでやるつもりはない。村のチンピラや盗賊にやったように容赦ようしゃなどしない。

 そんな心境で旅立ち、ホコアドクに着いたのはいいのだが、一体、どういう状況か。

 町を囲うへいは残っているが、その町の風景が残っていない。この町を訪れたことはないが、原形がこんな惨状さんじょうではないことくらいは分かる。

 門を潜れば、ただっ広い空間があるだけだ。奥に見える屋敷とその周辺を除けば、酷い有り様だった。

 建物だったと思えるものはなくなっていた。火事でも起きたのか、燃えカスしか残っていない。そのカスも崩れかけており、空気のあおりを受けて、散り散りとなっていた。

 瓦礫がれきが残っておらず、砂粒さりゅうしかない状況を見るに余程の高温で焼かれたに違いない。焼き焦げた跡があるへいや奥に見える屋敷に大きな被害が及んでいないのは不思議だが、そんなのはどうでもいい。

 町をみ込むほどの出来事が起きているという点が重要だ。原因解明が俺のすべきことではない。これからどう動くかを考えた場合、そこで起きた惨状さんじょうは何を意味するのかの方が重要だ。

 俺が到着する前に仮面暴徒ブレイカー仮面装属ノーブル衝突しょうとつしたのか。抗争の結果、町に火が放たれ、今の状況になっているのか。

 そしてどちらかに軍配が上がっているのか。

 既に勝敗がついているのなら、俺は完全に出遅れた形だ。好奇心で動いたはいいが、関わることなく、終わってしまったことになる。

 不完全燃焼だ。わざわざ遠出したのにガッカリだな。

 ただ本当にそうなのかもまだ分からないから、落ち込むのはまだ早い。

 いや、まだ終わっていないと俺は思っているからこそ、町の中へと踏み込んだ。往生際が悪いわけじゃない。

 確信ではないが、未だに仮面装属ノーブルが残っているからそう思った。何が起きたかは知らないが、結構ズタボロになった場所を捨てていないから、そう考えた。

 残骸ざんがいから仮住まいを組み立てる人たちがいれば、使える物として一カ所に集める人たちもいた。死体を片付ける人たちもいれば、負傷者の治療に当たる人たちもいた。

 一見何もしていなささそうな人たちもいたが、周りにキョロキョロと目を向けていた。誰かが襲撃してこないか、警戒しているかのような目配りをしていた。いち早く気づくための動きに思えた。

 それらを見れば、まだ仮面暴徒ブレイカーの討伐が終わっていないかのように思えた。

 そこにいた人たちが仮面装属ノーブルかどうかは仮面展意の統治領域インテル・フィールド出身の俺でも分かる。仮面装属の統治領域ノーブル・フィールドうとい俺でもそのくらいは判別できる。

 統治領域フィールドの支配者とそこが掲げる思想、そして紋章もんしょうの形は覚えている。実家にいたときにその辺は学んだから見間違うわけがない。実家を飛び出し、生活のために請け負った仕事でその土地の者たちとも何度か関わったから区別できる。身につけている服でその判断はできる。

 それに仮面暴徒ブレイカーかたる者たちが着ていた服にあった紋章もんしょうも覚えている。

 そういう事情も加味すれば、迷うわけがなく、作業に当たっていた人たちが仮面装属ノーブルなのは明白だ。

 奴らの正体とは関係なくなるが、その場所で受けた被害は火事によるものではないように思えた。間接的な原因ではあるが、直接的な原因ではないように思えた。

 残骸ざんがいに目を向ければ、燃えた形跡が見当たらなかったから、そう考えた。無理矢理折られたり、引き千切られたりしていたから、仮面装属ノーブルは別のあおりによるものだと判断した。

 とてつもない力に当てられた、例えば、突風が直撃したのではないかと考えた。火事のせいでつむじ風が発生して、その被害を受けたから、ここまでボロボロにされたんじゃなかろうかと思っている。実際に見たわけじゃないから、分かったもんじゃないが。

 それらに行き当たった考察はどうでもよくて、終わっていないと判断した最もな理由は傷付いた人たちの治療に当たる人たちが見えたからだ。その処置を続けるための緊急措置かもしれないが、酷く損壊した場所に留まる理由はそうそうないだろう。

 設備が整った場所で治療する方が効率的であろうし、そこまで持たせるための処置を施していれば十分なはず。わざわざ建て直す必要はあるまい。時間がかかるのであれば、まだしもな。

 これは推測でも何でもない。ただ思い至っただけだ。

 見てもいない出来事の正体など、考えを膨らませたところで知ったことではない。近しい答えは分かっても、正確なところは分からん。

 だから事実を知ろうとして、ホコアドクに立ち入る前にその外にあった仮面装属ノーブルの拠り所みたいな場所に立ち寄った。

 のぞき見だけではつかめなかったから、直接話しかけた。仮面暴徒ブレイカーのせいですかね、と質問を投げた。

 結果から言えば、分からず仕舞いだった。教えてくれなかった。

 逆に危ない目にいかけた。仮面装属ノーブルに突っかかってくる怪しい人物だと見られ、捕まえられそうになった。そうなる前に駆け足で逃げたから事なきを得たが、捕まっていれば、ゾッとしていた。

 ふところに潜ましている3枚の仮面が見つかれば、恐らく没収されていただろう。

 仮面展意の統治領域インテル・フィールドであれば、申請して、登録料や維持費を払っていれば、所持することができる。仮面の保有者ホルダーだろうと仮面の適合者バイパーだろうと関係なく、やるべきことをやっていれば、仮面を持つことができる。そのための出費は痛いが、生きていく術を取り上げられることを考えれば、割り切れる。3枚分も必要かと考えさせられるが、割と使うから、決して贅沢ぜいたくな話ではない。

 割と簡略だが、そういう制度になっている。

 しかし仮面装属の統治領域ノーブル・フィールドは金では解決しない。

 抱き込むのなら、別だろうが、基本、仮面を持つに相応しい人物でなければ、持つことができない。申請するまでは同じだが、審査を通過して、初めて保持できる。仮面の適合者バイパーに姿を変えることができ、そこに宿る性質を使えることが確認できて、初めて持つことが許される。

 金銭はいらないが、自分の有能性を証明しなければならない鬱陶うっとうしさがある。仮面の適合者バイパー絶対主義を掲げる統治機構らしいと言えば、らしいと言える制度だ。

 そういう事情があるから仮面の保有者ホルダーによる所持は許されていない。

 仮面の適合者バイパーとしての役目を捨てたいが、仮面だけは保持したい。

 そういったまま仮面装属の統治領域ノーブル・フィールドでは許されていない。

 だから金を積むだけで仮面を持てる、仮面展意の統治領域インテル・フィールドに移り住む者もいる。

 統治領域フィールドまたぐのは簡単な話ではないが、それだけの魅力みりょくがある。仮面装属ノーブルとの取り決めもあるから、正式に通る数は年間でもわずかではあるが、希望にすがる者は多くいる。

 中には違反してでもくら替えを望む者がいて、実行に移す者もいる。大抵、移住する人たちの多くは違法によるものだ。真面目に手続きを踏む者はそうそういない。何年かかるか分かったもんじゃないから手早く済ませられる方法を取っている。

 仮面展意インテルもその辺を狙った上で政策を実施しているから、違反者に対しても寛容かんようだ。勢力に取り込みたいから、形式の有無は問われていない。文句を言われない正式な手続きが重宝されているが、難癖付けられても手にするだけの価値があれば、手間を省くのもやぶさかではない。

 はぐらかすのが困難な証拠の数々が突き出されれば、引き渡してしまうが、そうでもない限り、知らんぷりで押し通す。統治領域フィールドの解体に結びつかない限り、切りはしない。

 当然だが、違反者にはそれなりの見返りを要求している。危ない橋を渡る手引きをするため、その分の苦労に対する手間賃は当然の権利だと言わんばかりに請求している。

 かくまうも突き出すも賄賂わいろ次第。詰まるところ、贔屓ひいきされるにはそれなりの利益を相手にもたらさなければならない。問題解決の近道とも言える。

 俺は仮面展意の統治領域インテル・フィールドの人間であり、仮面装属の統治領域ノーブル・フィールドの境目で過ごしているから、そんな情報は耳にするし、その取引現場を見たこともある。単なる噂話ではないと理解している。

 そして仮面装属の統治領域ノーブル・フィールドの人間ではないからその流儀りゅうぎに付き合う必要もない。

 それでも怪しい者だと見初められれば、取り上げられることは十分にあり得る。

 何か良からぬことを企んでいるかもしれないから没収する、とか理由をつけてな。

 仮面暴徒ブレイカーに与する者たちの格好をしていないが、適当に口実を見つけて、取られるに違いない。仮面暴徒ブレイカーの問題が片付けていないのなら、尚更なおさらだ。余計な問題を増やさないためにも俺の仮面を奪うに違いない。わずらわしいからな。

 本格的に狙われれば、逃げ切るのは無理。仮面暴徒ブレイカーの討伐を見込んだ軍勢に勝てるとは思えない。数に頼って俺を襲った盗賊とは格が違う。

 俺は仮面の適合者バイパーではあるが、戦闘に特化した仮面の使い手ではない。戦闘に応用できる程度の仮面でしかない。圧倒することは難しいさ。

 真っ当な戦いとなれば、間違いなく、負ける。1人の仮面の適合者バイパーに対して、複数の仮面の適合者バイパー、それも今回の討伐に派遣するだけの戦力持ちの仮面の適合者バイパーを相手にするのは無茶だ。

 だからこそ、さっさと逃げた。

 仮面の存在が明らかになっていないから下手に言い訳せず、抵抗せず、その場を後にした。俺が何かに首を突っ込む際の重要な武器になるから手放したくなかった。

 気概だけでは享楽きょうらくふけられないから、それなりの力が必要だ。そんな人生を過ごせなくなるのは勘弁だから逆らうべきところでは逆らわない。

 幸いにも逃げ切れた。仮面暴徒ブレイカーに与する格好をしていなかったのが要因なのか、それとも容疑者なのか微妙な奴にかまけるほどの時間がなかったのが要因なのかは知らないけど、離れられてホッとした。

 捕まらずに済んだのはよかったが、結局、分からず仕舞いだった。

 俺を執拗しつように追いかけてまで捕まえなかったことも含めれば、まだ終わってなさそうな雰囲気なのは確かだろうけど、その判断も怪しいところ。再起をかけられる面倒臭さを考えれば、意地でも生存者を捕まえようと考えるのは素人の発想か。

 逃げられた理由はいいとして、仮面装属ノーブルと関わっても収穫が全くとなかったから、今、町の中にいるわけだが、これからどうしたものか。

 人っ子1人見当たらないから、そこで起きた火事がどれだけの凄惨せいさんさだったのかは分かる。一緒に焼かれたか、それとも逃げたのかは分からないが、町を見る影もない状態にするほどの被害なのは分かる。それ以上のことは分からないが。

 まさかとは思うが、仮面暴徒ブレイカーを一網打尽にするため、仮面装属ノーブルが町に火を放ったわけではあるまい。一気に片付けるため、仮面暴徒ブレイカーに苛められる憐れな人たちを巻き込んだのかな。責任を仮面暴徒ブレイカーに押しつけて、公言するのかな。

 だとすれば、鬼畜きちくだな。目的のためとはいえ、人の命を何だと思っているのやら。俺も人のことは言えないが。

 分からないことに腹を立てても仕方ないが、別に本気で怒っているわけではないが、騒動が終わったかどうかの判断は不自然に残っている屋敷を確かめた後で判断しよう。

 火事のおかげで最短距離で屋敷に向かえる。瓦礫がれきもないからふさがれることなく、前へ進める。

 もしも仮面暴徒ブレイカー仮面装属ノーブルの抗争が終わっていないのなら、仮面暴徒ブレイカーの仲間に加えてもらおう。さっきの仮面装属ノーブルとの関りを考えれば、仲間に加えてもらうのは無理そうだから、あっちの味方になろう。

 この騒動の結末を見届けるためにも取り入るとしよう。

 話が通じれば、いいものだな。

 向かう先に仮面暴徒ブレイカーがいるとすればの話だけどな。

 前に聞いた話の限りだと、町に堂々と居座っているようだから、そこにいるのはほぼ確定的ではあるが。その場所までは知らないが、仮面装属ノーブルが撤退していないことを思えば、可能性として高いのは今から向かう場所だろうな。いることを前提にしているが、周りを見渡しても、それらしい人影が見えないから、そこにいる確率が高いはず。

 へいは知らんけど、屋敷が無事なのは仮面暴徒ブレイカーが抱える仮面の適合者バイパーの力だと考えれば、不思議でも何でもない。防げる可能性のある存在がいることを含めれば、疑問も吹き飛ぶ。

 全部、妄想もうそうにすぎないから、その辺も屋敷に到着してから考えよう。まだ楽しみが残っていることに期待して。

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