1章5節3項(32枚目) 町に災害をもたらした者たち
ほんの少し時を
ホコアドクを囲む
集団の先端に1人とその後ろに2人。合計3人の
その者たち全員共通して、黄金色に輝く首輪をして、胸部と背面が
無数の矢印が描かれている仮面、円光を思わせる模様が描かれている仮面、そして風車を思わせる模様が描かれている仮面。
それぞれが被る仮面は違っているのは当然として、それ以外で異なっているのは肌の色。先端に陣取る男性は黒に近しい灰色、その後ろに控える2人はそれぞれ陽光色と緑色の肌をしていた。
そのうち、黒に近しい灰色の肌をした
体の側面、
その3人を除けば、残る2人は人の姿をしている。仮面を被っておらず、素顔を晒す男女1人ずつ。
この謎の集団で面が割れている者が3人いる。
1人はガクウ・ポルポ。
ホコアドクを不当占拠する暴力組織の
残る2人はティアス・ティフィカルテとピルク・トフィー。仲間の合流を待つため、ホコアドク近くにある森に潜んでいた男女。恋仲を装い、目的を
その目的は
少人数であるため、直接克ち合わず、周到に準備を進めた上で事を成功へと導く。戦闘を主眼にしていないため、
目的は仮面にあるため、他がどうなろうと知ったことではない。
「早速だが、
他の者たちはその男性の行動に
細部に違いはあれど、各地に伝わる世界再興物語に登場する存在、一部では神様と
「この場は俺様、
集団内で通じる自身の身分と階級を明かし、そして名前も口にして、先へと進めていく。
「俺様たちの主の失望を買わないよう、仕える俺様たち、
口上が凝り過ぎていた。設定を作り込み、なりきっている。さも使者であるかのように振舞うレオレ。
それに反発しない周囲もまた同類だった。恥ずかしがらず、誇らしげであった。
利益を
この場合、問題が生じれば、その神様、とやらに投げるであろう。
しかしそれは許されない所業である、と訴えるであろう。
自身の判断と行動を悔い改めろ、と物申してきた者にぶつけるであろう。
無価値であることを認めたくなければ、消しかけに走るのは明白である。行動とそれによる利益を取り上げられたくないのであれば、
敬愛する主のため、という建前で動くに違いない。
例え、その存在が過ちだったと認めたとしても、否定するであろう。根こそぎ奪われる立場に追いやられることを嫌えば、どのような手段に打って出てでも、主を止めに走るであろう。
真に付き従う者でもない限り、大いに起こしうる行動である。自分たちが祀り上げる神様を頂点にした集団であり、その存在もしくは準じる存在が下した判断を絶対とする教示が叩き込まれていれば、徹底抗戦に
今までレオレが口にした言葉が本当であればの話である。
そして主と定める存在に傾倒していればの話である。
それらの前提でなければ、成り立たたない。
「打ち合わせを始める前にこれだけは言っておく。ここでは俺様以外、
先の真意はさておき、本格的に話を始める前に禁則事項を述べていくレオレ。
打ち合わせを円滑に進めるため、余計なやり取りを封じた。話に集中させるため、ヒソヒソ話を禁じた。
そういう設定でいくと明言した。
「本日の行動は2つ。1つはホコアドクの処分。もう1つは
肯定と否定、どちらの反応も
「
今朝方、離れ離れになっていた俺様たちが合流した際、ピルク・トフィーが改めて語ってくれたが、
だから予め切れないようにしておく。
今確認したところ、
これにより
理由としては長期戦を視野に入れているからであろう。備蓄をたんまり用意している報告が入っているから、そのように読み取れる。
初日から戦力を減らすまいとしていることが
だからその目論見を潰すためにも町を更地にする。
彼らの到着を待っていたピルクたちは本日、無事合流を果たした。
そして
その行動の意味を状況と照らし合わせつつ、区切ることなく、レオレは一気に説明した。
今さら話すようなことではないが、
レオレたちが入手した事前情報を前提に語れば、数にして、前者は80人弱、後者は400人弱。
今回の
しかし
相性があるため、一概に言えない。
それでも1対多、
仮面を持たない者たちの差が大きくとも、主力である
それだけ
唯一とも言える
けれど
レオレの言った内容、どこで仕入れた情報か定かではない代物が事実であるならば、
それでもまだ救いはあった。
仮に互いの戦力が揃ってから抗争が始まったとしても、
一気に攻め込まれる地形ではない。
救済のために動いている、と表明しているため、町の人たちを見殺しにできない。盾にされれば、
その者たちを犠牲にすれば、
その芽を
「そうは言っても
長期戦に臨めないように仕向ける。十分な資源を持たせないことで早期解決へと向かわせる。時間をかけるほど、苦しむ状況に追い込まれるように働きかける。切羽詰まらせた状態で任務に当たらせる。こっちの行動を止められない程度に弱らせる。
しかし
2つの勢力が争っている
そのため、自分たちが担えない役割を
ホコアドクで悪逆を冒す暴力組織の討伐名目で動いているから、そのように働きかけなくても動きはするが、より積極的になるように発破をかけることにした。
時間をかけて、
その作戦を取らせないためにレオレは
どちらか一方に味方をするつもりはなかった。等しく
「それで前者の作戦を
後者の作戦は
俺様は2人の作戦を管制するために
残る2人はここで待機。お前たちの存在に気づく輩が現れれば、ピルク・トフィー、お前がその者を仕留めろ。俺様たちの正体に感づかれる要因を排除しておけ」
本日決行する2つの行動のそれぞれの意味を語った後、レオレはそれぞれに役割を課す。各個に指示を渡らせる。
「ラピス・ヌルク。お前は日輪の仮面の性質で町を燃やせ」
ホコアドクの処分について、その行動に当たらせる彼女にレオレは具体的な指示を授けていく。円光を思わせる模様が描かれている仮面を被った、陽光色の肌をした女性にその役割を背負わせる。
「日照で温めるのがお前の持つ仮面の基本的な性質だが、
普通はできないが、
「ただし
仮面が今も屋敷にあることは先ほど確認したから、回収できない事態を引き起こすな。間違っても屋敷に火をつけるな。
そして
真意は不明だが可能であるからこそ、指示を下しているのであろう。
そしてその指示はただ燃やせばいいだけではなかった。
狙って燃焼させる注文がつけられた。
一体どこから仕入れた情報なのかは不明だが、彼らが目的にする仮面の保管先に被害を及ぼしてはいけないことくらい、誰でも分かる。屋敷が火事になれば、一緒に燃えてしまう危険性が出てくるから、とてつもなく抜けている者でもない限り、分からないことではない。
それを避けるための作戦であるから被害を及ぼさないように調整を図るのは当然である。負担がかかるとしても、正確さが求められるのは致し方ないと言える。
「お前はこの行動を以ってして、死んでもらう。
だから後顧の
俺様たちの目的のため、生命活動に必要なエネルギーを枯渇させろ」
さらなる注文を一切の怯みなく、淡々と、冷たく口にするレオレ。
町を処分すれば、ラピスの存在価値はない、と告げたような台詞だった。
命を糧にしなければならないほどに
仕える主のためであれば、命すらも踏みにじれる、と言うことであろうか。
「いくら死んでいいからと言っても、燃やしたままにするな。放置すれば、
だから生命活動の限界が訪れれば、出現させた熱量は消せ。
引き起こした結果はどうにもならないが、火種を取り除けば、それ以上の被害にはならないから忘れずに実行しろ。
ただし自身を燃やす程度は残しておけ。
俺たちの存在を
屋敷に火が及びそうな場合も同じだ。回収すべき仮面は間違っても燃やすな」
残酷な未来を告げておきながら、まだ注文をつけるレオレ。
これから死にに行く相手に
その結果が命だけでなく、生きた
「
だから安心して
残酷で非情な指令を渡されたラピス。
しかし彼女は何一つ反論することなく、
命を
周囲も周囲である。同胞が死に行くにも関わらず、何も申さない。指揮官に逆らえないにしても、おくびにも気にかけていなかった。
そこまでするのか、と言いたげにティアスが少し
「次にガクウ・ポルポ。お前は風の仮面で
ラピス個人に話すことがなくなったため、
「お前も
彼もまた、死に行く彼女と同じ能力を発動するように命令される。
「
わざわざ生き地獄に
ラピスと同様、つくづく注文が多い。
「知っているだろうが、空中戦をまともにやってのけるのは
行動に当たり、障害となる存在を口にするレオレ。
「あと、可能性としては低いが、キハル・ソンシャン、セリュ・トーリ、ライク・シン、この3人も警戒しておけ。仮面の性質上、介入してくるかもしれない。距離の関係上、手出ししてこないと思われるが、頭には入れておけ。つまらないミスで死ぬなよ」
さらに邪魔になりそうな存在をガクウに告げていく。
事前情報を基に今回の作戦に関与してくる可能性のある人員の名前を伝える。
求められている結果はラピスと変わらない厳しさではあるものの、彼女と違い、気遣われている。
わざわざ敵性戦力を教えてくれる。
ガクウも認識済みであろうが、
「長居は無用だ。ここで潰す気はないから、町を包み込む炎が消えれば、撤退しろ」
しかし心配されているわけではなかった。
単純にここで命を散らせるつもりではなかったため、口にしただけだった。
まだまだ扱き使う気でいたから、レオレはガクウに死を強要しなかった。
「その行動を起こす前にラピスを町の中央まで運んでくれ。ラピスには焼却に力を注いでもらいたいから、手間をかけるがよろしく頼む」
そして注文がさらに1つ加えられた。
ラピスは自力で着火地点まで行くのかと思えば、そこは
レオレは彼をまだまだ働かせる気でいるから、案外、この行動で自死する彼女は恵まれているのかもしれない。これ以上の
今回の目的が達成できるのであれば、後顧の
けれどそれが本当に成り得るか否か、正直分からないところである。
見届けでもしない限り、判断は難しいであろうに。目的が達成する未来が過去にならない限り、安心はできないであろうに。
どうして彼女は自身の死を納得できるのやら。先を見通せているのか、というくらいに諦観している様子だ。
「作戦に変更があれば、俺様が
ここで待機するピルク・トフィーも異変があれば、連絡を入れろ。追って指示をする。
また作戦終了する際も
撤退後の合流場所は、本日の今朝方、森で合流した場所とする。死なない
ガクウにさらなる仕事を押しつけたレオレは申し訳そうに思うことなく、全体へと指示を広げていく。彼個人に話すことがなくなったため、対象を切り替えた。状況に応じた行動が取れるように命令を下した。
「話は以上、早速、開始する」
目的、
事を予定通りに進めるため、無駄を省いていく。周囲に有無を言わせることなく、先へと進めていく。質問や抗議を一切受け入れる素振りは見せず、作戦に移る。
「俺様たちの主の望みのため、仕える俺様たち、
再度、打ち合わせの冒頭で口にした、同じような台詞を吐くレオレ。
主に仕える忠誠心に誓い、是が非でも成功させる所存であった。神様の願望が叶うのであれば、これから巻き起こす悲劇で心を痛めない。被害を受ける人々に同情し、寄り添うことはしない。
行動によって周囲にばら撒かれる不利益よりも自身にもたらされる利益を優先して執り行われる。
悪逆で欲望を満たす
事情は異なれど、根本は変わらない。己の都合を第一に行動している。被害は違えど、周囲の者たちを巻き込むことは
さらに言えば、遠い昔に
目的を遂げるためであれば、協力相手を手放すことすら止むなしで行動を起こしている。命が脅かされている者が平静を保っているのも不気味ではある。朽ちることを
「ピルク、足場を作って、俺様を
宣下とともにラピスとガクウは行動を起こし、待機を命じられたピルクは兄の指示に従い、
「あのお。質問が」
1人だけ
「出番がない奴は出しゃばるな。
しかし速攻で却下された。
身分差を理由に退けられた。
「
理由はそれだけではなかった。
本日の作戦を完了させ、踏み外すことなく、成果を上げたいがためにレオレはきつく言い放った。急ぎ足で事を進める。
「どうしても話したいのなら、同じ身分に当たる、俺様の妹と話していろ。一時的に預かっている者に対してまで、俺様は
極力、レオレが関わりたくないと考えているためか、引き離していく。口を挟まれる前に畳みかけていく。
「当然だが、今日の作戦が終わってからだ。死にたくなければ、気を緩めるな」
さらに厳しく言いつけ、立ち止まるレオレ。
その先にはピルクが待ち構えている。
2人が言葉を交わしている間、途中から一方的な展開ではあったが、その間にラピスとガクウは
彼らの行動を見守るため、レオレも行動を起こす。
「準備はいいか。いくぞ」
ピルクに向かって声をかければ、
「「
2人は同時に叫ぶ。
その瞬間から体に変化が起きる。手と前腕と
そしてそれぞれ、次の行動に移す。
レオレはピルクに向かって、走り出す。地面に足跡を残すほどに力を込め、距離を一気に詰めていく。
ピルクは腰を落とし、踏ん張る。両手を交わせ、地面を踏み込み、跳んできた兄の両足を支える。
注文通り、ピルクはレオレを送り届けた。
ここまでの結果を見せられれば、あの設定もあながち嘘ではないのかもしれない。
先ほど声高に発した単語や身分や階級、そして世界再興物語で伝えられている存在に仕えているなどという
仮面を被らず、
ティアスと一緒に森に潜んでいるとき、
今は浮かび上がっていないものの、突如現れた模様のことも含めれば、世界再興物語に登場する、仮面をばら撒いたとされる者は実在し、その者から授けられた能力ではないかと考えても
レオレが打ち合わせ中に現況を捉えたような情報を口にできたのも、その授けられた能力が関係するのかもしれない。どこかにいる誰かからの耳打ちで知り得た、と言われても信じられそうだ。
しかし仮面の恩恵によるものではないかとも考えられる。
元の姿を維持している可能性も捨てられない。宿る性質を発揮するときだけ、あのような模様が描かれるのかもしれないし、あのような力技を可能にしているのかもしれない。人の姿に
能力を発揮したレオレが
判断材料が足りないから、何とも言えない。
仮にレオレたちが
この場合、この状況に
気にすべき点は他にある。
存在を悟られたくないと思っているのであれば、大声を上げるべきではない。それを行うだけの成果はあったと思えるが、もう少し
「話には聞いていたけど、すごい馬鹿力を発揮するものだ」
彼がいなくなった後、ティアスは彼女に話しかけるため、近づいた。
「
自身の至らなさを
「何より遠い場所にいる、あの御方の言葉を俺が代弁できたものの。誰かに頼ることになるとは」
「クッソ。俺が愛する、あの御方と
空に向かって、先ほどの仲間の誰よりも大きく、叫び声を上げるティアス。
全く別の理由だった。
「本当、いいよね。俺は心細い思いしているのにお前たちはいつでも楽しめて」
己ができないことを相手ができるからと言って、ピルクに絡むのはいかがなものかと思う。口にしたところでできるようになるわけでもあるまいし、余計に自身が
そして実在しなければ、恋い
ティアスが求める、
ありえないものを構想として捉え、それを基にして組み上げるのであれば、話は違ってくるものの、それ自体を手中に収めようと
構造・機能・性能などによる代替は叶っても、
しかしティアスはピルクたちが発動させた能力を本物だと信じているため、
誰かと
それ自体、周囲が口出しすべきことではない。親切心を込め、
正しく言えば、関わろうとするだけ徒労になるから、挟むべきではない。
その者が抱える代物が諦めきれないものであれば、いくら語っても変わらない。末路を見せても譲らない。別の道を探そうとして、指針は手放さない。
説明を受けた上で
あまりしつこく付き
だから見捨てるのが賢明と言える。
徒労に終わることになったとしても、自身が幸せな時間を過ごせるのであれば、それでいい。その者が周囲を脅かし、実害を伴わせる事態に発展するような場合でもない限り、勝手にやらせておけばいい。終わりを迎える際に泣いて
「ちっ。真面目かよ。兄の言伝通り、話してもくれないのかよ」
ティアスの事情を知っているが、それとは関係はなく、無視するピルク。森に潜んでいたときなら、軽口を叩いていた彼女だが、今は作戦行動中のため、口を閉ざしていた。
身分の高い者からの指示であったため、その意思は頑なだった。ウザく関わるティアスが色々と話しかけても返しの一言をいれない。ティアスが恥じらいを持って、彼女の胸や尻を触っても反応の1つも見せない。森に潜んでいたときのように
その態度は作戦が終わり、合流地点に着くまで変わらなかった。
ホコアドクに住まう人たちが逃げ出す暇もなく、焼かれ、天に召されている間も。
死に際だと判断して、ラピスが町の炎を
そして生き残った者全員が森へと撤退している間も。
彼女はずっと警戒していた。上の者の言いつけを守り、ティアスと話すことはなかった。
その間、ずっとティアスは時間を持て余せていた。自身は期待されていないため、周辺の警戒に真面目に取り組んでいなかった。異変があったとしても、もう1人、同じ任務に就いているピルクが事に対処するため、真剣に向き合う気力は
ティアスの態度がどうであれ、何事もなく、その日の作戦が終われたため、
誰も注意しなかったのだから、
その1人のせいで周囲に迷惑がかかる、と誰かが思っているのであれば、仲間の誰かが口にする。目的が果たせなくなるかもしれないから、場を乱す行動は取るな、と訴える。作戦に当たるための人員が欠けるから、勝手に死ぬな、と教え込む。
しかし誰も言わなかったということは大して気にしていないのであろう。
推測ではあるものの、欠けたところで支障がないから触れないのであろう。
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