1章1節3項(3枚目) 世界再興物語と現実の共通点②

 先の内容のような物語が世界各地に点在している。

 世界再興物語という目録で。

 文献・絵画・壁画・石碑・石板・言い伝えなど。数多くの伝達手段で継承されている。地域によって内容が少し異なるものの、大体は同じである。

 しかし人類はその内容を鵜呑うのみにしていない。

 伝達には脚色が付き物であり、事実だけを語っているとは限らない。編集されている可能性は十分に考えられるからである。

 そもそも事実を提供した者が正確に理解していたかも怪しいところ。

 始まりが誤っていれば、伝わるものも伝わらない。

 仮に事実だけだったとしても、受け手が理解できない可能性が残されている。

 自分が理解しやすいように内容をつまみ、事実が改変される恐れがある。

 もしもその解釈で広まれば、本来と異なる事実になる。

 つまり信じられる情報は1つもないことに帰結きけつする。

 あらゆる角度から検証しても、その領域から抜け出せない。検証自体を偽っている可能性もあり、その真偽の証明を繰り返しても終わりは見えない。

 しかしそれでは一歩も前に進めない。

 ずっと同じ場所を停滞したままになる。それでは死んでいるのと変わらない。

 だから先を歩むためにも割り切らなければならない。

 その結果として、この物語が全て事実だと思われていない。

 全てが事実だと認識している者は少数派に属する。大方はそうではない。

 けれど一部は信じられている。

 世界にばら撒かれたとされる仮面に性質が宿っていること。仮面を被った瞬間に肉声が聞こえること。体が変貌へんぼうすること。

 そしてその性質を引き出せること。

 仮面の適合者バイパーの存在は確認されている。

 仮面を被ってみて、初めて理解したこともあった。

 例えば、仮面の適合者バイパーになれる者の条件。

 生者であること。仮面に宿る性質を再現する肉体が存在していること。仮面に宿る性質を再現するエネルギーが足りていること。

 つまり活動でき、活動するための肉体とエネルギーが必要である。

 しかし最も重要なのは仮面との親和性である。

 仮面を被った際に聞こえる肉声でそれは証明できる。

 仮面との親和性が低いと、拒絶した意を示す内容を耳にする。その後、自動的に仮面が顔から外れる。恋いがれても、仮面の適合者バイパーにはなれない。

 逆に親和性が高いと、制約と思える内容を耳にする。それを感じ取っている間、顔のみならず、頭も仮面で覆われる。その後、仮面に宿る性質を発揮させやすい肉体に変貌へんぼうする。望まなくとも、仮面の適合者バイパーになれる。

 今まではその存在に姿を変えられていたが、ある日を境に変われなくなった事例もあった。突然、資格を失い、悲しむ者もいた。

 仮面にまつわる全てを理解しているわけではないが、利用できるものは利用している。未知の部分を差し引いても利益が大きい。仮面を利用すれば、より物事を早く進められる。

 それほどまでに人類は仮面を重宝している。

 ちなみに聞こえる制約は以下の内容になっている。


 恩恵は役割が終えしときになくなる。

 そのときは然るべき使者を遣わせ、回収させる。

 その恩恵を失いたくなければ、役割を全うしろ。

 さすれば、恩恵は永遠不滅のものとして存続する。

 そのことを肝に銘じて、仮面を使え。


 正直に言えば、何を意味しているのか、さっぱりである。

 役割を全うしろと言及していることからして、私利私欲に使うなと警告しているのではないかと思われている。

 永遠不滅のものとして存続すると語られていることからして、かつての星のように滅びの道に導くなと警告しているのではないかとも思われている。

 つまり仮面の用途について考えろと釘を刺しているわけである。

 そのように読み解ける制約である。

 しかし大抵の者は道徳の一環ではないかと思い、重要視していない。

 受け取り方は自由である。後でどのような未来になっても誰も責任は持てません。世界が終わるときに自分が行ってきたことを悔やんでもその事実は変わらない。やりたいようにやっても知ったことではない。勝手にするのなら、こっちも勝手にさせてもらう。

 さてさて、それは誰の考えなのか。

 その辺も踏まえた上で行動しろとその誰かは言っているわけである。

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