1章1節4項(4枚目) 自称:来訪神の決断

 世界再興物語で語られた、特殊な仮面を世界各地にばら撒いた存在。

 その存在を神様としてあがめる風習が世界に根づいている。

 星の窮地きゅうち。そのときに存在した全生命体の絶滅。それらの危機の救済を後押しした神様が存在していなければ、今を生きる自分たちは存在していない。それほどの恩恵を受けているから、感謝の意を唱えても何もおかしいところはない。全人類がたてまつっていないものの、一定数、存在する。

 しかし当の本人である私は己を神様だと思っていない。

 私は天地創造・昼夜の境目・生物生誕など、万物のいしずえを築いたわけではない。その役割を果たした存在、分かりやすく言えば、創造神に値する働きはしていない。

 救済の後押し以外、私は何もしていない。

 ただこの星の導き手を擁立ようりつしただけである。

 私が所持していた仮面の数点。それと星に刻まれし性質を宿した仮面。この2種類の仮面をばら撒いたにすぎない。

 それでも私を神様だと呼称するのであれば、こちらは何も言うまい。

 ままを言わせてもらえれば、万能の神として扱わないでほしい。

 もっと言えば、最高神としてあがめないでもらいたい。

 せいぜい来訪神の類として扱ってほしい。

 外部干渉を以ってして星に影響を与えた意味合いから私はそのように思っている。

 もっとも自称である。

 そこまで自惚うぬぼれていない。

 通りすがりの外来種。その程度の認識で構わない。実際のところ、それ以上でも、それ以下でもないから。

 強要はしない。くまでも私のささやかな気持ちである。意図を汲み取ってもらわなくても責め立てつもりはない。どのような扱いを受けても怒りはしない。悲哀することもない。私の存在そのものに関して、言及したつもりはないから。

 しかし仮面の用途は別だ。

 警告を無視するのであれば、それでも構わない。

 何度も聞き流し、それでも止まらないのであれば、こちらとしては一向に構わない。

 己の利益のため、約定を破るに値すると判断したのであれば、何も言うまい。その行動を引き金に損害を受けることを理解しているのであれば、口出しはしない。

 もっとも理解していなくてもこちらの方針は変わらない。

 欲望のままむさぼり尽くそうとも、熟慮じゅくりょした結果であろうとも、こちらの取る行動は変わらない。

 だから決断に関してはこちらからとがめるつもりはない。

 ただし決断に基づいた行動に関してはそれなりの報いを受けてもらう。

 仮面を没収する。そのことで抗議しても、こちらは耳を貸さない。

 選択を間違えた己自身を恨め。無知だった己を悔いろ。対処できなかった己の愚かさに怒れ。

 己以外の存在に当たり散らすな。損益の全てを許容する覚悟がなければ、最初から警告を無視するな。仮面を活用しなければ、被害にうことはなかったはずだ。

 そもそも仮面は君たちのままを叶える代物ではない。

 多くの人々が抱く理想を阻害する事象を打ち破る代物として世界にばら撒いた。苦難を乗り越える一種の解決策であり、責務を果たすためにすぎない。

 決して権限の象徴ではない。

 世界を混沌こんとんに導く。欲望を果たすため、他者を退ける不文律を確立する代物ではない。

 それでは私の行動が灰塵かいじんと化すところ。

 だから見限った。

 君たちに期待するのを止めた。

 私の行動で世界が衰退しても腹を立てるな。それは筋違いだ。原因は君たちの力量の低さだ。仮面に依存し、生命体としての器量をはぐくまなかった君たちの責任だ。

 私は厳命した覚えはない。私がばら撒いた仮面を現世界の理として組み込めと。

 仮面の有能さに取りつかれた君たちが選択したにすぎない。

 だから私は考慮こうりょするつもりはない。

 仮面の適合者バイパーに姿を変えるときに感じ取る肉声の内容通りに事を運ばせてもらう。私1人の手では負えないため、仮面を回収する存在を君たちの下に遣わせる。仮面をばら撒いたときと同様にその者たちの手を借りる。

 素直に返却してくれるのであれば、つつしんで受け取ろう。

 しかし返す気がないのなら、無理矢理奪取させてもらう。

 抵抗しても構わないが、命の保障はしない。およそ人類が持ちえない生体機能を駆使して、任務に臨ませる。仮面の適合者バイパーと対峙することを前提にしているからそれなりの準備をしている。

 これを以ってして、君たちに報いを与えるとする。

 今から数百年前にこの決断は下され、仮面を回収する者たちに命じている。自称:来訪神の矜持きょうじけた行動は未だ終わらず、その使者たちは今も世界各地を巡り、仮面を回収している。

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