1章2節
1章2節1項(5枚目) 波及する悪意
衰退から栄華へと。世界にばら撒かれた仮面の影響で風向きが変わった。周囲は活気に
しかし全てが良い方向に転がったわけではない。
長年抱えていた問題が解消され、新たな問題が浮上した。新たな欲求が生まれた。
自分の意のままに他者を
征服・略奪・
いや、目新しくもないか。
他者を見下して至福を手にする行為は慣例である。他者よりも優れていると酔いしれる。起伏を楽しむ様は貧困を脱したことで取り戻したと言うべきか。
大昔は物資が乏しく、誰かの所有物を奪取する気力が持てないほどに衰弱していた。生存に注力していたから、身に潜めていただけと言える。そこに回せるほどの余裕がなかったから。
仮にその行動を起こしてしまえば、己が属する集団から追放される。奪取により自分の取り分が減ってしまい、そのせいで死の危険に晒される。生存を前提にしていれば、被害に
牙を
危険だと察知されれば、排除される。それは当然の流れだ。
最悪の場合、殺される可能性もある。警告の意味を兼ねて。
見せしめが行われれば、
これから先、不幸が降りかかることを想定すれば、その可能性を摘むのも悪くない。
その未来を阻止できるのであれば、過剰な制裁も致し方なしと言える。
しかし他者を圧倒できる力量、もしくは他者を出し抜ける力量があれば、話は変わる。
けれどそれを為せる者は限られていた。
そのような存在は珍しく、それほどまでに世界は貧しかった。
仮に他者の所有物を横取りできる力量があったとしよう。
しかしすぐに反撃され、立場を失うようであれば、行動を起こす意味もない。
生存する確率を高めようとしたものの、自らの命を縮めた。行動しなければ、そのような事態に至らなかった。滅びに近づくために物資と労力を費やしたことになる。無駄使いであり、その結末は哀れである。
そして運よく追放処分で済んだとしても、今後の生存に苦労する。
別の集団に属するのも難しい。そこに属する者たちも生きるので精一杯であり、取り分が減らされることは嫌がるはずである。死への直結が脳裏に浮かべば、反発されてもおかしくない。
つまり仲間に迎い入れられる可能性は低い。
だから集団の和を乱す真似を行う者は滅多にいなかった。
集団を己の意のままに管理できるほどの力量とその維持が叶わなかったため、頻発されることもなかった。
死に追い詰められ、生存を諦めていない者が起こすのが関の山だった。数の理で鎮圧できたため、大した被害に
今も生存に関して完璧な対処を取れるわけでもない。
それでもかつての物資不足ほどではない。
対価を支払えば、手に入れられる程度に解消されている。
その構造は世界各地に存在する。
また物資の滞りも滅多に起きない。
そのため、代替は可能であった。ある場所で嫌われたとしても、別の場所に移りさえすれば、明日も十分に生きられる。
しかし
生存する前提が低くなれば、力を持て余す。余裕が生まれ、注力の矛先が変わった。必ずしも前向きな方向に転がるばかりではなかった。
つまり他者を傷つけ、快楽を味わう者が現れた。
眠りについていた欲望が目覚めた。
ある町の一画を縄張りにする集団がその例である。
公平に基づく経済的事情で制したわけではない。商売ではなく、暴力に訴えた行為によって。
一画とはいえ、
普段であれば、悪意は見逃されなかった。
町の治安を預かる存在によって捕縛される。
風紀を良好に保つ活動により人々の安息を保障している。
金銭契約に基づいて。自分なりの正義を背負って。公に暴力を振るえる理由を気に入って。
どのような理由にしろ、その職務に就く者たちからすれば、町で暴れる存在は許されざる存在である。
しかしこの騒動には
その町は今から1年前に占拠された。
その町の人々は歯向かうことの恐ろしさを
討伐対象として賞金を
しかし全て返り討ちにされた。
町の人々が抱いた淡い期待は
魔の手がこの町に及んだのは今から半年前。
占拠する町の資源だけでは心許ない。
その理由で補給源の1つに選ばれ、
仮面を被ると体毛に覆われた姿へと変える。外見を大きく見せる
戸惑いを感じさせている間に一気に攻める。
流血とともに生体機能を停止させていく。動かぬ肉片に仕立て上げるため、命を諦めさせる。死へと追い詰めていく。
それがこの町に派遣された
その姿は初めて町を訪れた際に披露された。声が町中に響くと同時に周囲の巡回を務める者たちが次々とやられた。囲む暇なく、あっさりと倒された。
恐怖の語り草となる犠牲は町の治安を預かる者のみならず。一般人も対象だった。
しかし事実であり、決して冗談ではない。
そのように確信できたのはその者が羽織る上着にあった。噂に聞く、
その確認もあり、疑念は晴れた。
本物だと証明された者は正体と目的を明かすなり、ゴロツキたちを勧誘し、1つの集団を作った。長として手下を従え、悪事を働いている。
補給源とする町や村は他にもあり、この町と似た状況に陥っている。各場所に
戦力は
傷つけることに
道具を用いたとしても同じことが言える。
それだけ戦力にばらつきが生じている。
それでも厄介であることには変わりない。
ゴロツキは平穏に生きる一般人を手にかければいい。自信があれば、装備を調えた者も相手にすればいい。
ゴロツキは怯える者を中心に暴力を振るっていればいい。面倒くさい相手は
襲撃相手を選別すれば、いくらでもやりようがある。
そしてこの町の治安を預かる者たちの中に
つまり
ゴロツキは町の治安を預かる者たちで対処できても、
仮に運よく
そこから増援を送られれば、手の打ちようがない。補給源の1つに数えられているため、そのように見なしていい。
だから行動を起こせずにいる。
単純に戦力が足りないのであれば、外から引っ張ってくればいい。大っぴらに賞金が
何ならその組織に
さらに言えば、討伐後の増援を阻止する抑止力にもなりえる。
だからこの方法が最も効果的である。
検討する価値はあり、見合う価値であれば、実際に行えばいい。
しかし空しく散った。
最高の手段が取れない以上、頼みの綱は1つである。それに期待するしかない。
けれどその手段は切っていない。
土台、無理な話である。
未だに討伐できず、最近では立ち向かう者すらいない。その可能性は
つまり唯一の希望に
そのような状況だから、やれることは限られている。縄張りに近づかないように町の人々に注意を促すくらいである。下手に逆らわないようにお願いするくらいである。
被害拡大の阻止以外の手は打てない。
もちろん町の人々が
幸いにも今は町の一画程度で済んでいる。
占拠されている町と比較すれば、苦痛の度合いはまだ温いと言える。引っ越せる選択肢が残っている分、最悪ではない。いざとなれば、その手段を取ればいい。
けれどそのように楽観視できるのは被害が自分のところに及んでいないからだ。
当事者ではないからそのように言い切れる。
逃げ出せばいいというものの、そう簡単にはいかない。
体を動かすのもままならない人。
その場所から離れられない人は一定数いるため、決して楽ではない。
反抗すれば、どのような結末に到達するのか。容易に想像できるため、立ち向かわない。
それも理解しているため、町の一番の被害者たちはぐっと堪えている。
他の者たちもこの先、どのような仕打ちを受けるか分からない。勘繰りはできても、正確な未来は掴めない。
不安なのは皆同じ。根本を失くせない限り、ただ祈るばかりである。
常識で考えれば、反抗しない。
しかし
その集団を打倒できると過信する戦力を有していれば、尚のことである。
この町の未来を気にしない輩であれば、歯向かう確率はさらに高いと言える。目先の問題を解決して、立ち去るつもりでいる者であれば、起こりうる。
成否に関わらず、町の人々からすれば、迷惑な話である。ツケを肩代わりしたくないから、起きるなと願うばかりである。
しかし残念ながら、
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