抵抗2

『なんでお前悔しがろうとしてんの』

『私だって頑張ったし』

『お前またそんなことしてんのかよ』

『じゃあ外連さぼった日何日あったんだよ』

『夜寝れないってまた病んでる風か』

『お前ごときで病むことなんてない』

『サボったかもしれないけどさ』

『そうやって心配されたいんだろ』


 考えることは一つから二つに、二つから三つ、四つに。一つとして自身に良い影響を与えそうなものはないし、考えたところで解決もしない。さらに言えばそもそも一つしか一気に考えられない脳みそなのに二つも三つも同時並行で考えることなんて出来るはずがない。脳が熱くなる。手足は冷たくなる。手先なんてガタガタして気休めの本のページがめくれない。過敏になった指先は鼓動を感じ普段は感じないその微妙な振動にかゆさを覚える。


『そろそろ黙れよ』

『うるさいなあお前が考え出したんだろ』

『満足したろ』

『ほら今なら皆に心配されるよ』

『お前のはお遊び部活だろ』

『よかったなお前の嫌いなメンヘラだな』

『うるさいうるさいうるさいうるさい』

『ほら助けを求めてみ』

『あのボール追わなかったろ』

『いっつもそうだもんな』


 飲み物を取りに立つ。視覚と足先から感じる情報は脳を満たし、私を私として確立させる。飲み物を飲む。もう痺れはない。多少の違和感と恐怖心。ただその恐怖心は思いもよらぬところで、思考のサイクルに組み込まれる。


『今、震災が起きたら、私死ぬな』


 部屋に戻り電気を消したその瞬間からもう脳は対話で埋め尽くされる。私は私に歯向かい、私を貶め、私をけなす。自身が手の加えようもない受動的な恐怖も加わる。基本的にビビりな私は私のせいで私の妄想に怯えることになる。そのあるかもわからない妄想はどんどん膨らむ。ただし、さっきまでの思考のループは存在したままで。

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