第5話
剣崎さんの予想は当たらなかった。
それは最初のレースだけではなく、次もその次も同じだ。
結局、5レース連続して勧めてくれた馬は5着にも入らず、後方でゴールしていた。
1レースに1万ずつ突っ込んでいたので、資金は半分である。ただでさえむずかしいのに、これで条件はさらに厳しくなった。
あまりにも当たらないので、僕は気分が悪くなってしまった。2レース目から剣崎さんに購入を頼んで馬券を見ていないのに、正直、倒れそうだ。
「顔色が悪いですね。大丈夫ですか」
僕が券売機の前でうつむくと、剣崎さんは紙コップを差し出した。無料のほうじ茶が入っている。
「ゆっくり飲むといいですよ。気分が落ち着きます」
僕は紙コップをつかむと、一気に飲みほした。思いきりむせるが、気にしてはなられない。
「あの、ですから、ゆっくり飲んでくださいと……」
「いったい、どうなっているんですか。剣崎さん、全然、当たらないじゃないですか」
声は自然と大きくなった。
「原資を増やすと言って、単勝勝負したのに全然駄目。おかげで、資金が半分になってしまいましたよ。どうするつもりなんですか」
「レースはまだありますよ」
「たった3レースですよ」
「阪神も含めれば、6レースです。余裕です」
剣崎さんの表情はまったく変わらず、それがさらにいらだちを煽った。
「レースがあったって、お金がなければ、どうにもならないんですよ。たった5万円をどうやって、150万にするんですか。30倍の一点につぎ込めば、どうにかなるかもしれませんが、そんな簡単にはいかないでしょう」
点数を増やせば、的中確率はあがるが、高配当をねらわないと目標の金額には届かない。100倍を超える馬券を仕留めるのは相当にむずかしい。というか無理だ。
「大丈夫です。ここまでは想定の範囲内です。少し負けが混んでいますが」
「そんなこと言って、ぼくが大負けするのを楽しんでいるんじゃないでしょうね。ぼくがいくら損しても、剣崎さんには関係ないんですから」
「そう思うなら、帰っていただいて結構です」
剣崎さんの声がわずかに高まった。
「負け分はお返しします。報酬もいただきませんので、三好さんはいっさい損をしません。ただ、今日、それですと、今日、欲しかった150万円。それも手に入りませんが、よろしいのですか」
「それは……困ります」
金かなければ、すべてが終わる。引くわけにはいかない。
だが、このままで本当に儲かるのか。
やはり伝説の馬券師なんていうのはとんでもない嘘で、詐欺に引っかかっているんじゃないのか。
剣崎さんを紹介してくれたのは行きつけの喫茶店のマスターで、信頼できる人だった。話を聞いた時にはうさんくささも感じたが、短期間でまとまった金を手に入れるにはこれしかないと考えて、素直に信じてしまった。
だが、ここまでうまくいかないと、少し疑ってしまう。やっぱりおかしいだろう。馬券で大儲けなんて。
僕が先をつづけられずにいると、剣崎さんが口を動かした。しかし、言葉が出るよりもわずかに早く、背後の柱の陰から痩せた男性が姿を見せ、歩み寄ってきた。
「よう、剣崎ちゃん」
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