第70話


「早い……」


「そりゃそうだ。雷と光の魔術を俺に重ね掛けしているんだ。当然だろう?」




ここはまだ野原、ではなく森。昨日の夜に野宿をした森の入り口とは違い、もうこの広大ともいえる森の出口に近く、入り口から出口までの道のりの内、約8割の地点で秋はひたすら走っていた。




秋はリアをおんぶして、森の中を疾走していた。




昨日の夜にアルタと話した通り、最終的には力業。雷魔術『電光石火』と、光魔術『光雲の加護』と呼ばれる二つの魔術を並行して文字通り自分の肉体に重ね掛けしているのだ。




雷魔術『電光石火』は、文字通り雷を雷魔術でも類を見ない速さで飛ばす魔術だ。そして光魔術『光雲の加護』は、自分に対してかける能力上昇系の魔術となっている。それら二つを掛け合わせることで、秋は雷のような雷足になっているのだ。




勿論ステータス等も働かせているが、やはりこの魔術の貢献が大きいのも事実だろう。




「秋……こんな魔術。“存在しない”はずなのに…」


「ああ?……ああ、そういう事か。」




リアは紛れもない魔術の天才。魔に愛された少女故に、分かってしまうのだ。秋が起こしている魔術の現象が、この世界に存在している魔術にどれにも当てはまらない存在だという事を。




勿論爆速で走っているため、風が耳元で爆音を鳴らし、目は情景を完全にはとらえきれない。リアの声も風に置いて行かれる前に、その化け物じみた身体能力で秋が拾い上げたものだ。




「ああ…そういうことか…。まあ暇だしいいか。少し長くなるが構わないか?」


「ん。構わない…」




秋の声もまた風に流されていくが、おんぶされているリアは、声が後ろに流れても聞こえていたようだ。




「俺の魔術スキル…『極・創魔導法』はな、アルタ…ああ、さっきのやつなんだが、そいつに言わせてみればこのスキルの本質は“自分の想像した事象を、魔術として放つことのできるスキル”らしい。まあ、なんとなく意味は分かったか?」


「……!!!」




リアは神妙な顔で秋の方を覗いていた。




「それ……最強?」


「ああ、理解したか、そう。俺のスキルは強すぎるんだよ」




“自分の想像した事象を、魔術として放つことのできるスキル”。これの及ぼす意味とは、簡潔にまとめるとするならば、秋は『自分の想像で魔術を創造し放つことができる』ということを意味する。これだけを聞くと万能の様に思えるかもしれないが、それが属性魔術となると話はややこしくなってくる。




属性―――それはこの異世界でも魔術の重要な要素として知られているが、その属性には個性みたいな特徴が存在している。


例えば炎。これは燃焼。炎魔術以外に何かを燃やす魔術は存在しない。例えば水や風。これらを放つことのできる魔術は、風・水魔術しか存在しないのだ。


光魔術は回復・攻撃・自身への強化などを幅広く行える魔術だ。闇魔術は魂や精神などといった目に見えないようなものに干渉できたりなどの闇魔術・光魔術でしかできないことも存在している。




「そして俺の場合。将来的にはどうなるかわからないが、今の俺のスキルでは“雷”と“光”と“闇”が司る役割以外の魔術…例えば、俺が“火を出したい”と念じてこのスキルに働きかけても、炎魔術の因子をこのスキルは所持していない。だから俺はまだ炎を出しての魔術を創造することはできない。みたいな感じでな?万能ではあるがまだ制限のあるスキルではあるんだよ」




そう、現在秋のスキル『極・創魔導法』には、要素として雷・光・闇の三種の魔術因子しか存在してはいない。故にそれ以外の属性魔術に関わる魔術を想像して放とうとしたところでできないのだ。




「まあ、それでも強いのに間違いはないんだがな」


「ん…間違いない。最強」




魔導姫と言わしめ恐れられてきたリアが言うのであれば、間違いなく最強クラスのスキル。いや、それ以上なのかもしれない。




「私は、詠唱は不要。だけど、魔術の創造。これは無理…」


「そうなのか?リアならできそうな気がするが…」


「私もそう思って試してみた。けど、ダメだった」


「やっぱチートなんだなぁ…このスキル」


「ん…」




少し話を交えながら、森を走り、8割を超えたところまで来ていた秋。爆速で森を走り抜け、ようやく二人を森を抜けることに成功したのだ。




「おお……」


「ん…」




二人は小さく息を吐きだした。そこにはあったのは穏やかという言葉がふさわしい草原と―――すべてが石の壁に囲まれた。人工物だった。




「あれが、異世界の街。商業都市『トリス』か…」


「ん……久しぶり…」




こうして秋とリアは、商業都市トリスへと入るべく、魔術等を切って城壁そびえる街の方へと歩き始めた。















「リアは…そうか、久しぶり。なんて言葉じゃ言い表せないか。この光景にたどり着くまでに」


「ん…感動」


「感動してるってところは俺も同じだ。なんせ異世界にきて初めての街だ。こんな大きな人工物は初めてだからな。ようやくここまで来たって感じがしている」




そう、リアは数百年ぶりの街。秋は異世界初めての巨大人工物だ。それは感動してもおかしくないのではないだろうか。




「んで確か…村長に聞いた話だと…っと」




秋は村長から魔物の肉のお礼にもらっていたわずかばかりの通貨を、『空間の異箱』に保存していたことを思い出し、人に見られないように入り口に手を突っ込んで取り出す。ここまで来ると人の姿もちらほらとみられ、中には馬車なんかも見られた。おそらくは行商だろうかと当たりつけながら、街の検問場所へと列を作って待つ人の姿を目で追ってそこへスッと並び始めることができた。















「次の人~」




「俺たちの番だ。行くぞ」


「ん…」




都市を囲む壁にある検問所で並んで数分。意外と順番はすぐに回ってきた。そして呼ばれて中へと進んでいくと、まるで中世の兵士のようなフルプレートに身を包み、顔も体格もがっちりしている兵士たちの中に通された。




「それで?この街には何しに来たんだ?」


「隣町から来たんだ、人に会うためにな」


「ああそうか、それで。ステータスプレートはあるか?」


「ああ、それなんだが、家に忘れてきてしまってな…」


「ああ、じゃあ規則通りに手続きするがいいな?」


「ああ、構わない」


「それじゃあ、銀貨一枚を預かっておく…。二人だから2枚な」


「ああ、了解した」




そういうと秋は、村長から貰った巾着―――銀貨3枚と銅貨5枚が入った袋―――から、銀貨二枚を取り出して門番の兵士に渡した。




「ああ、手続き完了だ。通っていいぞ」


「ありがとさん。それでこの街のギルドはどこにあるんだ?手持ちがないもんで、魔物の素材なんかを売りたいんだが…」


「ああ、あんたら冒険者か。ギルドなら大通りの奥にある。わかりやすいから迷わないと思うぞ?ギルドカードを提出してくれたら身分証明ってことで銀貨は返すさ。まああんたらの事だからそっちも忘れてるんじゃないのか?」


「からかうのはよしてくれ。門番さんよ。それじゃあありがとよ」


「おう、楽しめよ!」




そういうと門番の兵士は街への道を開き、無事に秋とリアは商業都市トリスへと入ることができたようだ。















人でごった返している…というわけではないが、先ほどの草原や野原の比べて人口密度50倍程度には膨れ上がっているこの商業都市トリスだが、もちろん商業の街とあって人の出入りも多い。それ以上に物の出入りもまた多いのだ。




そしてそんな街であるトリスの大通りを、ごった返しながら歩いているのは秋とリアだ。




「…正直。ちょっとヒヤッとした?」


「…正直。な」




そう、先ほどのは村長の時に聞いていた情報と照らし合わせて、即興で作り上げた設定だ。




「ステータスプレートが忘れたで通って正直助かった」


「ん。街に入れたのなら結果オーライ」


「まあ、それもそうだな」


「———秋はこの街で何をしたいの?」


「大きく分けて三つだな、一つ。ギルドに行って迷宮の魔物の素材なんかの換金。二つ。俺やリアの服とか、あとは食べ物とかの旅の準備だな。三つ。ここには図書館が一般開放されているらしい。そこでこの世界の知識をつけたい。俺はもちろん。リアにも手伝ってもらうつもりだ。付き合ってくれるか?」


「ん…もちろん」




そうこうと話している間に、大通りの奥にひときわ大きい建物が鎮座していた。商業都市トリスのギルド支部だ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る