第71話

ギルドの建物がある大通り周辺に近づいてみるとそこには大柄な男や剣・斧を背中に担いだパーティーなどがどこか視界に一つ以上はいた。そしていざギルドに入ってみると、まず始めに香ったのは酒の匂いだ。ギルドには酒場も併設されているらしく、昼頃だというのに酒を飲んでいる冒険者がこれまた大量にいた。




「ギルドの受付は…っと」


「ん…あそこ」




そしてギルドの隣に酒場が併設されていることをチラっと確認すると、そのまま正面のカウンターで受付と書かれている場所へと足を運んだ。そして受付にはテーブルが5列程度あり、どれにも美人と表現しておかしくないほどの受付嬢が応対を行っていた。酒場近くの端のレーンでは冒険者が受付嬢を口説いている場面にも遭遇できた。




(あれ。そういえば俺この世界の言語理解できてるぞ?)


『マスター。これは異世界人の特性ともいうべきなのかもしれませんが、言語理解が標準で組み込まれているようです』


(へぇ…初めて知ったぞ)




村長の時は地図に文字など書かれていないし、すべてが口頭だったため文字を見ることはなかったのだが、この街にきて気づくこともやはり大量にあるようだ。




(アルタ。俺はこの世界の文字をかけるのか?)


『イエス。これに関しましては、実際にやってみるのが早いと思われます。いざというときにはサポートいたしますので』


(了解。任せたぞアルタ)


(イエス。マスター)




「こんにちは、冒険者ギルドトリス支部へ、何か御用でしょうか?」


「ああ、魔物の素材を買い取ってもらいたいんだが…買い取りは、冒険者になっていなくてもできるのか?」


「はい。大丈夫ですよ。ですが冒険者になっておいた方が様々な面で優遇されます。買い取り額にも影響されますよ?」


「そうか…分かった。冒険者登録というものはここで今すぐできるものなのか?」


「はい。大丈夫です。登録されるのはお二人様でよろしいでしょうか?」


「ああ、頼めるか?」


「はい。では書面にお二人の名前・得意な攻撃手段などの項目に従って書いていってください。代筆は必要ですか?」


『マスター。不要です』


「いいや、いらない。大丈夫だ」


「わかりました。では書面の方をお持ちいたしますね」




そして受付嬢がいなくなったことを確認すると即、リアが秋の耳元で何かささやいた。




(…大丈夫?)


(ああ、大丈夫らしい。アルタがそう言ってる)


(ん。了解…)


(しばらくは合わせてくれ、登録はする。しばらくは俺に合わせてくれ。悪いようにはしない)


(ん…分かった)




「こちらが書面です。お二人の分まで一枚で書いてもらって構いません」


「ああ、分かった」




(アルタ。頼む)


『イエス。と言っても書きたい内容を日本語で思い浮かべて筆で書いてみてください。頭の中に浮かんでくると思われます』


(—————ああ、本当だ。)




こうして秋はさらさらと筆を進めていったが、一つだけどうしても気になる項目が出てきた。




「なあ、この名前のところは必須なのか?」


「いいえ。言ってしまえば源氏名。というやつです。ですがもし有名になった際にはこちらの名前。我々は“ギルドネーム”と呼んでおりますが、偽名でも構いません。冒険者としての名を書いてください。あまりやる人はいませんが、名前を書かないというのもありです。冒険者になる人の中には訳アリな人もいるにはいますので」


「ああ、丁寧にどうも」




(関門突破…っと)




怪しまれるかもしれないが、リアと秋の名前は空白のままで提出した。




「名前は…お二人とも空白ですが、大丈夫ですか?」


「ああ、ちょいとな」


「了解いたしました。それでは最後にこちらの珠に手を触れていただけますか?」






そうして受付嬢が下から取り出したのは、透明なガラスのような珠だった。大きさは拳2~3ほどにもなる大きく透明な球だった。




「こちらには“冒険者としての素質”があるかどうかを見ます。正確にはレベルやステータスの大まかなものを図ることのできる魔道具です。詳しい数値などは出ませんが、その人のレベルやステータスが一般的なものと比べてどれぐらいなのかを色で表示されます。また数値や詳しい情報等はこの魔道具では入手できません。またスキル等の情報も見ることができません。ギルドは冒険者の商売道具を盗み見ることはしないと約束しております。また冒険者の方々にも一定以上の情報へ踏み込むことは致しません。以上の事をお約束いたします」




受付嬢の言っていることはこの世界のギルドと呼ばれるものの規則に当たる。要は冒険者の秘密を必要以上に盗み見ることはしないという事だ。




だが秋は徹底した秘密主義だ。内心では緊急事態を知らせる鐘が鳴っていた。




(アルタ。どうにかできるか?)


『これは魔道具ですね……少しお時間いただいてもよろしいでしょうか?3秒ほど』


(ああ、構わないが)


『了解いたしました…それでは少し魂の世界に潜ってまいります』




こうしてアルタは、敬愛する主のために『アルタ・セラフィム』として生まれ変わった際に会得したスキル「魂世界の総統者」を用いて、簡素ではあるがスキルを創造した。




==========


簡易偽装




一定時間。対象にした者の情報を偽装する。




==========




アルタのみが使えるアルタ専用スキルだが、相手を指定してスキルを行使できるためリアや秋にも使用可能だ。




『対策完了いたしました。ここは冷静を装って珠に触れてもらって構いません。私がどうにか致します』


(ああ、頼む)




こうして秋は冷静を装いながら珠に手を触れた。




「はい。ありがとうございます。では次、お願いいたします」




秋の姿を見て、リアも迷うことなく珠に手を触れた。




「———はい。お二人ともありがとうございました。ではしばらくの間こちら端の方でお待ちください」




こうして二人は、無事にギルドカード作成までの手順を乗り切ったのだった。















「秋」


「ん?」


「秋、さっきの珠…どうやって?」


「ああ、アルタがやってくれた。俺は正直どうやってやったのか見当がついていない。だが明らかにアルタの能力が強化されている。それにアルタの奴。おそらくだがスキル自体を進化させて自分でスキルを創造する能力に目覚めたんじゃないかと思ってな。それで賭けてみたっていう」


「アルタ……何者?前に会ったとき。只者じゃない。雰囲気した。けど?」


「ああ、アルタはな…なんて言ったらいいのか。そうだな。まず、アルタは間違いなく俺のスキルだ。それに関しては間違いない。だがスキル『アルタ』は自分で考えて行動することができる。ちなみにスキル『アルタ』ができることは俺の持っているスキルや能力の管理。という事になるが…少しでも理解してもらえたか?」


「ん………あっ。」


「ん?どうした?」


「少しわかった…アルタはスキル。秋のスキル。けど自分で考えて動くことができる。つまりアルタは『自分で考えて、秋のために行動できる』スキル。そういうこと?」


「———ほとんど正解だ。そして俺の能力は」


「スキルを創造する?」


「そう、正解。俺の能力は前に話した通りだから、それを代わりに操ってくれたりする」


「なるほど…アルタ。すごい」


「ああ、でも俺が創造したときにはあんな能力なかったんだがなぁ…。強化されている?いや、あれだけの強化を自力でするのか?できるのか?そんなこと…」




「お二人様。ギルドカードが完成いたしましたので、どうぞこちらへ」




「できたみたいだ。行くか」


「ん」















「こちらがお二人のギルドカードです」




そう受付嬢が言うと、まずはギルドカードを手渡した。




「ギルドでは冒険者としての力を図るための制度“ランク制度”が存在します。ランクは一番下からE・D・C・B・A。そして最高のランクとしてSが存在します。Sは何かギルド内で特別な功績を残した者に送られる最強の称号です。この世界にもたった数名しか存在してはおりません。Aランクですら世界には100人いるかいないかです。

そしてこのランク制度で、受けられる依頼のランクが決まります。ギルドに登録した際には、たとえどんな理由があろうとも一切の例外なくランクは最下位のEから始まります。そこからランクを上げるためには、依頼をこなして下さい。その後活躍や依頼に対する姿勢などをギルドが調査し、ランクを上げるための試験を執り行います。

ランクを上げるための基準はすべてがある程度秘匿されています。ですのでランクを上げたい場合にはギルドの依頼を受け、ぜひ邁進していってください。

ギルドカードはギルドで依頼を受ける際に必要になります。無くさないように、再発行は一回目銀貨3枚。二回目からは銀貨10枚となります。

ランクが上がれば上がるほど、報酬も高いものも危険度が高いものもございます。逆にランクが下の場合には危険はある程度低減されますが報酬もそれに見合うものとなります。ご留意ください。

以上で大体の説明は終了です。何か質問等ございますか?」


「いや、ない。説明ご苦労さん」


「そうですか、以上で登録は終了です。お疲れさまでした」


「ああ」




そして二人は晴れて冒険者となった。















「じゃあ、素材を換金しに行くか」


「ん」




ここは冒険者登録が完了した秋とリアがいるギルド内。秋にとって冒険者登録はおまけ、本編は迷宮攻略の際にアルタが気を聞かせて集めていた魔石を換金するためだ。




「ふう…換金の場所はっと」


「…あそこじゃない?」


「おお、ありがとさんリア」


「ん…」




そして魔物の換金用レーンに並ぶ。そこにはあまり人はおらず、前に二人ほどいる。先ほど受付したレーンとは酒場とは逆の方向にあり、先ほどの受付のレーンとは少し離されている。




「こちらは魔物の換金用受付です。換金したい素材はありますか?」


「ああ、これとこれの魔石なんだが…」




そういうと秋は『空間の異箱』から袋へと移し替えていた魔石を取り出してテーブルの上にゴトッと並べた。その数およそ15個前後。これでも魔物の中で上層~中層レベルの魔物の魔石をセレクトして売っているつもりだ。悪目立ちは秋にとって天敵のため、用心の一環というわけだ。




「こ、これは…少し調べてまいります。お借りしてもよろしいですか?」


「あ、ああ。構わない」




(マズったか?)


『可能性としては』




ちなみに、魔物の素材の中でも一番高価に売れるのは魔石だ。次に毛皮などの防具にもなりえる素材類だ。次に魔物の中でも食べられる肉など。これはあの村で出てきたワニ型の魔物の肉などが当たる。




そして魔石のでも魔石のグレードを示すランクが存在している。もちろん強い魔物にある魔石ほど魔石としての価値も性能も上がっていく。




魔石がどこで使われるかというと、魔術関連だ。魔道具の触媒や粉末にして使う。魔術研究のための消耗品に使われたりなど需要としてはいくらでもあるのだ。




「お待たせして申し訳ございません。こちらの方お返しいたします…それではこの15個の魔石の鑑定に入りますので、再びで申し訳ありませんが再び預かってもよろしいでしょうか?」


「ああ、構わないぞ」




(どうにかなったっぽいな、助かったアルタ)


『いえいえ、マスターの要望に応えることこそ我が望み』




そうして鑑定は10分ほどで終了した。受付嬢が小走りで戻ってくる。




「ありがとうございます。鑑定結果の方ですが、大変有用な魔石だという事で、15個まとめて金貨7枚と銀貨5枚で買いたいと思います」


「ああ、構わない。それでいい」


「ありがとうございます。それでは金貨銀貨の方ご用意させていただきますね」


「ああ」




こうして受付嬢がすぐ金貨と銀貨を用意して、テーブルの方で清算が開始された。




「金貨7枚と銀貨が5枚ですね。ご確認いただけましたか?」


「ああ、確認できた」


「それでは、またのご利用を」


「ああ」




ちなみに金貨1枚が日本円にして1万円。銀貨1枚が日本円にして千円という事になるため、この魔石だけで7万5000円の収入だ。




ちなみに現在の異世界イーシュタルテの主な通貨のレートはこんな感じだ。




銅貨一枚=100円


銀貨一枚=1000円


金貨一枚=1万円


白金貨一枚=100万円


黒金貨一枚=1億円




ちなみにだが、白金貨・黒金貨などの類はほとんど民衆の間で出回ることはなく、白金貨はかろうじて貴族が、黒金貨はそれこそ国と国との取引ぐらいでしか使われない骨董品のような代物とのことだ。




だがそんなこと秋達には関係ない。こうしてギルドでの用事はすべて終わらせた。生活するための金と、異世界での身分証を秋とリアは手に入れることができたのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る