第六章・邪龍伝説編

第69話

「私は遥か昔の人族の王…その娘。王女として、この世に生まれてきた」




歩く足、風に靡かれてカサカサと、心地よい音を奏でる茶色と緑色の地面を進みながら、立った二人———秋とリア———しかいないかの如く進んでいく時間軸の中で、リアの過去が紐解かれていった。




「私の才能は正直異常…人々からは『魔導姫』と呼ばれて、恐れられたり、自分の国の民は守り神だと言ってくれる人もいた…そして、お父様も、その才能に期待した———。けど、それがお父様を苦しめた」




「国は栄えていた。皆が幸せそうに暮らしていたし、戦争もなかった。完全に中立。戦争には参加しないという姿勢を過去の王の代から掲げ、政策を進めてきた。お父様は優しかった…けど、私の才能に苦しめられた」




そう、リアの国———シュヴァル王国は、完全中立を掲げ、戦争中であろうともその傘下に入ることも、派閥を作り上げ戦おうともしない。唯一平和という国に近かった国。それがリアのいた国。シュヴァル王国なのだ。


そしてシュヴァル王国は、自営の為のみ剣を取り戦を戦い抜く。そのため兵士一人一人の士気はとてつもなく高く、練度も高い。国の戦闘能力としては高い部類に入るため、誰も手を出さなかったのだ。まさに各国は藪蛇を恐れたのである。




「———でも、帝国の戦争参加の脅しで、シュヴァル王国も戦争に巻き込まれていった」




そう、帝国はまさにシュヴァル王国を狙って、戦争への参加を要請する文書と、三日以内に返信しないとシュヴァル王国に攻め込むという爆弾付きでその文書を送ったのだ。




「そして約束の三日———勿論シュヴァル王国は断固拒否した。そして帝国と王国は戦った」








結果は————大劣勢。








シュヴァル王国は強大だ。強いのだ。だがしかし、帝国のルーツは侵略。ほとんどの国土は侵略で得た物。そして数々の文化や文明。その国々の兵器などを奪い、足し合わせ掛け合わせ、そして世界中に戦争を仕掛け大きくなった国。それが帝国だったのだ。




そして“奪う”事に特化した帝国の一番の長所が、その圧倒的なまでの軍事力。それにシュヴァル王国は劣勢を強いられてきたのだ。




そして、父である国王はついに投入を決意する———実の娘。『魔導姫』と言わしめた力を持つ王女の、戦力としての投入。




それは実の父としては苦渋の決断だったのだろう。王として切らねばならない決断だったのだろう。王女としてのリアはそれを知っていたのだ。だからこそ『魔導姫』としての力を———解放した。




結果はどうなったか?




「一時間後…前線に出ていた帝国兵の8割を、壊滅させた…私の魔術で」




1時間という時間で、その時に前線に出ていた帝国兵8割。その時前線にいた帝国兵士が5千だったため、数値にして約4千の敵の兵士を、60分で壊滅させたことになる。




確かに脅威だ。最強と言っても過言ではないかもしれない。




「そしてお父様は———狂い始めた」








———「………」!!!君は強い!さあその力で、諸国を黙らせに行こう!そうすれば戦争は終わるかもしれない!




———「………」!!!君の力が必要なんだ…。あの国を焼き払うために。




———「………」!!!この戦争で勝てばあれだけの領土と労働力が手に入る!我々の富国と戦争が終結するかもしれない!!








「お父様は…戦争を繰り返し、そしてどんどんと私の力をあてにし始めた…お父様のやっている事は、間違ってるかもしれないと思いながら、王女として私は戦場に出た」




そして戦場に出ては、『魔導姫』として無残に敵を殺戮し尽くす殺戮マシーンとして何度目かの戦場。そこでは、唯一いつもの戦場とは違う“あるもの”がいた。




「敵国は、魔族を戦場に投入してきた。多分だけど、同盟を結んでいた…んだと思う」




そう、その時の戦場、敵国は小国だった。小さい国が大きな国と戦うためにはどうするか。力を強くするなんてことが出来たら、それはもう小国ではない。小さな者が大きな者と戦うためには———より大きな者に力を貸してもらうしかないのだ。




「そして、私の魔術は唯一。その魔族に傷をつける事が出来た…けど、魔族の数は、私だけでは手に負えず、私はそのまま負けた」








———いいね。君。可愛いし。僕らに傷をつけられる魔女。いいねえ…。








その戦場に現れた魔族。それは『吸血鬼』の一族。ヴァンパイアと呼んでも差し支えないだろう。




「そして私は、その魔族の長———吸血鬼の長に、吸血された」




吸血鬼。読んで字のごとく、吸血をして生きる鬼。まさしくヴァンパイア。だが吸血とは、ただ食事をするためだけではその意味を成し得ない。




ヴァンパイアの吸血。それにはもう一つの重要な意味がある———眷属の作成。




「そう、私は『眷属』になった。あの吸血鬼の、眷属としての吸血鬼に。そしてその特性は今も受け継がれている。そしてこの特性の所為で、お父様も、国も、全て私は裏切り、そして全てが私を裏切った」




———化け物ぉぉ!!!


————その力…『魔族』の力かァ!!!


——いやああああああ!!!




—————「………」———ごめんよ。本当に、ごめんよっ……!!!




「私はかろうじて王国へと戻ってきた。そして全てをありのままに話した。信じて…もらえると……そう…」




リアが口を閉ざしていく。そういう事だったのだろう。結果としては国に裏切られ、化け物の汚名を着せられ、今まで国に尽くした栄誉も何もかもを失い。最後には化け物として封印された。




「……そうか」




秋はその壮絶な過去を聞いて、言葉を放とうか同化すら戸惑った。その覚悟も、過去も、たった一人のたった一言で表していい物ではないと思っているからだ。




「それが、私の過去」


「そうか…俺なんかが言葉をかけていいものなのか。少し迷うぐらいには…な?」


「でも聞いてみたい。秋の言葉が、聞いてみたい」




「そうだな……過去は戻せない。俺がリアがいた時間にいたらどうにかできたかもしれないけど。俺はリアがいた過去にはいない。だから、どうしようもないし、どうにもできない…けど、俺ならそんな過去になってでも、生きてはいけなかったと思う…だから、凄いと思うよ、リアは———って、何言ってんだろうなぁ…」




「……うん。ありがと」


「おお?そうか?俺途中から何言ってるか分からなかったぞ?」


「ううん。私には分かった…だから、それでいい」


「おお…今のでわかったのか…なら、いいんだが…」




そして語らいは夜へと続き、それでも尚二人の声が止むことはひと時もなかった。















もうすっかり夜。焚火を囲んで座り、まだそれでも談笑を繰り返しているのは秋ちリア。勿論魔物対策の結界等を張り完全に野営の準備を終わらせていた。




そして秋は村から貰った食料をかじりながら、これまた小動物の様に食べ物を頬張るリアと語らいを続けていた。そして、その語らいの最中。話題は現在召喚されている勇者へとシフトチェンジしていったのだ。




「勇者…どう?強いの?」


「うーん…どうだろうなぁ…今は強くないと思うがな」


「勇者…確か昔、調べたことがある。人間の中ではずば抜けて強く。特筆するべきはその成長能力と人間の誰も使えない様な強力なスキルにある…みたいな感じ?だったと思う…」


「リアは勇者を見たことがあるのか?」


「…?いや、無い。けど私の時代でも召喚はされていたと聞いた。丁度魔族が出てきた直後ぐらいに」




(んじゃあ。やっぱりとは思ったが、この世界はあいつら以外にも過去に何回も召喚を繰り返している…か。)




秋の予想は当たった。というべきだろうか。過去にも勇者召喚を行っているのではないか?という素朴な疑問は、やはり当たりだったようだ。それはつまり、異なる世界から若者の扱いが初めてではないという事を意味する。






(陽は、上手くやっていけているだろうか…死んじゃいないだろうか…いや、まさかな)




秋は親友の身に起こってほしくもない不吉な事を考えるのをやめ、リアに話を聞くべく顔をあげた。




「そういえば、勇者の強さ…そうだなぁ…基本的なステータスなんかは分かっているのか?」


「ん?そういえば…勇者の強さはまちまち?だったらしい。魔王の戦い方にもよる…。けど、初代勇者の基本ステータスは55万」


「…マジかよ。」


「けど、2代目勇者は魔術に秀でた勇者。魔力だけステータスの値が異常で、あとは15~20万程度だった…らしい。これも分かってないけど」


「なるほどなぁ…それは確かに強いわ。あいつらもそうなるのか…こりゃ、もう少し強くなっとかないとな」


「秋は強い。正直異常だと思う……」


「はは…そういえばだ。勇者召喚は何度かあったんだろ?勇者召喚が行われたのはリアが生きている時から何回目とか分かるか?」


「…いや、分からない…けど、私が生きている時代にはもう何回か行われていた…って、私が城の中で呼んだ本には書いてあった」


「そうか…ありがとう。んじゃあリアの生きていた時代から、もうずいぶん経っている…んだよな?」


「———乙女に年を聞くのは、マナー違反」


「いやいやちょっと待て待て。今年を聞く話になっていたか?」


「…ん。今のは絶対にそういう意味も含まれていた。秋。ダメ」


「ちょっと待ってくれ。決してそういう意味じゃ…」


「秋。謝る」


「…………すんません」


「許す。」


「ありがとうございます…」


「でも確かに、秋に教えないのも不都合。———多分。私が封印されてから150年以上は経ってる…と、思う」


「…そうか。有難う、リア」


「秋の役に立つなら、しょうがない…」




(って事は大体160~170歳は生きているのか……って、吸血鬼、そして封印されている。とはいえそんなに年を取ってよく年齢の割に年齢を感じさせない体や肌してるよなぁ…)




「秋」


「うん?どうした?」


「………」


「どうした?」


「———————」


「リア?どうしかしたのか?」


「———————————。私は優しい。謝るなら。許す」


「………す、すみませんでした」


「…………」


「マジですいません…!!」


「……ん。許す」




ちなみにジト目になりながら教えてくれたのは、吸血された影響で体が魔族の体に近づき、それと同時にあまり年を取らない『吸血鬼』の特性が色濃く映ってしまった結果なのだという。吸血鬼の寿命はそれこそ千は軽く生き永らえる程存在するとのこと。それを受け継いだリアがここまで若く麗しい肌や顔をしているのも納得がいった。




そしてどうやら、リアの隠された?一面も少し垣間見えてしまったようだ。だが談笑が少しづつ終わりを迎えていき、焚火の火も弱くなっていく。こうして焚火の火が弱くなっていくごとに、二人も夜の微睡みに飲まれていくのであった。















「んっ……秋」




リアは今も秋の手を掴んで、まるで抱き枕状態だ。その状態でありながら、なおも秋は起きていた。アルタと話をするためだ。




「それで?どんな感じだ?」


「はい。マスター、商業街トリスには、このまま歩き続けていたら一週間以内では着くかと、ですが」


「ああ、面倒だ」


「そう言うと思いまして、ある程度こちらで解決策をリストアップさせていただきました。問言っても大体が力技ですが」


「まあしょうがないさ。長距離を移動するんだ。そこに知略もクソもないさ」


「まあ移動速度の魔術を使ったり、ステータスでゴリ押し…他には、乗り物?の案もあるのか…そんなもの。用意できるのか?」


「ええ、なんとか。私の創造したスキルであれば、どうにかできるかもしれないと思っての事です」


「そうか…いや、まあリアを抱えて後はステータスと魔術の力でどうにかするさ。それで、今後をある程度まで煮詰めて行こうか」


「はい。今後我々は異世界の人族が住まう大規模な都市・町や国に赴くことが予想されます。我々にとって一番に警戒したいのが“勇者”の存在と“国々”の存在。この二つに注意していきたいのですが…勇者に関して、何がございましたらお伺いしておきます」


「ああ。基本的に“勇者には触れない”方向で行く。これは勇者に目を付けられるような行動はとらず、基本的に不干渉だ。だが同時に、勇者の動向には常に気を付ける。どこにいるかも観察しておきたい…出来るか?最悪。そういった情報収集系のスキルや何かそういった物を作れるといいんだが…」


「ええ、了解しておきました。議題の一つとして挙げておきましょう。ですがマスター。我々の目的は“地球に帰ること”です。帰るための手段を探すための旅。その際に、もし国などの強大な組織をぶつかる事になったとして……質問です。マスター、あなたはどちらを取りますか?」




「決まっている。勿論目的の為なら手段を選ばない。例え壊滅させてでも、目的を果たす」




「…そうですか。了解いたしましたマスター。全ては、マスターの、御心のままに」


「ああ。頼りにしている。アルタ」




こうして、夜空が夜を包む世界で、またこうして行動と覚悟を定めた秋。目指すはついに人の町。果たしてどのような事になるのかは、神にすら分からない…。






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