第54話


「あーあー、ついに始まっちまったかぁ。この会議小難しい事しか言わねえから面倒なんだよなぁ…誰かにやらせてやろうか。全く」


「確かに、自然神いい考え…この会議、面倒……誰か代わってくれない?」


「はは、そんなことをいう物ではありませんよノル。エルールも。これはお勤めなのですから」


「ねぇねぇ!?ミコト~?今回ゼウス来るかな?来るかな~!?」


「あ~あ~いつもうるせえな恋愛神。お前は黙るという事が出来んのか全く…まああの爺さんの事だ。来ないと思うぞ。儂らもそれを容認しておるのは面子としてどうかと思うのだがなぁ?どう思うよ父王の?」


「そうだな戦神。確かに特例も問題だが、我々の序列は全て格で決まる。奴らの格。その存在が影響を与えているという事は、この場の誰もが理解している。今更どうこうは出来んのだよ。分かったか?」


「へーへー。分かったよ畜生――――んじゃ、6名揃ったな?始めるとしようか?んじゃ、音頭よろしく。父王の」




「了解した。それでは始めよう――――『ここに、八神審議会の開催を宣言する』」








こうして八審神議会が、父王神オーディンの宣言の元に開催された。















八神審議会が行われている場所は、神界の中央に位置し、神。そして神に仕える天使たちが住んでいる神界の中央である『神界郷里』の中心。一番立派な城と塔が混じったような建物であり、そして同時に豪華絢爛という言葉が似あう建物の頂上であり超常。そこに彼ら八審神は会議を開くことを宣言した。これはある意味神界中の話題だ。現代版に言い表すことになれば世界サミットが開催されるという事に等しい重大イベントだ。見逃すはずがないぐらいの大きなことだった。




そして最も位が高い神のみが選ばれるその場所。八柱の神々たち。今回の会議の参加者となる神々たちは順々に席に座っていた。勿論空席も二つ存在していた。




一人目。自然神『エルール・アルフ』女


二人目。戦神『ラウスフォール』男


三人目。恋愛神『エウルス・マギクス』女


四人目。星神『ノルフィカ』女


五人目。八百万神『天照・尊』男


六人目。父王神『オーディン』男




そしてここに全能神『ゼウス』と時空神『メリッサ』を入れた合計八柱の神々が、この神界のトップに立つ首脳陣だと考えてくれればいい。この八柱が神界の大きな問題などを率先して解決し、同時にこの世界を導く役割を担っているのだ。




そしてこの会議もまた、神界の、ひいては神の大きな出来事を決める会議となる。だが八神の内六柱が最も驚く事態となったのは、この会議の開始を宣言してから5分後の事だった。















――――ガチャッ。




屋上の会議室。そこは扉と円卓。後は椅子が置いてあるだけの神聖な部屋として使われており、入れる人間は数少ない。ここに入れるのは八名のみ、そして今回その扉を開けたのは二名の招かれた客神だった。最も来るとはだれも思ってなかったようだが。




「時間ぴったりのはずなんじゃがのう…のう、来てやったぞ。オーディン」


「ゼウス……お前」


「私も今回は来てやったよ。全く戦神よ。お前は使いの選び方をもう一度学びなおした方がいいんじゃないのかい?全く」


「メリッサも来たのか……全く、予想外な奴らだ」


「お前に予想されたくはないよ父王神。お前はその固い頭でこの神界の事でも考えておけ」


「言われなくてもそうする…だが、珍しいな。まさかゼウスがやってくるとは…」


「―――意外。ゼウスは一生来ないと思ってた」


「ゼウス~!?私も来ないと思ってたー!久しぶりー!」


「カッカッカ!ゼウスが来やがった!こいつは面白くなりそうだなぁ!」


「……相も変わらずおぬしらはうるさいのぉ……。では、始めようとするか、儂も会議に参加する。よいな?皆」


「――――反対はさせん。この爺さんも八神の一員。ここで反対を叫ぶ奴はおらんと思うが」


「ああ、賛成だ」


「私も大丈夫だ!」


「……賛成」


「勿論です。人が多いに越したことはございませんからね」


「ゼウスが来たんだし追い返す理由もないよー!」


「―――感謝する。それでは儂も会議に加われせてもらうぞ。オーディン、ノルフィス、ラウスフォール、エルール、エウルス、尊」




こうして、六柱で会議を進めていた会議に、もう二柱。特に全能神ゼウスの参加は六柱に衝撃をもたらしたものだった。こうして初めて『八神』となった会議が、本格的に始まろうとしていたのだった。















ここにいる八柱の神。それぞれが神々としての王としてふさわしい実力を持つ彼らには、司る様々な物やその特性が存在する。




一番多様性としてゼウスの次に優れているのは八百万神。天照・尊だろう。


彼は八百万の全ての頂点に立つ神であると同時に、太陽の神、陽光の神としてもまたこの世界で君臨している。八百万、特に日本神話などでは様々な物語とともに語られる神々の頂点に立つ神。格としてはとてもふさわしい物であることは明白となった。




次に自然神。エルール・アルフ


彼女の名には唯一王という一文字が付け加えられる。それだけ自然が様々な物に関連している事が多く、それだけ『格』があるから故の名前。名前が全てを表しているのだ。


彼女の権能。司っている物は自然。そのサイクルや食物連鎖、森や木々、挙句の果てには星々にまでその力は存在し根を張っている。自然が生物を育て上下関係を生み、全ての物は流動的に動き続け進化と発展をもたらす。その根底にあるものが自然なのだとしたら、それだけ力の強い存在となるのは明白。故に彼女には王の一文字が付け加えられるのだ。




次に気になるのは恋愛神エウルス・マギクス。


恋愛と神々の関係は浅いように見えて実は深い。恋愛、特に人の心に関する事は人では覗くことはできない。だからこそ人々は神という存在に頼むのだ。そして人々の感情や恋愛という激しい思いを操り司る彼女もまた、格の力としてふさわしい存在であるという事。それは分かっていただけただろうか。




こうした力を持つ者が一同に介す。それが『八審神議会』なのだ。今行われている物がどれだけ深く、そして大きい事か、これでわかってくれたのやもしれない――――。















「では、議題は皆に通達していると思うが、最近『神界忌録』に違反している者が多い。それをどう取り締まっていくか。この件について我々八神で対処したいと考えている。そのために今日。皆に集まってもらった」




常にこの会議を指揮し先導に立つのは父王神オーディンだ。これは通例通りともいうべきことなので皆は気にしていない。




更にいればオーディンは唯一常駐的に神界の平和や問題解消に力を使う神だといえる。戦神・星神・自然神などはこの『神界郷里』など興味はない。だからこそオーディンの使いなどが現代の所謂『警察』役を買って出てくれているのは言うまでもない。だからこそオーディンに会話の指揮権が流れるのも当然とも言えるし、それに納得もしているのだ。




「決まっているだろ?全員処理して殺すかそのまま牢獄送りだ。なんなら兵を出してやろうか?俺の兵は強いぞ?」


「分かっている。究極はそれだ。だが神々を殺す。無力化するというのがどれだけ大変か、下級の神々ですら消滅には多大な時間と労力を必要とするのだ。そんなことをしている間にまた第二第三の違反者が出る恐れがある」


「……でも、やらないと…どうにもならない」


「だよねー!私もそう思う―!」


「私は別にどうでもいいぞー?強者は食われる!これは自然の摂理だからな!ハッハッハ!」


「はぁ……どうしてこやつらは…」




そう神は気まぐれとはよく言ったもの。まだ真面目に考えている様に見える戦神・星神はまだしも、恋愛神は適当、自然王神に至っては弱肉強食を訴えている始末。神々は纏まりがない。これはどの世界でも共通なのだ。




「全く、いつも通り過ぎて呆れるねぇ…」


「じゃあ意見は出ているのか?メリッサ?」


「いや、全く出ていない。まあ捕まえるのであれば私の牢獄を何個か提供してやってもいいと思っているぐらいだねぇ」


「それは普通にありがたい。最近は下級神が我々の階級・その権限を羨んでの暴動や迷惑行為を行っているという報告も見られる。格差に嫉妬したり憎んだりしている者がおるとの報告を受けている。牢獄が足りなくなる可能性は考慮に入れていた。今その言葉を聞けて正直感謝している」


「―――やっぱりやめようかね?」


「これ以上私に苦労を掛けないでくれ。そう言いたくなるなぁ…時空神」


「はいはい分かったよ。約束は守る。牢獄を準備しておくからお主の使いを後で寄越せ」


「―――了解した」




こうしてメリッサとオーディンの会話がひと段落着くと、また再び会話は先ほどの話題に戻る。




「んで?どうするよ父王の。『神界忌録』は“あの事件”の際に俺たちで創り上げた神界のルールだ。それを守らない奴がいると来た。さて、どうする?」


「……元々神々にルールは無かった。あって破るならなくても構わない」


「そうは言うけどねぇノルフィカ。なかったら今度は下界の奴らが下級神の餌になっちまう。それは神々の混乱を避けるためにもあってはならないと思うけどねぇ」


「……私はしない」


「それはお前だからだよ。ノルフィカ」


「ねーねー!じゃあルールを変えるとかはどー?」


「ルールを変えるか……悪くないが、どうやって」


「知らないー♪」


「はぁ……使えん奴がいる…」


「おい!それ私の事じゃねえだろうなぁ!」


「ここにもいた…」


「ハハハ、まあまあオーディン殿。よいではありませんか、元気があるというのはいい事です。ちなみに言うのであれば私はルールを変えるのには反対です。どちらかといえば戦神の意見側ですね」


「おお分かったてんじゃねえか尊の!やっぱそうだよなぁ?」


「というか現状それしか無いような気がする。というのが答えです。他に何かありますか?」


「うむ……確かに…」


「そうだねぇ…おいオーディン。今その違反者がどのような禁忌を犯しているかどうかは調べがついているのかい?」


「ああ、ちょっと待ってくれ、今資料を送る」




こうしてオーディンの手元に資料が転送された。




「ああ、今起こっている問題は4件程度か。だがその内三つが地球の星からの転移・召喚などに値しているな…一つ目は成人の男が転移。二つ目は生まれて間もない赤子がその魂だけを転生。そして三つ目は死後偶然魂が異世界にたどり着きそのまま着床。と、三つ目のそれは人為的か同化は不明だが始め二つは明らかに神界忌録の重大違反に当たる。早急に対処が必要なのは明白だ。ちなみにこれは重大事件だけであって、軽い事件はもっと起きているという事を忘れないでほしい」


「……で?四つ目はどうなんだい?」


「なんだメリッサ。随分と知りたがるな……まあいい。四つ目の事件は…ん?分からない?詳細不明?どういうことだ…これは、何も詳細が分かっていない。ただただ人為的転移が発生した証拠のみが並んでおり、調査は不可能と判断…なんだこれは、神々の力を持ってしても、調査できない項目があるとは…」


「――――!!!」


「…!!!。ふうん、なるほどね」




オーディンの驚きとは別に、ゼウス・メリッサもまた驚きに満ちていた。




(秋の事件なのはおそらく辺りが付く、だが情報が何もない?まさか、ありえん。そんな巧妙に隠すことが出来るとなると相当な力の持ち主……これは少しきな臭い事になりそうじゃ…)


(面白い…のかもしれないが、単純に少し関わった人間がその不幸を浴びるかもしれないとなると少しばかり気に食わないねぇ…)




二人もまた、事件の正体が何もわからない。何もわからなくさせているという事に少しばかりきな臭い、何か裏で動いているような暗い印象を覚えた。




「今すぐ調べさせろ!最大限の力を使ってもだ!わかっているのか!これは人為的に行われた事件のデータだ!それを調査不可能にさせている何かがあるという事だ!急げ!時間は無いぞ!」




オーディンもまた同じことを考えていたようで、すぐに部下に連絡を取り再調査を命じた。それだけ重大な案件であることをここの神々たちも分かっているのだ。




「はぁ…どうするよ父王の。これはもう強硬策しかないように思えてきたのだが」


「奇遇だな戦神。私もだ」


「正直言って、調査する前にけりをつけて何もかも終わりにしたいと思っちまうよねぇ…でも、それだけじゃ終わらない気がするよあたしゃ…」




こうしてまた会議は加速していった。八審神議会の神々は、そのテーブルに座ったままだった。



















どの神々も案を出し合った。自然神も恋愛神であっても、ある程度真面目に案を出し合い議論はより加速していった。だがやはり気まぐれな神々。真面目な会議というものにどうしても飽きが来てしまうという事もまた起こるようだった。






「だぁーーーっ!!決まらねぇ………」


「しょうがないじゃろう自然神。神々がどれだけ厄介な存在かはもう腐るほど知っておる。それを封じる。閉じ込める何てことが余計に難しいかどうかなんてな」


「でもよぉ…でもよぉ…」


「私も正直飽きた。帰りたい」


「ハハハ、それは無理という物ですよノル、貴方はまだこの役について短いからあれかもしれませんが、まだまだこんなものでは済まない会議もありましたのでね。慣れるしかありませんよ」


「……怠くなってきた」


こうして、飽きと頭の使いすぎで話を逸らしたかった自然神が気まぐれに言った一言が、この先の展望を常闇へと沈めていく。


「ホントだぜ!全くよぉ…あー!そうだゼウス!お前なんか神界の間で噂になってるじゃねえかぁ!最近面白いことしてるって!ちょっと教えろよーなーなー」




こうして、自然神が今まで黙っていたゼウスにその話を振った。




「………ん?会議の議題は纏まったのかの?んで、どのような結果になったんじゃ」


「はぁ。全能神の。お前寝てたのかい」


「ああ戦神、今まで儂とメリッサを抜いた六柱で決めてきたのじゃから、今日来たばかりの儂が口を出すまでもないと思うての……で?決まったのかの?八審神議会としてどうやって行動を決めるつもりじゃ?」


「………まだ決まってない」


「そうか、んじゃあ儂はまたしばらく寝る。最近疲れがたまっておってのー」


「そうじゃねえよ爺さん!私の話を聞けー!」


「嫌じゃ自然神。面倒じゃからな———」


「面倒でも聞けって!なぁなぁ。あんた最近面白いことしてるって噂になってるじゃねえか!何してるんだ?なぁ。正直に答えろー。さもないと怪我するぞー!?」


どこから漏れたのかわからないゼウスの面白話。神は気まぐれで好奇心の塊。それにさも有名なゼウスの逸話や神話は神界の中でもトップクラスの話のタネ。いわゆる都市伝説のような扱いを受けていることをゼウス自身は知らない。


だが、間違いなく突いてほしくはないだろう。ゼウスにとってそれが今一番癇に障る話題なのだから。


「……はあ。オーディン、早く会話を進めろ」


「いや、正直言って私も気になっている。なんの執着も見せなくなったお前が急に執着することのできる物。とても興味がある。それに会議も行き詰ってきたところだ。せっかく気晴らしになるなら話してほしいのだが」


神は気まぐれ。これはオーディンにも同じことが言える。神というのは”そういう生き物”なのだ。だが誰にも触れてほしくない部分はある。ゼウスにとって今それは、触れてほしくない部分だったのだ。タイミングが悪いとしか言えない。これは神も人も同じなのだろう。


「だろー!だろー!?分かってるなーオーディンは!さあ、早く吐けー、吐いちまえー?」


「吐いちまえー♪」




自然神。それに恋愛神までもが調子に乗ってくる。




「正直…気になる…」


「私も気になるところではありませんが…無理にとは言いませんよ?」


「まあ正直。気にはなるしなぁ…」






こうして賛成に回ったのは星神と八百万神。それに戦神これもまた神の習性というべきか。






「…………ゼウス。怒るなよ」






こうして無言を貫いているのは、ただ一人事情を知っているメリッサのみ。この後どうなるかを予知できるのもまたメリッサのみなのか。






「どうしても言えと?儂はもうお前らに言う事なぞない。早く会議を進めろ」


「えー!?いいじゃねえか!別に減るもんじゃねえんだし?ほら、ここにはお前の話を聞きたい神々が集まっておるぞーほれほれ」






自然神が煽る。ゼウスもまた目を瞑りながら腕を組み。そして微動だにせず自然神の話を咀嚼する。






「お前らに話すことなどない。さあ早く会議を進めろ」


「ええーいいじゃねえか!?なーなー教えてくれよーほれ」






自然神と全能神の歪な会話は続く。そしてこの場には不穏な空気が漂った。オーディンはこの会話の空気を何よりも察していた。






「なーなー、頼むよー。私達も暇なんだよー」


「オーディン。会話を進めろ」


「あ、ああ。分かった」


「おいおい!逃げるのかー!?」


「おい、自然神。そろそろやめろ。おふざけで済ますにはしつこすぎるだろう!」


「えーえー!いいじゃねえかよ!?」


オーディンもまた察知した。ゼウスにとって触れてほしくない部分であることが、何よりもその苦虫を噛み潰したような顔から想像がついたのだ。尊に関しては我関せず。これは尊にとっての処世術ととっても構わない。つまり今は処世術を使う場面だったという事だ。それが察知できる父王神・八百万神は知っているのだ。”神としてのゼウス”を。


そしてゼウスは腕を組み、苦い顔をしながら自然神の戯言を聞き流そうとした……震える体。体が拒否しても怒りという感情から湧く魔力は、自分の意思で支配できなくなる。そして————








「もう黙れ。童」








突如。ゼウスの覇気。その存在の格が会議室を流れた。自然神はその格を真っ先に浴びせられ、少しの間硬直してしまった。声も出せない程に。






「言いたくないと言っている。なのに言う事も聞けない奴がおる。儂はここに会議をしに来た。そのためにわざわざこの因縁の場所にやってきた。なのになんじゃ?聞きたいのは儂の昔話か。わざわざお主らが自分らの名前を使ってまで集めておいて有益な会議は何一つ進んでおらず、更には名前を出しておるのに会議に参加しようともしない糞餓鬼すらおる。これが会議というなら儂は帰るぞ。分かったなら会議を進めてはくれんか?のぉ。自然の童」


「……ああ、悪かったよ」






こうして会議にまた静寂が帰ってきた。こうしてオーディンの指揮の元また会議が参加される。―――と、思われたその時。待ったをかけた一人がいた。






「おい、全能の。アンタ今のなだめ方はどうかと思うぞ」


「ん……大人げない」






待ったをかけたのは星神・戦神の両名。






「儂はあれだけ耐えたと思うが?それでもやめないのは明らかにあの自然の奴の過失じゃろう。何を今更、それにお主らがしゃしゃり出る問題ではない。引っ込んでおれ、これは儂と自然神の間で起こったもので、儂は被害者。その立ち位置を勘違いしてはいかんぞ?」


「ああ、そうだな。だがアンタはその八神の会議を幾度となく参加拒否を繰り返してきた。それなのに今更現れていい顔されちゃ困る。それならまだ自然神の味方をした方がマシってもんだ。それに今の終わり方は俺もスッキリとした終わり方じゃなかったんだが」


「………全面同意」


「だからなんじゃ?お主らの意見なんぞ求めてはおらん。儂からしたら勝手に人の土俵に上がりこんで自分らの意見をぶつけているお主らこそ恥じるべきだと言うておるんじゃよ。若いの」






そして沈黙が襲う。先ほどよりも重くずっしりとした重量感のある雰囲気が、この会議場全てを襲った。






そして刹那。その刹那の間に漏れた神の気。闘争を誘う戦神の神の気が、スッと周りを囲んだ。






「……挑戦かの?儂への」


「いやいや、そんなつもりはない。だが感情が高ぶってしまうのは仕方がないことだろう?全能よ」


「ここは会議の場じゃ。おとなしくせい…といっても聞かんか」


「当たり前じゃねえか爺さん。先に実力行使に出たのはアンタだ」


「もう、やめなよー!?ここは喧嘩する場所じゃないってー!」






恋愛神が二人を止めようとするも、どんどんと混乱は広がっていく。






「この星の気は…ああ、星神か」


「……実力行使。望むところ」


「………ほう?」






「おい!待て!やめろ!全能神の力にお前らじゃ万に一つも勝ち目なんてない!」






オーディンが決起迫る顔で止めにかかる。オーディンは古株故に知っているのだ。ゼウスのその力を。何もかもを飲み込む【全能】の恐ろしさを。






「おいおいおい。父王神の旦那。いくら全能と言えども俺と星神。後は自然のがいればいい勝負にはなるだろ。それはビビりすぎという物だぜ?」






もう臨界点はとっくに超えている。神の気がこの会議室に複数充満し、そして全てを包む。とっくに臨界点は突破している。後は薄皮一枚剥がれた瞬間に爆発する爆弾だ。






「おい!お前たち!やめろ!さもないとお前たちが死ぬぞ!」






オーディンの抵抗空しく、自然神ですらその気を放っている始末。






「これは……不味いかもしれませんね…」


「ああ、間違いないよ天照。これは大変不味い事態だ」




メリッサ、天照の両名は自身を守るべく神の気を放出。そして自身を守るべくフィールドを展開している。




「おい、全能の。今ならまだ謝れるぞ?」


「儂が何か悪い事をしたか?」


「ああしたね。この会議の規律を乱した。この会議は神々のこれからを決めるもの。それにだ—————それを今までたかが死んだ者のトラウマ如きで来ないとほざき散らし、いざ来たと思ったら自然神に向かっての失礼。許せん!」


戦神は気が高ぶったのか、それとも『八神評議会』という席を貰っておきながらその義務を果たさないゼウスに対する怒りか。それが災いとなっていらぬことまで言ってしまった。それが最後の引きトリガーとなってしまった。


















――――――今。なんと言った?


















「オイ!戦神!今すぐ謝れ!その気を解除して謝れ!」


「早く!時間がない!」


「ハハハ……これは、終わったやもしれませんね」




オーディン。メリッサ。天照。この三柱が、戦神の“ある一言”に反応した。それはそうだろう。“あの”全能神を本気で怒らせる引きトリガーを。彼は意気揚々と引いてしまったのだから。








そう。『死んだ者のトラウマ』それが誰を指しているのか。ここにいた三柱は即座に理解できたのだ。
















――――――『お主。今、なんと言った?』
















その瞬間。————虚無が訪れた。




音・時間・大気・感覚。全てが無に消えていく。そしてそれは唐突に起こった。全てを消した虚無が、全てを吐き出すとき。それは大きな力の塊となって周囲を襲い空間を喰らい時間を飛ばす。そして生物は皆恐怖する。当然だろう。現実で考えもつかない超常が、たった一つの言霊で起こりえるのだから。






人はそれを不条理というのかもしれない。理不尽というのかもしれない。たった一つの言葉が、怒らせてはいけない生物の一柱を怒らせてしまった。それは例え神々で合っても例外ではないのだろう。






そして今。その事象が牙を向こうとしていたことに気付くのは、それを受けてもなお感覚が機能している八神のみだった。




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