第28話
「ふああ……おはよう」
秋はそんな何気ない言葉で目覚めた。時刻は午前7時。もちろん平日なので両親やその他は学校があると思っている。だからいつも通りに学校に行く準備を始める。
「秋?忘れものはない?歯は磨いた?」
「うん。じゃあ行ってくるよ」
秋は迷わずドアを開けて外に出る。そしていつもの様にゼウスのいる神界に転移した―――。
◇
「おお!来たか、秋よ」
「おお爺さん。…………ん?え?は!…なんかいつもの白い部屋にもう一人ヒトらしき姿が見えたんだが…気のせいか?」
「気のせいじゃないぞ?」
そういって秋の隣にポッと現れたのは紫のローブに身を包み、顔は完全に年を取っているおばあちゃんというイメージ。ただし紫のローブの所為で怪しさが前回だったのだが。
「あ、ああ……」
「ハッハッハ!!何を驚いておる。一応ゼウスにも交友関係はあるぞ?私はその内の一人。いや一柱といった方がいいか。よろしくお願いするぞ。仲岡秋よ」
「あ、ああ……やっぱり、神様だったのか…神様というのは、そんなにいるのか?」
「ああ、生まれた世界の数以上にはいるぞ。神は世界を管理する事が仕事で、世界を管理しなくなる時は概念を司る生き物になるか格の力がなくなって死ぬときじゃからな」
「ほうほう…んで、こんな所に来るぐらいだ。あんたも暇なんだろ?何の用だよ。ゼウスに用が無かったら俺しかいないと思うんだが」
「ハッハ!いやー何。ゼウスの暇つぶしの相手は誰かを確認したかっただけじゃよ」
「爺さん……この神様の詳しい説明をお願いしてもいいか?」
「ああ、構わんよ。こ奴は時と空間を司る神メリッサという。神界が生まれた時からこ奴は生きているとも言われておってな、その時間は誰にも分からない。時間と空間をどこにでも行き来できる権能を持ち、儂と同じ神を裁く七神の一人じゃよ」
「ハッハ!!本当に生きていると色々とあるもんでねぇ、まあそう何年も生きているから暇にもなる訳よ。今日はその暇つぶしの一環としてきたんじゃ。以後よろしくの?少年」
「………ああ、よろしく頼むよ。時空神」
「メリッサでいいわい。それで?秋。お主は異世界に行くんじゃろ?なんだか面白そうな事をしておるの。一枚噛ませてみいホレ」
「ま、今回はそのために呼んだというのもあるからのぉ……メリッサや、こ奴を明日。異世界イーシュテリアまで送ってやってくれ。頼むぞ?」
「あんた、本当に私をこき使うねぇ…まあいいよ。それぐらいなら力の一万分の一にも使わない。私にとっては歩くぐらいの力だからね。さすがに未来と過去の事象を自分の思うままに改変させろなどというてくる大馬鹿者もおる。それに比べたらお茶の子って奴だよ」
「ああ、助かるのぉメリッサ」
「まま、ええわい。これはお主とゼウスの契約じゃから神界忌録にも触れない。神と人ではなく神と神と約束の対象に人が入っているだけじゃからな。よく考えられておる。さすがは私の弟子じゃった男」
「よせよせ。その話を秋にするな」
「本当に秋の事になると甘いの。お前は、所で少年よ」
「ああ、なんだ?」
「異世界に行くと言っておるが、その準備は?」
「それは今からしようと思っている」
「はて、今から?どうやって」
「俺のスキルを使って。だが」
「スキル?何?そんな便利なスキルが存在するのかの?」
「スキルの創造を出来るスキルで全て解決してしまおうと思っているんだが。主に衣服」
「ん?なんじゃ?なんじゃそのスキルは?私が生きてきた中でもスキル創造系のスキル持ちと出会うのは何千年ぶりじゃろうなぁ?」
「まあ待て落ち着けメリッサや、儂が説明しておいてやるから、秋は作ると良い」
「ああ、分かった…………創造」
そう言い残すと秋の意識は消え去り、そしてゼウスとメリッサのみとなった。秋は体を預けて精神の世界ヘと旅立ったのだ。
◇
秋がやったこと。それは『魔剣創造』の圧倒的な強化。スキル『大賢者』による要素の算出はもう終わっている。後はただ念じて実行するだけなのだ。
『魔剣創造』に要素:防御術・槌・薙刀・両手剣などの構成要素に武具術・防具術などの要素を組み込み完成したのがこれだ。
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真魔武具創造
武器だけじゃ自分を守れないと悟った男が、その執念で昇華させたスキル。仲岡秋専用スキル。
真・魔武器創造
魔剣・魔銃・魔槍といった様々な武器を創造できる能力。その能力は思念で創造され、魔力によって権限する。強い武器を作ろうと思う程魔力消費は増大していく。
真・魔防具創造
防具の更に上を往く防具を創造する事が出来る能力。その能力は思念で創造され、魔力によって形作る。強い防具を作ろうと思うほど魔力消費は増大していく。
真魔武具異界保存術
一度創造した武器・防具を異界に保存する事が出来る。魔力消費は存在しない。
魔剣支配
創造した魔剣を完全に支配する事が出来る。常時発動
滅刀流第十三の型・阿修羅弁慶
魔武具9個分を消費して発動する。魔武器を9つまで操ることが出来る。
滅刀流奥義・千手滅観音(使用可能)
魔武器を無制限に創造・支配することが可能となる。魔力消費は時間ごとに経過していく。意志発動
創滅流奥義・現界する天多の顕現意志<ファラル・グリート>
※現在このスキル能力は使用不可
自分の持つ全ての魔武具に意志が宿り、スキル使用者の望みのままにその力を振るう。その数は無限となる。意志は魔剣の持つ魔力が及ぶまで現界する。
要素真化
スキルが要素を自動で選別し、その要素を喰らい自らで進化を行う。
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これで秋のメイン・ウェポンとも呼べるスキルが進化し、数多の武器と防具を創造し扱えるようになったのだ
そして秋は自分の力はさらに増えたことに落ち着いた息をつきながら、元の世界ヘと戻った————
◇
そして神界に戻った秋は早速メリッサの注目の的となっていた。
「おお!意識が戻ったね!さてさて一体少年は何をしたんじゃ!?」
「あ、ああ…スキルを強化したんだ。それだけだ」
「おお!スキルを強化なんて天多いる神々の中でも出来る者なぞ限られておる!根本的に我々と世界とではその本質と力が反発しておるからの!それでそれで……ハッハ!これは凄い!なんと凄い!ゼウスが目にかけるのも分かる凄さじゃな!ハッハッハ!」
ん?今何が起こったんだ?という思いと、何言ってんだこの婆。という心のこもった目線を向けられたゼウスは、ため息をつきながら説明を始めた。
「婆さんの眼。それは時空神のみが持ちうると言われている『時空審眼』と呼ばれるスキルの一つで、魔眼じゃ。効果は対象の過去や未来までをも見通せるという物。それも客観・主観などの視点変更もできる万能の観察眼じゃよ」
「ハッハッハ!!どうだい。すごいだろ?じゃが…お主の魔眼にも儂と同じく時の因子が混じっておる!こりゃ傑作じゃ!確かに化け物じゃな。この子は、世界に愛されて…いや、世界とほぼ同一の物で構成されておるようじゃな!ハッハッハッハ!!」
「……この婆はこうなると止まらん。しばらく置いておけ。それより秋よ。スキルの方は完成したのか?」
「ああ、前回は魔剣のみだったが、今回は武器種全てと、あと防具に対応できるようにグレードアップさせた。これで衣の方は大丈夫だ。何かあったら着やすい防具を着て眠ればいいだけだからな」
「確かお主は、前回のスキルでも銃を創造しておったではないか。あれは何故じゃ?」
「ああ、創りたい。という思念でやったら、どうにかなった」
「ふむ……スキルの力は魂に写され、意志の力で発動する。意志の力が大きい程、スキルもその力を発揮する…のかもしれんのぉ…儂ら神々はスキルや世界の事になると急に情報量が少なくなる。これもまた神族の特性かのぉ…所でお主。なんなら一つ作ってみてはくれんか?オーダーはそうじゃなぁ…防具。で作ってみようか。ああもちろんお主の物でな」
「了解した、じゃあやってみるぞ…」
秋はスキルの発動を願いながら、確かに防具の効果を思い浮かべる。そして魔力が体から吸われていく感覚を覚えながら、ゆっくりと秋の目の前には浮く防具の姿が見て取れた。
「おお!スキルを使っておるのか!ええのええの!汎用性が高いどころか万能ともいうべきスキル!中々にレアな光景といえよう…!」
先ほどまで考察と思考を繰り返していたメリッサもスキル発動となるとまたしても食いついてその場で思考の渦に潜り始める。もう放っておこうと誓った秋の顔もそのままに、スキルは防具を創造していく。
こうしてできた防具。黒のコートの様で、素材は皮の様。だが光沢がなくシンプルなデザインに、丈は長めの物、白のラインが一本入っているそのコート。名前を『黒翼のコート』といい、魔術による耐性や防御・刺突・斬撃に対する耐性。魔力により鉄よりも固く仕上がっており、燃えない。それでいて形状変化といい自分の体に合わせて形状を変化してくれるオリジナル付きという中々に上出来な一品だ。
「おお…」
「中々に似合っておるぞ。少年。少し大人っぽく見えるかの?」
ゼウスとメリッサ共に『黒翼のコート』を羽織る秋に感想を寄せる。そのコートはまるで、異世界に行くための切符の様な気がしたのは、秋の異世界に対する深い思いのせいかもしれない。
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