第15話

「秋~!ご飯よ!」


その母親の言葉で意識を覚醒させた秋は、朝飯を食べて学校に行く準備をして―――そして家を出たのちに一目のいない路地につき、そのままスキルを行使した。時刻は丁度学校に行く午前8時前だった。







「―――来たぞ~。爺さん」

「おお、おはよう秋。昨日はよく眠れたかの?」

「ああ、おかげさまでな」

「んで秋よ。今日は何をするのか、決まっておるのかの?」

「ああ、スキルの強化をしようと思ってな―――なあ爺さん。あんたもう俺の『ランダムスキル創造』の詳細。知ってんだろ?教えてくれ爺さん。前回創造したスキル。どう分解すればいい?」

「―――先に結論から言うならば、『全て分解した方がよい』といえる。理由は簡単。スキルには効果による相性というものが存在する。例えば効果が重複する物・しないもの。そのスキルの効果と重ねられないものなど、スキルというのは独立したものである事がほとんどなのじゃ。まあスキルという物は我々神々にもその全貌を掴めていない未知なる力。故に理解できていない所もあるのじゃが―――一々今ある物の効果を覚えたところでどうしようもないわい。なら自分好みに新しく作った方が良い。という事じゃ」

「ほう。ありがとう爺さん。おかげ様で方針が決まった」

「おお、随分信頼されたようじゃの?儂も」

「―――俺が死にそうになった時、あれだけ必死になって声をかけてくれた爺さんだ。あの時に俺を害する事は出来たし、他にもチャンスはあっただろう。だがそれでもそれをしなかったってことは、そういう事なんだろうなと思った―――ただし、前科があるから完全に信用はしないけどな」

「…………ホッホッホ、随分と手厳しいわい。じゃが、人に褒められるというのは嬉しいもんじゃ。秋よ」

「あっそうかい。じゃあ始めるぞ」


秋はあっさりとスキルの分解を決意する。もちろんゼウスに説得されたのもあるが、自分自身でもそれが良い方向だという予感はしていたのだ。なんせランダムな効果を一つずつ覚えて、それぞれを生かすような使い方をするのにどれぐらいの時間がかかるか分かったもんじゃない。なら新しい使いやすいスキルを創造した方が時間も労力もかからない。何ならスキルの効果自体をさらに強くできるのではないか。というデメリットは微かにあれどメリットの方が大きすぎるのだ。


「まあ、一応こちらで止めておいた方がいいスキルは言うておこうかのぉ…まず、『スキルランダム創造』『運命と次元からの飛翔』は駄目じゃ。理由は言わずもがな。あとは『魔力支配術』と、そうじゃの―――『統合』。これは“条件スキル”に該当しとる。持っておいて損のないスキルで、今分解せずともよい。むしろ分解しない方が自分のためになるじゃろう」

「ん?何故?」

「これはスキルの特性の一つなのじゃが、“条件付きスキル”というものは、言ってみれば“条件を満たすことが出来れば誰でも入手できるスキル”を指す。要するに個人の資質や能力を必要としないスキル故に、能力で強力かつ、その分条件も厳しいものになっておる。その条件までは分からないものの効果はお主が覗いてみるとよかろうて」


ゼウスがそう言い終わったのを最後に秋は念じてスキル欄を見てみる。



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統合

スキルを一定以上手に入れた者に与えられるスキル


ある一定数の効果の持つスキルを掛け合わせて全く違うスキルに変換するスキル。

掛け合わされたスキルは消滅する。


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「ああなるほど。これは確かに便利だ」

「じゃろう。特にお主にとってはな。ある程度勝手にスキルが判断して自動的にスキルを掛け合わせてくれる。ちなみに先ほど言うた『魔力支配術』も、調べてみたら統合によって統合されたスキルじゃったぞ。確か『魔力感知』『魔力操作』『魔力探知』が統合の素材じゃったか…?」

「――――!!!」

「まあ、そういう事じゃから儂は反対じゃぞ?今言うたスキルの分解は」

「了解した爺さん。だがな―――」

「うん?なんじゃ?」

「お前だけ俺のステータス一方的に見れるのはズリィだろ!!俺にも見せろ!爺さんのステータス!!」

「―――ホッホ。神の特権という物じゃ」

「誘拐犯という称号にプラスして覗き魔という称号を授けてや――」

「ああ!!分かった!わかったから落ち着け秋!神様たる儂が人間が犯す犯罪のそれを称号としてもらわねばならんのじゃ。全く――」

「じゃあ、見せてくれるのか?」

「ああ、ただしスキルだけじゃ。これ以上を見たいというなら―――作って見せよ。神のステータスすら見れるスキルを」

「………!!言ってくれるじゃねえか…爺さん」

「ホッホ。こうでもせんと面白くないからのぉ」

「まあいい。じゃあ見せてくれ、そのスキルを」

「いいぞ。ほれ」


こうしてゼウスが人差し指を縦にして近づけ、顔の前に置き目を瞑ると、秋の前に丁度スキル欄が出てきた。



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スキル

全能神の唯我

輪廻世界目録アカシック・レコード

全能神技能スキルヴァート

神雷雲ウラウノス

唯我独尊スパニッシュ・オブ・ゴッズ


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輪廻世界目録アカシック・レコード

過去・未来・現在のどの次元に置いてもどの世界線においても、必ず存在すると言われる。この世全てを知る物との接続を図るスキル。

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全能神技能スキルヴァート

全能神のみが持ちうるあらゆるスキルを内包する器。その器の中には生物や他者が持ちうるスキルの全てが内包されている。

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神雷雲ウラウノス

他者を断罪する神雷を発生させることのできる雲。乗ることもできる

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唯我独尊スパニッシュ・オブ・ゴッズ

????????????

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「おい、何で一つだけ隠されているんだ。ああ?」

「乙女の秘密って事じゃよ」

「あんた爺だろ!!おい糞爺!!」

「ホッホ。見たいなら作ればよいじゃろ。作れば」

「………はあ…。やっぱあんた馬鹿みたいに強いな。スキル全部使えるとか、全ての情報引き出せるとか、誰でもあんたに勝てる訳ないと思うんだが」

「―――戦い方を知っていても、全能を持っても止められない者もおる。それが神。特に前も話した七柱の神。儂もあれらとはいい所五分五分じゃろう。もちろん戦い方も知っておる。じゃが止められない。そういった“理不尽”の権化。それは我らなのじゃ。分かれ秋よ。それが神なのじゃ」

「…そうか、やっぱあんたらは強いんだな」

「ああ、理不尽な程にな。そしてお主は儂と似ておる」

「え?あんたと?」

「ああ、能力的にはお主もまた全能。何かに特化しておるわけじゃない。故にスキルは儂を目指すと良いじゃろう。儂の様に一個のスキルでほとんどの事を成し、それでいて威力も申し分ない。そんなスキルじゃ。秋ならそうじゃの…魔術・武術・耐性といったスキルを一つ。万能の形として創造するのが良いじゃろうて」

「ああ―――ありがとう。俺のスキル。その方向性はもう決まった」

「そうか…じゃあ儂はそのスキルの完成を、あそこで茶でも飲みながら待っておるよ」

「ああそうか。じゃあしっかり見とけ」


秋はそう言い放つと、ゆっくりと眼を閉じて念じる。まずは分解。構成要素を入手する工程だ。


【スキル数合計36個が分解の対象に選ばれました。本当に分解を実行しますか?】


(ああ、もちろん。答えは「はい」だ)


秋は心の中でしっかりと覚悟を決めて「はい」を選択する。



【合計スキル36個が分解されました。

構成要素:魔術×3・攻撃×7・耐性×7・増加×3・魔力×2消費×2減少×2・威力・筋力・ステータス・成長×2・超・微・剣術・衝撃・闇魔術・拳闘術・光魔術・獣・魔物・支配属性・弱小×2・魔獣・召喚・支配術・槍術・俊足・雷魔術・打撃・身体能力・上昇・魔剣×2・極×2・鑑定×2・眼・魔眼・気配・探知・竜×2・翼・魔族・魔武具・魔導・限界・突破・精霊・術式—————



「うおおお………」


秋は自分の努力が今完全に素材になったのを実感した。やはり秋の予想通り、効果が直に名前として表れている分名前から推測できる要素を多かったのだが、それでもこれだけの素材があれば、一体どれだけ作れるのかと期待と不安でいっぱいだった。


(さて次は―――創造)


秋は次が本番だと気を引き締めた。そう。次が本番なのだ。スキルというまだ使える物から、要素などと使えない物に変換した際にもう賽は投げられたのだ。この創造で価値あるものをないものにするのか、それとも価値を引き延ばせるのか。


(さて…やろうか…………創造っ!!!)


「創造」―――そう念じた瞬間。秋の精神は何かに引きずり込まれた。







「ここは……どこだ……ううっ…」


秋がいる空間。そこには先ほどの神界の白い世界ではなく、黒い。だが色が滲み出ている。例えるならそう。夜空。きれいな色をした夜空の世界だ。


秋は今その夜空の世界を浮いたままでいる。地面などないのだ。体は動かせる。移動できるかどうかは分からないが、それでも体を自由に動かすことはできる。


そして夜空の世界にぶつぶつと光が見える。微かな光。それも遠くにある微かな光が、まるで夜空を照らす星々のように明るく儚く光を放つ。


「ここは……一体なんなんだ?」


秋はただただ疑問だった。だがそれはすぐに解決する事になる。


夜空を照らす満面の星々を象ったかの様な光に秋が魅せられると、下から何か。そう、例えるならシャボン玉。だが色は透明ではなく銀色や金色といったシャボン玉が、静かに浮いてきたのだ。


そしてまるで無邪気に世界を知ろうとする赤子の様に、秋は無意識的にそれに手を近づけた



――――ビリビリッ!!!



脳内を掠める。電流が秋に迸る。そのシャボン玉が何なのか。この世界が何なのかが分かったからだ。


「……このシャボン玉。これは、スキルの、可能性?」


そう、この夜空の世界はスキルの可能性を現した世界。放つ光はスキルの光。そのスキルの形を示す可能性の光。そしてこの星々を象った光もまた、スキルの可能性の世界なのだ。



そして、秋はそれを見つけたのだ。自分に合う“可能性”を。



―――ピカッ!!!―――




そのシャボン玉は黄金と白金の色をしっかりと放つ。そしてゆっくりと浮かび上がる。そのスキルの光は様々に打ちあがってきたシャボン玉の光をかき消す程の眩い光。秋は悟った。「これが自分が求めるスキルなのだ」と。本能的とも言えるし、理論に基づく確信とも言える。その両方の感覚器官がこの白黄金色の可能性を求めているのだ



秋はゆっくりとその可能性のシャボン玉を手に乗せる。そして両手で大事そうに救い上げると、胸に抱くようにそのシャボン玉を自分に近づける―――。



ピカ————!!!!



眩く光り輝く。そして脳内に声が響き渡る



【剣術・拳闘術・槍術・攻撃×6・身体能力・俊足の要素を組み合わせスキル:『完全武装術』を創造いたしました】


==========

完全武装術

全ての武器を統べる物に送られる称号ともいえるべきスキル。その能力は全スキルの中でも最高クラスに位置する。仲岡秋専用のオリジナルスキル。


・全武器補正

全ての武器の扱いに強い補正がかかる。


・真化

仲岡秋本人の成長によりこのスキルも進化を繰り返す。


・完全武装術

他人の武術をコピーしたり、自分で新しい武術を作るなどといった行為の全面的なサポート・バックアップを行う。他人の武術は一度見れば自動で自分用にアレンジを繰り返し自分だけの武術に転化させられる。

==========



「凄い……凄いぞ。これは…」



そして秋はそのスキルの能力に驚愕しながら、この夜空の世界で初めてのスキルを創造したのであった。


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