第10話

「……秋?ご飯よ?」


聞きなれた母親の言葉で朧げに目を開ける秋。そこには自分の部屋を照らし続ける光と、自分を陰にするようにして立っている母親の姿が。


「……今、何時?」

「7時を過ぎたところ、さあ。ご飯できてるわよ」


そう言い残すと母親は去っていった。秋は確かに時計を見る。すると母親の通りの時間が確かにそこには記されていた。


(俺は確か………。うっ…。……ああ、そうだ。確か魔力の操作の仕方を試してて、それで―――スキルに魔力を注いで、気絶したのか…)


そして朧げながらに思い出す。自らが魔力操作のスキルを獲得して、そのままスキルに魔力を注いで気絶したことを。


(とりあえず飯食うか)


秋は母親に呼ばれた通りにリビングへと降りる。そして秋は家族と普通の、それこそ魔力などと摩訶不思議な力を感じない普通の高校生としての日常を過ごし、眠りについた。







眩しい、とは程遠い生温かな光が秋の目に飛び込み、秋の意識は覚醒した。


(ふぁ、あああ……)


今の季節は冬なので朝は寒い。だが今日はマシだったようですんなりとベッドから体を起こすことができた。


(ああ、今日から俺学校じゃないのか)


意識が覚醒すると同時に思い出す機能の記憶。そしてその記憶を手繰りながら朝の支度をする。表向きは学校に行かなければならないのだ。


「秋?朝ごはん、出来てるわよ」


母親の声がドアの前で聞こえる。秋はすぐに返事を返すとリビングへと向かい朝ごはんを口に含む。


(………そうだ!ステータス!)


秋はハッとなって気づいた。あの時の魔力はどこに消えたのか?と、答えはステータスに書かれているはずだと思い、朝ごはんを口に含みながら念じる事でステータスボードを操作する。




==========

ステータス

中宮秋

15歳

学生


魔力:16300/12700


スキル

・運命と次元からの飛翔

・スキルランダム創造

・魔力感知

・魔力操作


==========




(ああ、やっぱり魔力が減ってる…のか)


秋は魔力欄の/12700が現在の魔力なのだろうと察した。ゲームでもよくあるように魔力というものは時間経過で回復するようだ。現に今は魔力を使い果たしたような気怠さは存在しないし、魔力というものが自分の体を巡っているのも分かる。


(んで?スキルの方は―――)


==========


スキルランダム創造


~~~~~~~~~~


魔力貯蓄量:15500

スキル創造まで魔力3万・残り14500です。


==========


(ああ、予想通りだ)


秋の予想。それはスキルがつぎ込んだ魔力を自動的に貯蓄してくれているのではないかという可能性。


(いやーよかった。一度に魔力3万を貯蓄しないといけないとかの無理スキルじゃなくて)


秋はこのスキルの魔力の指定された量を一度に入れないといけない可能性も考えてはいたが、秋の予想の中で一番秋に都合のいい予想が当たったようだ。


そして秋は朝ごはんを食べ終わると、ゼウスのいる神界に行くべく準備を進めた―――。







「―――と、言うわけだ」

「ああ、それは災難じゃったのぉ…でも新しいスキルか、これはお主が異世界に渡るにあたって力になるであろうな」


秋は早速家を出た後、まずはコンビニ。この爺にスイーツをいくつか見繕って買った後、一目のつかない裏路地に回ってスキルを使う事に成功した。


このスキル『運命と次元からの飛翔』は魔力を必要とする。それに秋のイメージが確固足れば足る程スムーズにこのスキルは発動するし、魔力があればあるほど発動はスムーズに行える。


だがイメージが確固足れば魔力消費は抑えられる。逆に言えばイメージがあやふやになると、それを補完するために魔力が用いられるのだ。


一回目はイメージも糞もないために神界の魔力までもを食い尽くしてスキルを行使した。二回目もまたイメージが鍵になるなど知らなかったために神界の魔力を食ってスキルを行使したのだ。


二回とも神界で結果的には良かったのだ。これが地球で行われていたら、様々なものが木端微塵に吹き飛ばされていただろうから。


そして秋はこの神界に何回か来ているし、そのたびに凄まじい体験をしているので確固たるイメージという点において秋はこの課題を難なくクリアしたのである。つまり魔力消費は自分の中にある魔力分で収まったという事である。


「いやぁ、それにしても飛翔を一回で成功させるとは思わなんだ。もう何回か挑戦して来るもんかと思うとったが。いやーお主は才があるようじゃ」


爺――ゼウスは、早速秋が買ってきたプリンを口に含みながら話を始めた。


「プリン食いながら話すんなよ……」

「ええではないか、ええではないか…おお!美味!」

「はぁ……。で、俺は今日からここで何をすればいいんだ?」

「ああ、儂の話し相手―――」

「あの話本当だったのかよ!!爺!!」

「まあまあ待て待て、話し相手といっても話す内容はお主の向かう異世界イーシュテリアの歴史や文明、文化といった常識的な事を教えておいてやろうと思ってなぁ…」

「は、なんだよ…そうならそうだって言えよ爺…」

「まあ、このような甘味も買ってきてくれたし、それには報いねば全能神の名が泣くわい。ほれ」


そういってゼウスが手を横一文字に切ると、なんとも未来的なディスプレイが宙に現れた。秋とゼウスの座布団から丁度均等になる位置で、お互いに挟まれるようにして出現したのだ。


「今異世界イーシュテリアは三つの国と様々な小さな国に分かれておる。勇者を召喚した王国であるヴァルガザール王国。絶対的な皇帝が絶対権力を握るガラムト帝国。そして神を絶対とした教会の国で、国民は皆信徒である国アドゥル宗教国。主な国はこの三つじゃ」

「そして小さな国の中でも多数の獣人が肩を寄せ合い暮らす森の中にある国…というか集落じゃな、名前をアルファール。そして日本にも存在する刀を使いあらゆる敵を打ち倒す事のできる傭兵たちが多く住まう武力国家。これはイメージが付きやすいんじゃないかの?名前を武蔵野国。といっても領土は都市一個分じゃが、そこにいる住人は大軍に匹敵するとして恐れられておる。“武蔵野国には手を出すな”とも言われておるらしいな」

「おお……爺さん。どうしてそこまで?」

「言っておろう。儂は仮にも全能。他の神の世界を覗くなど造作もないのじゃ。ホッホ」

「ああ…今、勇者が何をしているかはわかるか?」

「うむ。今勇者たちはヴァルガザール王国の命で自らのレベル上げをしておるな、迷宮で?」

「レベル上げ、迷宮……俺の認識であっているのか?」

「合っておるぞ。あの異世界には昔勇者がその叡智と創造スキルを使い創り上げた“自らの能力を数字に表す装置”が世界に浸透しとる。お主の所でいう“ステータス”の認識で合っておる。迷宮とは文字通りモンスターや財宝が出てくる異界の地。そこでは簡単に命を散らすことも一攫千金を夢見る事もできる。階層までは分からんが…まあ迷宮は生きるともいう。階層はどんどんと大きく深くなっていくじゃろう」

「ほお………」

「ちなみに今は敵を殺せるかどうかを選別しているみたいじゃな。おそらく王国側は使えない勇者は切っていくつもりかもしれんぞ?これは早くいかねばな」

「ああ、そのためにも情報は必須だ。金は?」

「ああ、単価的には日本と変わらん。大体一円=向こうの世界の一円の計算で間違いはない。向こうの硬貨の名前はジルだったか。じゃがまあジルで数えてる奴なぞたかが知れてる。わざわざお金を『日本円』って言い直して使っているようなものじゃしな。それに金貨銀貨銅貨、あとは白金貨や黒金貨などという硬貨も確かに存在するようじゃな。民衆にはこっちの方が知れてるみたいじゃ」


硬貨としては


銅貨一枚=100円

銀貨一枚=1000円

金貨一枚=一万円

白金貨一枚=百万円

黒金貨一枚=一億円


となる。


「ほお……まあ、それだけ知ることが出来ればいいか、あとは自分でどうにかする。今モンスターとか、そういう物を聞いてもしょうがない…だが一つだけ教えてくれ。勇者って事はやっぱりいるんだよな?―――魔王」

「おお、確かに存在する。魔族とは魔力との適正が高く人型に比べると異形のものとして見られる。じゃがあの異世界で魔力の存在は崇高な力の源泉。それが高いだけでも人間としては脅威になりえる。そして魔族は力が全てで軍隊ではなく個人として動くことが多い。つまり魔王とはそんな気の難しい魔族をその力全てで押さえつけて支配し、軍隊として動ける者の事を指す。脅威となるのは間違いないだろう」

「そうか―――勇者が魔王を倒すまで、待った方がいいのか?」

「人類にとってそれが望ましいのかもしれない。じゃが魔族にとっては地獄じゃろう。つまりお主が決めろという事じゃ」

「なるほど………まあ、勝手に召喚しといてだからな。勝手に戻っても関係ないという事にしよう。俺は他の見知らぬ誰かを救えるほど、力を持ってはいないからな」

「うむ。それがお主の決定なら文句は言わんよ。じゃあ力のないお主のために力を少しばかり与えてやろう」

「―――――!!!」

「と、言ってもこの神界事態がお主に与えるものなんじゃがな」

「…ん?どういうことだ?爺さん」

「もっと正確に言えば、この神界にある魔力というべきかな?」

「……ああ、なるほどな」

「ああ、ここでスキル創造を使うといい。魔力の補充はここでは早くに行われることになる。だから今のお主には必要なものじゃろう。所でお主魔力の上限はどれくらいなんじゃ?一応異世界のスキルを貰ったのなら、ステータス画面を見る事が出来るはずなんじゃが…」

「ああ、16300だが」

「―――ううむ、人が持てる魔力量は、勇者でも基本的には5、6000。スキルなんかで強化をしても1万が平均なのじゃが、やはり才能じゃな、その量は」

「多いのか?」

「ああ、間違いなくイーシュテリアではトップクラスを突き抜けておる」

「トップクラスを突きぬけてるって……」

「まあ良い。とりあえず魔力をスキルに注いでみい、どんなスキルが手に入るのか儂も気になるからのぉ?」

「あ、ああ。分かった」

「ああそれと、先ほどお主のスキルの際に聞いたが、気絶したのは魔力を一気に使ったからじゃ。人間にとって魔力とは生命力と近しい関係性を保っておる。魔力がそのまま生命力ではないから魔力を全て使っても死にはしないが、それでも死に近い経験をする奴もおるからの。頭には入れておくのじゃ」

「ああ、ありがとう爺さん。じゃあスキルを創造するぞ」


そう秋が言い残すと、目を閉じてゆっくりと念じる。常時発動している魔力操作・魔力感知の両方に神経を巡らせて創造するための魔力をぶつけるように念じる。


そして、秋の体が光を帯び始めた。


「おお、これがこのスキルの創造か…」


ゼウスもまた少しばかりか驚いている。スキルを創造する場面などそう簡単に拝めるものでもない。


秋の額から脂汗が滲み出る。扱う魔力が巨大すぎて制御一つするのにスキルの力を借りていたとしてもそれには大変な苦労を強いられるものになるのだ。


そして、ついに魔力の奔流と秋の体の発行がまるでフェードアウトする様にその光を失うと、そこには肩で息をしながら慢心創意で、立っているのがやっとという所の秋がそこにはいた。



【スキル:『スキルランダム創造』のLVが上昇しました】



秋はもう意識を手放してしまいそうな体を何とか制御してそこに立っていると、脳内に言葉が響いた。


「秋、大丈夫かのう?」

「………あ、ああ……大丈夫だ……少し休めば、なん、とか……」


そう言い残すと秋はばったりと倒れた。


「やれやれ、全く無理をしおってからに…」


そんな秋を、まるで孫を見るような眼で目を閉じている秋を見て、ゼウスは笑みを浮かべながら座布団を枕替わりにしてその体を畳の上に置いたのだった。




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