第二章・進化編
第9話
『―――秋、秋よ、聞こえておるかの?』
ゼウスの誘いで神界に行き、そして現世に戻ってきた秋がまたも朧げに聞いた声、それは耳から脳に伝わる類の音ではなく、もっと根本的な、脳そのものが発しているような声で意識を覚醒させた。
「ん…ああ、ゼウス…なのか?」
秋はあの帰り道の大道路、そこから少し外れた一通りのほとんどない路地に倒れていた。
『ああそうじゃ。一応お主が案じていた例の件については地球全体に魔術を行使した。安心して表通りを歩くといいぞ。安心せい』
「ああ、ありがとう爺さん」
『それとだな…秋よ。大変言いにくいのじゃが……』
「…あ?なんだ、手短に頼むぞ」
『お主の学年の奴らが消えておるのに、お主だけ学校に行けるわけあるまい?』
「―――あっ」
『お主にはしばらく学校に行かない生活を送ってもらう事になった。すまんのぉ…』
「…!!じゃあ俺はどうすればっ……」
『じゃからのぉ、学校に行く時間をそっくりそのままこちらに来る時間に変更するというのはどうじゃ?』
「…………は?」
『いや、こうなってしまった以上はしょうがないじゃろ?こればっかりは儂が全て悪いわけじゃないわい。でも考えてみぃ、それしか無いじゃろう?』
「………ああ、確かにそうだ」
学校に行けない生活、秋は今中学三年生、もちろん受験も控えてる身だ。だがしかしギリギリバイトもできない。もちろん年齢を偽ればできるかもしれないが両親にはどう説明するのか。という事になる。ゼウスの魔術により学校に行っている事になっているのに、その義務教育をほったらかしてバイトに行くなどあり得ない。必然的にそうなるのだ。
「ぐっ…………ああ、ああ分かったよ。しばらくはそっちに行く」
『おお、納得してくれたようで良かった。甘味も頼むぞ?』
「……殴るぞ爺ぃ……」
『情報料に場所代じゃよ、タダより怖いものは無いぞ~?』
「ああ、ああ分かったよ!畜生…」
『では、そういう事でな。また明日を楽しみにしておるぞ?一人でここまで来れるか楽しみじゃ』
そう言い残すと頭の中に響いていたゼウスの声は鳴り止み、頭の中が解放されていく。秋は近くに放り出されていたカバンを拾って、大通りから自宅へと帰っていった。時刻は6時前を示し、日を8割方隠れていた。
◇
「あら?お帰り秋。遅かったわね。ご飯はもう少しかかるわ、少し待っててね」
玄関の扉を開けて見慣れた家に入る。すると真っ先に聞こえてくるのは秋の母親―――仲岡有紀の声と、美味しそうなご飯の香り。
秋は一言「分かった」と大きな声で返すと、二階にある自分の部屋へと向かう。
秋の家は一軒家で二階建てというありふれた部屋。家族は秋と母親の有紀、それに父親である仲岡弦の三人家族で暮らしている。秋は一人っ子だ。
自分の扉の部屋を開けると、荷物を放り投げベッドに背中からダイブする。思い出すのは今日のハイライト。三週間前の自分の体験と重ね合わせ、その記憶をフラッシュバックさせていく。
(陽、大丈夫かな。一応書けるだけの事を書いたメモを忍ばせてはいるけど、ああクソ、あの時陽の手を掴んで一緒に帰ることが出来れば―――。いや、そんな話をしても仕方がないか、待ってろよ陽。すぐに助けに行ってやるからな)
(そういえば、忘れかけてたけど、あの時スキル、貰ったよな?―――試してみるか)
秋はそう心の中で決めると、「ステータス」と心の中で呟く、すると仲岡秋のステータス画面が自分の眼前に姿を現した。
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ステータス
中宮秋
15歳
学生
魔力:15500
スキル
・運命と次元からの飛翔
・スキルランダム創造
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案の定、スキル欄にあの金髪の少年から貰ったであろう「スキルランダム創造」という文字が追加されていた。その効果を見るべく秋は心の中でスキル効果を見たいと呟く。
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スキルランダム創造
スキルをランダムに創造する事のできるスキル。
種族的に使えないスキルや自分に効果が及ばないスキル。自分に効果がないスキルなども創造の対象になる。
スキルは異世界:イーシュテリアの中のみ存在すル比較的一般的なスキルを元に生成される
LV1 スキルを魔力3万で生成
LV2 スキルを魔力2万で生成
LV3 異世界;イーシュテリアで比較的希少なスキルを創造可能
LV4 異世界;イーシュテリアで希少なスキルを創造可能
LV5 スキルの構成要素を認知可能
LV6 スキルの構成要素を分解可能
LV7 スキル構成要素からオリジナルスキルの創造可能
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秋の目の前に出てきたのはつい何時間か前に神界に見たスキルの説明と同じ。そのスキルの効果と存在を改めて確認したところで秋はついに覚悟を決める。
「試しにどうやって使えるのか、調べてみるか…」
秋はスキル欄の説明画面を念じて閉じる。秋はおそらくだが使い方の予想を立ててはいるのだ。あの時のスキル『運命と次元からの飛翔』と同じように使いたいスキルを念じる事で発動するのだという仮説は立てているのだが、魔力というものが認知できないのだ。
「試しに念じてみるか?―――――――やっぱり、何かが足りない」
そう、何かが足りない。その足りないという感触が十分すぎるほどに伝わるのだ。だから秋は、スキル欄から察するに“魔力”を注いでからではないと使えないのではないか?との仮説を立てた。だが自分の中に魔力と呼べる力の感触がない。ステータスを書いてあるあの板が嘘をついている可能性もあるが、それはないだろうとして今も魔力の感知を試しているのだが。
「魔力…魔力……全っ然分かんねえなコレ……」
分からない。秋は思いつきで体をこわばらせてみたり、全身に力を入れて力んでみる。逆に全身の力を抜いてみたりなどを試すも効果は無し。だが秋はついに、そのあてずっぽうの中に答えを見つけた
(魔力……魔力……)
スキルやステータスを見る際に念じるように、魔力の存在を念じながらゆっくりと体中に力を巡らせていく。すると丁度心臓から少し上の所に、ドンッ!と響くような衝撃が走った。
「うおっつ!!」
秋も体を震わせる。だが確実に魔力と呼べるにふさわしい未知の力を発見する事に成功した。
(今のが魔力か?……確か)
もう一度秋はその力を感じるべく魔力を念じ体に力を入れる。すると全く同じ様に魔力の力を感じることに成功した。
(ほうほう………これが魔力か)
秋の魔力のイメージとしてあるのは、液体の様なイメージ。その液体を入れた水風船みたいなものが秋の心臓の上にある感じ。そして先ほどの衝撃は、その水風船を初めてつついてビックリした。といった表現が正しいのかもしれない。
(じゃあ…まずはこれを体に纏わせる……といえばいいのか?そういう事ができるのか?)
秋はゆっくりとその水風船をつつくようにイメージする。するとダッ!と魔力が漏れる感触が伝わる。体の中に魔力が浸透していくのが秋には感じられた。
(おお、なんかが自分の中に満たされていく?みたいな感じか。おおこれは、なるほどな…)
外に出た魔力は秋の体の中を駆け巡る。足。腕。指の末端まで魔力が満ちるのをゆっくりとだが感じる事に成功した。
(おっ、なんか知らない感じだ……例えば―――)
秋は手を握っては放してを繰り返し感触を確かめる。そしてもう一度手を放し手の平を開けて上を向ける。そして魔力を念じて手のひらに駆け巡る力を集めようとする。すると
―――ピカッ。
「おお!光った!」
秋の手のひらがゆっくりと優しい光を帯び始めた。体の中の魔力が手のひらに流れていくのを感じる。
【スキル:『魔力感知』を獲得しました】
【スキル:『魔力操作』を獲得しました】
「おおっ!なんだ!……スキル?魔力感知?魔力操作?」
秋の頭の中に唐突に表れた言葉の羅列。それにビックリした秋であったが、ビックリしたのもつかの間文字を読んで意味を理解し始める。
(つまりあれか?…ステータス)
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ステータス
中宮秋
15歳
学生
魔力:15500
スキル
・運命と次元からの飛翔
・スキルランダム創造
・魔力感知
・魔力操作
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「やっぱか……」
秋は自分で推測すると、魔力を知覚したから『魔力感知』。魔力を右手に移す動作を操作そして見るとして、それで『魔力操作』のスキルを獲得したのだと仮説を立てる。
(ってことはこれも使えるのか…じゃあまずは、魔力感知…)
秋は魔力感知を念じて使ってみようとするも、反応しない。
(反応しない……もしかして、ゲームでいうパッシブってやつなのか?)
そう思って秋はステータスからスキルの説明欄を開く
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魔力感知
文字通り魔力を感知する事が出来るスキル。常時発動。
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魔力操作
魔力の操作をスキルとして習得したもの。操作の感覚を機敏にして、かつ操作の際にスキルの補助を受ける事が出来る。常時発動。
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(二つとも常時発動のスキル。まあ魔力を扱う上では必須……なのか?…けどまあいい。このスキルの説明が正しいのなら、あのスキルに魔力を注ぐ事ができるはず…!)
秋はさっそく行動に移した。まずは発動中である『魔力操作』のスキル。それを意識しながら魔力を操作する。
(…動いた!!随分と動かしやすくなったな…)
秋は確かに『魔力操作』の恩恵を受けていることを感じながら、そしてもう一つのスキルを念じる。そして
(魔力を注げっ………!!)
秋はもう一つの自分のスキルに魔力を注ぐ。
(うおっ…これは一気に…持っていかれるっ…!!!)
『スキルランダム創造』に魔力を注ぎ始めると、まるで待っていたかの様に魔力を飲み干していく。そして魔力が秋の制御ではなく、スキルの方へとどんどん注がれていく。
(こ、これはっ……不味いっ!!)
秋は身の危険を感じるほどに魔力は吸われていった。全身から力が抜けていく脱力感。自分が冷たくなっていく感覚。もう立っていられない程に衰弱していた。
(こ、これは本当に、ま、まず……)
そして秋は、自分の意識を闇に落とし、意識を失った体は重力に抱かれて床に落ちた。
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