第6話
『儂の司る物、それは“全能”故に。故に儂は神の中でも最もスキルを保持しておる。戦闘・鍛冶・農業や漁業まであらゆるスキルを使い、そして自分の格として保持しておる。それが全能の所以。ありとあらゆるスキルを保持し使う事のできる全能故に、全能神。安直じゃろう?』
秋はまだ驚いた顔だ。それもそうだろう、あの伝説の存在である神。ゼウスと会話できるものなど人間では存在していなかっただろう。今までは、
「じゃ、じゃああんたが持っているスキルが多いのは」
『全能の権能故。あれだけ多いのは儂だけなんじゃないだろうか。他にも戦闘神の所なら戦闘関連のスキルしか選ぶことは出来ん。他も一緒じゃ』
「は、初めてあんたを尊敬したよ?」
『なんなら敬ってくれても構わんのじゃよ?』
「ハッ、嫌だね。お前は俺にとって迷惑の種を持ってきた迷惑な爺さんでしかないんだよ」
『ホッホッホ。まあそれでいいわい。それでじゃな秋よ』
先ほどの笑顔とは一見、ゼウスの顔が真面目に染まった。
『じゃがな秋。いくら力が劣っているとは言え相手は神じゃ、しかも神族というものは他の神からの干渉を大きく嫌う。だからこその忌録なのじゃ。そして相手はその法を大きく破っておる。正攻法で裁くのはほとんど不可能じゃ。だからこそ秋。お前がもしあの者たちを助けたいと申すなら、お前があの世界に足を運ばねばならない。お主が足を運んで、連れ帰って見せよ』
「…どうやってあの世界に行くんだ?まさかあの神にもう一度召喚でもさせるのか?」
『お主にはもうそのスキルがあるじゃろう。儂も気になって調べてみた。そのスキル。名を【運命と次元からの飛翔】というのは、昔に運命神と呼ばれる人の運命を見守り導く神がその格の力の大半を使い創造されたとするスキルじゃ。そしてお主はそれを地球へと帰るために使った。じゃが、帰れるという事は行けるというでもある』
「―――!!」
『お主のスキルにはレベルがあるじゃろう?それを上げるのじゃよ。スキルが上がれば制限がどんどんと解除されていく仕様の様じゃ。じゃからまずお主は全力でそのスキルの上限を上げよ。分かったな?』
「…でも、どうやって上げればいいんだよ」
『もちろんそのスキルを使うのじゃ。使えば使うほどそのスキルの熟練度というものはたまる。それが一定値を超えた時にレベルは上がる。じゃからしばらく、お主にはそのスキルを使って地上とここ、天界に行き来すると良い』
「ああなるほど……って、は?今不吉な事を言わなかったか?」
『ん?何一つおかしい事はいっとらんが?』
「――なんで俺がお前の所に来なくちゃいけないんだよ!」
『他に行く当てなんてあるかの?お主。そのスキルは次元を超えておらんと使えん。お主は次元を超えて知り合いなどいるようには見えんがのぉ…』
「いるわけねえだろ!」
『なら、必然的にここというわけじゃ。ああそれとついでに、儂の話し相手じゃな。よろしく頼むぞ秋よ』
「おい!なんで俺がお前の話し相手なんかしなくちゃいけねえんだ!」
『神といえど孤独にはかなわんのじゃ。所詮ただの爺ということじゃよ。ああそれと現世での甘味。あれを一度食べてみたいと思ったんじゃ。是非持ってきてはくれんかの?』
「おい!さりげなく俺をパシるな!」
『情報料じゃ。神様にただで物事を頼もうとしてはいかんぞ?』
「はぁ……分かった、分かったよ。俺の負けだ」
『ほっほ。分かればええんじゃよ。分かれば』
「ああ、感謝するよ爺さん」
『おお、では感謝次いでにお主の最大の問題を解決しようぞ。といってもこれは神族の問題でもあるからの。儂の力を使って何とかしようかの』
「なんとかって?どうするんだ?」
『意識をずらす。しばらくの間人々は召喚された者たちの存在そのものを忘れる魔術を世界全体にかける事にしよう。ただし秋よ。範囲が大きいのと、これ以上魔術を強くするとその反動で永遠にその者の存在を忘れてしまう者も出てくるかもしれん。だから魔術の威力を弱くする。もちろん召喚された者と全く関係ない者は効き続けるじゃろう。じゃがその親族やその者の強い記憶や感情がある場合は別じゃ。その者たちには恐らく術が解ける。間違いなく、その時に世界の異変に気付くじゃろう。多分じゃが―――およそ3か月。その間にお主にはあの世界に行き、連れ帰らなければならない。分かったな?』
「―――ああ、分かった」
『分かったなら良い。儂からの話は終わりじゃ、帰ってもよいが最後に一つ』
そしてゼウスは立ち上がると、秋の肩にじっくりと手を置いた。そしてゆっくりと秋の肩から手を放す。
『儂とお主と間にパスを繋いだ。儂からは一方的にお主の事が見えるのと、あとは一方的じゃが念話をつなげられるようにするパス。あとはお主がこの神界を感知しやすくするパスじゃ。スキルを使いここに来る際の手助けになるじゃろう』
「おい爺さん…今一方的に言わなかったか?」
『ああ、言ったぞ』
「そんなもの認められるか!取り消せ爺ぃぃ!!」
『ほっほ。無理じゃ♪』
「おい爺ぃ……」
『分かった分かった。見え方としては衛星画像みたいに上からしか見る事は出来ん。建物の中までは覗けん。それにお主が魔力の扱い方を学ぶことが出来ればパスを見る事もブロックする事もできるようになるぞ。じゃからこれはお主に対する試練の様な物だと思うてくれ。もしお主に本気で助ける気があるのなら、お主は魔力の扱い方。そのスキルの練度アップを行え。そしてまずはこのパス程度は見えるようになってもらわないと―――困るぞ?』
「……ああ、分かったよ畜生。じゃあな爺。俺は帰る。また明日な」
『…ああ、甘味楽しみにしてるぞ。秋よ』
秋が暴風と極光に包まれる。光と風は段階的に強くなり、白い部屋を蹂躙していく。
「助けてくれて感謝してるよ。爺さん」
そう秋が呟くころには、もう秋は神の世界にはいなかった。だが全能神ゼウスはその言葉を、一言一句違わずに聞いていた。
『ほっほ……助かる。か、そんな感謝の言葉なんていつぶりに聞いたかのぉ……』
ゼウスはにっこりと満面の笑みを浮かべながら、秋の問題を解決するべくスキルを発動させた―――。
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