第4話

「うっ……こ、ここは…」


秋は、のそりのそりと起き上がる。目を朧に開けてみてみると、そこには一面――壁、床、天井まで全て真っ白な謎の空間と、霊峰学園の制服を着た生徒が、何百人と倒れている姿だった。そして前方には、金髪碧眼の美少年とも呼べる者が、そこに浮いていた。


「こ、ここは…どこだ…?」

『おお、君が一番乗りだ。すごいねキミ。あと20分ぐらいは立ち上がるのにかかると思ったんだけど』

「ここは…どこだ?」

『ここ?ここは“神界”。神様が住まう世界。どうだい?すごいだろ!』

「神界…爺さんの所か…?」

『ああそうさ。そして君たちには旅立ってもらう。この世界――イーシュタルテを救う【勇者】として!』


(勇者……勇者……まさかっ!)


「召喚…!?」

『おおー、察しがいいねー君。そう、君たち霊峰学園の三年生全員は、今僕の手によって【勇者】として生まれ変わるのさ!ああもちろん拒否権はないよ。逆らったら―――死ぬよ?』


その瞬間。白い空間一杯に重圧が響き渡る。その重圧の正体は魔力。謎の少年は、秋に逆らった殺すという言外のメッセージを、一瞬で伝えたのだ。


そしてそれを秋は受け取った。もちろん受け取りたくなどなかっただろうが。


『じゃあ君から選んでいいよ~。はいこれ【勇者】としてのスキル一覧。君たちが気絶から目覚めた順番にこのスキルを選ばしてあげようと思ってたんだー。もちろん外れも存在する。でも君は一番だから選び放題!さあ選んで選んで!』


(と、とりあえずここは従うしかないっ…)


秋は重い体を揺らし立ち上がりながら脳内に意識を向ける。するとあの透明な板の先に文字がつらつらと書かれている。これがスキルなのだろう。


スキルには様々な種類が確かに存在していた。魔力を強化する物。筋力や体力。肉体能力の強化。魔術と呼ばれる魔力を使い放つ術式の習得スキルなど。もちろん秋は慣れた手つきでその板を操作してスキル一覧を見つめる。その姿は職人さながらだ。


『あれ~?この板の使い方慣れてるね~?ああそうか、君たちの世界にもこんな板を操作してたね?確か…すまーとふぉん?だったかな』

「そんなことはどうでもいい。本当にこれだけなんだな?本当に?」

『えー!ひどいなぁ。神様を疑う気?もちろんそれで全てさ。それだけあれば全員分足りると思うんだけどなぁ~』


秋が確認したかったのはあの糞爺とのスキル量の違いだ。ここにはおよそ150ほどのスキルしか存在しなかった。もちろんあの糞爺の所で確認したところもあったので確認自体は割とスムーズだったのだ。そして秋が考えていたもう一つの可能性。それは神と名乗るこの少年が意図的にスキルを隠していた場合だ。外れを全員分用意していたらキリがない。


勿論こんなことを考えられるのも、魔力により思考力や判断力が上昇しているおかげだ。ちなみに早く立ち上がることができたのも、魔力による恩恵だったりする。


そして5分。きっちりと吟味した秋が、この世界で選んだスキル。それは


「ああ、決まったぞ神様とやら。俺はこの【能力ランダム創造】を貰おうか」

『えぇっ!それでいいの?それは魔力がそれこそ2、3万というレベルをつぎ込んでようやくスキルを一個作れるかというレベルに使えないゴミスキルだよ!?……全く人間の考える事はわからないなぁ…素直に勇者とか聖騎士とか、大魔導士のスキルとかにしとけばいいのに…まあいいや、それが君の選択なんだね?』

「ああ」

「よし……OK。それは確かに君の物になったよ」



――轟っ!



確かに自分のものになったのを感じる。秋はこの第一目標を達成したのを微かに喜んでいた。


ちなみにスキルの詳細はこれだ。


==========================================


スキルランダム創造

スキルをランダムに創造する事の出来るスキル。ちなみに種族的に使えないスキルや自分に効果が及ばないスキル。自分に効果がないスキルなども生成される。スキルは異世界;イーシュテリアの中にのみ存在する比較的一般的なスキルを元に生成される。


LV1 スキルを魔力3万で生成

LV2 スキルを魔力2万で生成

LV3 異世界;イーシュテリアで比較的希少なスキルを創造可能

LV4 異世界;イーシュテリアで希少なスキルを創造可能

LV5 スキルの構成要素を認知可能

LV6 スキルの構成要素を分解可能

LV7 スキル構成要素からオリジナルスキルの創造可能


==========================================



『じゃあ君はスキルを入手したことだし、そこらへんでゆっくりしといて~』

「ああ…」


秋はその場に座りこみ、自分のポケットから、小さなメモ用紙と細いシャーペンを取り出す。そして何かを書き出した。


『ん?おお!次の人が起き始めてきたねー。いいよいいよー!どんどん起きて!できるだけ早くねー』


神様が他の人に意識を取られているうちに行動を開始する。まずは自らの親友である陽の元にそっと近づき、内容を書いた紙をそっと制服のポケットに入れる。


そして念じる。自らの“もう一つのスキル”の存在を。そして願うようにしてそのスキルが行使可能かどうかを念じて調べる。目的地は―――地球。



【発動可能です】



頭の中に出てきた発動可能の文字。そして秋は念じる。自らを平穏に帰してくれるあのスキルの発動を。




(発動!【運命と次元からの飛翔】!)




その瞬間。豪風が吹き荒れた。


周りではぼちぼちと意識を目覚めさせていく中で、陽もまたその意識を覚醒しようとしていた中で、ただ一人豪風と極光をまとっていた。白い空間の中で、ただ一人神様よりも光を放ち、その光は秋を覆い隠す。


そして、もう一人ただ喚くだけの存在へとなり下がった神様がそこにはいた。




『…!!!何っ!!!この僕の神界で僕以外に魔力を行使できる人間など……な、何故お前が!』


―――白い空間に風が舞う。


「じゃあな神様。スキルだけはありがたく頂戴しておくことにするよ」


――――極光が大きく蠢く。


『まさか、まさかまさかまさか。お、お前。初めからこれを狙ってっ――――』


―――――秋の存在が極光に隠される。


「当たり前だろ、じゃあなクソッたれな神様。精々、次からは俺を召喚しないように頑張ってくれよ」


――――――そして秋は、勝ち誇ったような笑みを、神様に浮かべた。


『まさかっ、あり得な―――』


―――――――その瞬間。極光が爆ぜた。風がピタッと止み、そして秋の姿はどこにもいなくなったのだ。




秋は、またしても神を出し抜き勝利したのだ。平穏を勝ち取ることに成功したのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る