第3話

こうして、秋があの白い部屋に連れていかれ、そして神様すらも出し抜き地球に帰ってきたあの夜からもう三週間が立っていた。



「え~ここの問題を……秋君。答えてください。寝てたんなら答えられますよね?」

「はい先生…y=2です」


おおお……。と周りから感嘆が漏れる。中には「どうした?」などと聞いてくる奴もいるが、それもそうだろう。一つだけ平穏じゃない点がある。それは魔力の存在だ。


秋は明らかに自身の能力が向上していることがはっきりと分かった。それは知能・運動能力・筋力、体力、握力といった基礎的なものまでが一気に跳ね上がっていることに気付いたのだ。


そしてそれは魔力と秋が命名した謎の板状の物体———ステータスボードに書かれていた力によって引き起こされているのではないかと秋は結論付けている。もちろんすべてがファンタジー。この世界では起こり得ないことが起こっている以上、結論も何も根拠のない妄想だと言われればそれでおしまいなのだが。


(まあ、思考能力なんかも完全に人間離れしていることは確認できてるしな…さて、どうするか……しばらくは、寝るか)


最も、思考能力の引き上げによって秋が得たものは、居眠りをする癖だけだったようだが。







「秋君!……秋君ってば!」

「ん、うう……なんだ。…ああ、夕美か…」


今秋を起こしたのは立花夕美。秋の幼稚園からの幼馴染で、この中学三年生を共に過ごすクラスメイトでもある。


「夕美…三時間目は終わったのか?」

「何言ってるの!もうお昼休みだよ!」

「ああ、そうか……ええ?」

「だから、お昼休みだって言ってるでしょ!起きて秋君!」

「あ、ああ……本当か?お昼って」

「ああ、本当だぜ?秋。というかお前本当に四時間目起きてなかったのか?うん?」

「お、おお陽。久しぶりだな」

「久しぶりだなじゃねえよ!どうしたおい。お前本当に四時間目起きてねえんだろうな?」

「あ、ああ、居眠りしてたのが三時間目だから起きてないぞ」

「寝ながらあれしてたのかよ……」


陽曰く、秋が居眠りしているのを見た科学の先生が、4回ほど秋を当てて答えを言わせようとしていた。もちろん見せしめと注意のためだろうが、それを秋は


「ナトリウムゥ……zzz」

「NaOH……zz」

「硝酸………zzz」

「酸化ぁ……Zzz」


と全て言い当ててしまったそう。そして教室内はこの秋が起こしたミラクルに一気騒然、科学の先生は「ああ、はい…」と意気消沈してしまったそう。


「やるな秋!あの先生若いけどいけ好かなったから本当すっきりした!」

「うん!凄いよ秋君!」

「あ、ああ…それよりもご飯食べようか陽。夕美もそろそろ友達来るんじゃないのか?」

「え?ああ、うん。…来た来た。じゃあね秋君!また後でー!」


と、言いながら夕美はほかの友達の所に帰っていった。


「しっかしまあ、羨ましいなぁ~おい!あんな子と幼馴染なんてよ」

「それいっつも言ってんな。まあ、それで迷惑を被ることだってあるって事だよ。何なら変わるか?立ち位置」

「え!いいのか!」

「ほんっとお前欲に忠実だよな…」


そう、秋の幼馴染立花夕美は、この中学校である霊峰中学でも一二を争うレベルでの美少女だとされているのだ。


この霊峰学園は中学としてのレベルも高いが、特にそのトップに立てるほどの頭脳や、美貌。吹奏楽でも部長をしており後輩からも慕われている。

明るく笑顔が素敵ながらに、大人っぽいところも確かにあるのがこの立花夕美という女性なのだ。


そしてもちろんそんな女性を思春期真っ盛りの男が狙わないわけもないが、ことごとく失敗続きであり、誰もが高値の花としての価値を認めてしまっているのだ。


「でもまあ、確かにあそこのメンツと俺らを比べると…なぁ?秋」

「ああ、あの四人とは比べたくもないな、俺らが馬鹿みたいだ」

「おっ、言うね~秋。まあお前がそう言うのも分かる気がするけどな」


秋が憎み口を言う相手、その四人組とはまさしく夕美が友達と言っていたその四人なのだ。


「まあ夕美ちゃんに、茉奈ちゃん。雄介の野郎に優雅だからなぁ……」


そう、その四人こそが、この霊峰学園でトップを張っている四人組なのだ。


「夕美ちゃんはルックスもいいし性格は明るめ、茉奈ちゃんは…いつもテストで1位か、それでも3位以内を抜けたことない完璧美少女だろー?雄介の野郎は部活の奴ら引っ張ってるし、全く、思い出すだけで腹立ってきやがったぁ!まあ優雅も、女子からの人気は凄い。頭脳も運動もできる。おまけに父親が事業主だろー?そりゃ金も持ってる。おまけに分け隔てない性格で敵を作るどころか全員優雅の味方。ケッ…完璧すぎてつまんねえよ。全く」


そうなのだ。全員が頭脳・運動の何かしらに秀でており、しかも性格も申し分ない。まさに霊峰学園のヒエラルキートップの座をモノにしている少年少女たちなのだ。


「………まあな」

「おっ?ヤキモチ?」

「まさか、もう二度と絡んできてほしくないだけだよ。俺もあいつも、お互いの事嫌いだしな」


そう、秋は一度夕美の一件で優雅と揉めていたのだ。


どうやら夕美が“普通の”学生である秋に構うのが気に食わなかったらしく、それで夕美を狙っている男子が優雅にありもしないことを告げ口して秋にとってかからせたのだ。


勿論事態は収まったが、秋と優雅の間に決定的な亀裂が出来たことには違いない。


その後陽が他のクラスの奴に聞きまわり、どうやら告げ口があったことを知らしめると、その後先生に事情を事細かに説明して、そいつらだけが呼び出しされるようにした。あの頃から陽との関係が本格的に深くなっていったのを今でも秋は覚えている。もちろんやっていたのは陰湿なことだったが、それでも見ていて面白かったのは否めない。


「…まあな、俺もあの集団は好きになれねえ」

「そういう事。まあ普通な俺らに絡んでくる夕美もそうだが、それでつっかかられたらたまったもんじゃない。そういう事だ」


秋はもちろん、近くにある霊峰学園に入ることができたのは勉強がそれなりに出来たのと、秋の世渡りのおかげで成績を落とさずに済んだからだと言える。もちろん入学時の成績は下から数えた方が早かったが。


「さて、そろそろ飯の時間も終わりだ。行くぞ」

「おう、次の授業は?」

「国語」

「えー、乗らねえなぁ…」

「お前はいつも乗ってねえだろ」

「お前こそ、寝るなよ~?」

「…善処する」




そして5、6時間目と過ごし終わり、それぞれが帰る準備を終わらせて帰りのHRをしている時。その事件は起きたのだ。




『君たちは新しい世界に来てもらうよ――――――イーシュタルテに。』




そして、その謎の声と共に吹き荒れる、暴風。極光。


生徒はなすすべもなく、その光に飲み込まれてしまった。




そして、霊峰学園3年生全員が、謎の失踪を遂げてしまったのだ。

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