第2話
秋が目を開けると、そこには夜空と、電気で照らされた街並みが広がっていた。そこは確かに現代日本の灯りと、そこに住まう人々の営みが見える夜の風景だった。
「帰って……これたのか?俺は、帰ってこれたのか……」
秋は中学の屋上にいた。学校内の時計を見ると夜8時。糞爺こと例の神モドキに呼び出されたのが下校途中だったので4時ごろ。実質まだ4時間しかたっていなかったのだ。
「いっけね。早く帰らないと……」
あいにく学校の鍵は全てしまっており、校舎を抜けフェンスを飛び越え、家まで全速力で走った。
「はあ…はあ…た、ただいま」
「もう…どこ行ってたの秋?ご飯みんな食べてるわよ。早く支度しなさい?」
「うん……分かったよ…」
秋の目に涙は浮かばなかった。けど心の中は感極まっていた。
◇
秋にとって約3日ぶりの晩ご飯は一生記憶に残る味だった。なんの変哲もない晩ご飯だったのにすごくおいしく感じられたのは、きっと3日間の激しい激闘を勝ち抜いたからだろうと思う。
そしてご飯を食べると、やっぱり疲れていたのかすぐ眠気が襲ってきた。
ベッドに潜り横になる秋。そこでは3日間の激闘と、自らに勝利をもたらしてくれた超常の力の事が頭を駆け巡った。
(やっぱり、あのスキルを見つけられたのは奇跡に近いよなぁ…いやあ、よく頑張ったよ俺。諦めててもしょうがなかったんだから)
(確かあのスキルの名前……名前は…なんだったか?)
(でももう関係ないか。俺はこの世界に戻ってこれたんだから。これからも平凡に、普通に生きるんだ。もうあんなのはこりごりだ。)
(でも…あのスキルの名前……名前は……)
「確か…【運命と次元からの飛翔】?」
その瞬間。秋の前に、あの透明な板が現れたのだ。
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ステータス
仲岡秋
15歳
学生
魔力:15500
スキル
運命と次元からの飛翔
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「これは……なんなんだ?一体……」
そこに現れたのは、ステータスと書かれた見覚えのある透明な板。それが今秋の目の前に出現したのだ。
「取り合えず……閉じろ。閉じてくれ」
そうして声に出すようにして願うと板はスッと消えた。
「……はぁ。なんなんだ一体。だが…さっきのあれはどうやって出たんだ?———試しに……ステータス」
ステータス。そう呟くと、秋の前に先ほどと全く同じ板が現れた。
「はあ…これもあの糞爺の所に行った所為っていうのかよ…」
秋は糞爺と心の中で罵っているあの世界の神様に悪態をつきながら、ステータスと書かれた板のことなど忘れて眠りについた。
◇
三週間後。中学三年生でもう季節は冬。この季節の中学三年生には受験という一大イベントが存在し、秋も今その荒波にもまれている最中なのだ。
「え~この公式は―――」
「この文法にはこことの類似点があって、こうやって覚え―――」
「科学式は覚えましたか?次回小テストを―――」
「リアス式海岸とは―――」
「だっ――――!!分からん!」
「うるせえぞ吉鷹。ちょっとは黙って飯を食えよ」
「だって化学の小テストだぞ?俺化学式見ただけで食欲なくすのによぉ…」
「じゃあ何でそんなに食えるんだよ。いい加減にしろ全く」
「いやあ腹は減るじゃん?」
「言ってること矛盾している気がするんだが?」
ここでこうして飯を食っているのは秋の友達でよく飯を食う吉鷹陽。勉強はできないが馬鹿じゃない――とは本人の言葉だが、どちらかといえば勉学よりも運動。サッカー部に所属しており、クラス内からも女子からも人気が高い。ちなみに秋は帰宅部だ。
「でもしっかしまだ話題になってるなお前のサッカーボール爆発事件!」
「もう言わないでくれ…恥ずかしいから」
陽のサッカーボール事件とは、五日前に秋が行った体育の授業。たまたま持久走からサッカーに授業が変わり、サッカーボールを秋がいつもの様に意気揚々と蹴ったその時。
――ボンッ!!!
なんと中から破裂したのだ。
――ボツッ!!!
―――ボンッ!!
――――ボキュッ!!!
しかもなんと四回も。
秋も苦笑い。体育の教師も苦笑いだったという。
そして五回目。力を抑えるようにしてボールを蹴った時。事件は起こった。
「お~い秋!こっちだ~」
陽からのパス、と言ってもパスの練習なのでそこまで緊迫はしていないが。
そして秋が力を抑えるようにしてゆっくりと蹴る。すると―――
―――ピシュンッ!!
と、音を立てて飛んで行ったのだ。あいにく陽の方には逸れ誰一人なく殺人レベル級の威力のボールに触れる事はなかったが、その代わりにグラウンドと並んでいた体育館のコンクリートにひびが入ってしまい、一気に話題となってしまったのだ。
「なあ、お前やっぱサッカー部は入らねえ?」
「いやだよ。俺にも理由がわからないけど殺人ボール打てるとか、意味わかんねえよ全く…」
「お前が入ってくれれば、間違いなく地区大会レベルまで行けるんだがなぁ…」
まあ原因はもう判明した。あのステータスに書かれている“魔力”。あれが原因だ。
秋の体は変わった。超人的な身体能力、疲れを感じない体に代わってしまったのだと秋は直感で感じる事になった。それが分かったのは三日後。タンスの上に乗っていた靴下が、タンスと壁の内側の溝に入ってしまったときの事。
秋はそのタンスを動かそうとして力を入れたが、まるでプラスチックのごみ箱を持っているように軽かったのは今でも鮮明に思い出せる。
その後自宅の周りを走ると超足で走れた。握力は家にある飴玉を粉々に粉砕できた。家の庭で飛んでみたら通常の人間の3~4倍飛べたが、それでもまだ全力ではなかった。
どれもこれも全てあの世界に行ってからそうなっており、あの世界で得たものはスキルと魔力の二つ。そしてスキルは効果が分かっている分消去法でこの魔力というのが秋の体に何かしらの影響を及ぼしていることが判明したのだ。
(まずこんなこと誰にも言えないよな…勿論。家族にも)
「どうした?秋?なんか悪いものでも食べたか?」
「いいやなんでも。というかその言い回し古いな。おっさんっぽい」
「お、おっさん…だと?」
「そう落ち込むなよ、ほら、飯の時間終わるぞ、そろそろ準備しないとな」
「あ、ああ、そうだな」
「ショック大きすぎないか」
「うるせえ!なんならお前も一度おっさんって言われてみろ!」
こうして各自、昼飯を終えていった。
5、6時間目と無事に終えた秋は、その場の足取りで学校に帰る。陽は部活のためいないので、一人で帰る帰り路。そこにはありふれた日常があったのだ。
あの白い部屋に閉じ込められ、異なる世界に連れていかれるかどうかの瀬戸際にいたあの時なんて目ではないぐらいに時間はゆっくり流れ、そして平和に時が過ぎていく。
(これが俺の求めていた平和……もう邪魔させない。俺は平和に、平穏にこれからも暮らしていくんだ————)
そう、決意を固めた。夕日は赤く地平線に消えていた。
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