第11話 デートの成果は?

 春を迎えた公園で、僕は今日も暖かい日差しの下、僕の枝にとまっている鳥たちの声を聞きながらうたたねしていた。

 最近、公園を行き交う人達がとみにおしゃれになってきたように感じる。

 紺のブレザーや肩パットの入ったスーツを着たビジネスマンがいたと思えば、革ジャンを羽織り、髪の毛を逆立てたロックバンド風の怖い風貌の若い子達や、体にぴったり張り付いたようなデザインのワンピースを着た、髪の毛の長い女性など、見ていても十人十色で飽きがこない。

 僕のおしゃれといえば、時々やってくる造園業のおじさん達が、枝を綺麗に剪定してくれるぐらいだろうか。

 剪定の時、腕をちぎられる様で痛くてしょうがないが、作業が終わると身なりがすっきりするし、風通しもよくなる。

 剪定後にカッコよくなった自分の体を鏡で見てみたいと思うが、それはワガママだろうか?


 おしゃれの話と言えば、最近、近所に住む隆也の様子がおかしいと感じる。

 昔の隆也は、しゃれっ気が無く、服装も髪型も地味すぎる位であったが、最近の隆也は、日を追う毎に派手さが増してきた。

 髪にパーマをかけ、ほんの少しブリーチを入れた。そして、制服のズボンは、タック入りの太いものになり、上着の丈も少し短くなった。

 普段着も、柄の派手目なシャツや、太めのストライプが入ったシャツ、ロックバンドが着ていそうな唇から舌を出したイラストを施したTシャツを着て出歩くようになった。

 そして隆也が僕のそばを通り過ぎる時、香水のような香りがほんのり漂っていた。


 隆也に、何か心境の変化があったのだろうか?

 僕にはさっぱり理由が分からなかった。

 そういえば、高校1年くらいまで僕を相手に続けていた朝晩の剣道の練習も、最近はやっている姿を見たことがなかった。所属している剣道部も、最近はほとんど練習に行っていないようである。


 そんなある日、隆也はいつも以上におしゃれに着飾り、リュックを背負ってどこかに出かけようとしていた。

 僕の前におかれたベンチに腰をかけると、なにやらソワソワした様子で何かを待ちわびているように見えた。

 その時、僕の後ろ側から、長い髪をポニーテールにした少女が近づいてきた。

 以前、この場所で隆也とキスしようとして失敗し、別れたはずのあずさであった。

 あずさもしっかり化粧し、膝上のミニスカートを履いて、ほんのりと香水をつけていた。


「隆也くん、おはよう。ごめんね、待たせちゃって」

「おはよう、あずさ。この場所で待ち合わせでごめんな。以前、ここで色々あって別れそうになったから、出来れば違う所で待ち合わせしたかったけど、ここだとバス停が近いからさ」

「あはは、私はあの件はもう気にしてないよ。それより今日はどの乗り物に乗ろうか、何を食べようか、事前に色々調べてきたんだ。私は、カリブの海賊かな?あと、スペースマウンテンは外せないかも」

「絶叫系好きだなあ。俺は、ホーンテッドマンションかな」

「やだあ、隆也君、怖いのが好きなんだね」

「昔から、お化け屋敷とか好きなんだよね」

「あ、もうそろそろ、行こうか!バスの時間に間に合わなくなるし」


 二人は高速バスで、ディズニーランドに向かうようである。

 天気も良いようだし、絶好のデート日和である。

 しかし、隆也とあずさは、もう別れたとばかり思っていた。

 実際にはあの後すぐ寄りを戻し、場所を変えて会っていたようである。

 僕の下では、ヒヨドリの糞まみれになってしまうからだと思うが……


 夜も遅い時間になり、隆也とあずさがディズニーランドから戻ってきたようであった。

 きっと楽しい思い出を沢山作ったに違いない。二人でいろんな乗り物に乗って、美味しい食事を食べて、最後には花火を見て……想像するだけで、羨ましくて仕方がない。

 けど、見た限りでは二人の間に微妙な距離感があるように感じた。

 手を繋いでいるわけでもなく、表情を見ても、楽しかったという充実感も無いように感じた。

 そして、僕の下に来た時、二人は手を振って別れた。

 あれ?随分あっさりしているのでは?ここで別れのキスをしないの?愛してるとか、大好きって言わないの?何で?

 僕一人でヤキモキしても仕方がないのだが、二人の間にはどことなく不自然さを感じた。


 翌朝、隆也がとぼとぼと歩きながら僕の方に近づいてきた。

 洒落たシャツ姿ではなく、スウェットの上下を着てサンダル履きであった。


「あ~あ。振られちゃったよ。俺。全く、情けないよなあ」


 そう言うと、片手でパーマのかかった髪の毛をくしゃくしゃと掻きまわした。


「身なりはおしゃれだけど、ご飯の食べ方とか汚いって。あと、乗り物の順番待ちの時も一人でイライラしてて、怖かったって。それと、自分の気持ちばかり押し付けて、私の話をあまり聞き入れてくれなかったって。言われてみたら、確かにそうだよなって……」


 隆也は、ちょっと涙目になっていた。

 あずさは、いくら隆也の見た目がおしゃれでカッコよくても、幼いところ、足りないところをしっかりと見抜いていたのであろう。

 ここまで結構長い間付き合っていたようであるが、ディズニーランドという特別な場所で、普段の学校での生活では見えないところが、色々見えてしまったのかもしれない。


「また、剣道がんばるかな?これから練習したら、試合にまだ間に合うかな?あ、受験勉強もやらなくちゃ。そうそう、自分の中身も磨かなくちゃな。今度は外見だけじゃなく、中身も頼りがいのある男だと思われるように、ね」


 そう言うと、隆也は背伸びしながら、自宅へと戻っていった。

 今回の件はかわいそうではあったが、隆也はまた一つ、大人になったことは確かである。

 僕も外見だけでなく、中身もあるケヤキになりたいけど、ケヤキの木にとって、中身とは一体何だろうか?とりあえず、樹液は十分にあるのだが……。





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