第二部 堕天使の夢
第5話 ガルバ帝国
下界の月は、天界の満月よりも醜かった。満月の輝き自体は美しくても、その裏には世界を彩る理不尽……いや、理不尽だけではない。自然を配する災害や、目には見えない疫病も潜んでいる。環境の環が決して壊れぬように「循環」と言う手法を使って、地上の空気を絶えず回し、無常の理を変わらず保ちつづけていた。
満月の下に広がる町も……これは、ガルバ帝国の首都だろうか? 月明かりに照らされた建物からは、その理はあまり感じられないが、町の中心部に立つ石像、「天使の姿を模した」と思われる石像からは、それがひしひしと伝わり、石像の表面に付いている傷や、折れ掛けている右腕からも、その雰囲気が明瞭に感じられた。
この国は、明らかに疲れ切っている。石像の近くに立てられている神殿は、その灯りで荘厳さを保ってはいたものの、神殿の身体を支える支柱には、原因不明の
泉の中には、平民は入れない。彼らは国の貴族達とは違い、何の特権も与えられず、住む事すら困難な
辛い現実にただ、項垂れるだけの毎日。
彼らは来世への期待に思いを馳せながら、恨めしい顔で貴族達の屋敷をじっと睨みつづけた。貴族達の屋敷は、都の中心部に集まっている。奴隷達が必死に造った外壁を見せびらかし、庭の中に生える美しい草木や、豪華絢爛な屋敷の内装すらも自慢して、自分達がどれだけ
そんな家々から少し離れた所にある「ロハ家」の屋敷も……いや、ロハ家の屋敷は少し違う。屋敷に使われている建築様式は、他の屋敷とほとんど同じだが、その正面に設けられた鉄扉や、鉄扉の向こう側にある庭……庭にしては少し小さめだが、それらを見ても分かるように、すべてが必要最小の大きさ、または、装飾に抑えられている。「貴族の贅沢は、これで充分である」と。無言ではあるが、建物が醸し出す空気や、そこに流れる雰囲気を通して、周りにその意思を示していた。
その庭で剣を振るう少年……歳の頃は、レウードと同じくらいだろう。月明かりに照らされた彼の黒髪は、彼よりは若干青み掛かっていたが、その鋭い眼光や、青臭いながらも整った顔立ちには、14歳の少年が持つあどけなさ、そして、不器用さが感じられた。不器用さの奥には(これも少年らしいが)、強い正義感ゆえの真っ直ぐさ、その真っ直ぐさゆえの狭い視野も感じられる。
「眼前の敵からは、視線を決して逸らさない。だがその所為で、思想や了見の幅が狭まりやすくなってしまう」と言った感じに。すべてがその修行と同じく、成長の段を登り切れないでいる。彼が振るう剣も、その表面に月光が煌めく様は美しいが、その剣が描く軌道は、「人を斬る」にはあまりにも優し過ぎていた。
少年はその光景に気づけないまま、眼前に仮想の敵を作って、その敵を何としても倒すべく、両手の剣を一心不乱に振るいつづけた。その様子を黙って見ている少女(歳の頃もやはり、彼と同じくらいだ)も、最初は彼の世話係として、彼に優しげな言葉を掛けていたが、彼がいつもの修行をやりはじめると、あまりお洒落とは言えないスカートの
少女は夜風が自分の髪を靡かせた時も、真剣な顔で少年の修行を眺めつづけた。「カミュ家」に仕える奴隷の少女(彼女も14歳くらいだった)、タヌホが「お嬢様の部屋」に向かって歩き出したのは、先程まで吹いていた夜風が急に止まった時だった。
タヌホは飲み物が乗せられたお盆を持って、お盆の飲み物が決して零れないように注意しながら、部屋までの道をゆっくりと歩きつづけた。「ホッ」としたのは、部屋の前に着いた時。その安堵が消えたのは、お嬢様の許可を受けて、部屋の中に入った時だった。
タヌホはお嬢様のご機嫌を窺いつつ、その機嫌がさらに悪くならない範囲で、机の上に(恐る恐るだが)頼まれていたお茶を置いた。
「お、お待たせ致しました」
お嬢様はテーブルのお茶をしばらく見下ろしたが、やがてタヌホの顔に視線を移すと、テーブルの上を叩いてからすぐ、奴隷の顔を鋭く睨み付けた。
「遅い! 高がお茶を運ぶくらいで、何分掛かっているのよ!」
「ひっ!」
タヌホは彼女の怒声に脅えるあまり、眼前の彼女に何度も謝りつづけたが、郊外の民家で「わんわん」と泣き叫ぶ子どもよりは、ずっとマシな扱いだった。
子ども達は母親の服や腕を握り、その母親に向かって何度も訴えつづけた。
「おっかぁ、お腹減ったよぉ」
母親は、彼らの声に応えなかった。彼らの言葉が煩わしかったわけではない。それに応えるだけの力が残っていなかったからだ。その声に苛立ちを覚える事さえも。今の彼女にできるのは、眼前の光景をただ現実として、意識の横側にそっと流しつづける事だけだった。
彼女は枯れかけていた涙を流し、暗い顔で宮殿の議会場がある方向に目をやった。議会場の中では今日も、貴族達が激しい論争を繰り広げている。小汚い野次や罵倒を交えながらも。彼らは議長席に「皇帝」を置き、自分達は各々に「穏健派」と「皇帝派」に別れて、己が政敵に自分の主張をぶつけ合っていた。
「何が選民思想です!」と、貴族の一人が叫ぶ。彼は「穏健派」の頭目らしく、柔和な雰囲気こそ漂っているが、その真っ直ぐな視線には、政敵の貴族達を黙らせる程の威圧感……もっと言えば、信念の強さが窺えた。「貴方方には、人の心は無いのですか? 国がこのような有様になっていても。己の欲望ばかりに目をやって。少しは」
「国民の気持ちを考えろ、ですか?」と、政敵の男が返す。彼もまた、「皇帝派」の頭目として、それらしい雰囲気を醸し出していたが、彼の雰囲気には一種の陳腐さ、狡賢い狐が虎の毛皮を借りて、自分の力を強大に見せる……その卑怯さが感じられた。現に彼が着ている豪奢な衣服も、「自分の趣向で選んだ」と言うよりは、「それで相手を圧する」と言う感じだった。
ウヴァイ・カミュは政敵の男、ジエル・ロハを睨み返した。
「それは、おかしな考えですね。彼らは、物を言う家畜です。家畜に尊厳はありません。我々のような」
「いいえ! 彼らにも、尊厳はあります! 貴族の我々と同じように。今の我々が生かされているのは、彼らの力があってこそ。我々は、その恩恵を貰っているだけに過ぎません。貴方も、そして」
「『貴方も』とおっしゃりたいようだが、それは大きな間違いです。彼らが我々を生かしているんじゃない。我々が彼らを生かしているんです。何の価値も無い彼らに、その価値を与えてやっている。それは」
「貴方の傲慢です! 我々は、同じ人間だ。多少の違いはあっても、その本質は決して変わりません。人間は
二人の会話は、正に平行線。お互いを相容れぬ、「肯」と「否」の衝突だった。そのどちらが正しいのかは(一人を除いて)、この場にいるほとんどが分からない。彼らが「肯」と信じるのは、自分の良心が叫ぶ声か、欲望の囁く甘い囁きだけだった。
彼らは議長席の皇帝に止められるまで、自分の主張を際限なくぶつけつづけた。
皇帝は皇帝派の貴族達をチラリと見、それから議会場の中央に視線を戻した。
「
ウヴァイは、その言葉に喜んだ。今日の議会を終わらせるには、この
「シュベール様、今日の議会はもう」
「そうだな」と、皇帝も頷く。「これ以上、やっても」
「待って下さい!」
ジエルは、自席の上から立ち上がった。
「話の方は、まだ! 皇帝陛下!」
皇帝は彼の言葉を無視して、議長席の上から立ち上がった。
「本日の議会は、これにして終了する。
「はっ」と頷いたのは、皇帝派の貴族達だ。穏健派の貴族達は悔しげに俯きこそするが、その言葉に頷こうとはしなかった。彼らは各々に対照的な顔を浮かべて、一方は意気揚々と、もう一方は頭目の「今日はもう良い」に従って、議会場の中から出て行った。
ジエルはその様子を見送り、床の上に目を落とした。
皇帝は、彼の肩に手を乗せた。
「帰らないのか?」
無言の返事。だがその態度は、明らかに「黙れ」と言っていた。だから皇帝も、「それ」にただ嘆息せざるを得ない。「はぁ」
皇帝は、彼の肩から手を退けた。
「好い加減に諦めろ。お前がどんなに訴えた所で」
また、無言の返事。
「お前の父は、立派な臣下だった。私のために忠誠を尽くし……。お前は、その一人息子だ」
一人息子、の一言が、ジエルの沈黙を破った。
「皇帝陛下……」
「私は、人の死が嫌いでね。国の貴族達には、仲良くして欲しい」
「それなら!」
「ジエル」
皇帝は、彼の前から歩き出した。
「お前の心変わりを期待する」
「陛下!」
皇帝は彼の制止を無視し、その後ろを振り向く事もなく、議会場の中から出て行った。
ジエルは議会場の中にしばらく残ったが、皇帝の気配が完全に感じられなくなると、議会場の中から静かに出て行き、ロハ家の馬車に乗って、自分の屋敷に帰った。屋敷の庭ではまだ、少年が剣の修行に励んでいた。父の帰宅にも気付かない程集中して。彼の近くにいた少女も、ジエルが「ただいま」と話し掛けなければ、その挨拶に「お、お帰りなさいませ! 旦那様」と返す事すらできなかった。
ジエルは、自分の息子に視線を移した。
息子は右手の剣を下ろして、父の視線をじっと見返した。
「結果は、どうでした?」
「いつもと変わらないよ。まるで聞く耳持たず、だ。我々の主張は、文字通りの『戯れ言である』と」
「そう、ですか」の声が重い。最初から期待はしていなかったが、今日もやはり同じ結果だったようだ。「それは、残念です」
少年は右手の剣を握り直し、先程までやっていた剣の修行をまたやりはじめた。
ジエルは、その様子に目を細めた。
「メリテ」
「はい?」
「日々の鍛錬は大事だが、あまり無理はするなよ? 特に」
「何です?」
「い、いや、何でもない。イアラ」
「はい?」と、少女が応える。「何でしょう?」
「悪いが、今日はもう休ませて貰うよ? 色々と疲れたからな。
「畏まりました。その様にお伝えして置きます」
ジエルは「ニコッ」と笑って、屋敷の中に入った。
少年……いや、ここからはもう、「メリテ」で良いだろう。少女の名前も明らかになった。二人は屋敷の玄関を見ていたが、その扉が閉まると、それぞれが見るべきモノに視線を戻した。
「イアラ」
「はい?」
「お前も休んで良いんだぞ?」
「はぁ」と、少女の溜め息。「また、そのセリフ。私は、メリテ君の世話係ですよ? メリテ君が部屋のベッドで眠るまでは、私も決して眠りません」
「そ、そうか。でも、無理はするなよ? 今夜は少し、いつもより多くやるつもりだからな」
「はい」
イアラは優しげな顔で、また彼の修行を眺めはじめた。「カミュ家」の玄関が勢いよく開かれたのは、彼女が少年の修行を眺めはじめてからしばらく経った時だった。ロハ家の玄関とは違い、この世の
ウヴァイは従僕の挨拶を無視して、屋敷の廊下を歩きはじめた。
「
「は、はい! 食堂の方にいらっしゃいます。ご友人の方から……その、『良い物を頂いたから』とおっしゃって。お食事の後に」
「また、呑んでいるのか?」
「はい」と頷く召使いは(たぶん、主人に怒られるのが嫌で)、主人の隣は決して歩こうとせず、その後ろをひたすらについて行った。「テーブルの上に酒瓶を置きながら」
「そうか」
ウヴァイは妻の習慣に呆れたが、その習慣自体を否もうとはしなかった。酒を楽しむのもまた、貴族達の特権。貴族達が
ウヴァイは食堂の光景を想像しつつ、何処か嬉しそうな顔で、屋敷の廊下を歩きつづけた。
「ビクトリナは?」
召使いもまた、彼の後ろを歩きつづけた。
「お嬢様は……おそらくですが、お部屋の方にいらっしゃいます。タヌホがお部屋の方にお茶を運んでいましたので。今頃は、いつものお勤めを」
「本の朗読か」
彼らは廊下の角を曲がった後も、屋敷の食堂に向かって歩きつづけた。
「分かった。時間も遅い。ビクトリナには、明日の朝にでも話そう」
「畏まりました。お嬢様には、そうお伝えして置きます」
ここでようやく、召使いの方に振り返った。
「ああ、宜しく頼む」
ウヴァイは食堂の前で召使いと別れ、召使いが彼に頭を下げてからすぐ、その視線を逸らし、楽しげな顔で食堂の中に入った。食堂の中では……召使いが言っていた通り、妻がテーブルの上に酒瓶を置いて、コップの中に注がれた美酒を美味しそうに飲んでいた。夫の「ただいま」にも、少し遅れて「お帰りなさい」と応える程に。
彼女は悪酔いこそはしていなかったものの、その乱れた服装……特に首筋から左肩まで見える肌色や、少し露わになっている胸元からは、酒によって促された色気が感じられた。僅かに赤くなった頬からも、「妖艶」とはまでは行かないが、娼婦に似た雰囲気が感じられる。
彼女は夫が自分に真向かいに座ると、テーブルの上にコップを置いて、(何かを推し測るように)夫の表情やら服装やらをじっと眺めた。
「今日も帰りが遅かったわね?」
「ああうん、仲間の一人が『呑もう』と言い出してね。本当は、断りたかったけど」
「嘘ね」と笑った彼女には、何処か妖女の雰囲気があった。「昨日も同じ事を言っていたわ」
ウヴァイは、彼女の洞察力に苦笑した。
「参ったね。君にはやっぱり、敵わないよ。夫の嘘をすぐに見抜くなんて」
「ふふふ」
彼女はテーブルのコップに手を伸ばし、その中身を少し呑んで、テーブルの上にまたコップを置いた。
「夫の嘘をすぐに見抜けないような人は、今の社会を生きて行けないわ。政治の世界も
「狐、か」と苦笑するウヴァイだったが、すぐに「そうかもね」と思い直した。
ウヴァイはテーブルの上に目を落とし、その表面を何処か楽しげに見つめはじめた。
「狐は、僕の生き方そのモノだ。強者の力を上手く利用して、自分はその御零れを有り難く頂戴する。僕にとっては……こう言う言い方は失礼かも知れないが、『天授代帝』も『選民思想』もどうでも良い事なんだ。我らの皇帝様が、どう言うお考えだろうと。僕は、強い者について行く。そうするのが、一番賢いからね。わざわざ弱い者に肩入れする事はない。穏健派の奴らは、『それ』が許せないらしいが。奴らは、子どもの偽善を棄てられなかった大人だよ。幼い頃に憧れた正義を振りかざし、僕達を悪として、言葉だけの善を並べ立てている。本当に呆れるばかりの奴らだ。大の大人が、あんなにも叫んで。聞いているこっちは、うんざりするよ。『本当の大人』って言うのは、水の汚れを
「皇帝にでもなったかのように。アナタは、本当に狡い人間だわ。心の内では、その皇帝を狙っているくせに」
ウヴァイの目が見開いたのは、その洞察が正に的を射ていたからだ。
「リュオン……」
「なに?」
「君は、本当に恐ろしい人だね?」
リュオン・カミュは、その言葉に「クスッ」と笑った。
「狐は所詮、狐だからね。どんなに上手く立ち回っても、本当の腕力には敵わない。アナタは……そうね、例えは変だけど。皇帝を天使に置き換えて……人間版の『天授代帝』と言った所かしら? 自分の後ろに皇帝を立たせる事で、その権力を絶対的なモノにする。アナタは陛下の権力を頂戴しつつも、その悪感情を陛下に集中させる事で、『自分は美味しい部分だけを貰う』って、そんな風に考えているんでしょう? 現にアナタは、『皇帝派』の頭目なわけだし。跡継ぎのいない陛下にとっては、最有力候補でしょう?」
「そう、かもね。それは、現実点では分からないが。今日は『それ』とは違う話題で、いつもの呑み仲間と盛り上がった」
二人はその言葉をきっかけとして、互いの目をしばらく見つめ合った。
「粛正?」と訊いたのは、コップの中に酒を注いだリュオンだった。「穏健派の人達を皆殺しにするの?」
リュオンはコップの酒を一飲みし、真面目な顔で夫の目に視線を戻した。
ウヴァイは、その質問に首を振った。
「暴力で支配できるのは、自分よりも弱い人間だけだ。権力や法律による支配も同じ。自分と同等か、それ以上の相手を支配するためには」
「支配するためには?」
「無気力感……つまりは、相手に諦めさせる事だよ。『奴らには、何を言っても無駄だ』とね。自分達がどんなに叫び、その道徳倫理を唱えても、今の社会は決して変えられない。そう思わせる事ができれば」
「誰も逆らえなくなるのね?」
「違う、正確には『逆らわなくなる』んだ。逆らう事事態が無意味になるからね。人間は『それ』が現実になる、実現するからこそ、自分の一生を賭けて、『それ』を貫こうとする。現実的な目標は、実行も容易く、その成果もまた得られやすい。だから成果の得られにくい目標には、元来力を注がないモノなんだ。君だって、徒労に終わる努力はしたくないだろう?」
「そうね、確かに無駄な努力はしたくないわ。道端のゴミを拾っても……まあ、『奇特な人』は褒めるかも知れないけどね。大半の人は、見て見ぬフリ。最悪は、『それ』を認識すらしないもの。『すべては、人の気まぐれがした事だ』ってね」
「ふふふ、確かに。すべての善意は、結局は人の気まぐれだよ」
ウヴァイは楽しげな顔で、椅子の上から静かにスッと立ち上がった。
「今夜は、少し呑み過ぎた。明日の議会に影響が出てもいけない」
「そうね。あたしはもう少し、ここにいるわ。お友達から貰ったお酒もまだ、残っているしね」
「そうか」
ウヴァイは「ニコッ」と笑い、彼女の前から歩き出した。
「今も充分に遅いけど、あまり遅くまで起きているなよ? 過度な夜更かしは、身体にも悪いからね?」
「大丈夫よ。自分の身体は、自分が良く分かっているから」
リュオンはコップの中にまた酒を注ぐと、楽しげに「クスッ」と笑って、食堂の中から出て行く夫を見送った。
ガルバ帝国の社会で最も平和な時間があるとすれば、それはきっと帝国の町並みが穏やかな日差し……特に朝の光に包まれた時に違いない。朝の光は、どんな人間にも平等だ。昨日の夜に「おっかぁ」と訴えていた子ども、今はその恩恵を受けて、穏やかに「スヤスヤ」と眠っている。各々の存在意義を奪われている神殿や学堂と言った建造物も、朝日が建物の壁や窓、その隙間に入り込む事で、気休めの誇りを取り戻していた。「我々はまだ、終わっていない」と。本当は借り物の力にすがっているだけだが、そこに込められた思いは、道行く人々を立ち止まらせる、あるいは胸を痛めさせるのに十分すぎる程の力があった。
お嬢様の部屋にいるタヌホも……「まったく同じ」とは言えないが、その身体に当たる朝日は、少なくても彼女の事を無視してはいなかった。彼女の衣服がどんなに見窄らしく、その髪が乱れ切っていても、髪の表面に当たる光は、髪自身が持つ美しさを決して損なわない、茶色の美を絶えず保ちつづけていた。それこそ、貴族の家に生まれたら「可愛いらしいお嬢様」と思わせる程に。
タヌホは床の上に落ちている本、これは「朗読」に使った本だろうか? 本の題名は良く見えないが、その状態に気づかないまま、穏やかな顔で「スースー」と眠っていた。お嬢様の瞼が動いたのは、タヌホの頭が「う、ううう」と動いた時だった。
お嬢様は眠気の引いて行くあくびを漏らし、その上半身を起そうとしたが……。
「うっ」
何だろう? 腹部の上に違和感がある。普段ならすんなり動いてくれる筈の上半身も、今日は何故か上手く動いてくれない。まるで生暖かい
お嬢様は不機嫌な顔で、自分の腹部に目をやった。腹部の上には……なるほど。これは、重いわけだ。腹部の上には、下僕の顔が、それも穏やかに眠る少女の顔があった。少女は時折「クスッ」と笑っては、その口から涎を垂らしている。自分の主人に睨まれている事など夢にも思わないで。
彼女は「睡眠」と言う名の天国に現を抜かしつつ、自分の役割をすっかり忘れていた。床の上に落ちている本も、その怠惰を如実に表している。彼女はお嬢様が朗読の調べで眠りに落ちた後、自分も釣られてそこに落ちてしまったのだ。
お嬢様は、その光景に激怒した。「ちょっと! なに人のベッドで寝ているのよ!」の声にも起きない。お嬢様が彼女の重さから何とか抜け出た時も、その動きに少しだけ反応はしたが、睡眠の快楽からは決して抜け出そうとはしなかった。
お嬢様はその態度に怒るあまり、彼女の身体を思いきり蹴飛ばしてしまった。蹴りの衝撃は、凄まじかった。武芸の達人が浴びせるモノよりは遙かにものの、「スースー」と眠るタヌホを叩き起こすには十分すぎる程の威力があった。
「さっさと起きなさい!」
タヌホはその声に「ハッ」とし、慌てて自分の周りを見渡した。「こ、これは」の続きを言わなくても分かる。自分はあろう事か、主人のベッドで眠りに落ちてしまったのだ。奴隷の自分が、決してやってはならないそれを。
彼女は自分の行いに青ざめつつ、必死な態度で眼前の主人に謝りつづけた。
「申し訳御座いません! 昨日の夜は、その」
「なに? 『疲れたから寝ちゃいました』って? ふざけるんじゃないわよ! あんたは、あたしの下僕でしょう? 下僕が主人のベッドで寝ちゃうなんて」
「本当に申し訳御座いません! もう二度と、こんな事は」
お嬢様は彼女の謝罪に苛立ったが、それも次第に馬鹿らしくなったようで、彼女が「うっ、うう」と泣き出した頃には、「もういいわ」と呟いていた。
「着替えの準備をはじめて。今日も飛びっきりに可愛いやつよ?」
「は、はい! 畏まりました」
タヌホは震える手を必死に抑えて、彼女の着替えをゆっくりと手伝いはじめた。まずは彼女の寝間着を脱がし、衣装
タヌホは化粧台の上に櫛を起き、鏡に映るお嬢様の顔を見て、その反応を恐る恐る伺った。
「どう、ですか?」
「良いわ」が、お嬢様の返事だった。「とても良い」
お嬢様は満足げに笑って、椅子の上から立ち上がった。
タヌホはその光景にホッとしたが、彼女が屋敷の食堂に向かって歩き出すと、それに続く形で、彼女の後ろを歩きはじめた。
二人は互いの距離を保ったまま、屋敷の食堂に向かって歩きつづけた。
タヌホは、食堂の前でお嬢様と別れた。
お嬢様は、食堂の中に入った。食堂の中では奴隷達が休み無く動いていたが、それを配する主人達は、その行為に感謝どころか、労いの言葉すら掛けなかった。彼らは所詮、物を言う家畜。テーブルの上に朝食を持って行く手足、主人の命を聞き取れる耳が無ければ、そこら辺の野山を駆け回る獣と変わらない、ただ人の形をした動物と同じだった。
お嬢様はその光景に微笑みつつも、穏やかな顔でいつもの定位置に向かった。
「お早うございます、お父様」
「おはよう、ビクトリナ。今日も変わらず美人だね」
「クスッ」と笑った彼女の顔は、年相応に美しかった。「有り難う御座います」
お嬢……ビクトリナは、自分の席に座った。
「お母様のお姿が見られませんが。昨夜も?」
「ああ、遅くまで呑んでいたようだね。今朝もきっと」
ビクトリナは、奴隷の一人に話し掛けた。
「ちょっと?」
「は、はい! 何で御座いましょうか?」
「お母様にお伝えしてくれる? 『今日も下僕とお散歩に行って参ります』って」
「か、畏まりました」
ビクトリナは、父親の顔に視線を戻した。
「お母様の朝寝坊は、今にはじまった事ではありません」
「ふふふ、そうだね」
「お父様は、今日も帰りが遅いのですか?」
「ああ、穏健派の人達がなかなか帰してくれなくてね。本当に参っているよ」
「お疲れ様です。お父様は、本当にご立派な方ですね。あのような連中と毎日。お心中をお察しします」
「ありがとう。お前にそう言って貰えると、僕も嬉しいよ」
「うふ」
ビクトリナは嬉しそうな顔で、自分の朝食を食べはじめた。「ロハ家」の少年、メリテが自分の朝食を食べ終えたのは、ビクトリナが朝食の果物に手を伸ばした時だった。
メリテは周りの人々に「ごちそうさま」と言い、椅子の上から立ち上がって、床の荷物に手を伸ばし、それをいつものように装って、腰に例の剣を差した。
ジエルは自分の席に座ったまま、真面目な顔で息子の顔を見上げた。
「今日も行くのか?」
「ええ。あそこの草は、綺麗ですから。
「そうか。私はまた、あの修羅場に行かなくてはならない」
「……お嫌ですか?」
「修羅場を好む人間は、いないよ。それが人の業が飛び交う修羅場なら尚更。でも、そこから逃げるわけには行かない」
「……父上の勝利を信じています。父上は」
「『不要な人間』などいないよ。彼らだって」
メリテは彼の言葉を無視し、食堂の出入り口に向かった。出入り口の前には、外出用の服に着替え終えたイアラが立っている。
「待たせたな」
「いえ」
「行くぞ?」
「はい」
イアラは屋敷の主人に「行って参ります」と言って、少年と共に食堂の中から出て行った。
ジエルは、その後ろ姿をじっと見送った。
「やれやれ。真っ直ぐなのは良いが、アイツを見ていると」
「昔の自分を思い出す?」と、その妻、アイリ・ロハが微笑む。「正しい事は、正しい。悪い事は、どんな事があっても」
「決して許さない、か。文字通りの勧善懲悪。自分の側に正義があれば、相手に何をやっても構わない。法や倫理で相手の事を縛っても、あるいは」
「その財産を奪っても?」
「彼らの財産はすべて、平民や奴隷達から巻き上げた物だ。彼らが額に汗して稼いだ財産を。私達は、悪魔だ。『自分の生まれた場所が、偶々貴族だった』と言うだけで、その強権を振いかざす。正に下衆の極みだよ。まともな神経の者なら……くっ。私は、彼らのために戦わなければならない。彼らの尊厳を守るためにも。そうでなければ」
「ご自分のお父上、お
ジエルは、「お父上」の言葉に暗くなった。
「父上は……父さんは、立派な人だったよ。だが、同時に悲しい人でもあった。民と王の板挟みにあって。最後はご自分で、ご自分の命を絶ってしまったが。そんな父でも、私は誇りに思っている。『父のような人間になりたい』と。そして」
「『そんな父上をお超えになりたい』と?」
「『息子』と言うのは、そう言う生き物だよ。良くも悪くも、だがね。おそらくは、私達の息子も」
「そうね、きっと同じ気持ちでしょう? 父の事を尊敬している点では」
ジエルは、妻の言い方に違和感を覚えた。
「他の部分は、違うのか?」
「いくら親子と言っても、丸きり同じとは言えない。私の血だって入っているわけだしね。多少の違いは、ある。あの子の場合は、あなたよりも現実思考よ? 今の現実が、悲惨な状況なら」
「『平気で自分の手を汚せる』と? 馬鹿な! メリテは、それ程愚かではないよ? 暴力では、何も解決しない事くらい!」
「ええ、分かっていると思う。でも」
「でも?」
「あの子は、純粋よ? 私や貴方が思っている以上にね。人の人生……特に尊厳を壊そうとする者がいれば、それを何としても止めようとする。自分の心に従ってね。あの子が毎晩、屋敷の庭で腕を磨いているのは」
ジエルは、その想像に汗を浮かべた。
「『それ』は、いくら何でも考え過ぎだ。馬術や剣術は、貴族の
「馬術を極めれば、逃亡や脱出の時に役が立つ。剣術だって、敵の命を奪えるしね。人を殺すには、丁度良い技術でしょう? 『それ』がもし、上達でもしたら?」
食堂の中が静かになったのは、言うまでもない。彼女が話した想像は……あくまで想像の段階だが、妙な説得力があり、それを聞いていたジエルはもちろん、その周りにいた召使い達さえも、その想像に思わず黙らずにはいられなかった。彼らは互いの顔を見合ったり、今の空気に生唾を飲んだりして、彼女が話した想像に困惑の色を浮かべていた。
ジエルは、自分の席から立ち上がった。彼女が話した想像にどうしても耐えられなかったからである。
「ごちそうさま」の声も、何となくギコチない。「今夜の帰りもたぶん、遅くなると思う。その時はまた、先に休んでいてくれ」
「ええ、その時は。気を付けて行ってらっしゃい」
「行って来ます」
ジエルは屋敷の中から出て、ロハ家の馬車に乗った。メリテ達が町の学堂に着いたのは、ジエルが宮殿の議会場に向かいはじめてからしばらく経った時だった。
メリテ達は学堂の前で立ち止まり、その庭に生えている草花……いや、これは草花ではない。草花の名を借りた雑草だ。雑草は美しい草花がすべて枯れてしまった後も、それが生えていた
メリテは雑草の葉先から視線を逸らし、真剣な顔で宮殿の議会場がある方に目をやった。宮殿の議会場ではもう、国の貴族達が激しくぶつかっているだろう。一方は、自分の正義を信じて。一方は、誰かの正義に寄り掛かって。一進一退の攻防(おそらくは、皇帝派が圧倒的に有利だろうが)を繰り広げている筈だ。その中には、彼が尊敬すべき父親の姿も混じっている。
彼はその光景に胸を痛めながらも、黙って議会場がある方を眺めつづけた。
イアラはその光景を眺めつつ、彼の思考をそっと推し測った。
「メリテ君はたぶん、あの事を考えているんだ」
ずっと前に話してくれた、あの恐ろしい計画を。皇帝陛下の暗殺計画を。あの鋭く光った眼光の奥で、じっと思い描いているんだ。その話を聞いた私が……あれは、ある月夜の事だったけど。
私は、その話にゾッとした。「あんなに優しかったメリテ君がどうして?」と。彼は、人はおろか、虫すらも殺せないような人だったのに。私は彼の両腕を掴み、その乱心を鎮めたい一心で、彼に「そんな事をしては、いけない」と訴えた。
「あなたが陛下を殺せば、多くの人がきっと不幸になります! あなたの両親も」
彼は私の目を見返し、私が彼の手を放した後も、真っ直ぐな目で私の事を見つめつづけた。
「お前は、悔しくないのか?」
「え?」
「シュベールの統治……いや、『統治』なんて言葉は綺麗過ぎる。アイツのアレは、圧政だ! 国民の生活を苦しめる。お前の親だって」
「私の親は、平民です。共働きの。父は、人に物を売って。母は……。私も、あなたの家にお仕えしている。そうしなければ」
「イアラ……」
私は(本当に無意識だったけど)、彼の身体を思わず抱きしめてしまった。
「あなたの気持ちは、良く分かります。皇帝陛下を恨む気持ちも。けどやっぱり、暗殺なんかしちゃいけません。あなた一人じゃ……。あなたも分かっているでしょう? 宮殿の守りは、完璧です。蟻の一匹」
「入れる隙は、ある。奴らの敵は、人間だ。足下の蟻なんて見向きもしないだろう。そこにオレの勝機がある」
「勝機?」
「そう、勝機だ。お前は今、『宮殿の守りは、完璧だ』と言ったが。完璧な物なんて一つも無い。完璧に近い物は、あっても。何処かに必ず、穴がある。その穴を見付けさえすれば……いや、オレは絶対に見つけ出してみせる。たとえ、自分の命が」
「メリテ君!」
この時初めて、彼の事を「メリテ君」と呼んだ。
「なっ! お前」
彼は私の態度に驚いたが、すぐに「分かったよ」とうなずいた。
「計画を話した代価だ」
「はい」
「イアラ」
「はい?」
「今の話は、誰にも言わないでくれ。オレの両親にも」
「分かっています。でも、『それ』は約束できませんよ? 私は、あなたの気持ちを知ってしまいました。他の人には決して聞かせられない、あなたの計画を。私には、『それ』を話す権利があります。たとえ、あなたに」
「嫌いになんかならないよ。オレは、お前の事が好きだからな。初めて会った時からずっと」
思いも寄らぬ告白に「えっ?」と驚くしかなかった。私は生まれて初めての告白に戸惑いを覚えながらも、その告白自体は嫌ではない、それどころか寧ろ、その想いを喜んでいる自分がいる事にさえ気づいてしまった。自分の中に潜んでいた想いが、急に表へと出て来たように。私も(無意識ではあったが)、彼が見せる不器用な優しさや、少年らしい真っ直ぐな心に触れて行く過程で、乙女の部分を静かに満たされていたのだ。
私は顔の火照りを隠すように、その顔を静かに俯かせた。
「私も、あなたの事が」
好き、の一言は言えなかったが、それでも彼には充分に伝わったようだ。
「そうか」
私達はお互いの気持ちに俯き、しばらくは何も言わなかった。
「やっぱり打ち明けて良かったよ」
「え?」
メリテ君は、少し照れ臭そうに笑った。
「アイツの暗殺計画を。本当は、死ぬまで黙っているつもりだったが」
「我慢、できなかったんですね?」
「ああ。死んだら、お前に告白できなくなる。それだけは、どうしても耐えられなかった」
私は彼の行動力に微笑んだが、それもすぐに消えてしまった。
「そう、ですか。でも」
「ん?」
「それとこれは、話が別です。私は、あなたのように強くありません。何を成し遂げようとする意思も、その意思を支える教養も。私には」
「そんな事は、ない」
彼は、私の手を握った。
「お前は、凄い女だ」
「凄い女?」
「そう。オレの世話係には、勿体ないくらい。聡明で」
聡明、の一言に心が揺らいだ。自分には何も無い、それこそ、ただのお世話係と思っていたけれど。彼が好きになってくれた私は、私が思っている以上に高い所を立っていた。その力を上手く使えれば……。
私は様々な事を天秤に掛けながらも、結局は恋の重りに
「メリテ君」
「なんだ?」
「私は、あなたの世話係です」
「知っている。それがどうした?」
「世話係は、主人の傍を離れられません。余程の事がない限りは。それが世話係の仕事ですから」
「お、おう」
「メリテ君!」
私は一つ、息を吸った。
「私も手伝います」
「なっ!」
「皇帝陛下の暗殺を」
「ダメだ!」
彼は、私の手を放した。
「暗殺は、遊びじゃないんだぞ!」
「知っています。知っていますけど、あなたが止めないのなら。私も、それについて行くしかありません。自分の心に従って」
「イアラ、でも」
「私も真剣です!」
「……死ぬかも知れないぞ?」
「メリテ君が、ですか?」
「違う。お前が、だ。戦いの途中で。それでも良いのか?」
「……はい」
「くっ」
彼は、何やらブツブツと呟いた。
「分かったよ。お前も一緒に来い」
私は、彼の返事にうなずいた。「はい!」と。そして……。
「おい?」
「え?」
「どうしたんだ?」の質問が、イアラの追憶を遮った。「さっきからぼうっとして」
イアラはその声に「ハッ」としたが、すぐに「な、何でもありません!」と誤魔化した。
メリテは、その態度に首を傾げた。
「そうか。何でもないなら良い」
「はい」
「行くぞ?」
「……はい」
二人は「うん」と頷き合い、町の道路をまた歩き出した。町の道路は、多くの人で溢れていた。市場の商品を眺めている者や、その近くで「アハハハ」と笑い合っている者。それらの者達が作り出す光景は……一見すると平和そのモノだが、先程から聞こえる人々の笑い声には、どう考えても穢い、聞き手の心を不快にする不協和音が含まれていた。それを聞いていたメリテが思わず苛々してしまう程の雑音が。
雑音の正体は、皇帝の正義に寄り掛かっている貴族達……つまりは、「皇帝派」の貴族を親に持つ若者や子ども達だった。彼らは奴隷の顔に唾を吹き掛けたり、平民の顔を睨んだりしていたが、自分よりも弱い、あるいは「弱い」と感じた穏健派の貴族達に対しても、その容姿を罵ったり、相手の足をわざと転ばせたりしていた。闘技場の壁に寄り掛かっていた少年達も、そう言う下劣な理由からビクトリナやタヌホの所に近づいて行った。
少年達はその目を笑わせながら、道路の真ん中を堂々と歩きつづけた。
二人の少女達は、彼らの接近に気づかなかった。お互いの会話だけに意識を向けていたばかりに、本来は聞き取れる筈の足音が、意識の外にすっかり抜けていたのだ。二人は自分達の後ろを振り返る事もなく、屋敷の時と同じ距離感を保ちながら、町の道路をゆっくりと歩きつづけた。
ビクトリナは、自分の周りを見渡した。彼女の周りは、彼女よりもずっと悲惨な人達で溢れている。商人に者を売って貰えない平民の青年は、その商人から「そんな端金じゃ、何も売れねぇよ!」と怒鳴られていた。道路の隅っこで「お腹が痛いよぉ」と訴える子どもも、その母親から「ごめんね、ごめんね」と何度も謝られている。正に地獄にも等しい光景が広がっていた。
彼女は、その光景にゾクゾクした。「ああ、自分はなんて特別なんだろう」と。特別な自分は、彼らの中を悠々と歩いて行ける。その権利が生まれた時から与えられているのだ。乞食の男から「どうか、お恵みを!」と頼まれても、その顔面を思いきり蹴飛ばしても良い。怪しい道化師から「どうぞ見て行って下さい」と言われても、その相手を「見るわけがないじゃない。この下衆が!」と罵っても良い。
ありとあらゆる事が許されるのだ。
流石に「皇位を寄越せ!」と言う願いは聞き入れられないだろうが、その親類になるのは決して夢物語ではない。ガルバ帝国の現皇帝、シュベール・ガルバには今、お妃が居ないのだ。その皇子や皇女達も、ずっと前に病で亡くなっている。だから今は、誰が皇帝のお妃になっても構わない状態になっていた。ビクトリナにも当然、その権利が与えられている。父親は皇帝派の頭目だし、その父親が「お願いします」と頼めば……でも。
ビクトリナは、自分の後ろをふと振り返った。彼女の後ろには……奴隷のタヌホが歩いているが、そのさらに後ろには、例の少年達が歩いていた。あの下劣な笑みを浮かべて。彼女の視線に気づいた時も……最初は何かに驚いていたが、すぐに「ニヤリ」と笑って、彼女の事をまた追い掛けはじめた。
ビクトリナはその場に止まり、自分の後ろにタヌホを促して、少年達の顔をじっと睨んだ。
少年達は、彼女の威嚇に怯まなかった。
「昨日も町の中で見たけどさ。お前、カミュ家のビクトリナだろう? 親父さんが皇帝派の頭目をやっている」
「そうだけど? それがなに?」
かなり高圧的な態度だが、それが
「俺らの親父も皇帝派でさ! いずれは、その地位を継ぐ事になっている。でも、やっぱり不安でね。お前の親父さんには、色々と教えて欲しいんだよ。『自分の娘をどうしたら落せる』とかさ。俺らはこう見えても、純情少年でね。奴隷の蹴り方は、分かるけどさ!」
少年達は、自分の言った冗談(と思っているらしい)に笑いこけた。
ビクトリナはその光景に眉を寄せたが、自分の後ろを振り返ると、今度は何処か呆れたような顔で、正面の少年達にまた視線を戻した。
「あたしも知っているわよ。でも、ごめんなさい。貴方達の事は、好きになれないわ。だって、あたしの趣味じゃないもの。そんなチャラチャラした。目鼻立ちは、悪くないけどね。あたしと付き合うには、ちょっと下品すぎる」
少年達は、彼女の胸倉を掴んだ。どうやら、今の言葉に腹を立てたらしい。
「ふざけんな! お前は、俺らと同じ貴族だろう? 同じ貴族同士なら、付き合ったって何の問題もないじゃないか!」
「問題ならあるわ。あたしと貴方達は、対等じゃない。その身分はたとえ、同じでも。あたしはね、自分の立場を弁えない人が大嫌いなの! 一人の相手にこんな、くっ! あたしと対等に付き合いたいなら」
その刹那に浮かんだメリテの顔は、彼女の瞳を切なげに潤ませた。
「一人で掛かって来なさい! ちゃんとした身なりで。それが格上の相手に対する礼儀よ!」
少年達は、彼女の言葉に押し黙った。
ビクトリナはまた、後ろのタヌホに振り返った。
「無駄な時間を過ごしたわね。あんたも退屈だったでしょう?」
「え? あ、はい」
タヌホは彼女の「散歩の続きよ」に頷いて、その後ろをまた歩きはじめた。
二人は(タヌホはかなり脅えていたが)、町の中を何事もなかったように歩きつづけた。
少年達は、彼女達の後ろ姿に舌打ちした。
「チッ、何が礼儀だよ? 馬鹿にしやがって。親の力に頼っている点じゃ、お前も俺達と同じじゃないか?」
「確かに」と、周りの少年達もうなずく。「親父がいくら皇帝派の頭目だからって。あの態度は、ないよな?」
「俺も、そう思う」
「俺も、俺も」
彼らはその場にしばらく立ちつづけたが、少年の一人が「面白くねぇな。行こうぜ?」と言うと、それに「そうだな」と頷いて、今の場所からゆっくりと歩き出した。
「アイツの事は……まあ、仕方ねぇだろう。良い女なら他にもたくさんいるからな。町の中を歩いてりゃ、その内に見つけられるだろう? 俺らの事を相手にしてくれる、良い女をさ」
「クククッ、そうだな」
彼らは二人が道の角を曲がった後も、厭らしい顔で「ニタニタ」と笑いつづけた。
二人は町の道路を進み、集合住宅の広がる場所まで行った。
ビクトリナは、周りの
「毎回見て思うけど。本当に穢い場所ね、ここは。
「そ、そうですね。それは」
「あんたも貴族の家に生まれたかった? あたしと対等の」
タヌホは、その返事に
「あ、う、わたしは」
ビクトリナは彼女の反応に苛立ったが、前方から歩いて来たある二人組が目に入ると、それまでの気持ちをすっかり忘れてしまった。視線の先には、ロハ家の少年と……くっ! 向こうもどうやら、こちらに気づいたようだ。
無言で睨み合う両者。
彼らはどちらが引くともなく、相手の動きをじっと窺いつづけた。
ビクトリナは不機嫌な顔で、メリテの前に歩み寄った。
「ホント、仲が良いわね。ロハ家の跡取りとあろう者が、今日も下僕と逢い引きなんて」
メリテは、今の表現に苛立った。イアラは確かに平民ではあるが、彼女の言うような下僕などでは決してなかった。ましてや、今のこれを「逢い引き」などと表現するなんて。隣の少女を愛する彼にとっては、彼女の表現はどうしても許せなかった。
「彼女は、オレにとって大事な人だ。自分のすべてを賭けても良いくらいに。『そんな人と逢い引きしたい』と思うのは、普通の事だろう?」
普通、の言葉に震えるビクトリナが感じた感情は嫉妬、恋の柱が一気に凍りつくような激情だった。
「普通、じゃない」
「なに?」
「あたしからすれば、ぜんぜん普通じゃないわ! 貴族と平民がそんな風に。平民は所詮、平民よ。貴族とは、対等には付き合えない。貴族と対等に付き合えるのは」
ビクトリナはイアラの顔を睨み、それから悲しげに俯いた。
「同じ貴族だけだわ」
イアラは、その言葉に首を振った。
「私は、そうは思いません。私の身分がたとえ、平民でも。私と彼は、同じ人間です。あなたの後ろにいる、確か『タヌホさん』でしたよね? ビクトリナ様のお屋敷にお仕えしている」
タヌホは自分の名前が突然呼ばれ、その返事に思わず戸惑ってしまった。
「は、はい! そう、ですけど。あなたは?」
「イアラ・トゥエーゼンです。メリテ・ロハ様のお屋敷にお仕えしている。あなたの事は、町の中で何度かお見かけしましたけど。こうしてお話しするのは、初めてでしたよね?」
イアラはお嬢様の隣を通り過ぎ、穏やかな顔で彼女に握手を求めた。
タヌホは、その行為にたじろいだ。平民と奴隷は、その身分に差はほとんど無かったが、イアラが浮かべる美しい笑みや、その着ている地味な衣服(衣服の着こなしは、上品だったが)に、少女特有の嫉妬、ある種の劣等感を抱いてしまったからだ。
彼女は……イアラ・トゥエーゼンは、自分よりもずっと美しい。その内面で輝いている秘宝も、金剛石のように煌びやかではなかったが、名も無い貴重な宝玉として、彼女の真っ直ぐな黒髪を、きめ細やかな肌を、太陽のようにキラキラと輝かせていた。タヌホに握手を求めた右手にも、慈悲の色が鮮明に光っている。
タヌホはその光に俯いたが、それが持つ温かさに胸を打たれて、彼女の握手に恐る恐る応えた。
「は、はい。初めてです」
二人は、互いの手をしばらく握り合った。
「冷たい手」と言ったのは、イアラだ。「でも、握り方は温かい。私は、好きです。あなたの手には、人の悲しみが詰まっているから」
イアラは優しげに笑って、彼女の手を少し強く握った。
ビクトリナはその光景に苛立つあまり、下僕の手を思いきり叩いてしまった。
「ふん! 何が『人の悲しみが詰まっているから』よ! 知った風な事を言って。この子は」
「奴隷か?」と訊いたのは、メリテだった。「その身なりを見る限り」
メリテは眼前の少女、タヌホの粗末な衣服に胸を痛めた。
ビクトリナはその視線を無視して、自分の下僕を「ふふふ」と笑いながら指差した。
「そうよ! 平民以下の屑。あたしは、その屑にパンと寝床をあたえてやっているのよ? お父様がこの子を買って来た時からね。あたしには……って! なに泣いているのよ!」
ビクトリナは、下僕の頬を叩いた。下僕が自分の罵倒に涙を流していたからである。彼女はその頬にもう一撃食らわせようとしたが、寸前の所で、メリテの右手に「止めろ」と止められてしまった。
メリテは、彼女の目をじっと睨んだ。
「お前の気持ちは、分かりたくもないが。もう止めろ。彼女もこんなに脅えている」
ビクトリナはその言葉を受けて、タヌホの顔に目をやった。タヌホは彼の言う通り、主人の暴力に酷く脅えている。メリテがどんなに「大丈夫か?」と話し掛けても、その言葉をただ聞き流すだけで、自分の身体をひたすらに振るわせつづけていた。
「くっ!」の声からは、お嬢様の苛立ちが窺える。「分かったわ。止めれば良いんでしょう? 止めれば!」
ビクトリナは従僕の手を引っ張り、その身体を強引に立たせた。
「今日の散歩は、これで終わりよ」
タヌホは彼女の声に応えなかったが、その命令自体には従った。
二人は例の距離感を持って、二人の前からサッと歩き出した。
メリテは二人の後ろ姿、特にビクトリナの背中を睨み付けた。
「本当に嫌な奴だな。あんなのが、自分の幼馴染だと思うと」
の続きは、イアラの言葉に遮られた。
「メリテ君」
「ん? なんだ?」
「私、あの子を救いたいです。あの子は、ずっと脅えていました。私があの子に握手を求めた時も」
「……イアラ」
イアラは真っ直ぐな目で、彼の目を見返した。
「これ以上、あの子のような人を増やしちゃいけません。自分の主人に意見を言う事もできず」
「そうだな。だから、アイツの暗殺は絶対に成功させなきゃならない。自分の命に代えても。俺達には、その責任がある!」
「はい!」
二人はまた、町の道路を歩き出した。
イアラは、その道路に胸を痛めた。町の道路は虚しく、そして、悲しみに満ちている。本当なら自由に生きられる筈の命が、「うるさい!」、「死ね!」と苦しめられているのを見ると、隣のメリテはもちろん、彼女の心もぐっと締めつけられてしまった。
彼らはどうして、あんなにも苦しめられなければならないのか?
一人一人の人生はもちろん、二人には分からない。だが、そのほとんどが「善人」である筈だ。善人は、社会の中を明るくしてくれる。神様からも、一番に救われなければならない筈なのに。今の社会では、最も苦しい存在になっている。宮殿の周りを守っている兵士達も。本当は、彼らの事を憐れに思っていた。無感動な顔で道行く人々を眺めているが、その胸中は決して穏やかではないだろう。彼らにだって、家族はいる。若い兵士には、恋人がいるかも知れない。あるいは、その肩を組み合える仲間や親友、兄弟達がいるかも知れない。それを思って歩くのは、二人にとって凄く辛い事だった。
「こんな時代に生まれて来なければ」と。社会の中にもっと、「自由」があれば。彼らにも、心の美を楽しむ時間が与えられたかも知れない。心の美は、誰に対しても平等だ。観る者の心に任せれば、それをどのように感じても許されるのだから。心の美は、人の数だけある。だから、「金が欲しい」と思う心も否まない。でも、それに溺れるのは別だ。金は人を生かすためにあって、人を殺すためにあるのではない。それを分かっていない連中が、今もこうして兵士達を立たせつづけている。彼らの心などお構いなしに、議会場の席に、『皇帝派』の領域に堂々と座りながら。自分達が今、どんな罪を犯しているのかも知らないで。
メリテは、その現実に眉を潜めた。できる事なら、今すぐにでも殺してやりたい。奴らのいる議会場に乗り込んで。奴らはきっと、その登場に仰天するだろう。自分の父は、「何故、お前が?」と狼狽するかも知れない。その姿は……正直笑えるが、議長席のシュベールは笑えないだろう。彼の眼前には、剣の刃がキラリと光っているのだから。
メリテはもちろん、眼前の皇帝に突撃する。皇帝派の貴族達が喚こうが、自分の父親が止めようが、その事はまるで耳に入れずに。彼の瞳に映るのはただ一つ、この国を滅茶苦茶にしている魔王だけだ。魔王の首はたぶん、そう簡単には落せないだろう。魔王だって弱くない。貴族達の噂に寄れば、「たった一人で野山の賊を蹴散らした」と言う話があるくらいだ。
メリテは、その話を恐れていた。魔王の根城に這入り込むのは、良い。だが、その首を果たして落せるかどうか? それだけが、どうしても不安だった。最初の覚悟がぐらついてしまう程に。彼はその不安……もっと言えば、葛藤と向き合いながらも、真剣な顔で問題の突破口を探しつづけた。晴れの日も、曇りの日も、雨の日には雨具さえ付けて。
彼は自分の世話係を隣に、幾日も町の中(特に宮殿の周り)を歩き回ったが、守りが手薄な所を見つける所か、皇帝がいざと言う時に備えて設けた筈の脱出口……つまりは「そこから逆に這入り込むための侵入口」ですら見つけられなかった。
文字通りの八方塞がり。
「暗殺」と言う明確な終着点は、見えない邪魔者にすべて押し隠されていた。
……夕陽の光に苛立つのは、いつもの事。
メリテはその光に俯き、世話係の「帰りましょう」に応えて、自分の屋敷に帰った。
イアラは屋敷の廊下を進み、食堂の前で彼と別れた。
メリテは食堂の中に入り(食堂の中では、母親が彼の帰りを待っていた)、その壁に剣を立て掛けて、それから母親の真向かいに座った。
「ただいま帰りました」
「お帰りなさい。今日の逢い、お散歩は楽しかった?」
「ええ、楽しかったですよ? 逢い引きの方は」
アイリはその言葉に目を細めたが、それ以上の反応は見せなかった。
「そう。それは、良かった」
「とう、父上はまだ?」
「ええ、まだ帰っていないわ。きっと」
「そうですか。まあ……盛り上がるような議題とは、思えませんけどね。議題の答えは、とっくに……くっ! つくづく馬鹿な連中ですよ。自分達が『選ばれた民だ』と思い上がって。相手の気持ちなんか、まるで考えようとしない。奴らは、本物の獣ですよ。オレは、そんな奴らの事が」
「許せない気持ちは、分かる。でも」
「何でしょう?」
「それに捕らわれ過ぎては、駄目。自分の正義を貫いた結果がいつも、良い方向に向くとは限らないから。正義は、非情よ。それを扱う資格がある者だけにしか使えない。その本質がたとえ、悪だとしても」
メリテは(色々と思う所はあったが)、彼女の言葉に俯いた。
「人はどうして、その悪に屈してしまうんでしょう?」
「怖いからよ、自分の命が惜しくてね。だから、それにも屈しようとする。本当は、屈するつもりなんてないのに。……メリテ」
「はい?」
「人間は、貴方が思う程に強くはないわ。文明の保護が無ければ、『人間』の地位すら保てない程に。その意味では、野山を駆け回る獣の方がずっと立派だわ」
アイリは少し淋しげに笑って、自分の両手を打ち合わせた。
「さて、お料理も冷めてしまうし。食べましょう、メリテ。今日の夕食は、野兎のステーキよ?」
「そう、ですね」
メリテは彼女が自分の夕食を食べはじめた時も、黙ってテーブルの上に目を落としつづけた。
アイリは、その様子に首を傾げた。
「どうしたの?」
「いえ」と応えるのに少し時間が掛かった。「何でもありません」
メリテは暗い顔ではあったが、野兎のステーキをペロリと平らげると、自分の席から立ち上がって、食堂の壁に立て掛けてあった剣を握り、食堂の出入り口に向かってサッと歩き出した。
アイリは、その背中に問いかけた。
「今夜も修行?」
「はい。もっと強くなりたいんで」
「そう。でも、あんまり無理しちゃダメよ? 何事も程々にね?」
「……はい」
メリテは食堂の中から出ると、少し遅れてやって来たイアラと連れ立って、屋敷の庭に行き、いつもの修行を黙々とやりはじめた。
イアラは少し離れた所で、その様子をじっと眺めはじめた。
彼らは屋敷の主人が帰って来た時も、それに気づかず、いつも日課をただ黙々とやりつづけていた。
ジエルは……妻の想像もあってか、息子の鬼気迫る雰囲気に思わず怯んでしまった。
「メリ、テ」
メリテはその声に「ハッ」とし、イアラもそれに続いて「あっ」と驚いた。
二人は各々に右手の剣を下ろしたり、屋敷の主人に頭を下げたりして、彼の帰りを心から喜んだ。「お帰りなさいませ、父上」、「お帰りなさいませ、旦那様」の声も同時。二人は彼の顔を見つめると、穏やかな顔でその「ああ、すまないな。今夜も、こんなに遅く」に微笑んだ。
メリテは、彼の前に歩み寄った。
「今日の議会は、どうでしたか?」
ジエルは、その質問に溜め息をついた。
「いつも通りだよ。正に平行線だ」
「そうですか」
「申し訳ない」
ジエルは、悔しげに苦笑した。
「イアラ」
「はい?」
「すまないが、今日も頼まれてくれるか? 朝には一応言ったのだが、もう一度念のために」
「もちろんです。今日も、そのようにお伝えして置きます」
「ありがとう」
ジエルは「ニコッ」と笑って、屋敷の中に入った。
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