第一部 狂った平和

第1話 狂った平和

 数年後の天井は、あの時とほとんど変わっていなかった。部屋の窓から差し込んでいる朝日はもちろん、その朝日が運んできた穏やかな空気も。僅かな変化こそあるが、「それをどう感じるか」の違いがあるだけで、根本的な部分は何も変わらない、時間の針が静かに動いているだけだった。世界の表面に水滴を少しずつ落とすように。


 少年の姿も……確かに大きくはなったが、その寝顔にはまだ子どもらしさが残っている。机の上に積まれた資料や歴史書が、彼の視野を広げ、思考の力を強めてはいたものの、断罪所の裁判記録に書かれた文字からは、彼の非力さ……もっと言えば、無力さが感じられた。


 彼はまだ、自分の夢を叶えていない。「うううっ」とうなされる彼が見ていたのは、自分の夢が潰される光景、必死に磨いた信念が容易く壊される悪夢だった。悪夢の先には「あいつ」が、帝国くにの天使達から「大天使」と呼ばれる男が、鬼のような形相で自分をじっと睨んでいる。自分の事を決して逃すまいと、鉄のような縄を使って、少年の身体を完全に縛っていた。大天使は部下の聖天使騎士団に命じ、あの呪文を唱えさせて、下界の世界に彼を追放した。


 その場面で目を覚ました。


 彼は心の動揺を抑え、その動揺が落ち着くと、朝日の光に若干ホッとしながら、椅子の背もたれに寄り掛かって、額の汗をゆっくりと拭った。正確な時間は、覚えていない。だが昨日も、机の上で眠ってしまったようだ。彼の頭が乗せられていた近くには、雑記帳が開かれたままの状態で置かれている。


「くわぁああ」と、あくびが漏れた。

 嫌な夢を見た所為で、眠気が思考の内側に残っている。

 

 彼は次のあくびを噛み殺し、椅子の上から立ち上がって、外出用の服に着替えはじめた。貴族が着るような派手な服ではなく、平民が着るような地味な服に。


 彼は「それ」に着替えると、必要な荷物を持って、部屋の中から出て行った。部屋の外は、静かだった。屋敷の内部を支える柱や石壁からも、彼の頭上に広がる天井からも、「音」と言う「音」がほとんど聞こえて来ない。すべてが不気味に静まっている。天井の窓から時折聞こえる声、小鳥のさえずりには僅かな安らぎを感じるが、それも一瞬の安らぎにしかならず、囀りが聞こえなくなった後は、屋敷の廊下を歩く足音、「カッカ」と言う自分の足音だけが、虚しく響きつづけた。


 彼はその足音を無視し、朝の光だけに意識を向けた。朝の光だけは、自分の心を癒してくれる。14歳になった自分の心を、それの平均にまで伸びた身長を、平均よりも少し痩せている体型を、「黒」が混じりはじめた金髪かみを、何の偏見も無く温めてくれるのだ。屋敷の廊下で擦れ違う……そう、召使い達とは違う。彼らは少年への忠誠心が無いのか、侮蔑の顔は浮かべても、朝日のように「お早うございます」と微笑んではくれなかった。


「何だよ?」の言葉にも当然、応えない。「言いたい事があるなら、はっきり言え! 卑怯な真似はするな!」


 彼らはそれすらも無視し、少年の前から居なくなった。


 レウードは、拳の怒りをぐっと堪えた。ここで怒りを解き放てば、自分はあいつら以下になってしまう。相手の立場を敬うどころか、平気で蔑む最低な存在に。身分の差をまったく気にしないレウードだったが、その線引きだけはどうしても譲れなかった。

 

 自分は決して、あんな風にはならない。

 

 彼は拳の力を緩め、自分の頬を何度か叩いて、それから屋敷の食堂に向かった。食堂の中では、彼の両親……つまりは、父のダリッシュと母のラフィナが朝食を食べていた。ダリッシュは、奴隷達が運んできた朝食を行儀良く食べている。一方のラフィナは……いつもの事だが、横柄な態度で周りの奴隷達を怒鳴り散らしていた。


 レウードは、その光景に眉を潜めた。


「コップが空になったわ! 次の飲み物を持って来て!」に(奴隷達が)不満を見せたら、まだ良い。奴隷達の事も、それ程嫌いにはならなかったのだろう。「夫人に逆らえない憂さを、その息子で晴らしている」と思えたから。でも、現実は違う。現実の奴隷達は喜んで、その命令に従っていた。

 どんなに酷い事を言われても、怒るどころか、涙一つ浮かべない。みんな、満足げに「はい、はい」と頷いている。母のテーブルに飲み物を運んだ奴隷は、それがまるで勲章のように誇らしくしていた。

 

 レウードは、眼前の光景から視線を逸らした。気持ち悪いとは、正にこの事だろう。胸の奥にうじが湧き、それが心の清浄さを食い荒らして行く感覚。その後に残るのは、空洞だらけの心、蛆が食い散らかした残骸だけだ。「うううっ」と、思わず唸らずにはいられない。この場所は、それだけ異常なのだ。自分のテーブルに座った時も、父親の挨拶を聞き漏らしてしまう程に。


 レウードは父親の顔を睨み、それからテーブルの上に目を落とした。


「おはよう、ございます」


 ぎこちない息子の挨拶。それが、ダリッシュには気に入らなかったらしい。


「なんだい? その挨拶は?」


「くっ」


「もっとはっきり言いなさい」


「……おは」


「ん?」


「おはようございます」


「よろしい」


 ようやく満足したようだ。


「やればできるじゃないか?」


 レウードはその言葉に苛立ったが、今日もやる事があったので、自分の朝食を仕方なく食べはじめた。


「頂きます」


 今度は言われないように、はっきりとそう言った。


 彼は無言で朝食を食べ、その朝食を食べ終えると、今の場所からそっと立ち上がって、自分の荷物に手を伸ばした。


 だが、「レウード」


 父親の目が、それをじっと睨んだ。


「今日も行くのかい?」


「うん」の言葉に迷いはない。「大事な日課だからね。止めても無駄だよ?」


「別に止めやしない。ただ」


 含みのある言い方だったので、思わず聞き返してしまった。


「ただ?」


「虚しくならないか? 毎日、毎日、『堕天使』の真似事なんかして」


 一瞬見えた炎はたぶん、父親に対する反発心だろう。自分の気持ちを分かってくれない、表面の優しさだけが特化した父親に対する。レウードは自分の牙が使えない、腑抜けな獣に対して、有りっ丈の皮肉をぶっ掛けてやった。


「国の飼い犬になるよりは、マシだよ。父さん達みたいに」


 眼前の犬は、吠えない。

 代わりに吠えたのは、それよりも恐ろしい猟犬だった。


「アタシ達が国の飼い犬ですって!」


 ラティナは顔を真っ赤にして、自分のテーブルを叩いた。


「ふざけるんじゃないわよ!」


 鼻息荒い猟犬を宥めたのは、その猟犬を愛する飼い犬だった。


「まあまあ、落ち着いて」


「でも!」


「君の気持ちは、充分に分かる。レウード」


「なに?」


「お母さんに謝りなさい」


「はぁ? どうして? 今の」


「良いから、お母さんに謝るんだ!」


 父親は、息子を睨んだ。

 息子も、父親を睨み返した。

 二人は互いの瞳を睨み合い、その平服を促し合った。

 

 だが、「嫌だよ」

 

 そこは親子、父親が引かないのなら、息子も当然引かなかった。


「レウード!」の怒声が響く。


 レウードは「それ」に怯む事なく、上着のフードを被って、食堂の中から出て行った。


 ダリッシュは、息子の態度に溜め息をついた。


「まったく」


「困ったものね」と、ラフィナも頷く。「うちの馬鹿息子には。親の言う事にいちいち噛み付いて。面倒くさいったらありゃしない。こっちは14年間、アンタの事をずっと育てて来たのよ? 親の務めを果たすためにね。それなのに!」


「ああ、あまりに酷い羞恥だ。とてもまともな子どもがする事じゃない」


「『反抗期』かしら? 『親の言う事に従わない』って言う。アタシも書物の中でしか、見た事がないけど」


「ううん。まあ、仮にそうだとしても。親の言う事に逆らうのは、やっぱり駄目だよ。自分は、自分一人で生まれてき来たわけじゃないんだから。親の言う事に従うのは、子どもにとって大事な義務だよ」


「アタシは、その義務を守ったわ」


「僕も、だよ。だから、君とも結ばれた。親の決めた相手と結婚し……まあ、その子どもには色々と問題もあるが、帝国の将来を担う命を育てて来た。僕達はちゃんと、義務を果たしているんだよ。僕らの先祖がずっと続けて来た、とても大事な義務を。だから」


 の続きが遮られる。ラフィナがずっと抱いていた不安によって。


「ねぇ、アナタ」


「ん?」


「あの子の事、一度お医者様にせた方が良いんじゃないかしら? だって!」


「そこから先は、言わない約束だよ?」


「分かっている」


 でも! と、ラフィナは叫んだ。


「アタシの育て方が悪かったのかしら? あの子の事を自由にさせ過ぎて」


「そんな事は、ないよ」


 ダリッシュは「ニコッ」と笑い、妻の背中を摩った。


「ずっと見て来たから分かる。君の育て方は、正しかった。生きる中で何を求め、何を抑えるべきなのか。アイツは、きっと」


「きっと?」


「アイツがなったのは、すべて僕の所為だ。僕がもっと、アイツに『社会』と言うモノを教えてやれれば。アイツは頭が良い……いや、良過ぎる。『余計な事』まで考えて、自分の妄想に苦しめられているんだ。有りもしない幻を現実だと思ってね。僕は、その幻想が憎い」


「アナタ」


 ダリッシュは、妻の涙を拭った。


「僕らの世界は、温かい。それを上手く付き合えれば、永遠の安息が与えられる。でも、その世界を裏切ったら……。ただじゃ済まない。待っているのは、真っ暗な未来だけだ」


「そうね」と呟くラフィナの声も暗かった。「あの子、堕天使にならないかしら? あの子の髪……出掛ける時は、いつもフードを被っているけど。がまた増えている。アレがもし、になっちゃったら?」


「その時は、仕方ないよ。アイツは『死んだ』と思って、諦めるしかない」


 ラフィナは、その言葉に泣き崩れた。どんな馬鹿息子でも、彼女にとっては自分のお腹を痛めた我が子だ。ウィル家の将来を担う、大事な、大事な一人息子だ。その一人息子を失うのは、やはり辛いモノがある。自分の息子には「傲慢だ」と思われている彼女だが、その根っこは何て事ない、ただのおっかないお母さんだった。

 息子に辛く当たるのも、「息子を立派な大人にしたい」と言う親心だったが、それ故に息子の見せる態度、そこに隠された意図が分からなかった。息子はどうして、あんなにも反抗的なのだろう? 世間の常識にはもちろん、親の言葉にもきちんと従って、「良い母親」を目指そうとした彼女には、息子の態度はあまりにも理解しがたいモノだった。


「いや」


「ん?」


「どんな息子でも。アタシは、あの子と別れたくない」


「ラフィナ……」


 ダリッシュは妻の身体を抱き寄せ、その頭を優しく撫ではじめた。


「落ち込んでいても仕方ない。仕事場へ行こう。アイツの愚かさは、同時に僕達の愚かさでもある。僕達の仕事は、文字の力で『それ』を正して行く事だろう?」


「……そうね」と、ラティナは微笑む。どうやら、彼の言葉で気持ちを立て直したようだ。「今は、アタシ達のできる事をしましょう」


 二人は優しく笑い合い、揃って屋敷の仕事場に向かった。レウードが町の道路を歩きはじめたのは、二人が仕事場の中に入ってしばらく経った頃だった。


 不機嫌に揺れる少年の瞳。


 彼は正面の景色を見つめつつも、怖い顔で町の道路を歩きつづけた。


「お母さんに謝りなさい、か」


 ふん! は、何も悪くない。今の現実にただ、危機感を抱いているだけだ。「社会の流れに従っていれば、それですべてが上手く行く」なんて。そんな考えは、おかしいよ。俺達は、生きているんだ。国の中で、社会の中で、自分と相手の関係の中で。その関係は、社会から与えられるモノじゃない。自分自身の手で作って行くモノだ。自分の運命や行動、思考や言葉がきっかけになって。父さん達の仕事は、最低の仕事だよ。「文字の力で天使達を、その心をいざなおう」なんて。

 

 ウェステリアの天使達は、その力にまったく気づいていない。俺の隣を通り過ぎて行った老人も、町の中を走り回っている子ども達も、そして……俺の後ろを歩く奴隷達ですら、その思想に「申し訳御座いません」と従っている。何の疑問も持たずに、それをただ正しいと信じて。心の正しさは、天使の数だけあるんだ。同胞殺しを悪と思う者もいれば、その関係者すべてを悪と思う者もいる。その違いこそが「個性」、もっと言えば「心」である筈なのに。

 

 今のウェステリアは……いや、ずっと前から狂っていたな。ウェステリアの国は元々……帝国の史料に寄れば、「天界」の辺境にある小さな共営地(国主や領主を持たず、平民だけで営まれる中立地帯)だった。その共営地がパプリルース、つまりは「初代皇帝」によって、今日こんにちまでの大帝国に発展したんだ。何千、何万もの犠牲を払って。帝国の奴らは、それを「尊い犠牲だ」と言うけど。俺には、やっぱり理解できない。


 パプリルースは、自国の整備を推し進めた。都の中に常備軍を置き、宮殿の中にも優秀な臣下達を揃えて。パプリルースは、独善的な男だった。自分の正義に逆らう者は、容赦しない。自分の正義は、絶対だ。彼は「動乱の原因は、天使達の心に住まう欲望」と考えて、「全体の調和から外れた者」を「悪」とし、同一の価値観、社会階層の徹底と言う「統一不動主義」を唱えた。

 

 統一不動主義は……最初は「それ」に刃向かう者も多かったが、最終的には帝国くにの天使達に受け入れられた。彼らは、疲れていたんだ。何度も繰り返される戦争、それが終わってようやく掴んだ平和。彼らは、その平和を手放したくなかった。帝国の思想に従ってさえいれば、自分達はもう二度と苦しまなくて済む。

 

 彼らは、皇帝の命に従った。自分達の才能すら棄てて。皇帝は、帝国の天使達(自分と、その後継者は除く)にある呪いを掛けた。天使達が本来持っている力、「天術てんじゅつ」とも言える力をすべて封じてしまったんだ(聖天使騎士団は例外として、大天使の呪いが解かれている)。

 天使達は「それ」に驚いたが、一方でその力に逆らおうとはしなかった。彼らは、今の平和に満足していた。今の社会が平和なら、特別な力は必要ない。当時の彼らに必要なモノは、「この平和がいつまでも続いて欲しい」と言う願いだけだった。

 

 レウードは、町の天使達を見渡した。


「彼らの願いは」


 今も続いている。俺の親が「統一不動主義」の正当性を書き表しているように。現在の天使達もまた、与えられた枠の中で生きているんだ。隣人の女性を笑い合ったりして。道の向こう側にいる女性達も、くっ! じろじろ見るんじゃねぇよ。俺の事が「おかしい」、「嫌い」って言うんなら、俺に直接言えば良いんだ。陰口なんて叩いていないで、堂々と。


 レウードは、自分の正面に向き直った。


「まあ良い」


 ああ言うのは、いつもの事だ。気にするだけ疲れる。それよりも今は、今考えなきゃならない事は。これから観に行く罪人の事。


「最初の罪人は確か、『ティティヌス』とか言う商人だったな」


 罪状は、商売の放棄……つまりは、国家統制への反逆。


「ふん! 何が永遠の平和だよ? 商売を辞めただけで罰せられるんじゃ、戦争よりもずっと酷いじゃないか?」

 

 レウードは怒りを露わにして、断罪所までの道のりをイライラしながら歩いた。


 

 時間としては、丁度その頃。彼が町の中を歩いている時分じぶんだ。断罪所にある控え室の中で、大天使が一人の青年に話しかけていた。昨日の夜遅く、実父をうしなった貴族の青年に。

 

 大天使は青年の肩に手を乗せると、普段の彼なら絶対にあり得ない、慈母のような表情で、眼前の青年にそっと笑いかけた。


「無理をせずとも良いのだぞ?」


 青年は彼の厚意に首を振り、人の良さそうな顔で「クスッ」と笑い返した。


「お気遣い有り難う御座います。ですが、この方が気も紛れるので」


「……そうか」


「大天使様」


「ん?」


「父は、立派な人でしたか?」


「ああ」と応えたのは、決してお世辞ではない。「側近にして置くには、惜しいくらいに。奴は、俺の義兄弟だった」


 青年の口許が笑った。たぶん、に喜んだのだろう。宝石のように輝く目からは、実父に対する尊敬の念が感じられた。


「そうですか。それは、本当に嬉しいです。自分の父が認められるのは。父は私にとっても、神のようなお方でした。貴方のお考えに何一つ疑問を持たず……」


 青年は、大天使の目を見つめた。


「大天使様」


「ん?」


「私も、父のようになれるでしょうか?」


「なれるさ。お前は、奴の息子だぞ?」


「……はい」


 大天使は彼の肩から手を退けて、その前からゆっくりと歩き出した。


「アダムス」


「はい?」


「初仕事だ。罪人を裁きに行くぞ?」


 青年の顔が一瞬笑ったのは、気の所為か?


 アダムスはすぐに頷いて、大天使と控え室の中から出て行った。


 二人は大天使を先頭に、断罪所の通路を歩きはじめた。断罪所の通路は広く、通路の途中で聖典騎士団の団長と擦れ違った時も、特に避ける事もなく、その道を真っ直ぐ進む事ができた。

 

 アダムスは、騎士団の団長に会釈した。団長の青年も無愛想な顔で、それに応えた。二人は互いに視線を逸らし合い、黙って断罪所の通路を進みつづけた。

 

 大天使は、断罪所の断罪席までアダムスを連れて行った。断罪席の前では、臣下達が大天使の到着を待っていた。ある者は神妙な顔で、またある者は両目に輝く物を浮かべて。アダムスの姿を見た臣下は、何も話す事なく、ただ彼に温かな笑みを向けていた。

 

 大天使は、彼らの顔を見渡した。


「既に知っている者もいるだろうが」


 臣下達は、その言葉に暗くなった。


「俺に長年仕えてくれた臣下、ノア家のマクマートが……昨夜、自宅のベッドで息を引き取った。死因は、卒中風そっちゅうぶ(卒中を略さず言ったもの)。遺体は、屋敷の召使いが発見したと言う」


 だな? と、アダムスの顔に目をやった。


「はい」


 アダムスは悲しげな顔で、周りの臣下達を見渡した。


「葬儀は、明日です。場所は我が屋敷で行いますので、皆様も是非ご参加下さい」


「もちろん!」と頷く臣下達。「是非参加させて貰うよ」


 を聞いて、青年の口許がまた笑った。


「有り難う御座います」


 大天使は、彼の肩に手を置いた。


「不安な事も多いだろうが。マクマートの後任は、このアダムスに任せようと思う。誰か不服な者はおるか?」

 

 臣下達は、彼の質問に首を振った。


「いいえ」


「御座いません」


「すべては、貴方のお心のままに」


 アダムスは、臣下の全員に頭を下げた。


「若輩では御座いますが、どうぞ宜しくお願いします」


「いやいや、こちらこそ」と、臣下達。「マクマート殿には、色々と世話になったからな。その恩返しができると思うと」

 

 臣下達は、新米審議官を快く迎え入れた。

 

 大天使は、青年の肩から手を退けた。


「さて、そろそろ時間だ」


「はい」と、新米審議官の返事。周りの臣下達も、それぞれの定位置に腰を下ろした。


 彼らは神をも恐れぬ顔で、断罪所の審議場を見下ろしはじめた。

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