幕間?のようなもの。11月8日に思いついた話。

第509話 赤裸々女子トーク!イン・昼下りのリビング

 「……前々から思ってましたけど……キュク……じゃなくて、ロザリンさんって、その……大きい、ですよね」


 とある休日、赤レンガアパートの双魔の家の方のリビングでイサベルがそんなことを言い出した。


 「むぐっ?むぐむぐ……ごくんっ……?」


 イサベルの目の前に座っていたロザリンがフィナンシェを食べながら首を傾げた。因みにフィナンシェは鏡華とイサベルが二人で作ったきなこのフィナンシェ。和と洋のハーモニーを奏でる逸品だ。


 ロザリンはフィナンシェを咀嚼して飲み込むと、もう一度首を傾げた。何を言われているのかは分かっていなさそうだが、名前で呼ばれて嬉しそうだ。


 ロザリンが双魔と正式に恋仲となってからはこうしてよく遊びに来ているロザリンは、イサベルとも仲良くしたいと名前で呼ぶことを提案してきていたのだ。その流れで親交を深めようと一緒にいることが増えたので、ロザリンの無表情からも結構感情が読み取れるようになってきた。


 「イサベルはん、ロザリンはん分かってないみたいやけど……あと、うちも」


 イサベルの隣に座って緑茶を啜っていた鏡華が静かに湯呑を置いた。大胆に言うことでもないと思って濁したのが良くなかったらしい。


 「ああ、ごめんなさい……その、ですね……」

 「……?……よいしょっ」


 首を傾げていたロザリンはイサベルの答えを聞く前に何故か立ち上がった。


 「ロザリンはん、何かあった?」


 鏡華が立ち上がったロザリンを見上げる。突然立ったのでそう聞くのも順当だ。


 「私、大きいよ?背」

 「せやねぇ、うちよりも、イサベルはんよりも大きいねぇ?双魔と同じくらい?」

 「うんうん、同じくらい」


 ロザリンはこくこくと頷いた。双魔の身長は百七十五センチメートルだが、ロザリンは並ぶとちょうど同じくらい。確かに大きかった。が、二人のやり取りを見たイサベルは申し訳無さそうな表情だ。


 (……そうだけど……言い出したのは私だし……それに、双魔君と一緒にいればそういう話題にもなるかも知れないし……誤魔化さないで、聞いた方が……いいわよね?うん、その方がいいわ……うん)


 「「?」」


 何も言わないイサベルが薄く頬を染めたので、ロザリンと鏡華は顔を見合わせた。


 「えーとですね……確かに背も大きいですけど……違うんです……私が言いたかったのは……胸のことです」


 「……おっぱい?」

 「…………はい」


 ロザリンはきょとんとすると、自分の胸を両手で触ってもう一度首を傾げた。たゆんと豊かに実った二つの果実が揺れる。双魔がたまに目を奪われては目を逸している、魔性の動きを見て、イサベルは深く頷いた。少し気まずそうに。


 「ほほほ、確かにロザリンはんは胸もうちらの中で一番大きいねぇ?」


 ロザリンと同じようにぺたぺたと自分の胸を触った鏡華が明るい声でそう言った。が、どこかおかしい。


 (…………鏡華さん……いつもより迫力が……もしかして……気にしてた!?)

 イサベルは鏡華の笑顔を見て、背中に冷や汗が滲み出たような気がした。たまに見せる貼り付けたような凄みのある笑顔だった。虎の尾を踏んでしまったかもしれない。


 ロザリンはイサベルが言うように大きい。一言で言えば巨乳だ。全体的に引き締まっているが、主張すべきところはしっかり主張したメリハリボディ。


 一方、イサベルはスレンダーかつ女性らしい体型だ。胸のサイズは普通だが、梓織たちちは美乳と褒められたことがある。


 そして、鏡華はというと……その胸は彼女の性格を映したように慎ましやかだ。大中小で言えば紛れもなく小。三人の中で一番背が低く、華奢だというのもあるかもしれない。が、イサベルは自分のデリカシーのなさを後悔した。


 「でも、おっぱい邪魔だよ?普段も、闘うときも。動きにくいし」


 (っ!?ロザリンさんっ!!?)


 「……ああ…………」


 ロザリンの天然発言がイサベルのいっぱいいっぱいになりかけた心に石を投げ入れ、恐らく怒っている鏡華の心にも油を注いだ。思わずイサベルは声を漏らしてしまった。もう鏡華の方を見ることもできない。「ゴゴゴゴ……」と鏡華の迫力が耳鳴りのように感じられる。


 「鏡華ちゃんくらいの方が動きやすくていいと思うよ?」

 「…………」


 もうただの油どころではない、ロザリンがさらに灯油かガソリンをドボドボ注ぐわ、鏡華は口角をピクリとも動かさないわで、イサベルはもう何というか逃げ場がない。


 「イサベルちゃん、変な顔してどうしたの?」

 「い、いえ……そのぅ……」

 「……ぷっ!……ふふふっ!イサベルはんおかしな顔して!ほほほほ!」

 「……え?きょ、鏡華さん?」

 「?」


 しどろもどろになったイサベルがそろりそろりとロザリンと鏡華の顔を交互に見ていると、仮面のような笑顔を崩して噴き出した。いつも双魔をからかっている時のようにコロコロと鈴の音のような笑い声を上げたのだ。ロザリンはまた不思議そうに首を傾げている。


 「ほほほほ!イサベルはん、うちが胸の大きさ気にして怒ってる思うたやろ?」

 「…………それは……その……」

 「鏡華ちゃん、全然怒ってなかったよ?」

 「そっ、そうなんですか?」

 「うんうん、私分かるよ」


 如何やら直感鋭いロザリンは最初から鏡華が怒っていないのが分かっていたらしい。それで、様子のおかしいイサベルを見て首を傾げていたらしい。イサベルは鏡華に一杯食わされたのだ。


 「ごめんなぁ?イサベルはん、たまに双魔に似てるからからかいたくなってしまうんよ」

 「私と双魔君が?」

 「そっ!どこが似てるか気になってる?そのうち自分で気づくと思うから、ひ・み・つ」

 「お、お見通しですか……まあ、いいです……でも、本当に胸の大きさのことは……気にしてないんですか?」

 「ぜーんぜん!女の価値は胸の大きさやあらへんよ。双魔もそんなこと気にしぃへんし。それはイサベルはんも知ってるはず。ロザリンはんも」

 「それはそうですね」

 「うんうん」


 鏡華の言うことは全部その通りだった。流石、幼い頃から双魔と一緒にいるだけある。悔しいとかいう気持ちはないが、付き合いの長さでは鏡華に敵わないとイサベルは思った。


 「それに……うちが胸の大きさを気にしないのはもう一つ理由があるんやけど……知りたい?」

 「な、何ですか?」

 「なになに?」


 鏡華が楽しそうに笑っている。この笑顔は双魔のことを話す時の笑顔だ。もちろんイサベルもロザリンも気になる。ロザリンは椅子に座って鏡華の方に身を乗り出した。


 「確かな筋から聞いた話やけどね……双魔は……」

 「確かな筋……」

 「……双魔くんは?」

 「双魔は……胸よりお尻はなんやって」

 「「っ!!?」」


 鏡華の口から出た双魔の驚愕マル秘情報にイサベルもロザリンも息を呑んだ。同じ年代の男子たちとは違って、ほとんど女性の趣味を語らない双魔がまさか……お尻が好きだとは。イサベルは無意識に右手で自分のお尻を触ってしまった。


 (はっ!私ったらはしたない……でも、私も形は悪くないはず……梓織たちも美尻って言ってくれてたし…………)


 「双魔くんはどんなお尻が好きなの?」

 「わっ私も知りたいですっ!」

 「ほほほほ、もちろん教えたげるよ……あんな…………」

 「……」


 ロザリンが一瞬、ドアの方尾を見たが三人は顔を寄せ合って楽し気にガールズトークを続ける。話題は好きな人について。しかも好きな人はみんな同じ。こうして、休日の昼下がりあっという間に過ぎ去っていくのだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「………なんつー話をしてるんだ……」

 「ソーマ?はいらむぐっ?」

 

 ティルフィングとレーヴァテインを連れて散歩に行って帰ってくると鏡華がイサベルとロザリンにとんでもないことを吹き込んでいるのが聞こえてきた。話を聞いているのをバレるわけにはいかない。双魔はティルフィングの口を軽く押さえて唇に指を当てた。


 「しー……レーヴァテインもな」

 「まあ、別に構いませんけれど……」

 「もう少し外をぶらついてこよう。そーっと、な」

 「「……」」


 ティルフィングとレーヴァテインを連れて双魔は音を立てないように家を出た。


 「……宗房の奴……いや、ハシーシュ小母さんか?どっちもあり得るか……覚えてろよ……」

 『カッカッカッッカッカッカッカッ!』

 『クックックックックックッ!』


 脳裏に浮かんだ高笑いする悪友とハシーシュにいつか仕返しをしてやると誓いながら。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る