第477話 見知らぬ遺物
『みなさーんっ!元気っスかーーーーー!!』
オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
聞き覚えのある元気な声が闘技場に響き渡った。そして、その呼びかけに応えて更なる歓声が上がる。
丁度舞台の真上の空中に魔力東映による巨大なビジョンが出現した。そこには鉢巻を巻いた茶髪のポニーテール少女の気合十分といった笑顔が映し出された。
『もういっかーい!みなさーんっ!盛り上がってるッスかーーーーーー!!!』
オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
『ばっちりッス!みなさんお待ちかねっ!ブリタニア王立魔導学園学園祭二日目のメインイベント!遺物科と魔術科の模擬戦の時間ッス!おっと!自己紹介が遅れましたッス!アタシは本日の信仰を勤める魔術科のアメリア=ギオーネ!よろしくっス!』
アメリアちゃーーーん!!!!
『どうもどうもッスー!』
『アメリア殿―?』
アメリアは自分へのコールを聞いて照れ臭そうに笑う。その横からのんびりとしたこれまた聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『おっと!今回は解説としてアタシのお友達に助っ人に来てもらったッス!紹介するッス!』
アメリアの声と共に映像の向きが変わり、今度はくるくるとした白い癖っ毛に眠そうな眼の少女とウェーブのかかった黒髪を優雅に揺らす大人びた少女が映った。
『小さいほうが左慈愛元ちゃん!大きい方が幸徳井梓織ちゃんッス!みんなもよろしくっス!』
愛元ちゃーーーん!梓織さーーーん!
『いやはやー、アメリア殿のお蔭でわれらも人気のようですなー』
『そ、そうなのかしら?まあ、いいわ。しっかりアメリアをサポートするからよろしくね?』
ワァァァァァァァーーーーーーーーー!
梓織がマイペースな愛元に微妙に突っ込みながらも目配せをするとまた歓声が上がった。映像も三人娘が並んだものに切り替わる。
『それでは早速参りましょうッス!遺物科第一試合選手入場ッスーーーーー!!!』
オオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーー!!
アメリアの合図で舞台の上に遺物科の二人が入場する。闘技場内の熱気はもう相当なものだ。そして、今からさらに上がっていくに違いなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
試合は順調に進んでいる。十試合予定されている試合の内、既に七試合は終了した。というのも、遺物使い同士の戦闘はあまり長引くことはない。大概はその遺物の特性を最大限に活かした闘いを行うため、特性の相性や両人同士の意図しない限りは短時間で決着がつく。
ここまでの試合は学園に所属する者たちから見ればあまり面白いものではないが、一般客たちは熱狂している。派手な一撃か飛び交う闘いは見世物としては魅力的なのだろう。しかし、お蔭で警備に集中できるというものだ。
「ん、今のところ……問題はなさそうだな。ティルフィングは何か気づいたか?」
「む?うむ……さっき見た頭巾の遺物が何処かにいないかと思って探しているのだ」
「……アイツか……」
ティルフィングが言っているのは入り口で見かけた大きな頭巾と漢服が特徴的な遺物らしき人物のことだ。警備に引っ掛かっていないのは怪しい動きをしていないからだろうが、この闘技場内にいるのは間違いない。
「むぅ……この辺りにはいないようだな。気配も感じない」
「そうか……ん、まあ、何かしようとするならゲイボルグとロザリンさんが気づくはずだ。何かあった時にすぐ動けるようにしておこう。それに、アイツ以外にも何かしようとしている奴がいるかもしれない。一つに気を取られるのは良くないだろ」
「うむ!そうだな!……ところで……皆、美味そうなものを食べているな……」
ティルフィングはちらりと観客たちが手にしている食べ物を見た。ハンバーガーにポテトフライ、フライドチキン、フィッシュアンドチップスにクレープ。イベント会場にぴったりな食べ物が闘技場内で売られているのだ。ティルフィングが気になってしまうのは仕方がない。
「……もう少し我慢してくれ。この試合が終わったら……」
オオオオオオオオオオオオオオーーーーー!
「この試合が終わったら何か買ってやるから」、と言おうとした瞬間、闘技場内が歓声で満たされた。如何やら決着がついたようだ。
『おおっとーー!決着がついたッスーー!』
『最後まで実力は伯仲でしたなー』
『そうね。持久力で差がついたわね。しかもほんの少し。とてもいい勝負だったと思うわ』
アメリアのテンションの高い実況に愛元と梓織が冷静に解説を加えている。舞台上では熱い闘いを繰り広げた両者が握手で互いの健闘を称え合い、更なる歓声が上がった。
「ソーマ!」
「ん、分かった分かった」
約束を口にする前に決着がついてしまったが、ティルフィングにせがまれては仕方ない。双魔は気を抜かないよう、周囲に目を配りつつ、フードショップまでティルフィングに引っ張られていくのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「むぐむぐむぐ……」
ティルフィングがフードショップの前で目を輝かせているころ、一足先に食べ物を買い込んで口にしつつ、闘技場の高い柱の上に陣取って下を見下ろしている者がいた。
「ロザリン、何か気になることはあったかー?ふぁあ……」
ロザリンだ。隣ではゲイボルグが寝転んで大きな欠伸をしている。双魔とフェルゼンが観客席を中心に警備をしているので、ロザリンは全体が見渡せる場所から目を光らせているのだ。
「もぐ……ごくん……怪しい人はいないけど、珍しい遺物がいる。見かけない遺物?」
「あん?どれ……あー……アイツか……」
ゲイボルグはのそりと起き上がるとロザリンの見ている方を見た。確かに見かけない遺物がいた。容姿からして恐らく中華の遺物だろう。人型をとっているので、相応の力を持っていることは間違いない。そして、ロザリンの言う通り見かけない遺物だった。
「……何か探してる?はむっ……むぐむぐむぐ……」
「そう見えるな。ヒッヒッヒ!目の前じゃ試合をやってるってのに、何を探してるんだか……」
視線の先の遺物は目の前で繰り広げ始められた遺物使いたちの闘いはそっちのけにキョロキョロと何かを探しているようだった。そんな姿を見つめていると、ふと中華の遺物はこちらを向いた。
「あ、こっち見たね?」
「ヒッヒッヒ!気づかれたか。さて、どうする?」
ゲイボルグが少し身構えた。が、遺物はこちらに気づいただけで何かをするつもりはないのか、また移動しながら何かを探し始めた。
「……やっぱり、何か探してるみたい。どうする?」
「とりあえず、放っておいていいんじゃねぇか?」
「うんうん……でも、誰なんだろうね?もぐ……」
ロザリンは首を傾げて大きなハンバーガーに齧りついた。
オオオオオオオオオオオオオオーーー!!
その短い間にもまた、もう一試合模擬戦の決着がついたようだった。
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