第476話 いよいよメインイベント!

 「……初めて見たがすごい人だな」

 「うむ!列の最後が見えないな!」


 闘技場の前へ到着した双魔とティルフィングはその人の列を目にして呆然としていた。


 闘技場の正面入口から観覧希望の一般客が長蛇の列をなしていた。学園の正門の方へ向かって列は伸びており、最後尾が見えないので恐らくれるは学園の外まで達しているにちがいない。


 この盛況は毎年のことらしく、運営本部の傘下には模擬戦管理委員会がそれなりの人数を擁して設置されており、等間隔でその委員が列の整理をしている。闘技場内の警備は管理委員のメンバーを指揮下に置いて行わなければならない。打ち合わせは済んでいるが、人の数を見ると早く行って少しの時間でも確認をしておいた方がよさそうだ。


 「ティルフィング」


 双魔はティルフィングに右手を差し出した。ティルフィングはすぐに握ってくれる。人混みではぐれては大変だ。幸い、学園に所属する者は関係者専用の入り口からスムーズに入ることができる。正面入り口から離れてそちらに向かう。


 「……む」

 「ん?ティルフィング?」


 手を繋いで歩き始めて少し経った時、ティルフィングが足を止めた。双魔も足を止めてティルフィングが見ている方を見てみた。するとそこには……。


 見かけない人物が歩いていた。スラリと背が高い。少なくとも双魔よりは高い。中性的で端正な顔立ちで、性別は判断できないが後漢時代の男性貴族の服を身に纏い、頭には大きな頭巾を被っている。明らかに只者ではない。


 「……遺物か?」

 「うむ。かなり強いと見た。だが、我は見たことがない者だな」


 ティルフィングは遺物たちのサロンにいることが多いので学園に所属する遺物使いと契約している遺物とは大体顔見知りだ。ティルフィングが知らないとなるとその正体に謎を感じてしまう。


 「そうか……あ……」


 頭巾の遺物はこちらの視線に気を留めることなく足を止めずに関係者専用の入り口の中へと消えていった。


 「ううむ……行ってしまったな?何者だったのか……」

 「まあ、今はいい。一物抱えている感じでもなかったしな。行こう」

 「うむ!」


 謎の遺物については気になるが今仕事が優先だ。二人も早足で闘技場に入って集合場所に向かうのだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 「悪い遅くなった」

 「双魔、精が出るな!双魔の指揮下に入る管理委員のメンバーが待ってるぞ!俺はもう最終確認を済ませた!」

 「フェルゼン。流石だな。俺もすぐに済ませる」

 集合場所の放送室の隣の部屋に設置された管理委員会本部に着くと双魔以外は揃っていた。

 「むぐむぐむぐ…………もぐもぐもぐ……」


 ロザリンは起きてから朝食が間に合わなかったのか、学食で売っている弁当を大量に持ち込んでマイペースなブレックファーストタイム中だ。。


 双魔はそんな姿を見て苦笑を浮かべながら、フェルゼンに言われたようにすぐ最終確認をする。


 「これで大丈夫ですか?」

 「ああ。あとは臨機応変に」

 「分かりました!それじゃあ、俺たちは警備に入ります。何か問題が起きたら報告します!」

 「よろしくな」


 事前の打ち合わせをしっかりしていたおかげで確認はすぐに終わった。管理委員の学生たちがぞろぞろと本部を出ていく。


 部屋に残ったのは管理委員会の委員長をしているフェルゼンのクラスメイトとフェルゼン、双魔、ティルフィング、ロザリン、そして何故かハシーシュが椅子に座ってふんぞり返っていた。


 「……こんなところで何してるんだよ」

 「あん?あー、本当はデモンストレーションで私と安綱でゲストの“滅魔の修道女”と“聖絶剣”の相手をする予定だったんだけどな?色々あってキャンセルになったからここで時間を潰してんだよ……あー、完全にサボってるわけじゃねぇぞ?安綱が闘技場の中を見て回ってる。カラドボルグとゲイボルグもその辺で目を光らせながらブラブラしてるんだろ?」


 双魔に小言を言われると思ったのかハシーシュは先手を打って自分も状況を説明してきた。話を振られたフェルゼンとロザリンも頷いている。


 「それは分かったが……デモンストレーション?」

 「あー、聞いて無くて当然だ。あのじい様はサプライズが好きだからな。私としてはそれもなくなって清々って感じだぜ!クックック……」


 また、学園長の企画だったらしい。が、それも流れてハシーシュはご機嫌のようだ。


 (……まあ、それはいいとしてキャンセルになった理由は……まさかな?)


 双魔の脳裏にはある人物の顔が思い浮かんだが、それはあり得ない。すぐに思考をかき消した。


 「そういや双魔。お前、その紙袋はなんだ?」


 変なところに目聡いハシーシュが双魔の持っている紙袋に気づいて指差してきた。別に隠すことでもないので話してもいいだろう。


 「ん?ああ、出店で面白そうなものがあったからシャーロットにな。せっかく学園祭なのに身体の具合が悪くて寝込んでるだけじゃかわいそうだろ?」

 「なんだぁ?双魔、六道にガビロール、キュクレインじゃ足りなくて今度はアイツまで狙ってるのか?堅物の天全と違って随分な色男振りだな?クックック!」


 ハシーシュがそう言って楽しそうに笑うが双魔としては心外だ。下心など一切ないというのに。それに鏡華たちとの関係もからかわれている。ハシーシュは面白がって言ってるのだろうが、こういう時はしっかりと怒っておくに限る。遺憾の意を伝えるために冷たい眼差しをハシーシュに送る。


 「…………」

 「う……じょ、冗談だよ。ちょっとからっかてみたくなっただけだって……」


 ハシーシュは双魔が怒っているのをすぐに察したのかしどろもどろになって言い訳をしはじめた。が、すぐに許す気はない。双魔はさらに冷たい視線をハシーシュに突き刺す。


 「そ、そんなに怒るなよ……反省したって……もう言わねぇから……そんなに怒らないでくれよ……」


 双魔が相当怒っていっると思ったのか、ハシーシュは両手を上げて降参のポーズをとった。怠惰な皮肉屋のハシーシュだが根は面倒見がよく優しいのは双魔もよく知っている。そろそろ許してやってもいいだろう。


 「……俺だって怒りたくて怒ってるわけじゃない」

 「いや、本当に悪かったって……侘びじゃないけど、ちょうど今からシャー……リリーのところに行くんだ。そいつを渡しといてやるよ。多分、双魔から渡されたんじゃアイツも素直に受け取らないだろ?」

 「…………」


 言われてみればそんな気もする。双魔は少し想像してみた。


 『別に気を遣っていただかなくて結構です。私が自分で体調管理を怠った結果ですから。情けなんてかけないでください』


 不機嫌そうに突っぱねるシャーロットがすぐに思い浮かんだ。ここはハシーシュに頼むのがいいかもしれない。


 「……ん、じゃあ、よろしく」

 「ああ、よろしくされた。んじゃ、私は行く……双魔、ごめんな……根に持たないでくれよ?……じゃあな」


 ハシーシュは叱られた子どものような表情のまま部屋を出ていった。


 「……まったく」

 「ハハハハハ!双魔の前じゃ先生もいまいち格好がつかないな?」

 「あの人は本当にいざという時しか格好がつけられないんだよ……不器用なんだ」

 「うんうん、いい人だけどね?」


 フェルゼンとロザリンの弁護?に双魔も笑うしかない。


 「評議会の皆さん、第一試合が始まりますのでよろしくお願いします」


 それまで黙っていた管理委員長が口を開いた。闘技場内には観客が一杯に入って相当盛り上がっている。いよいよ二日目のメインイベントの開始だ。


 双魔たちは顔を見合わせて頷くと闘技場内の観客たちを守るため、役目に繰り出すのだった。


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