第437話 恋の問診:ロザリン&イサベル編
「さて、クラウディアくんの話が面白……ゲフンッゲフンッ!想いが強かったからね、私も熱が入ってしまったよ!イサベルくん、二人が戻ってくるまであとどれくらいだい?」
「……はあー……あと七分です」
「思ったより時間を使ってしまったかな?二十分なんて言わずに三十分にすればよかったか……」
「……議長?」
フローラの調子のいい言葉を聞いたイサベルがジロリと睨んだ。
「おっと!冗談冗談!時間もないし、次はロザリンくんの番だね!」
「……?私?」
今までほとんど呼ばれなかった自分の名前を聞いたロザリンはフローラの顔を見て首を傾げた。
「そう、君の番さ!まどろっこしい話は抜きにしてズバリ!ロザリンくん、君、一人の男性として好きな人物がいるだろう!?」
「?後輩君のこと?」
「えっ!?」
(……やっぱり、そうよね……)
フローラにビシリッと指差されたロザリンは、また首を傾げながらあっけらかんと双魔の名前を口にした。
これに、クラウディアは絶句していた。つい一分ほど前まで自分が好きだと話していた双魔の名前が遺物科の評議会議長の口からも出てきたのだ。驚かないはずはない。
一方、ロザリンの双魔への思いを薄々気づいていたイサベルはさほど驚きはしなかった。
(……いくらロザリンさんが変わってるとはいえ……心を許しただけじゃなくて、特別好きな相手じゃななければ、普段からあんなことしないわ……)
イサベルは評議会室に行く度に双魔に抱きついているロザリンの姿を思い浮かべた。双魔は大型犬に懐かれた程度の認識だったようだが、イサベルの目から見ても、鏡華の目から見てもそんなはずはなかった。
「フフフッ!流石、遺物科の頂点に立つ武人!真っ向から受け止められてしまったね!」
「?何を言ってるの?」
「相変わらず天然のようだね!もしや、想いももう伝えてあったりするのかい?」
「うん。この前」
「「っ!?」」
ロザリンがフローラの問いに頷くと今度はイサベルとクラウディア、長年、片想いをこじらせてきた二人に衝撃が走った。
「フフフフッ!まさに電光石火だね!因みに、いつ、どんな風に告白したんだい?双魔くんの反応は?」
「この前、二人で出掛けた時?ほっぺにチューして、『私のことも、好きになってくれなきゃ駄目だよ?』って。後輩君の顔、真っ赤だったよ?」
「「…………」」
「……いやはや……ここまでとは……」
フローラの矢継ぎ早の質問に、あっけらかんと答えるロザリンの言葉を聞いた奥手組二人は最早言葉を失っていた。フローラでさえ少し驚いてる。
「うん?私、何か駄目だった?」
「いや、素晴らしい!素晴らしいよ!ロザリンくん!君は自分の力だけで恋愛の道を切り開いていくタイプだ!」
「私もクラウディアちゃんみたいに何かした方がいい?」
聞いていないようでしっかり聞いていたのかロザリンはフローラへのような助言があるかどうかを訊いてきた。フローラはゆっくり首を横に振った。
「君に私から言うことはないよ!君は君の思うままにするのが一番いい!敢えて言うなら……」
「何?」
「既に君は攻城戦に取り掛かってる!しかも、もう少しで陥落しそうだ!双魔くんは絶対に気味のことを一人の女の子として意識しているからね!このまま攻め切ってしまうべきだよ!頑張ってくれたまえ!」
「うん、分かった。頑張る」
また、大仰に手を広げて見せたフローラの言葉にロザリンはコクリと頷いた。ほとんど無表情のロザリンの感情を読むことは難しいのだが、今のロザリンが自信とやる気に満ちているのがイサベルには分かった。
(い、いつの間にそんなことに……でも、予想はしていたから……鏡華さんの言っていた通りだし……)
イサベルは鏡華と初めて、双魔について話をした時を思い出した。
『イサベルはんがどうやって落とされてしもたのか、うちは知らへんけど、きっとうちと同じようなもんやろし……このまま放っておいたら、きっと、もっと同じような子が増えると思うけど、双魔が余所見しようとうちのことも見てくれるんやったらそれでええの……ど?イサベルはんは、沢山の自分以外の女に愛されて、いちいちそれに応える男は嫌?』
イサベルは双魔は自分以外の女の子の思いに応えることを承知で、双魔に思いを告げたのだ。だから、後悔も、クラウディアとロザリンを邪魔するようなことも決してしない。
(……私も双魔君にもっと好きになってもらえるように頑張らないと)
イサベルはロザリンの真っ直ぐな思いに当てられて決意を新たにした。一方、クラウディアも……
(……キュクレインさんもだなんて……でも、私には私の……武器があるはず……もう……諦めたりなんか……しません!)
フローラの助言で、引っ込み思案で積極的になれなかった少女の中で確実に何かが変わっていた。恋する乙女は強いのだ。
「さて!最後にイサベルくんの番だ!!」
「っ!私もですか!?」
残り時間も二分を切ったところで、フローラはビシリとイサベルを指さした。振られると思っていなかったイサベルは驚きのあまり、腕時計を二度見してしまう。
「何、ほんの少しだけ、私が言いたいことを言うだけさ」
「……まあ、聞くだけなら」
「おや?今日は往生際がいいね?」
「怒りますよ?」
「おっと!冗談冗談!それじゃあ、恋愛の導き手、フローラ=メルリヌス=ガーデンストックが伝えよう! まあ、この短い時間で分かった通り、イサベル=イブン=ガビロールくんの愛しの君、伏見双魔くんはモテモテなわけだ!これから先、彼を慕う女の子はもっと増えていくはずさ!」
「……やっぱり、そうですか……」
フローラの言葉に動揺する自分はいなかった。同じことは鏡華にしっかり伝えられている。そして、不思議と不安も感じなかった。他に自分よりも魅力的な女の子が現れたら、双魔の自分への想いは薄れてしまうのではないか。そんな、あって当然の不安を、イサベルは感じなかった。
「しかーし!しかしだ!君は心配する必要はない!彼の君への愛は薄れない!むしろ深まっていくよ!何故なら、君は彼を愛し、彼に愛されることによって成長している!そして、これからも成長し続けるからさ!」
「……成長」
フローラの口にした”成長”という言葉。イサベルが不安を感じない理由がそこにあると感じた。でも、理由は分からない。その理由を、フローラはしっかりと示してくれた。
「そう!君は彼を信じることで、彼への愛情と愛情を受けていることへの自信を手に入れているのさ!自覚はないかもしれないけれどね!その自信は全ての物事にプラスに働く!まさに大きな翼さ!君の存在は揺らがない!双魔くんにとってのオンリーワンさ!だから、自覚するべきだ!君が自信を培っていることをね!私が伝えたいことは以上だ!何か、質問があれば後ほど、快く受けよう!」
「……はい。ありがとうございます。流石、恋愛の導き手。たまには人の役に立つだけのことも出来るんですね?議長」
「イサベルくん、君ィ!それは失礼じゃないかい?」
微笑みを浮かべて、礼と共に少しだけ皮肉られたフローラは不満げだ。それを見て、イサベルはもう一度微笑んだ。
時間は丁度、二十分。
コンッコンッコンッ!
追い出された男二人組が、外から厚い扉をノックしているのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます