魔剣少女と契約した低血圧系魔術師、実は女神の生まれ変わりでした?魔導学園で学生と講師を両立しながら何とか生きていこうと思います。ー盟約のティルフィングー
第436話 恋の問診:クラウディア編(その2)
第436話 恋の問診:クラウディア編(その2)
「…………」
問いを投げかけたフローラは何も言わずに、ただクラウディアを見つめて答えを待っている。広い会議室が静寂に満ちる。能天気なロザリンは退屈らしく声を出さずに欠伸をしていた。
そのまま、五分ほど経っただろうか。クラウディアがおもむろに顔を上げた。泣きそうになってしまっているが、その表情には一種の覚悟が見て取れた。
「……私は……」
「うん、思ったままを言ってくれればいいさ」
「私は……その、出来ることなら双魔さんに一人の女性として見てもらって……お付き合いしたいです!でも……」
(……やっぱり)
「…………」
決心をした勢いなのか、クラウディアははっきりと思い人が双魔だと口にした。上の空だったロザリンも双魔の名が出た瞬間、クラウディアをジッと見始めた。
「……でも……双魔さんにはもう綺麗で……素敵な……許嫁さんがいますから…………無理は言えません!その!……双魔さんが幸せでいてくれれば……私はそれで……」
クラウディアの声は段々尻すぼみになっていき、最後の方はよく聞き取れなかった。が、双魔の幸せを第一に、自分が出しゃばらないつもりらしい。
(……許嫁……鏡華さんのことね……そう言えば、私と双魔君のことってどれくらいの人が知っているのかしら?クラウディアさんは……知らないみたいだけれど……)
イサベルは自分が双魔の婚約者になったことをあまり口にしないようにしている。双魔は何も言ってこないが、知られれば興味本位で人が集まってきて双魔が嫌がるだろうと思ったからだ。
「……なるほどね……話は分かったよ。クラウディアくん」
「……はい」
「バカーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「っ!?……」
「ちょっと!議長!?」
クラウディアの答えを聞き終えたフローラは大きく頷いたかと思うと、突然目を見開き、大声でクラウディアを罵倒した。あまりの声の大きさに空気がびりびり震えた。
クラウディアが驚きと悲しみからか、涙を零したのが目に入り、イサベルはフローラを止めようとした。が、止まらなかった。
「クラウディアくん!君はバカなのかい!?諦めるのが早すぎるよ!!!」
「え?え?」
「ここにいるイサベルくんを見たまえ!彼女は君の言う双魔くんの許嫁がいるのを知ってもなお、果敢に攻め込んで恋人を飛び越えて婚約者になったんだぞ!このガッツを君も見習うべきだ!!」
「……え?」
衝撃の発言にクラウディアの目から零れ落ちかけた涙も引っ込んだ。眼鏡の向こうの目を真ん丸にして、呆然とイサベルを見ている。そして、もの凄い勢いで飛び火したイサベルが慌てる番だ。
「ぎ、議長!!!?どこでそれを!?相手のことは話してないのに……」
「フフフフッ!イサベルくん、甘いな!!私はこの学園のほとんど全て、庭の野ウサギの恋愛事情にまで通じているのさ!君の恋愛なんて秘密にしてたってちょちょいのちょいさ!!!」
「なっ!ななななっ!」
(そうよ……クラウディアさんの心のうちが分かっているのに……普段から一緒にいる私が見抜かれてないはずなかった……しかも……双魔君のことを好きな娘の前で堂々と明かされるなんて……)
完全に不覚だった。しかも、フローラの言いようを聞くと、偽の恋人作戦から婚約までの経緯もすべて把握されているらしい。
(……沈黙は金)
「…………」
これ以上ボロを出すわけにはいかない。イサベルはだんまりを決め込むことにする。
「イサベルくんはこれ以上何か話す気はないようだけどね」
(……見抜かれてる)
「いいかい、クラウディアくん。よく聞きたまえ」
「え、あっ!はいっ!」
あまりの衝撃にポカンとしていたクラウディアにフローラは穏やかに語り掛けた。
「君の双魔くんを想う気持ちは本物だ。数多の恋を見てきた私が保障しよう。だから、君が心掛けるべきことと、すべきことを教えよう。いいかい?」
「は、はい!お願いします!!」
状況理解が済んでおらず、ハイになっているのか、気合十分な返事をした。
「うん、いい返事だ。まず、心掛けるべきこと。それはもっと積極的になることだ。自分なりでいいから、君の思いをアピールしないとダメだよ。宗房はシスコンだから代わりに君を双魔君に意識させようとしているけど、宗房は胡散臭いから双魔君は冗談だとしか思ってないからね?フフフフッ、双魔くんは気が利くけれど、肝心なところは鈍いからね。そうだろう?イサベルくん?」
「…………」
(……無視よ、無視……)
「おや、まだ沈黙を破らないのかな?」
同意を求められたがイサベルは口を閉じ、両目も閉じた。フローラのペースに飲まれたくはない。
「わ、分かりました!頑張ります!で、でも……どうアピールしたら……」
「そこは自分で頑張らなくちゃ!でも、まあ、困ったらイサベルくんに相談するといいよ!君と同じでアピール下手のくせに周りに背を蹴っ飛ばされてからは巧くやってるからね!」
「っ!あんまり勝手なこと言わないでください!!」
「おお、遂に金が溶けた!噓は言ってないだろう?君だって大分長く片思いをこじらせてたじゃないか!!!」
「っ!!!私のことはもういいでしょう!!ホーエンハイムさん!!」
「は、はい!」
「困ったことがあったら相談に乗るわ!この人には間違っても相談しちゃ駄目!絶対面白がって変なことを提案するから!」
「わ、分かりました!よろしくお願いします!ガビロールさん!!」
目を釣り上げたイサベルに一瞬、怯えたクラウディアだったが、逆に頼もしさを感じたのか、また気合十分な返事が返ってきた。
「散々な言われようだなぁ……まあ、いい。残ったすべきことだけ伝えておくよ。君、双魔くんの許嫁、六道鏡華くんと面識はあるかい?」
「鏡華さんですか?……その、一応ありますけど……」
「それは重畳だ!君がすべきことは六道鏡華くんに気に入られることだ!」
「……それは……どういうことですか?」
クラウディアは頭の中で話を繋ぎ切れていないのか、混乱している様子だった。それを見たフローラはイサベルに視線を向けたが、そっぽを向かれてしまった。完全にへそを曲げてしまったらしい。
「フフフフッ!何、簡単な話さ!君、日本や中国の側室制度について知っているかい?」
「……側室制度……」
「まあ、簡単に言うと男一人に正妻一人。その他に男と情を通わせる女たちを側室とか妾と言って、その女性集団を奥なんて呼ぶ。で、双魔くんの奥のボスが六道鏡華くんという訳さ。彼女はこの時代の女性としては度量が広いというか、価値観が少し違うみたいだからね。彼女に気に入られた上で、双魔くんにアタックをかけて陥落させれば君の恋は叶うってわけさ!証拠にイサベルくんは彼女ととても仲良しだしね……」
「鏡華さんに……な、なるほど?」
「ああ、君が双魔くんをどうしても独り占めにしたいって言うのなら、それは血で血を洗う抗争の始まりだ!因みに、そんな気は……」
「あ、ありません!……その、双魔さんに好きになってもらえるなら……それだけで……」
クラウディアの頬がまた、ぽぽぽっと赤く染まった。
「まあ、伝えることは伝えたよ。後はイサベルくんや宗房を頼りながら頑張るんだね!」
「っ!はい!その……私、勇気を出してみたいと思います!」
「うんうん、その意気さ!」
(……凄い……クラウディアさんの目、燃えてるわ…………でも、今じゃなくてもいいのに)
フローラに発破を掛けられたクラウディアの瞳は厚い眼鏡のレンズ越しでも輝いて見えた。フローラはそれを見て満足げに頷いていた。隣に座ったイサベルに心の中で呆れられているとは全く気がついていないようだった。
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