第七章「神獣戦線」
第358話 狡知の巨蛇
「はぁっ!……はぁっ!……はぁっ!んぐっ…はぁっ…………」
”
アイギスの”
既にこの籠城戦をはじめてからかなりの時間が経過している。
”界極毒巨蛇”の毒の息や噛みつきによる猛攻を耐え抜くために途中で切り札である真装を発動し、何とかここまで耐えたがこれ以上は無理だと心ではなく身体が叫んでいた。膝は震え、頭上に掲げているアイギスもいつもとは比べものにならないほど重い。鳩尾の周辺が鈍く痛む。
(……これまで生きてきて一番ピンチかも……でも、双魔に任されたんだ……双魔は僕を信じてる……みんなも頑張ってくれてる……だから!僕がみんなを……学園を、ロンドンを守るんだ!守り切ることがきっと勝利に繋がるからっ!)
「……シャー!」
ドゴォォォッ!バシィィィッ!
「ッ!……グゥッ!」
何度目になるか分からない”界極毒巨蛇”の超質量による頭突きと尻尾による一撃がアイギスの障壁を襲った。骨が軋み全身に痛みが走る。しかし、アッシュは倒れない。
”破邪の雲羊聖鎧”に付属している六つの小盾を展開させ、それらを起点に障壁の強度を上げている状態だ。それがなければもう学園もロンドンも消滅しているだろう。
「アッシュはん!」
「オーエン君!」
後ろから鏡華とイサベルの声が聞こえると同時に全身が温かい魔力に包まれて痛みが僅かに和らいだ。二人が回復の魔術を掛けてくれているのだ。
鏡華とイサベル、聡明な二人はは神代の怪物に抗する手が自分にないとすぐに悟り常時アッシュとフェルゼンのサポートに回ってくれていた。
鏡華は主に回復を、魔術の専門家であるイサベルは回復や強化を器用に使いこなし直接防衛を担当している遺物使い組を上手く助けていた。アッシュが倒れずに済んでいるのも二人のおかげが大きい。
一方、限界を超えたフェルゼンは腕から血を流したまま仰向けに倒れて戦闘不能に陥っていた。カラドボルグが付きっ切り、等時間間隔でイサベルが手当てをして復活を図っている。カラドボルグは単体でも重力網を発生させ”界極毒巨蛇”の動きを鈍くすることができるが現状は契約者であるフェルゼンと共に剣気を行使した方がいい。故にフェルゼンの復活を待っているのだがフェルゼンは精魂尽きてしまったのか息はあるもののピクリとも動かない。
フェルゼンが倒れてからアッシュは”破邪の雲羊聖鎧”を発動している。そもそも遺物の”真装”とは切り札であり絶対的な力を発揮するがその分契約者の魔力、体力の消費は途方もない。
ブリタニア宮廷騎士団に所属しフェルゼンよりも経験を積んでいるアッシュにとってもこれより先は限界を超えた領域だ。まず何よりも心で負けてはいけない。アッシュは改めて頭上にそびえる巨大な毒蛇の顎を睨んだ。
アッシュが見上げたタイミングと”界極毒巨蛇”が攻撃を繰り出そうと再び極太の尾を振り上げるタイミングは奇しくも重なった。
(ッ!来るッ!)
アッシュは大質量の襲撃に備えて身体に力を込めた。鏡華とイサベルのおかげで痛みは和らぎ体力も幾分か回復している。先ほどと同程度の攻撃なら耐えられる。
「…………?」
『どうしたのかしら……何か不気味ね……』
しかし、いつまで経っても尾が降ってくる気配はない。”界極毒巨蛇”はピタリとその動きを止め、舌を小刻みに動かしながら無機質な瞳でジッと獲物であるアッシュたちを見下ろしていた。
猛攻を突然やめたことにアイギスも思わず懸念を呟いた。そのまま数瞬が過ぎる。
”界極毒巨蛇”はまだ動かない。油断することなくアッシュは怪物と対峙する。さらに数瞬が過ぎ、”界極毒巨蛇”はやっと動いた。
「……シャー!」
尾を鳴らして先ほどと同じように尾を振り下ろして障壁を破ろうとした。アッシュにはそう見えた。故にアッシュは冷静に腰を低くどっしりと構えた。が、次の瞬間アッシュに迫る尾は見たことのない特異な動きを見せた。
「ッ!?」
単純に振り下ろされるのではなく尾の先端が柔軟に曲線を描いた。そして、それは”破邪の雲羊聖鎧”の小盾の一つを直撃した。面ではなく点を攻撃された分威力が集中される。
バチッ!
小さな音共に”界極毒巨蛇”の尾先は六つの小盾のうちアッシュの右正面に展開していたものを叩き落とした。直後一瞬、障壁が歪み強度が下がる。
”界極毒巨蛇”がここにきて垣間見せていた狡猾さを発揮してきたのだ。ついに”界極毒巨蛇”は厄介な神盾による障壁に風穴を開けることに成功した。
「……ッ!すぐに修復を……えっ?」
『アッシュ!!!危ないっ!!!』
幸いアッシュが直接”界極毒巨蛇”の一撃を受けたわけではない、追撃が来る前に障壁を修復しようとしたアッシュに隙が生まれた。アイギスがほとんど上げたことのない大声を上げた。
目の前には既に触れた瞬間に身体がバラバラになってしまうであろう巨大な鱗に包まれた蛇体の一部が迫っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます