第359話 虹霓覚醒
ズガアァァァァァァン!
凄まじい衝突音と衝撃波が辺りに響き渡った。”界極毒巨蛇”の巨尾が神盾使いを圧し潰した。そう見えた。
「…………」
しかし、”
「アッシュっ!!」
カラドボルグが叫んだ。その瞳には垂直に跳躍し”界極毒巨蛇”の尾をアイギスで受け止めているアッシュの姿が映っていた。
「ぐ……ぐぐぐぐ……がぁ!」
”界極毒巨蛇”の尾はその動きを完全に制止され仮想の学園を傷つけることを一切許されなかった。アイギスが光り輝きアッシュの雄叫びと共に尾は弾き飛ばされた。
それと同時にアッシュは屋上へと落ちていく。”
「オーエン君っ!」
落下地点にイサベルのゴーレムが滑りこみアッシュを受け止めた。
「……ぅ……がっ!…………」
傷だらけとなったアッシュは僅かに呻き、吐血するとそのまま気を失った。
「アッシュ!?アッシュッ!?しっかりなさい!」
すぐさま人間態に戻ったアイギスが呼び掛けるが反応は返って来ない。
「アイギスはん!アッシュはんの状態は?」
イサベルと共に駆け寄った鏡華がアイギスに問うた。今すぐアッシュの状態を詳しくみることができない以上契約で深く繋がっているアイギスに聞くのが最も正確だ。
「……左右の肋骨にひびが入っているわ……それと全身打撲……命に別状はないわ」
「よかった……そしたら問題がもう一つ、障壁はどうなるん?」
「……貴方、冷静ね。流石、双魔の横にいるだけはある……障壁は私が直接展開するわ。強度は落ちるでしょうけどね……」
アイギスは踵を返すと手を軽く振った。すると瞬時に崩れかけていた障壁が元に戻った。が、本人の言ったように輝きが弱まり強度は落ちているように見えた。
「……体内の魔力流れに乱れ……これを治めないと体に障る……鏡華さん、オーエン君は私に任せてください!」
「よろしゅうな」
イサベルはゴーレムに命じてアッシュの身体をそっと屋上に横たえると胸下部に両手を添えて魔力の捜査を始めた。こちらはイサベルに任せてしまうのが吉だ。
(…………玻璃、うちはどないしたらええの?)
鏡華は迷っていた。実を言えば鏡華はこの状況を一気に打開する力を有していた。しかし、それはこの世において行使してはいけない力だ。即決を旨とする鏡華も迷わざるを得ない。それほどに封じるべき力。浄玻璃鏡に相談する他なかった。
(……彼の……力……は…………使う……べき……で……はない……今……は……信じ……る……こと……だ……)
浄玻璃鏡の返答は予測していた「否」だった。そして、浄玻璃鏡が「信じよ」と言うなら信じるべきものがあるはずだ。しかし、事態は逼迫している。視界には忌まわしき障壁を弱体化させ本格的に獲物を仕留めようとする”界極毒巨蛇”の顎と尾こちらにが狙いを定めていた。
(信じる……誰を?双魔?ううん、双魔は自分の運命と対峙してる。せやから……アッシュはんを?フェルゼンはんを?それとも…………)
「……シャーッ!」
逡巡しているうちに”界極毒巨蛇”が仕掛けてきた。超質量の尾がアイギスの障壁に迫る。
「…………」
アイギスは両手を胸の前で組んで力を障壁に巡らせ受けの構えとっている。が、恐らく受けきれて一度。
(……くっ!あかん!ごめんな、おじい様!責任は後でとるわ!玻璃っ!)
「我が身は裁きを決する者、地獄の主たる閻魔王の力を受け継し者!汝らその威容をとくと双眼に焼きつけよ!」
曼殊沙華の髪飾りが揺れてしゃらりと音を立てる。鏡華の目元に紋様が浮き出、装いが制服から曼珠沙華紋様の漢服に深紅の羽衣、黒の冠へと変じる。
閻魔王の孫としての真の姿。この姿の鏡華は冥府の裁判長としての閻魔王の力だけでなく、地獄の王としての閻魔王の力を行使することが可能になる。その絶大な力を以ってすれば”界極毒巨蛇”を退けることができる。ある代償と引き換えに。
『主……心を……鎮め……よ……』
「そないに悠長なこと言うてる暇あらへんよ!」
珍しく声を大にした浄玻璃鏡と同じく普段は見せない焦燥を露にした鏡華。短い口論のうちに”界極毒巨蛇”は尾を振り下ろした。
「ッ!!あかんっ!?」
鏡華は後に自分に下される罰を覚悟で封じておくべき力の解放を行おうとした。後が無くなってはどうにもならない苦渋の決断だ。浄玻璃鏡を胸の前に掲げた。
「……オオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーー!!」
しかし、それよりも一瞬早く力強く心をそこから震わせるような、まさに真の戦士が放つ雄叫びが木霊した。
「誰っ!?…………は?」
雄叫びの聞こえる方に視線を向けた鏡華は思わず気の抜けた声を出してしまった。視界に入ったイサベルもアッシュを介抱する手を止めて同じような表情を浮かべていた。
二人の視線の先には強烈な剣気を全身に纏い七色に光り輝く筋骨隆々とした一人の勇士、フェルゼン=マック=ロイが堂々たる様子で立っていた。
片手にカラドボルグを握り締め、鬼気迫る表情、盛り上がった筋肉で制服のブレザーとシャツは弾け飛び、盛り上がった筋肉が空気に晒されている。
『ふむ……どう……やら……限界……を……越え……覚醒……した……ようだ……』
「……覚醒?」
『いつの……世……も……戦人……は……かよう……な……もの……だ……』
浄玻璃鏡がゆっくりと話している間に異変に気がついたのか”界極毒巨蛇”の標的は光り輝くフェルゼンに移っていた。
「…………シャーッ!!」
数瞬の間、見定めるようにフェルゼンを凝視すると”界極毒巨蛇”は尾を繰り出した。アイギスの障壁を打ち崩したときのように尾の先端は槍の如く一直線にフェルゼン目掛けて宙を突き進んだ。
「ッ!」
防御に徹しているアイギスがその眉を歪めた。恐らく点を意識しての一撃は受けきれないと判断したのだろう。されど、フェルゼンの覚醒は決して見掛け倒しではなかったことが次の瞬間に明らかとなる。
「”
フェルゼンは右手に握ったカラドボルグを天に掲げ高らかに叫んだ。”
フェルゼンの勇壮な声と共にカラドボルグはその剣身から膨大な虹色の剣気を放出した。七色に光り輝く剣気はやがて巨大な刃の形状となる。まさに”極大剣”だ。刃の長さは十メートルはくだらないだろう。
「オオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーー!!!!!!」
二度目の雄叫びを上げ、フェルゼンは左手を右手首に添えて迫り来る”界極毒巨蛇”の尾目掛けて振り下ろした。
神殺しの怪物と覚醒を果たした英雄の末裔、両者渾身の一撃が衝突した。
”虹輝く斥力・極大剣”に触れた瞬間、”界極毒巨蛇”の巨大にして強固な鱗と屈強たる筋肉、堅牢な骨によってなる尾は弾け飛び消滅していた。
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