第299話 運命の女神

 また、夢を見ている。つい昨日見たばかりの夢の、母から聞かされた寝物語の続きだ。この物語の最後はどうなるのだったか。うろ覚えのまま、夢の世界へと深く深く潜りこんでいった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ある時一人の銀色の髪が美しい女神が女の子の閉じ込められている樹の前を通りました。


 「あら?あなた、どうしたの?」


 女神は剣の女の子に優しく微笑みながら話し掛けました。女の子は今まであったことをぽつり、ぽつりとすべて話しました。すると女神はこう言いました。


 「じゃあ、あなた今日から私の妹にならない?」


 剣の女の子は女神が何を言っているのか理解できませんでした。けれど、女神は誰にも破ることのできなかった檻をいとも簡単に開けると女の子の手をとって歩き始めました。


 女の子は戸惑いを隠せませんでしたが、女神の優しさに触れなんだか懐かしくて暖かい気持ちになりました。


 「じゃあ、あなたのことをおじい様やお父様に紹介しなくちゃ!」


 そう言って女神は大地の世界の中心にある神王の宮殿に剣の女の子を連れていきました。


 宮殿に居た神々は皆揃って仰天しました。それはそうです、王が苦労して封印した存在が宮殿に現れたのですから。


 光の神はそのことを急いで王に伝えに行きました。


 「父上!私の娘が件の剣を連れて宮殿に来ています!!」


 王は仰天して飲んでいた葡萄酒を思わず吹き出してしまいました。しかし、連れてきてしまったものは仕方ありません。


 王は気をとり直して謁見の間に行くと女神が剣の女の子を抱っこして笑顔で立っていました。


 「お祖父様!この子を今日から私の妹にしたいの!ダメかしら?」


 何と女神は王の孫で裁定と真実を司る神でした。彼女の考えは必ず正しい方向に向いていると神々の誰もが思っていました。


 「ハハハハハ!いいじゃないか兄上!面白そうだし、私は賛成だ!」

 「まあ!小母様ありがとう!」


 王が判断に迷い、侍っていた神々も困惑から抜け出せない中、神々の中で唯一の黒髪だった知恵の神が最初に裁定の女神に賛成しました。


 知恵の神は王の妹であり、変わり者でよく厄介ごとを持ち込んでくるので他の神々からは毛嫌いされていましたが、その実力から王に重く用いられる助言役でもありました。


 裁定の女神をよく可愛がり、裁定の女神も他の神々とは違って知恵の女神によく懐いていました。


 知恵の神が賛成したことにより他の神々の間には裁定の女神に反対する空気が流れます。


 「…………」

 「……大丈夫よ、ね?」


 神々にジロジロと視線をぶつけられて怖がる剣の少女を女神は優しく抱きしめてくれました。


 「おじい様、お願い」

 「……よかろう」


 王は悩みに悩んだ末、首を縦に振りました。心配は残るものの、自分のせいで悲惨な目に遭っている幼気な少女を哀れに思ったのです。それに、可愛い孫の頼みを断る気も起きませんでした。


 神々も王の決定ならばとそれ以上反対することなく剣の少女は無事に女神のもとに迎えられました。


 そうして銀髪の女神の黄金と白銀で彩られた館での剣の少女の新たな生活がはじまりました。


 女神との生活は非常に穏やかな日々でした。


 朝起きると女神と一緒に水浴びをし、その後は長い髪を梳いてもらいます。


 「あなたの髪、とても綺麗ね!もし、元に戻ったらきっともっと綺麗になるわね!」


 優しく頭を撫でながらそう言われて、剣の少女は不思議な気分になりました。


 かつて、小人の夫婦と一緒に暮らしていた時のことを思い出すと紅い瞳からぽろぽろと涙がこぼれます。


 それを見た女神はいつも優しく抱きしめてくれました。


 「大丈夫よ、あなたと私はずっと一緒。どこにも行ったりしないわ、ね?」


 優しい声に耳を撫でられて涙はさらに溢れ出ました。でも、それは悲しみの冷たい涙ではなく、温かい涙でした。


 お腹いっぱいのご飯を食べ、女神と手を繋いで散歩をする穏やかな日々は次第に少女を変えていきました。


 王と神々の心配をよそに剣の少女は女神と過ごすうちにどんどん明るく活発になり、黒く染まり元に戻らなかった髪も段々と女神と同じ美しい銀髪に、血色の瞳も輝く黄金に戻っていきました。


 元の姿に戻った女の子は女神に瓜二つでそんな二人を見ていると誰もが微笑ましく暖かい気持ちになること ができました。


 そんな二人を見て王は剣の所有権を孫娘に譲ることにしました。二人はそれを大変喜びました。


 神々の疑念の心も氷解し、知恵の女神や雷の神をはじめとした多くの神が剣の少女に優しくしてれるようになりました。


 小人の醜い虚栄心を切っ掛けに悪意と鮮血に染まった剣の少女は優しい女神の手に渡り、温かな幸せを掴むことができたのです。

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