第三部『傀儡姫の危機一髪』プロローグ

第130話 予想外のライバル? 騒動の予感

 冬期休暇が終わってから二回目の週末、日曜日の昼過ぎ。ブリタニア王立魔導学園のから少し離れた古風な赤レンガ造りのアパートの前に一人の少女が立っていた。


 紫黒色の髪を白のシュシュでサイドテールに纏めている少し背の高い少女だ。


 アイボリーのセーターに白黒のチェック柄のプリーツスカート。スラリと長い脚を覆った黒の厚手のストッキングと小さなリボンの付いたグレーのショートブーツが寒さから少女の足を守っている。


 セーターの上にはベージュのノーカラーコートを羽織り、首には深緑のマフラー、肩には白のポシェットを掛け、手には少し大きめのバスケットを持っている。


 「…………」


 少女は整った顔に緊張した表情を浮かべて、目の前の建物の玄関の扉を見つめている。


 そして、意を決したのか、意思の強さを感じさせる濃紺の瞳が輝きを帯びた。


 扉に近づき、ベルを鳴らす。


 「はいはーい!」


 扉の奥から女性の声と共にパタパタとこちらに近づいてくる足音が聞こえて来る。


 やがて、扉の鍵が解かれ、ガチャリと音を立てて扉が開く。



 「あらぁ!話には聞いてたけど、えらい美人さんやねぇ!」


 「…………え?」


 来客をを出迎えたのはイサベル=イブン=ガビロールが出会ったことのない、和服を纏った品のよさそうな美少女だった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 暦が一巡りし、新年となってから一週間と少し経った頃、ロンドンの駅に聖フランス王国の王都、花の都、パリからの直行列車が到着した。


 やがて、列車が完全に停止し、乗降口の扉が開くと多くの人々が降りてくる。


 家族連れの観光客やかっちりとした服装のビジネス客が続々と降車し、人が少なくなった頃、一人の若い男がプラットフォームに降り立った。


 スラリとした長身にグレーのダブルスーツを纏い、その上にベージュのロングコートを着込んでいる。


 少し面長だが整った顔には銀縁眼鏡を掛けている。輝く金髪を七三分けにしているが癖っ毛なのか所々でくるくると渦巻いている髪が妙な愛嬌を醸し出している。


 右手には古めかしく、幾つもの鍵で厳重にロックされた革製のトランクを持ち、左手には豪奢な金細工が施されたステッキを持っている。


 見目麗しい男が視線をぐるりと巡らすと少し離れたところで男を見ていた女たちが黄色い悲鳴を上げた。

 「…………」


 目が合った女たちに向けて男が微笑みかけると更なる歓声が上がる。


 男はそのことで自分の美しさを再自覚した。親から与えられた、ただそこにいるだけで女たちにもてはやされる素晴らしい肉体と顔への絶対的な自信が漲ってくる。


 男はゆっくりと改札口の方に足を進めだした。


 そして、口元に見る者が見れば一瞬で見抜けるような軽薄な笑みを浮かべ呟いた。


 「フフフ……待っていろよ、僕のイサベル…………君とエヴァの心臓は僕のものだ」


 そのまま、金髪の男は駅構内の雑踏に消えていった。

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