カクヨム始めました。それはタイムトラベラーになる機械

七十

第1話 それはタイムトラベラーになる機械

ジムへ行く。


 ジムへ行くと、ランニングマシーンがずらりと並んでいる。


 ジムでも人気のマシーンで、うちのような田舎のジムだと、『待ち』が生じるため、1回25分までという制限が設けられる。マシーンが25分経つと自動的にストップするので、インチキはなし。故に揉め事もなし。むしろ新鮮★テヘツ


 25分以上使いたい人は、空いているマシーンに25分ごと乗り換えることになる。


 ずっと走っていたい人には、面倒かもしれないが、私みたいにランニングマシーンだけでなく、他のマシーンも使いたい人間には、切りがついて、ちょうどいい感じ。


 さて、そんなランニングマシーンを私も、25分使うのですが、これがもう、忙しい。とにかく忙しい。


 まず、数字を見ると、数字を揃えたくなる。「1分11秒」「2分22秒」・・・など、あるのですが、私が使っているマシーンはこういう分数は「111」「222」と表示されます。


 そう、ゾロ目を見たら、気分はハイテンション★ その日はラッキデー★


 そしてゾロ目と言えば、これしかない!

 THE GALAXY EXPRESS 999


「さあ、行くんだ~?」ってやつです。


 もう111(1分11秒)を過ぎたら、この歌がエンドレスで頭に回り始めます。


 そしてゾロ目では物足りず、言葉遊びも始めます。「1515(15分15秒)」 おお、行こ、行こ、GO!GO!


 しかし、これは初期の頃の私の話、フッ、今はこれではもう物足りず、歴史の世界に突入しております。


 例えば645(6分45秒)!



 大 化 の 改 新 !


 所説ありますけどね。


 あと平安京794年などは、7分94秒とかはないので、永遠に口に出せない年号。何となく禁忌の魔法の呪文的立ち位置にカテゴリーされます。


 そうやって分数を年号で遊びながら、ランニングマシーンを走り続けるのですが、これがまた大変。そうです。1秒です。1秒という超短い間に、年号は飛んでいくのです。記憶力が追い付きません。


 えーっと、えーっと、と思っているうちに、あっという間に1分、年号にすると100年分飛んでいきます。ぼーっとしている時間はありません。勝負です。私たちはローラーの上で、年号に戦いを挑んでいるのです。音楽を聴いている場合ではありません。私たちはタイムトラベラー。過去から未来へと走り抜けているのです。目に見える光景は、己の知識に比例し、ときにはその知識の貧困さに泣くかもしれません。


 おっと、気を抜いたら、ケガをするぜ。


 ちなみにこの頃には私の中の『THE GALAXY EXPRESS 999』は、彼方、アンドロメダ終着駅へ行くどころか、メーテルも鉄郎もプロメシュームも年号に綺麗さっぱりかき消されております。


 私の999は毎回、途中で年号の雪崩に遭い、脱線事故を起こして終了です。いつか25分間、999を歌いながら、年号を完璧に思い出せる老人になりたいと思います。


 そして、その後は歴史の年号&数字の語呂合わせで、ブイブイ言わせます。ちなみに1919(19分19秒)を踏むと足の動きに勢いが出ます。


 しかし! ここで一つの問題が。それは20分台問題!


 20 分 台 問 題 !


 そう、20分台問題です。

 何が問題って2000年代はリアルなんです。リアル! 毎年何かあるんですよ。1秒では無理問題です。


 2020(20分20秒)まで、何度ランニングマシーンに乗っても、一年一出来事を脳裏に浮かべるミッションは、未だかつてクローズしておりません。


 いや、大体、覚えていない。2001年とか、私、何をしていた??


 そして2021(20分21秒)を過ぎると、ようやく年号から解放され、クールダウンへと向かいます。しかし、もう25分近くなったことに、若干未練が。仕方ないのでまた語呂遊び。


『2121』で、もう私、この頃は生きていないなぁと思い、『2222』で誕生日ナンバー? 『2323』で兄さん、兄さん・・・・そう遊びつつ、最後に大問題が。


 に こ に こ 笑 顔 で 終 わ れ な い 問 題 !


  そうです。覚えていらっしゃるでしょうか。私の利用しているジムは、ランニングマシーンが25分で自動的にストップする設定になっていることを!


 にこにこ。つまり2525、25分25秒が永遠に来ないマシーン!


 どうせなら、にこにこ笑顔で終わりたいじゃないですか。なのに終われない。永遠のマドンナ的存在、2525。


 そこで私は仕方なく2424をニヨニヨとし、笑顔だと思い込むことにした。そう代替品。だが代替品は所詮、偽物。心のどこかがどうしても満たされない。


 私はこんなに2525を求めているのに・・・。どうして君は来てくれないんだ? こんなに愛しているのに―――。私はそれを伝えることさえも許されない存在なのか? 


 これから先も君と永遠に会えないなんて―――信じられない。ああ、心が張り裂けそうだ。


 2525・・・


 ・・・ランニングマシーンの後、隣にある無制限、乗り放題のバイクマシーンで、傷心の旅に出るのが日課となりました。

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