作者様の言語や文学に対する造詣の深さにはいつも驚かされている。豊かな語彙や知識を駆使して古典を訳し、自らも創作する稀有な才能をお持ちの方だ。特筆すべきは、どの作品にも独自の感性や気品、色香が漂っているということ。
こちらの作品は作者様には珍しく、現代を舞台にした小説である。
願わくば、前作の掌編『La grande ville de l'art一芸術の都にて』を読んでからこちらを読んで頂きたい。
パリのリュクサンブール公園を背景に、主人公智彦とその恋人菜穂子、フランス人女性が鮮やかに立ち上がる。情景描写と比喩の煌めきに酔いしれる美文だ。
そして当作品では、とある城址公園を舞台に結婚適齢期を迎えた二人の恋の行方が桜に託される。そこに浮かび上がるのは、美しくも切ない、しかしながらありのままの恋人達の姿なのだ。