掘り返されたくない噂の真相
「私は美歌と大山君が一緒の班でもいいかなって思ってるんだけど……」
「なっ、ちょっと。美都子!??」
館山の一言に、美歌は過剰なまでに反応している。てか、美歌は自分がアイドル歌手という認識をどこまで持っているのだろう。そんな反応の仕方、逆効果であることは自明の理というやつではなかろうか。少しは真奈海の図々しさを美歌にも分けてやりたいほどだ。
とりあえず美歌の大親友である館山がこんな具合なわけだから……
「私も同意かな。霧ヶ峰さんと優一くんの噂の真相ももう少し詳しく探りたいし……」
「俺も賛成!! よくわからないけどその噂、ちょ〜興味持ってきた!!」
「白根、崎山……頼むから少しは人の話というものを信用してもらえないかな?」
……やはり、白根も崎山も当然こういう反応になるよな。
まぁ噂の真相はともかく、僕と美歌はそもそも一緒に住んでるわけで、今更班が一緒になったところで正直なんとも思わなかったりする。もっともその辺りの話は相変わらず世間一般的には知られていない話で、僕と糸佳は親元を離れて二人暮らしをしているというのがクラスメイトの大半の認識だ。まさかそこに美歌や茜、そして真奈海までもが同じ寮に住んでるとは誰も想像さえしていないのだ。
だからこそ白根も崎山もそういう反応になるわけで――
だとすると、この噂を掘り返されるのを一番恐れているのって実は……
「わかりましたです! 美歌さんが嫌がってますし、やはり別の班にしましょう!!」
案の定とも言うべきか、これまでの話の流れを完全に無視した形でそう言い切ったのは、糸佳だった。……うん。まぁそうなるよな。
「ちょっと糸佳ちゃん!? 美歌と大山くん、幸せになってもらわなくていいの?」
「二人がくっつくことには全く興味ありません!!!」
「てか優一くんと霧ヶ峰さんの例の噂、糸佳ちゃんは気にならないの???」
「そんな噂、この世から抹消してあげたいくらいです!!」
……あ、こいつ開き直りやがった!
「ま、俺は大山が霧ヶ峰さんとくっつこうと、糸佳さんさえフリーなら別に構わないんだけどな」
「そんなピンポイントな話をこの場であっさり口に出すのはやめておこうな崎山」
「……ん、大山? なんか言ったか?」
「いやなんでもない」
てか崎山のやつ、今何かを口走ったような……。
まぁそんな僕と崎山のひそひそ話はとりあえず誰も聞いていなかったようだ。
「とにかく。美歌ちゃんはお兄ちゃんのことを相当嫌っているようですし、ここは他の男子の班に入ってもらった方が糸佳はいいと思うんです! それに異存はありませんですよね!?」
「「まぁ糸佳ちゃんがそれでいいと言うのなら……」」
こんなハッタリで白根と館山を黙らせてしまう糸佳。これが糸佳の人徳というものなのか、それにしても女子って本当に怖いな〜と思うのが正直なところなわけで。
「なぁ糸佳。要は例の噂をひっくり返されるのが嫌だっただけだよな?」
「お兄ちゃんは黙っててください」
こんな僕と糸佳のひそひそ話も、他の人は誰も気に留めていなかったようだ。
美歌は終始おどおどしながら反論も何一つせずただ話を聞いてるだけだった。これで『BLUE WINGS』の歌姫が務まるのかと思わなくもないけど、今週末はまたライブがあるらしく、毎晩遅くまで歌にダンスに練習を繰り返しているのを僕は知っている。
それが今の日常というもの。
どことなくぎこちなく、どこか息苦しくて――
でも、時間だけは確かにゆっくりと流れていたんだ。
……あ、ちなみに美歌と館山はちゃんと他の男子グループと班を組めたそうな。
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