梅雨空の下のライブ会場
なかなか晴れないライブ会場
七月も間もなく下旬になろうとしている。学校は一学期が終わり、夏休みを迎えた。
最近の天気はまだまだ相変わらずで、ずっと雨の日ばかりが続いている。夏休みに入ったとはいえ、ここまで梅雨の延長線上のような日々を過ごしていると、少しだけ気も滅入ってしまう。洗濯物も乾かない、雨続きで外出もできない――そういった理由から、本当の夏休みはなんだかまだ先のように思えていた。
そんな、夏休み最初の週末。世間では連休にもなっているせいか、天気こそ曇ってはいるけど人出はいつもよりは多そうだ。今日あたしたちが来ている場所は、都心から車で一時間ほどのショッピングモール。山のすぐ麓というロケーションは、都会の喧騒にあるもやもや感を吹き飛ばしてくれそうだった。あたしは胸一杯に空気を吸い込むと、少しずつ息を吐きだしてみる。やっぱり、空気が美味しい。
これで天気が良ければもう少し気持ちも晴れたんだろうなって、どうしてもそう思わずにはいられなかった。
今日は『BLUE WINGS』の単独ライブがこのショッピングモールで開かれるんだ。今回はライブの動画配信もあるので、管理人さんも含めてあたし以外みんなお仕事。あたしは一人チロルハイムでお留守番しててもよかったのだけど、文香さんの誘いもあって同行することになった。あたしの担当はバイト代も出ない、主に雑用係。まぁ普段払われているのかもさえ怪しいあたしの家賃代分のお仕事と思えば、かなりお安い仕事に違いはないのだけど。
ただ、文香さんの誘いがなくても、あたしは無理を言って同行していたかもしれない。それだけ最近、やはり気になることが今もずっと続いていたから。
「管理人さん。この機材、ここでいい?」
「あ、うん。ありがとう」
ショッピングモールの中心部にあるライブ会場のすぐ真裏で、あたしや他のバイトスタッフさんが必要な機材を一つ一つ並べていく。夏休みということもあるのか、今日のスタッフは大学生の学生さんぽい人が多い印象だ。その並べられた機材の中心で、管理人さん、そして糸佳ちゃんが最終調整を行っている。恐らくスタッフの中で一番若いであろうこの二人が、最も頼もしくも見えてしまう。あたしがふとたじろいでしまうのは、真奈美さんも含めて、なんだかあたしには手の届かない同級生ばかりと思えたからだ。
「ごめんね美歌さん。いろいろ手伝わせちゃって」
「大丈夫です! チロルハイムにいても暇ですし」
重い機材をよいこらせっと指定位置に下ろすと、文香さんが声をかけてきた。あたしは笑顔で会釈を返す。
「本当は美歌さんにも歌ってほしいんだけど、今日はあの子たち三人の単独ライブだから許してね」
「いえいえ、とんでもないです! あたしはただのド素人ですし、あの三人のジャマなんてあたしには絶対できませんよ!!」
「ジャマねぇ~……この前の七夕ライブでは二曲も歌ったくせに」
「え……いや、あの…………本当に申し訳ございませんでした……」
「ふふっ。そこは謝るところじゃないでしょ」
もはや返す言葉もない。あたしみたいなド素人があんな大舞台で二曲も歌ったなんて……我ながら未だに信じ難いところもあるのだけど、それはそれで大変申し訳ない限りだ。
「でも今日は今後のために、三人のライブをゆっくり観ていってもらうと助かるわ」
「今後のために……?」
ところが文香さんはどこか意味深な単語をぼそっと零してくる。
「真奈海ちゃんのお仕事を、美歌さんなりに感じてほしいってことよ」
「は、はぁ~…………」
そんな具合に、あたしは生返事を返すくらいのことしかできない。むしろ真奈美さんといえば、それ以上に気になったことがあったから。
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