キラキラ輝いて
「ハロ〜、みんな〜!! 盛り上がってる〜?」
「「Yeah〜!!!」」
春日瑠海の掛け声に、会場全体でそれに応える。
会場に集まったファンとの一体感、それを大切にするんだと真奈海は言っていた。
『BLUE WINGS』の出演日程はつい一週間前に告知されたばかりなのに、ライブ会場は満員だ。確かにそれほど広くもないライブ会場なだけに、春日瑠海の知名度であればこの程度全然大したことないのだろうが。
今日のライブは他のアイドルも合同で、全四グループが出演している。『BLUE WINGS』の出番はその中でも一番最後。つまりトリ。まさかの春日瑠美の出演に、当初一番最後に出演するはずだったアイドルグループがそれを譲ったとかなんとか。……というのはあくまでネット上の噂であって、元々は三グループのみの出演が告知されていて、四グループ目はシークレット出演のグループとして登録されていたらしい。そこは文香の巧みな戦術が仕組まれていたに違いない。
一週間前までチケットもかなり余裕があったらしいが、『BLUE WINGS』の出演が発表された途端にあっという間に売り切れたんだとか。真奈海が抑えておいてくれた僕と美歌のチケットは、まさしく出演発表前に真奈海が抑えておいたものらしい。このチケットが仮に株だったとしたら、間違えなくインサイダー取引そのものだ。
「てかルミ? 今日もあんただけ、ひとり元気だね〜?」
「クルミ、毎日ライブ続きだし、もうへとへとだよ〜!」
「きっと年のせいですよ〜。わたし、チヒロやクルミより全然若いですも〜ん!」
「おいっ! 年齢一つしか違わないくせに、私たちをおばさん扱いするな〜!!」
相変わらず無茶苦茶な『BLUE WINGS』のMCで、会場が笑いに包まれる。
この脚本が狙い通りなのか未だに判断し難いが、少なくとも瑠美は千尋と胡桃に恨まれるというスタンスで行くようだ。一見するとこれでは瑠美がただの小生意気なアイドルでしかない気もするけど、裏返すとこれで千尋と胡桃の同情を買い、瑠美一人が目立ってしまうことを阻止していた。
「だから人生の先輩として、チヒロとクルミには一生ついていきますってば!」
「……こうやっていっつも都合よくまとめようとするんですよ、ルミってやつは!」
「まぁ〜あたしたちだってルミにはお世話になりっぱなんだもんね〜」
そしてこう強引にでも丸く収めようとする。ただ、瑠美が千尋と胡桃を持ち上げる時は、必ずと言ってよいほど真っ直ぐな笑顔を見せるんだ。それは大女優春日瑠海を彷彿させる、最上の笑み。結果として、アイドル春日瑠海の好感度は下がることもなく、今の時点では結果オーライという話で落ち着いている。
……いや、好感度は下がるどころか、上がったのではという評価もあり――
「やっぱし真奈海ちゃん、アイドルになってもずっと輝いてるよね……」
MCが終わり、三人が歌を歌い始めたところで、僕の隣りにいた美歌がぼそっと零した。
「ああ。真奈海のやつ、本当に楽しそうだ」
「うん楽しそう。あんなに笑顔を振りまいて……」
「そう……だな」
「ドラマに出てる真奈海ちゃんより、ずっとキラキラしてる」
「…………」
――そう。実際、美歌の言う通りなんだ。
アイドルとして新境地を開いた春日瑠海は、時折これまでテレビで一度も見せたことのなかった一面を見せるようになっていた。つい先程の冗談とか、励ましとか、そういう小生意気で意地悪な可愛らしさを存分に表現している。これまで凝り固まっていた女優春日瑠海のイメージをぶち壊すかのように、新しい春日瑠海のイメージを作り上げようとしていた。
でもそれはあくまで世間一般の評価で、僕はもう少し違う見方をしていた。
アイドルの春日瑠美は、僕のよく知る女子高生、春日真奈海なんだ。
以前真奈海は、『等身大のアイドルになりたい』と言っていた。恐らくそれをその言葉のとおりに体現しようとしているに過ぎないのかもしれない。ありのままの真奈海を見せることで、これまで存在していなかった春日瑠美の魅力を引き出そうとしている。それこそが、春日瑠海の新しいファン層を獲得しようとしている要因なのかもしれない。
だからこんな瑠海が好感度が上がったとしても、不思議ではないのだ。
「あたしも、真奈海ちゃんみたいになれるかな……?」
「ん? タレントにでもなるつもりか?」
美歌は『BLUE WINGS』の歌を食い入るように見つめていた。そんな美歌も歌手になりたいのだろうか。いや、冗談のようにも聞こえるかもしれないが、美歌の歌唱力だったら十分プロでも通用しそうだ。
「ううん、そういう意味じゃなくてね。あたしもやれることをやりたいなって」
「やれること……?」
「そう、やれること。あたしの限られた時間でできる、あたしが輝ける時間……」
「なんだそれ。胸にタイマーを付けたどこかの正義のヒーローみたいな話だな」
「ふふっ。……でも、実際にそんな感じだしね」
美歌は笑いながらそんな風に答えてきた。
まるで蒼く深い海のように、その瞳をキラリと輝かせながら。
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