第四十話 まくし立ててみた。
アイアン・ゴーレムという名のボスを倒したことで、ボスの背後にある扉を通れるようになった。
どの道、岩で塞がれているので草原には戻れないし、私はそのまま次のエリアに行くことにする。
「……うーん? 何か忘れているような」
少し長いトンネルのような通路を進みながら首を傾げる。何か重要――というか衝撃的なことを忘れているような気がするけど……ま、いっか。
それよりも、前方から明るい光が差し込んでいるし、どうやら出口らしい。いよいよ新たなエリアについたようだ。
「はぁーい、アンズちゃん。早かったわね、うふふっ」
「うわぁ、魔物っ! って、ディーテさんか」
出口に立っていたインパクトが強すぎる存在に驚いて木の棒を構えたけれど、よく見ればディーテさんだった。
いやよく見なくても、こんな格好してるのはディーテさんしかいないけど。
「ど、どうしてここに?」
「だってぇ。アタシがステージボスを倒した時も、草原には戻れなくて進むしかなかったの。だからアンズちゃんもこっちに来るかもと思って待ってたわけ」
「そうなんですか……」
こんなにもふざけた言動をする人だけど、やっぱり単なるお馬鹿さんではないようだ。ちゃんと先読みしてここで待ち伏せしているなんて。
「でも、私が倒せるって信じてくれたんですか? あんな強そうなボスに一人で挑んだのに」
「うっふふ。当たり前じゃないっ! アタシが見込んだ子猫ちゃんが、あんな鉄屑に負けるもんですかっ!」
「す、すごい信頼されてる」
鼻息荒く堂々と言い切られてしまい、少し怖ろしさに身を引いてしまった。だってこちらに迫ってくる圧迫感なんて、さっき倒したボスが可愛く見えるほど怖いんだもん。このままディーテさんと戦闘になったら、私は即座に逃げ出すと思う。
「けど驚いたわ。アタシが想定していた以上にずっとずっと早いんですものっ! もしかして一撃で倒したとか?」
「え? あ、いや――その、ふひっ」
「なーんて、そんな訳ないわよねっ? だとしたらぁ……確かめたことはないけれど、ボス戦とマップを移動する
私が認める前に、勝手に結論を出して悩まし気に人差し指を顎に当てるディーテさん。まぁ、別に勘違いしたままでも問題はない。放っておこう。
「あの、ところでディーテさん。ここはどこなんですか?」
「――あら? ごめんなさい、少し考え込んでいたわぁん。そうねぇ、ここは正式にはエドーの町だけど、通称は東の町ね」
「『東の町』? もしかして、東の草原を越えて辿り着いた場所だからですか?」
「ええ、そうでしょうね」
あっさりと頷かれ、なんだか肩の力が抜ける。
モンスターの名前といい、ちょっと安直すぎないかな? まぁ、分かりやすくていいんだろうけど……。
「この町を越えて、すぐに次のエリアに行くことはできるんですか?」
「それがね……できないのぉ」
そう言うとディーテさんは振り返り、町の奥の方を指差した。
「ほら、あの崖が見えるかしらぁ?」
「え、ああ、あれですね?」
たしかにディーテさんが言うとおり、町の奥には切り立った崖がある。あれこそまさに、断崖絶壁と呼ぶんだろう。
「この町はね、河を挟んで奥の方にあの崖があるんだけどぉ。その崖に人が通れそうな穴が開いてるのね? 多分、そこから次のエリアに行けるんでしょうけど……」
「通れないんですか?」
「ええ。入口の両脇に兵士が立っていて、通るのを邪魔してくるの。たぶん、通るためには何らかの条件を満たさないといけないんじゃないかしらぁ?」
「なるほど……じゃあ、今はこの町に来ても仕方ないってことですね」
せっかくボスを倒してここまで来たのに、どうやらあんまり意味がなかったようだ。それほど労力はいらなかったけど、少し残念な気持ちになった。
「まぁ、そう気を落とさないでっ! 始まりの街よりも効き目のある回復薬や上位の防具もあるし、優れた薬術師や鍛冶師のプレイヤーもいるんだからっ!」
肩を落とした私を元気づけるためか、ディーテさんが気味の悪いウィンクを見せつけながらそんなことを言う。
元気どころか吐き気が湧いてきたけど、彼(?)の優しさを無駄にはすまい。無難に相槌を打つことにした。
「へ、へぇ? そうなんですか? せっかくだし、防具とか武器を新調したいですね、ふへ」
「あら、いいじゃないっ! 脱☆初期装備ってことね? ス・テ・キ、よっ! それで、どんな装備を買うの?」
「えっ? えぇーと、こう……無骨な感じで恰好いい防具が良いですね。頑丈で巨人からの一撃にも余裕で耐えるような――あっ! そうそう、せっかくの魔剣士だし、みすぼらしい木の棒も卒業したいです。こう、なんかあの、エクスカリバーとかデュランダルとか聖剣チックなのがいいなぁ……あ、でも妖刀の類も捨てがたいなぁー。村正とか魔剣のレーヴァテインなんかも興味あって――っ……」
思わず熱中して話をしていた私は、こちらを微笑ましそうに見つめてくるディーテさんに気付いて言葉を止める。
「あ、いや……これは、その――」
や、やってしまったっ!
このゲームを始めて剣にちょっと興味が湧いたから、最近色んな情報を漁っていたのだ。そして色んな剣があることを知り、自分が聖剣や魔剣を手に入れた時のことを妄想することも度々あった。
だからきっと、こんな早口で
これじゃあ私、まるでオタクみたいだよっ!
「うふふ。いいのよ、アンズちゃん。可愛い、可愛い。もう、可愛すぎて食べたいちゃいくらいよ、うふふ」
「は、はぁ……」
頬の傍で両掌を合わせ、顔を緩ませてくねくねするディーテさん。
どうやらドン引きされていないみたいだけど、そんなディーテさんの言動にはこちらがドン引いちゃうよね。
これこそ、通報案件じゃないの? しないけどさ。
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