第三十九話 作戦を練ってみた。



 しばらくして起き上がったディーテさんは、何事もなかったかのように笑みを浮かべてみせた。


「それでアンズちゃん? 本当に一人でアイアン・ゴーレムに挑むの? 何なら、今だけパーティーを組んで挑まない? アタシ、もう倒してるから力になれるわよ?」


 そしてそんな提案をしてくれる。


「大丈夫、です。せっかくここまで一人できましたし、どうせなら一人でやってみます」


 けれど私は間を置かずに断る。今の自分の力が序盤のボス(どうやらアイアン・ゴーレムというらしい)を相手に、どのくらい通用するか知りたかったのだ。

 あのパロン湖にいた単眼の巨人に負けたのは例外だったのか、はっきりとさせておきたい。


「そう? なら、ここから応援しているわね! ガ、ン、バ、レ!」

「は、はぁ……」


 気の抜ける踊りで元気をくれるディーテさんに元気を奪われながら、私は覚悟を決める。


 そしてボスを囲むようにして設置された岩々の、わずかな隙間を通ってバトルエリアと思しき場所に入った――その瞬間。

 私が入った場所に新たな岩が地面から生えるように出現し、完全に外界と切り離されてしまう。


「……ま、予想していたけれどね」


 こちらを応援してくれているであろうディーテさんの姿は見えなくなったけれど、きっとそれはお互い様だ。

 向こうも私の姿は見えないんじゃないかな?

 誰かに一方的に戦っているのを見られるのは恥ずかしいから、この状況はありがたい。


「さて……勝てるかな?」


 未だ動かないボスの元へ、木の棒を構えながらゆっくりと近づく。

 近くで確認すればするほど、ボスは大きな達磨みたいな身体に太い腕がくっついたシンプルな形状であることが分かる。

 一見すると弱点は分からないうえ、かなり頑丈そうだ。倒すには時間がかかるだろう。


「そうなると、先制攻撃が重要か……」


 どんな相手と戦う場合でも、基本的に先にダメージを与えるのは望ましいことだ。以降の戦闘をずっと有利に行える。

 けれど頑丈な相手と戦うのであれば、ただダメージを与えるだけでは駄目だ。できうる限りの強い攻撃で、少しでも多く相手のHPを削っておいた方が良い。


 なら、今この瞬間に高火力の魔法を使用するべきか?

 いや、おそらく無意味だ。


 ボスが動いていない時に攻撃しても、きっとダメージ判定は仕事をしてくれないはずだ。つまり今、遠距離から魔法攻撃を当てても意味はない。

 魔法を使うなら、ボスが動き始めたその一瞬だ。


 問題はどの魔法を使うかだけど……使ったことのある『火炎魔法』ってゴーレムに効くのかな?

 ちょっとスキル欄を呼び出して魔法の種類を確認しよう。



 技・魔法スキル

 『火炎魔法 LV5』『氷水魔法 LV3』『土木魔法 LV2』『風雷魔法 LV4』『回復魔法 LV10』



 ふむふむ。

『火炎魔法』の他にも魔法の種類はあるけど、ぶっちゃけどれも鉄の塊であるゴーレム相手に有効そうなのがないなぁ。

 電気でショートすることを狙って『風雷魔法』にしておこう。



『風雷魔法 LV4』

 ・ウィンド・カッター(単体)   消費MP:7

 ・サンダー・ボール(単体)    消費MP:15

 ・ソニック・ブーム(全体)    消費MP:30

 ・サンダー・ウォール(防御)   消費MP:50

 ・サンダー・アロー(全体)    消費MP:70

 ・ストーム・ウェーブ(全体)   消費MP:100

 ・サンダー・ストリーム(単体)  消費MP:150

 ・ストーム・ウォール(防御)   消費MP:200

 ・電磁加速砲(単体)       消費MP:300

 


 風魔法を含めて色んな魔法があるけれど、選択するのは雷系。その中でも使うなら、一番威力がありそうな『電磁加速砲』しかない。

 MPを300も消費するのはたしかに痛い。だけど私のMPなら、仮にもう一発撃ったとしてもお釣りがくる許容範囲だ。

 後はできるだけMPを節約しながら木の棒を振るって戦い、要所や最後の止めで魔法を使う――よし、完璧な作戦だね。

  

 考えをまとめ、即座に魔法が放てるようにじりじりとボスに近づいて行く。

 するとようやく反応するところまで近づいたのか、アイアン・ゴーレムが降ろしていた両腕を威嚇するように上へと振り上げた――今だっ!


「――『電磁加速砲』!」

 

 私がボスへと突き付けた木の棒の先端へ、電気の粒子が集まり塊となっていく。

 そして空気を焦がすような『バチバチ』と爆ぜる音が聞こえ――。


「――うわぁっ?」


 木の棒から放たれた電気の塊は、周囲と驚く私の視界を真っ白に染め上げながらアイアンゴーレムへと直進。

 そしてその達磨を思わせる胴体へと突き刺さり、爆発が起きたかのような轟音を響かせる。


『ガビィガガ――』


 直撃を受けたアイアン・ゴーレムは、甲高い濁った音を短く上げると腕を下し沈黙。動かなくなった。


「えっ? 麻痺状態?」


 ゴーレムでも麻痺になるのかと戸惑っていると、


――――アイアン・ゴーレムを討伐しました。経験値884を獲得しました。

――【鉄の部品】×2を入手しました。

――【ゴーレム・ハート】を入手しました。

――【鉄のかいな】を入手しました。

――【鉄の外皮】を入手しました。

――【歯車(小)】×3を入手しました。

――【歯車(中)】×2を入手しました。

――入手したアイテムをアイテムポーチとアイテムポーチ(小)にしまいました。


 一拍遅れてそんなシステムメッセージが流れてくる。

 どうやらボスを倒すと、触れなくてもアイテムが勝手に回収されるらしい。


 いや、そんなことは置いといて――。


 えっ? 倒しちゃったの? あれで? あれだけで?

 あんなに長々と作戦を練ったのに?

「早く戦えよ」と自分自身に内心で突っ込みを入れながらも、珍しく考えて挑んだのにこの結末……。

 

 初めてのボス戦に少なからず緊張していた私は、呆気ないほどの決着に肩を落とす。完全なる不完全燃焼だよ……。 


 そして消えゆくアイアン・ゴーレムを見送りながら、「『電磁加速砲』って、絶対にそんなんじゃないだろ……」と逃避気味に思った。





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