第三十六話 召喚してみた。
モンスターたちと戦うためにさっそく周囲を見渡してみたけれど、目が遭うモンスターが尽く背を向けて逃げ出していく。
ゴーレム君も魔法使いみたいな恰好をした小さな人形も、犬や猫みたいなモンスターたちもみーんなお化けに会ったかのよう。まさに脱兎のごとくってやつ。
「――もうっ! このっ!」
『ギャンっ!』
とにかくこちらから逃げ出した銀色の犬みたいなモンスターを追いかけて撲殺。ワンちゃんは悲鳴を上げて動かなくなった。
――シルバー・ドッグを討伐しました。経験値52を獲得しました。
この『シルバー・ドッグ』ってモンスターで、東の草原に来て討伐したのは六体目になるけど効率が悪すぎる。
出会う度に逃げられてたら時間がかかって当然だよね。
それに……。
「やぁ、君は新参プレイヤーだね。僕がいろいろ教えてあげようか? これでもレベルは42になるんだよ。今、君は何レベル?」
「い、いえっ! け、け、けっこうでふっ!」
で、出た。「何レベル?」と聞いてくるおじさんっ! 通称『ナンレべおじさん』っ!
東の草原にはけっこうな数のプレイヤーもいて、なんでだかかなりの割合で私に声を掛けてくるのだ。それも決まって『何レベル?』と尋ねてくるので、私は『ナンレべおじさん』と呼ぶことにしたよ。
初心者や新参にマウントを取りたい気持ちはわからないでもないけど、人見知りなのに馴れ馴れしく声を掛けられても困るし。そもそも初期装備で分りにくいかもしれないけど、新参者じゃなくてこれでもれっきとした先行者なんだからっ!
「ちょっと、待ってよ――って早っ!」
声を掛けてきた剣士姿の『ナンレべおじさん』からダッシュで逃げれば、背後から驚くような声が上がった。
ふっはっはっ! レベル42では私の素早さについてこれまいっ!
内心で高笑いをしつつ、周囲にプレイヤーが見当たらない外れの場所までやってくる。大きな岩があったので、それに
「どうしようかなぁ。このままじゃまともにレベル上げができないし……」
もちろん経験値が少なすぎて最初からここでレベルを上げられるとは思っていないけど、想定していた以上にモンスターを倒せていない。
この場所にプレイヤーはいないけど、現れたモンスターがまた逃げ出してそれを追いかければ、人がいるエリアに出てしまうだろう。そうなると再び声を掛けられ足止めを受けてしまう気がする。
「うーん……やれやれ、仕方ない。切り札を出すとしよう」
誰も聞いていないのにできるだけ格好いい声を意識して呟くと、私はステータス画面を表示する。
そして一般スキルにある『使役』に意識を向けた。すると、
『使役LV.9』
使役モンスター一覧
・カマちゃん(種族:ジャイアント・マンティス)――召喚未
『召喚しますか? YES/NO』――最大MP2割消費
『放棄しますか? YES/NO』
見覚えのある項目が現れた。
MPが二割も持って行かれちゃうのは痛いけど、状況を変えるためには仕方ないよね。
「さぁ、いでよっ! カマちゃんっ」
適当なポーズを決めて召喚を選ぶ。そうしたら目の前の草原に大きな陣が描かれ、そこから一瞬でカマちゃんこと、ジャイアント・マンティスが姿を現した。
全身が鈍く光るような灰色とその巨体も相まって、やっぱり贔屓目に見ても怖いよね。
カマちゃんのあの見るからに鋭そうな鎌でいったい何度首を
『ギュウゥ?』
カマちゃんは不思議そうな顔で私の方を見やり、鎌を口元に運んでチロチロと舐めている。
うーん……使役しておいてなんだけど、このデカい
「よし、カマちゃん。とにかくこの辺にいるモンスターを片っ端からやっつけて。頼んだよ」
『ギィイ』
私が周囲を指さして指示を出したら、カマちゃんはさっそく行動を開始した。
まずは呑気に寝ころんでいたシルバー・ドッグへと音もなく近づき、そしてあさっさり首を切り裂く。
――シルバー・ドッグを討伐しました。経験値52を獲得しました。
やった。
やっぱり使役したモンスターで倒せば、自分一人で倒したくらいの経験値がそのままもらえるみたいだ。
例のダンジョンでもカマちゃんと一緒に戦ってモンスターを倒していたけれど、その時も一人で倒すのと変わらないくらい経験値が貰えていたしね。
ただ、あの時は少なからずカマちゃんに協力していたから、完全にカマちゃん任せだとどうなるか分からなかった。
ちゃんとまるまる貰えてよかった、よかった。
――ブロック・ゴーレムを討伐しました。経験値56を獲得しました。
――マジック・ドールを討伐しました。経験値60を獲得しました。
――ゴールド・キャットを討伐しました。経験値52を獲得しました。
――アイス・バードを討伐しました。経験値55を獲得しました。
すごい、すごいっ!
目に見える全てを屠らんとばかりにカマちゃんが無双している。
ゴーレム君も変な人形も金色の大きな猫も空を飛んでる氷像みたいな鳥も……みんなみんな一撃で倒してしまってる。
こうやって岩に凭れて「カマちゃんがんばえー」をしてるだけでガンガン経験値が貰えるなんて――ふひひ。不労所得ってこんな気分なのかな?
そんな呑気なことを考えていたのがまずかった。
「はぁ、はぁ……どこ行ったんだ、あの女の子?」
声がしたので岩陰から顔だけを向ければ、先ほどの『ナンレべおじさん』が息を切らせて辺りを見渡している。
どうやらここまで追いかけてきて私を探しているようだ。
「あっ……やばっ」
そしてなんてことでしょう。
今まさに空を飛んでモンスターを倒したカマちゃんが、狙ったかのように『ナンレべおじさん』の前に降り立ってしまった。
「――ほあ、え?」
唐突に現れたカマちゃんを前に、絶句したように目を見開いて呻いたおじさん。
『ギュウゥ?』
一方のカマちゃんは、おじさんを見下ろして首を傾げると白銀の鎌をチロチロと舐める。
だからそれ、怖いんだって――。
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