第二十四話 人助けをしてみた。
「というわけでやって参りました、パロンそふっ……」
独り言で噛んだ。軽く死にたい……。
「というわけでやって参りました。パロン草原」
誰もいないのを良いことに、さりげなくテイク2をして成功させる。さっきの失敗が誰かに聞かれていたら、恥ずかしくて悶死していたよ。いや、そもそも誰もいないから慣れないレポートなんてやってみたんだけど。
けどなんで誰もいないんだろう?
これだけ空いていたらモンスターを狩り放題だし、私みたいな恥ずかしがり屋は絶好のレベル上げチャンスだと思うんだけど。
「えいっ」
『べぇあ?』
甲羅に籠ったまま突っ込んできたパロン・タートルを木の棒で打ち返し、経験値2をゲットしながら考える。
「ああ、もしかして」
『べふっ』
「暗くて戦いにくいからかな?」
『びぁ』
「それに昼間よりも」
『ぎゅあっ!』
「出るモンスターが多いからかな?」
何だかやたら突っ込んでくるモンスターたちをひたすら薙ぎ払い、ずんずんとパロン草原を進んでいく。
すごいなぁ。これだけ倒しても、一向にレベルが上がる気配がないや。
「……でも、やっぱりここに出るモンスター……なんか変だよね?」
襲い掛かってくるパロン・タートルやパロン・ニュートとか言うイモリみたいなモンスターを倒し、近くで草を
ここ、水辺のモンスターばかりじゃない?
パロン草原と言う割には、これは奇妙な事ですよ奥さん。私が思うにきっとこの草原のどこかには、水辺があるんだと思う。
もしそれを発見すれば、私が一番乗りなんじゃない? 皆一目置いてくれるかも……いやいや、目立ってどうする。そんなことをしたら、ひっそりと攻略していくと言う私の望みが絶たれちゃうじゃないか。
で、でもでも。やっぱり誰も見つけていないことを見つけるのって、優越感に浸れていいよね? それが誰にも知られることがなくても、なんかこう……ね? 結構気分がいいもんなんだよ。
「――と言うわけで、水辺はどこかな?」
黒羽さんと来たときはあまり奥まで行かなかったけれど、今回は深くまで探ってみよう。出てくるモンスターはそんなに強くないし、木の棒の一撃で死んでくれるしなぁ。
「あ……そう言えば素材……」
採取の事なんて考えずに、次から次へと突っ込んで来るモンスターを木の棒で吹っ飛ばしてたから、素材を全然集めてないや。
ま、まぁいいか。
素材屋のおじさんからもらった巾着袋にはそれほどアイテムも入らないみたいだし、ここでドロップする中に大した素材は無さそうだし。
別に回収しなくてもいいかなぁ……うん、いいはずっ。
「――くっ! このぉっ!」
そうやって割り切った時、『気配感知』にモンスターとは違う感覚が引っかかった。それと同時に遠くで声が聞こえたので、どうやらプレイヤーが戦っているみたいだ。
「あ、やっぱりプレイヤーもいるんだ」
まぁ当たり前か。
夜だからって戦わずに街で引き籠っていたら、一向にレベルも上がらないしね。けどあれだね。『気配感知』で感じる印象としてはだいぶ苦戦してるみたいだ。なんだかモンスターの数も結構多いし、避けるので精一杯って感じ。いや、避けるのも上手く行ってないね……あ、また喰らってる。下手なのかな?
このままじゃ戦ってるプレイヤーはやられてしまうかもしれない。けど手助けするのってマナー違反だとネットに書いてあったし。なんだっけ? タコ殴り? なんかそんな感じのマナー違反になっちゃうんだよね。
きっと名前の由来は複数のプレイヤーでモンスターと戦うからって意味なんだろうけど、この状況じゃあプレイヤーがタコ殴りにされちゃうよ。
放っておくのはなんだかなぁ……。
「――ええい、ままよっ!」
ちょっと使ってみたかった台詞をここぞとばかりに小声で呟いて、足早に戦闘中のプレイヤーへ近づく。そしてそのプレイヤーを間近で見た時――私は軽く衝撃を受けた。
戦っていたのは、私と同じくらいの背丈の女の子だ。
肩まで伸びた奇麗な金髪と、少女らしいあどけなさを残しながらもくっきりとした目鼻立ち。わぁ、まるで西洋のお人形さんみたい。この娘、すっごく可愛い。
今は向かって来るモンスターたちを必死で
何というか保護欲をそそるよ。はぁー、眼福、眼福。
「だ、誰かいるんですか?」
「へべっ?」
モンスターと戦う少女を間近で見ながらニヤついていると、突然
「誰ですっ?」
「あ、怪しいもの、ち、違う。私、あなたの手助けするよ」
「け、……結構です。私はこんな、低レベルモンスターに苦戦してる場合じゃっうっ!」
私を探すためか辺りに視線を彷徨わせた少女の隙を突いて、パロン・タートルが突っ込む。それを躱しきれず腹部に直撃を受け、少女がひっくり返るように尻餅付いた。
「だ、大丈夫?」
思わず駆け寄った私に、へたり込んだままの少女が負けん気の強い眼で見上げてくる。
「へ、平気です。それより早く離れないと、あなたにタゲが移りますよっ」
「え? そうなの?」
タゲと言うのは多分、攻撃目標の事だと思う。やったことないけど、複数人が入り混じる格ゲーでも出てくる言葉だし。
でも、問題はないかな。この娘が言うようにこんな低レベルモンスターに総がかりされたところで、死に戻る気がちっともしないよ。
「ご、ごめんね? 私が傍に寄ったから気が散ったんだよね? お詫びに一緒に戦わせてくれないかな?」
「べ、別に詫びなんて結構です。でも……せっかくなので一緒に戦ってもらっていいですか?」
「うんっ」
よし、許可が下りた。これで気兼ねなく女の子を傷つけたモンスターをタコ殴りにできるぞ。
こんなに可愛い娘は中々いないからね。私が守ってあげないと。
身を起こそうと無防備になっている少女の前に立ちはだかり、突っ込んできたパロン・タートルを木の棒で叩きつぶす。さらに毒を吐き出だすために喉を膨らませたパロン・ニュートを蹴り飛ばし、こちらへ近づきつつあったパロン・タートルへと直撃させる。
「す、すごい……」
私の活躍に、少女が背後から称賛するように呟いた。むふぅっ。むふふふふっ。
「ふひっ。こ、こんなの大したことじゃないよ? ちょ、ちょっと私が本気出せばこ、これくらい……」
「あっ! 前、前っ!」
止めようのないにやけ顔で女の子を振り返ると、その娘が慌てたように私の背後を指差す。まぁ、もちろん、魔物が来てることなんて『気配感知』でお見通しだよっ!
「やぁっ!」
『ぎゃふっ!』
突っ込んできたパロン・ニュートを見ないで棒で打ち払い、少女に向かったまま我ながらぎこちないスマイルを見せる。
「わ、私の名前はアンズ。さぁ、あなたの名をおしえっへふ……」
「…………」
そして大事なところで噛んだ。
当然、テイク2が許される雰囲気なんてそこにはなくて……自分の駄目さ加減に絶望してしまった。
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