第十九話 あれ? 私、なにかやっちゃてみた。
お肉以外の物を実体化させるのは初めてだったけれど、上手く行ったようだ。ジャイアント・マンティスからドロップした『白銀の鎌』は私の手の中に出現した。重さは感じないけど、で、デカい。
「あの、これを売りたいんですけど、いくらになりますか?」
さすがに全部売るのは勇気がいるので、六本ぐらい残して売ろうかな。他のもっと簡単に手に入った奴は、全部売って別のアイテムを入れられるようにしよう。そう思って問いかけたのに、何故かおじさんが固まっている。
「あれ? どうしました? 私、何かしちゃいました?」
「いや……え? なんだそれ……え? いや、ちょ、ちょっと待って……え? いやいやいや……え? あの、その、だ、な……え?」
なんだこのおじさん。急に「ええ、ええ」言い出したぞ? 気分でも悪くなったのかな?
「あの、大丈夫ですか?」
「お、お、おう。ちょ、ちょっと予想外なものが出てびっくりしただけだ。いやぁ、お前さん、珍しいもん持ってんなぁ」
未だ衝撃から立ち直れないように裏声で返事してきたおじさんは、目をパチパチと
もしかして、この辺りじゃ珍しいものなのかな?
「ちゃんとこれって売れるんですか?」
「えぇ? これを売る……いや、売れないことはないが……見るからに上級素材だろ? どうやって手に入れたかは分からんが、残しておいた方がいいじゃないか?」
「はい。だから五十六本中六本は残して五十本は売ろうかと」
「そうか。五十六本もあるなら五十本ぐらい――はぁ? そんな素材が五十本以上あるってのかっ!」
「ひぃっ?」
座っていた姿勢から身を乗り出してきたおじさんにびっくりして、思わず持っていた『白銀の鎌』を斬り付けそうになってしまった。
このままでもよく斬れそうだけど、素材だからきっとダメージとか入ったりしないんだろうなぁ。
「あぁ、悪い悪い。けど、お前さん、その素材はどうやって手に入れたんだ? 誰かにもらったのか?」
「いえ。これは正真正銘、私が倒したジャイアント・マンティスの素材です」
「ジャイアント・マンティス? 聞いたことないな。ちょっとその素材の情報を見せてもらってもいいか? 触らせてくれ」
「え? はい」
良く分からないけれど、『白銀の鎌』に手を伸ばして来たので、傾けて触りやすいようにさせてあげる。
おじさんの手が、『白銀の鎌』に触れた。
――プレイヤー名:鉄心が、素材の情報開示を求めています。許可しますか? YES/NO
おや、何か出たぞ?
「おい、お嬢さん。メッセージが出たらYESを選んでくれ」
「はい……これでいいですか?」
「おう、サンキュー。さてはて……え? レア度A? え? A? えっ? Aっ?」
再び困惑したように目を見開いて『白銀の鎌』を見入るおじさん。よっぽど信じられない光景を目にしたみたいだ。
「……こんな序盤でレア度A? いやぁ、待てよ? ありえねぇーな。東のボス、アイアンゴーレムでも最高レア素材はCだぞ? レア度Bの素材すらまだ見つかってないのに、A? そんな馬鹿な……」
「あ、あの、おじさん? か、買ってくれないんですか?」
「あ、いや……ああ、悪いがこの素材は買えないな」
ぶつぶつ呟いていたおじさんに勇気を出して問いかけたら、おじさんは少し考えこんだ後に重々しく頷いた。
そ、そんなぁ……。
「ど、どうしてですか?」
「現時点で、この素材には値のつけようがないんだ。オーパーツみてぇなもんだ。まだ二番手のボスも倒せてねぇような序盤に、存在していていい素材じゃない。こんなもの、今の俺じゃ取り扱うのは無理だ」
「オーパーツ? 良く分かりませんけど、つまりは買ってくれないんですね?」
「ああ、悪いな」
「……いえ、そうですか」
うぅ、やっとアイテムポーチの中身を減らせると思ったのに、買ってもらえないなんて。オーパーツだかオパールだかオマール海老だか知らないけど、がっかりだよ。
私はこれからどうしたらいいんだろう……。
「お、おい、そんなに落ち込むなよ、お嬢さん。たしかに俺のとこじゃあ買えないが、どうしても売りたいのならNPCの素材屋に持っていきな。適正価格で買ってくれるはずだ」
「本当ですか? じゃあ早速行ってきます」
「ああ……あ、ちょっといいか?」
さっそくNPCの素材屋さんへ行こうと『白銀の鎌』をポーチに仕舞い直した私に、おじさんが真面目な顔つきで声を掛けてきた。
「な、なんですか?」
うわぁ、そんなに熱心に見つめないで欲しい。なんだか高校入学のために受けた面接試験を思い出すよ。
なに? これから私、将来を左右するような質問を受けちゃうの?
「いや、その素材を剥ぎ取った相手はジャイアント・マンティスとか言ったな? どこに出るモンスターだ?」
身構えた私に対し、おじさんは意外にも些細な質問を投げかけてきた。ちょっと構えて損しちゃったな。
けど、ジャイアント・マンティスが出現した場所か……。あのダンジョン、何て名前なんだろう? 良く分からないけれど、憲兵のおじさんがなんか言ってたなぁ。
「えーと、お城? たしかこの街にあるお城の庭です」
「城……伯爵城か? 妙だな。伯爵城はたしかプレイヤーは立ち入り禁止でまだ誰かが入れたと言う話は聞かないが」
「そうなんですか? じゃあなんで、ボスいなかったんだろう……宝箱も空だったし……もしかして未だ実装されてなかったのかな?」
あのダンジョンのボス部屋らしきところには、ボスもいなかったし宝箱の中は皆空っぽだった。
てっきり私よりも先にあのダンジョンを攻略したプレイヤーに、根こそぎ奪われたのだと思っていたけど、案外誰も入れていなかったのかもしれない。もう一度行くことができたときに実装されていたら、今度こそ宝箱の中身を独り占めしてがっぽりできるかな?
「伯爵城か。うーん、お嬢さんが嘘を言っているとは思わないが、確証がない以上は話半分で聞いておく方が良さそうだな。他に売れそうな素材はないか?」
「えーと……全部レア度AかB何ですけど大丈夫ですか?」
一通りアイテムポーチの中身をチェックして言うと、おじさんは呆れたような顔で右手をこちらに向かって払った。
「さっさとNPCの素材屋に行っちまいな」
「は、はい、お世話になりました」
追い払われるように踵を返した私は、けど大事な事を思い出して再びおじさんの方へ顔を向けた。
「うん? まだ何か用か?」
「いえ、あの……NPCの素材屋さんってどこにあるんでしょうか?」
「ああ……この道を真っ直ぐに行って突き当りを左。そんで一番最初の十字路を右に行ってそのまま道沿いを行けば左手に犬みたいな動物の銅像があるからその銅像の斜向かいの路地に入って――」
「ま、ま、待ってくださいっ! お、覚えられないです。頭に叩き込むのでゆっくりお願いします。まず、この道の左側を歩くんですね?」
「……いや、もういい。一緒に行こう」
道順の多さに頭から煙を出しそうな私を見やり、おじさんは諦めたように立ち上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます