第二十話 あれ? 私、変なこと言っちゃってみた。
「へぇ、お嬢さんはログイン時に高レベル帯に飛ばされたくちか」
「はい、本当に参りましたよ」
固辞したけれど、おじさんは何だか気難しそうな外見通り頑固な人で、NPCの素材屋に私を送ると言ってきかなかった。
まぁ、口頭だけの道案内で辿り付ける自信のなかった私は、申し訳ないと思いながらもその厚意に甘えることにした。
迷子になったら困るしね。
道すがら、日が暮れかかった街の中でお互いに自己紹介や他愛のない話をして、このおじさんの名前が鉄心さんだと言う事を知った。いや、『素材屋 鉄心』って書かれた看板もあったし、メッセージでも「プレイヤー名鉄心」と表示されていたから薄々気づいてはいたんだけど。
話によると鉄心さんは、素材集めだけではなくその素材を使って鍛冶レベルを上げているプレイヤーらしい。
このゲームのクラスには『鍛冶師』とか『錬金術師』などの生産系のものはなく、全て戦闘関係のものしかない。そのため、一応クラスは盗賊をしているそうだけど、盗賊関係のスキルはほとんど上がっていないんだって。鍛冶スキルに力を注ぎ込んでいるみたい。
まぁいいんじゃないかな。
魔剣士クラスを選んでおいて剣技スキルが全くない、私みたいなプレイヤーもいるし。
「もう、このゲームで一ヵ月以上前の事だから記憶があやふやだが、たしか『無差別投下バグ事件』なんて変な通称があったな」
「『無差別投下バグ事件』……なんか名前の響きは格好いいですね」
「そうか? 言ってみりゃあただの運営のミスだぞ。けどあれ、死んだら結局始まりの街にリスポーンするはずだったんだがな。なんでお前さんはその場所に居続けられたんだ? まさか死ななかったのか?」
「いえ、もちろん即死でしたよ。ただぞの前に、ダンジョン内の石碑をリスポーン地点に登録できたんです」
最初は確か、何もわからないうちに殺されてしまったはずだ。あれにはびっくりしたなぁ。
だけど瞬殺されてなお、私があのダンジョンに居続けることができたのは、良く分からないままあの場所をリスポーン地点に登録したからだろう。
いやぁ、あんなに近くにリスポーン地点がなかったら、間違いなく始まりの街の広場に死に戻りしていたはず……あれ? 案外その方がまともに攻略していくことができたんじゃ……。
「うーん、しかし大変だったろう? 序盤で高レベル帯に飛ばされても、まともに戦闘なんかなりゃしないはずだ。売れるだけ素材を持ってるってことは倒したんだろうが……良く今日までダンジョンに居られたな。たいしたもんだ」
「そ、そんなことないですよ。何十回、何百回と死にましたし、最初は倒すのに何時間もかかりましたし、で、でも、今ではもう余裕っていうか? その、た、たいしたことじゃないですよ、ふひっ。ふひひひひ」
「お、おう、そうか……」
強面な人が褒めてくれるのが嬉しくて、少しにやにやしすぎたみたい。気持ち悪い笑みが隠せなくて、鉄心さんが奇妙な顔で私からちょっと距離を取った。悲しい。
「おう、見えて来たぜ。あの青い屋根の建物がNPCの素材屋だ。隣にある赤い建物が武器屋兼鍛冶屋だ。武器も買えるし、素材を持ち込めばそれをもとに武器も造ってくれる」
「へぇ、いいですね。じゃあ、別にプレイヤーが鍛冶をしなくてもNPCに任せていいんじゃないですか? もともとクラスに『鍛冶師』とかがないのは、そういうことなのかもしれませんよ?」
「いや、やっぱりNPCが造れる武器は種類数も少ないし、完成品の質もプレイヤー産より数段落ちる。何より、一般スキルには『鍛冶』ってのがちゃんとあるんだ。プレイヤーが鍛冶をすることも想定しているはずだ」
「ご、ごめんなさい」
私の思い付きにしっかりと反論してくる鉄心さん。別に強い口調ではないけれど、その真剣な眼差しについつい謝ってしまった。我ながらこの気の弱さが嫌になるよ。
「別に謝らなくてもいいさ。たしかによぉ、お嬢さんの言う通り、このゲームじゃあんまり鍛冶スキル特化に旨味はねぇーのかもしれない。事実、俺以外に鍛冶を極めようとしてるやつなんざ知らねぇーし、そんな奴はもう少し鍛冶がしやすい環境のゲームに移るだろうからな。けどよぉ、いいかお嬢さん?」
「な、なんですか?」
「俺は自他ともに認めるほど頑固なんだよ。そんな俺が、このゲームで鍛冶師の頂点を目指したいと思っちまった。この想いを、一体誰に
鉄心さんが自信満々と言わんばかりの風情で、こちらに挑むように笑いかけてくる。たぶん40近いはずの年齢だと思うけれど、なんだかその顔には夢を追う少年が浮かべそうな表情が浮かんでいて……ちょっと調子が狂うなぁ。
良いこと言ってるはずなのに、ミュージシャンを目指して女の人に寄生する男の人が想起されるよ。
……話題を変えよう。
「て、鉄心さんは、今レベルはいくつなんですか?」
「俺か? 俺は37だ」
「いえ、歳じゃなくてレベルの話ですけど」
「いや、だからレベルの話だよ。37」
「……あ、そうなんですか」
やっぱり鍛冶に力を入れていると言うだけあって、あんまりレベルは上がっていないようだ。ま、まぁ、『鍛冶』とか一般スキルのレベルはモンスターを倒せば上がるわけでもないし。レベルが上がれば貰える|SP《スキルポイント)を振り分けられる技・魔法スキルとは違うし……ね?
戦闘が疎かになる生産系のプレイヤーは、どうしてもレベルが低くなりがちだよね?
「おい。お前さん今、失礼な事考えたろう?」
「い、いえ。そ、そんなことないですよー」
「嘘が下手だなぁ。ちっ。これでも生産系では上がってる方だぞ? いい素材を集めるために強いモンスターと結構戦ってるしな」
「そ、そうなんですか? 因みに今、皆さんどれくらいのレベルなんでしょう? 100になっている人はいるんでしょうか?」
「……今日までダンジョンに籠ってた奴はとんでもないことを言うなぁ。100はおろか、最前線の攻略組で、50を超えたのがやっとなはずだぜ?」
「え……」
鉄心さんの言葉に、私は思わず自分のレベルを確認する――82。
「で? 初期装備で高レベルモンスターとばかり戦っていたお前さんのレベルはいくつだ? まぁ、素材は集まってるとは言え、苦戦を強いられてそんなにレベルは上がってないんだろう?」
「……えーと、82なんですけど……」
「はは。やっぱり82ぐらいだよな……え?」
聞かれたので、迷ったけれど素直に答えた私に、鉄心さんが華麗なる二度見で反応した。
一度は「あーわかってるよ」的な顔で頷いて前を見たのに、その後すごい早さで首を捻じってこっちを見てきた。リアルだったら首を痛めてそうな勢いだったよ。
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