第十六話 復習してみた。
「じゃあ、次はアンズちゃんが戦ってみようか?」
「はい」
パロン草原を歩いていると、近くにパロン・タートルが歩いているのが見えた。それに気づいた黒羽さんがそう提案してくれたので、私も木の棒を構えてゆっくりと近づく。どうやら相手は気付いていないようなので、慎重に、慎重に……。
「えいっ」
「ベェっ?」
――パロン・タートルを討伐しました。経験値2を獲得しました。
相手が甲羅に逃げ込む隙も与えずに殴打して瞬殺。ふっ、まさに仕事人級の腕前だね。
「すごいっ! アンズちゃん、上手ね。パロン・タートルはけっこう敏感だから、なかなか不意打ちはできないのに。それも急所に当たったんでしょうけど一発で倒すなんて……なかなかやるわね」
「え、へへ。あ、ありがとうございます。ふ、ふひ……」
ど、どうしよう。
ゲームの事で誰かに褒められたのって久しぶりかもしれない。
お母さんはどれだけゲームの腕前を披露しても顔を
たったこれだけのことで褒めてくれるなんて、なんてMMOって素晴らしいんだろう。にやけ面が止まらないよ……。
「さぁ、アンズちゃん。照れてないで素材を回収しないと」
「あ、はい」
そっか。
別に私はいらないけれど、私が回収することで黒羽さんにもアイテムがいくんだもんね。一応、素材の回収はしないとね。
――素材を回収するとモンスターの死体は消えます。素材を回収しますか? YES/NO
YESを押して、そして貰えたのが【小さな爪】だったのでまたポイした。
けどこの作業も面倒だし、どっかにポーチの中身を預けられる倉庫はないんだろうか? あるいは手持ちの素材とかって売れないのかな? そろそろどうにかした方がいいよね?
「黒羽さん。アイテムポーチの中身が満タンになった時は、どうしてますか?」
「アイテムポーチ? ああ、そう言えば月額課金すればアイテムを無限に入れられる倉庫が借りられるって話だったわね」
「か、き、ん……え? お金を払わなきゃいけないんですか?」
「まぁ、MMORPGだものね。そりゃあ、全くの無課金と言うわけにはいかないでしょ。私はちょくちょく素材を売るし、まだアイテムポーチがいっぱいになったことはないけれど、オガミは倉庫を借りてたはずよ。ちなみに値段だけど――」
黒羽さんが教えてくれた月額のお値段は、高くもなく低くもない、いや、大人からしてみればきっと安い方なんだろうって値段だった。
でも、しがない高校一年生の懐から出す金額としては痛い、痛すぎる。
……倉庫を借りるのは、まだしばらくいいかな?
黒羽さんも素材を売ってるみたいだし、私も街に戻ったら素材を売ろう。そしたら手持ちも減らせるかな?
「黒羽さんはどこで素材を売ってるんですか?」
「基本的にはぺスタにあるNPCの素材屋ね。それと知り合いの生産職にも安く売ることもあるし、高く買い取ってもらうこともあるわ」
「えーと、ぺスタって次の街でしたよね?」
「そうそう。始まりの街でもNPCなら何でも買い取ってくれるけど、今そこが私たちの拠点なの。まぁ、ぺスタに行くにはこの草原のボスであるダーク・トレントを倒さないといけないから、後続組にはまだきついかな?」
へぇ、やっぱり次の街に行く場合には、ボスとかいて倒さないといけないんだ。ボス戦も楽しみだなぁ。
「あれ? でもぺスタが拠点なら、どうして始まりの街にいたんですか?」
「え? ど、どうして……」
「オガミさんは妹さんとの待ち合わせでしょうけど、黒羽さんは何故始まりの街に?」
「べ、別に……ただなんとなくよ。悪いの?」
「はい」
「えっ?」
悪いと聞かれたので「はい」と答えたら凄い顔で見られた。こ、怖い。
「い、いやだって、もし誰かとの待ち合わせとかだったら申し訳なくて悪いなぁと思って……」
「あぁ、そっち? べ、別に待ち合わせとかじゃなくて……ちょっと気になっちゃって」
「気になる?」
首を傾げるこちらに、黒羽さんは妙に赤くなった顔を背けてその頬を擦る。今の会話に照れる要素なんてあったかな?
「……オガミには『来るな』って言われてたんだけど、どうしてもオガミの妹のことが気になってね。少しあの辺をぶらついていたの」
「ああ、そうだったんですか。やっぱり知り合いの身内って気になっちゃうものなんですね」
私には身内を気になるような知り合いもいないので良く分からない感覚だけれど、そう言うのは往々にしてあると聞く。きっと黒羽さんも気になっちゃったんだろう。
「そ、そう言う事っ! そんな事よりっ、今はアイテムポーチの心配なんていいから、敵をどんどん倒しちゃいましょっ!」
「あ、は、はい」
「ほら、あそこにパロン・フロッグがいるわ。今度はあれと戦いましょう」
「フロッグ……ああ、あのカエルですか?」
黒羽さんの指差す方向を見れば、たしかにカエルに見えないこともないモンスターが、背の高い草の陰で小さな草を食んでいる。
ただやたら大きいし、皮膚の色が黄色やら赤やら青とかを混ぜ合わせたよなカラフルだし……あれ絶対毒ガエルだよ。
「見れば何となくわかるでしょうけど、毒状態になる攻撃をして来るから注意して。ただそんなに動きは素早くないし、こっちが攻撃しない限りは攻撃してこないからまず不意打ちができる。攻撃方法も噛みついてくるか、毒の塊を吐き出してくる程度だから慣れたら簡単よ」
「わかりました……あ、ちょっと試しに魔法を使ってみていいですか?」
「そうね。せっかくチュートリアルを受けたんなら、使ってみましょうか。もう少し近づいた方がいいかもしれないわ」
「はい」
黒羽さんの言うようにもう少し近づいて、そしてさっき受けたチュートリアルの手順を思い出す。
「魔法スキルを選んで棒の先端を相手に向けるっと」
チュートリアルで使用したのが『火炎魔法LV.5』の『ファイヤー・ボール』だったので、もう一度復習を兼ねてその魔法を選ぶ。
「――『ファイヤー・ボール』」
私の棒から放たれた魔法は真っ直ぐ呑気に草を食んでいたカエルに直撃。一瞬にして燃え上がった。
――パロン・フロッグを討伐しました。経験値2を獲得しました。
「やったーっ! 魔法で初めて相手を倒せたっ!」
「ふふ。良かったわね、アンズちゃん。このゲームは実際に魔法を使っているような感覚が得られるらしいし、エフェクトとかもすごいこだわってるわよね。見てるだけで熱気を感じちゃうわ」
「そうなんですよ。今のでMPが減ったんですけど、まるで自分の身体から魔法を使うための魔力? を使った感覚になりますね」
まぁ、『ファイヤー・ボール』は7しか減らないので、あんまり魔力が減ったって感じもしないけど。
チュートリアルで使った分は減ってないみたいだし、残りMPは783/790……あと百回以上は軽く撃てちゃうな。
「けど、やっぱ魔法攻撃っていいわね。何と言うか華があるし……序盤でもモンスターを倒す威力があるんだものね」
「……そうですか。ふーん」
少しだけ羨望の眼差しを黒羽さんが私に向けてくれるけれど、こればっかりは素直に喜べないなぁ。なんだか『私』と言うよりも『魔法』を褒めてるみたいだし。
でもたしかに、木の棒でちまちま殴っているよりかは、魔法で相手を倒したほうが見栄えがいいのは同意だよね。
あぁそうだ、素材を回収しとかないと。
――【小さな牙】を入手しました。
――アイテムポーチがいっぱいです。アイテムを入れ替えますか? YES/NO
うーん、【小さな爪】の次は【小さな牙】か。これも多分簡単に手が入るんだろうし、いらないや。ポイしておこう。
……焼け焦げていてもちゃんと素材ってとれるんだ。
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