第3話
いつものフリースクールの寮の個室で私は眠りに落ちた。
夢の中で私は裸にされていて、丁寧に全身を愛撫されていた。私より背が高いことはわかっていて全盛期の頃のいしだ壱成のように綺麗な面立ちだったことも気づいていた。
「怖くないからね。」
と言われたのかな?
「明日抱くからね。」
とも言われたのかな?
(清算してくれるのかな)
『…、いわゆる人に委ねすぎてはいけない。』
という生存の為のルールを私の頭の奥に存在していた。つまり自分で証拠をつかまないと助からないのだ。後から先輩の証言を繋いで思い返せばフリースクールはどうも暴力団と関連していた。だから故に、綺麗な抒情事で済ませるわけにはいかなかった。
翌日、彼はまた夢の中で現れた。
「怖くないからね。」
と優しく囁き、私の処女らしき穴を塞いだ。痛みもなくかといって感覚も痺れて感じなかった。(これは勝てない。)わたしの生存本能は呻いた。頭が利口ではない私を恨めばいい。愛情なんてペタンコに薄くして解読もしないでしまいこんで翌朝あわててシーツを洗った。そしたら洗濯物を取り込む時間に、後輩が足跡のついた私のシーツを取り込んできた。それが確かな証拠だった。きっと。
私は冷たくしてくる理事長のことを
「あの人」
と先輩たちの前で呼び、恋人気取り風を演じることもあった。つまらない話、理事長のセクハラともいえる行為の本質をつかむ私の本性だった。先輩たちは私を睨んだ。そしてその日頂いていた寮生のメリーチョコのお土産を私には分けたくないという態度をとった。そしてもう理事長と二人っきりになるチャンスは喪失した。
フリースクールを出る一か月前には私は半ばもう発狂していた。寮生との人間関係がうまくいかずみんな私を無視し冷たくする。不安で理事長の携帯に何回か電話し不安であることを一言伝えると
「大丈夫。」
というような返答が返ってきた。しかし、理事長と同棲していた女の先生が私の傍で
「理事長先生がいいって言ったってみんないいと思ってないからね。」
と小声で罵ってきた。
私を助けてくれる人ではなかった。いつかの日に
「〇〇(私の名前)ちゃんのことを一番好きだと思っているの。」
と女の先生が言っていた言葉はやっぱり彼女自身を守るだけの拙い言葉だったの?
フリースクールを辞めた夏、大学のスクーリングに来ていた東京の喫茶店で理事長を見かけたが、今までにない自信喪失の顔だったので無視できた。
私が卒業できなかった大学を卒業できたと報告してきた先輩とも音信不通になった。フリースクールを辞めてからずっと先輩の誕生日に誕生日プレゼントを送ってきたがその年はもうプレゼントは辞めた。それから音信不通になったのだ。自信とは自分で作るもの。相手の評価をいくら気にしたって無駄にしかならない時もあるんだね。
その後地元の飲食店のバイトでお客として理事長にそっくりな人が来ていたが、俯いていたのでもう判別する必要もなかった。
愛情は自分の丸めやすいように手に入れればいい、生死の間を彷徨う35年間だった。
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