第2話

 彼はネットのライブで自己で仕入れた商品を売っていた。

私は冷たい水を溜飲を押し込むようにして飲み込んだ。予算のなさと日ごろの疲労はもう彼に声をかける気力を喪失させていた。間もなく彼はまた


 高校を中退した16歳の夏は冷夏だった。16年生きてきてこんなに身が震える夏なんてなかった。暑い夏は楽園で毎年うきうきしてたのに同時にコントロールできないストレスも感じていた。身体や心は本当に整えるのは難しいと思い知っていた。お母さんは夏休みに私に学習教材もやらせようとしたけど、母が教えられるわけではないし、父は仕事が優先だし、やりきれない怒りはまだ生きていた兄と、家具に当たり散らしてきた。

そうした幼い罪を裁くような夏だった。


 言うまでもなく、そんな父母が不登校になった私に紹介したのは最低なフリースクールだった。寮に入った初日から朝、目の前に中年男性の理事長が立っていて見つめていた。そして挨拶の仕方が悪いと数時間怒られたり、就寝後に全員起こして意味の分からない説教もされた。寝床でダイニングルームの方から竹刀で叩く音まで聞いた。

 そして当然のように朝方理事長にキスをされ、気を失った。

“これをいわゆる愛情だと変換しなければ生きていけない”私の潜在意識の奥の奥まで恐怖は貫きそして幻想を自ら作り始めた。

気を失う様に寝入っていたを、恋人たちの営みを連想するような心持ちでなんども頭の中で回想して組み立てようとしていた。

(起きている時に胸を触られた日もあったっけな。)一個一個不可のないように思いだそうとしてストレスが頭を痛くさせていた。


 朝目覚めた時にそれがあった。

耳に柔らかくなぞられた時間が5分以上はあった。それは少し湿った舌で優しい愛撫であった。“誰”という言葉は掻き消した。モノクロの映像は決して現実では語ってはいけない。そんな防衛本能があった。

理事長先生はずんぐりした身体だった。確かに足は細いけど全体的にアンバランスで丸い顔は苦々しさを感じさせた。間違いなく今日の早朝に巡り合った人は理事長ではなかった。

“わたしは禁じられた危険な情事ごとはできる能力はないのかもしれない。”

理事長に迫って思うのは、彼の犯罪行為を明るみにする以上はなく短絡的な思考に先を作る能力なんてなかったかもしれない。

私の脳裏の中で新しい日々が繰り返し始めた。そしてある日の日曜の朝食の時間、同じ寮に住んでるだろう後輩の目の前で“”をつくってみた。後輩は私を無視はしなかった。どうしたのという風に表情で返事した。完全に夜の違和感を否定された。これは完全に今の私がどうにかできる問題ではなかった。


 理事長先生は時々みんなの勉強など活動の手を止めさせて、みんなを集めて話をし始めた。その目は私を見つめ、暗喩のような愛の言葉も織り交ぜられているような気がした。だけどそれはただの偽り事でしなかった。私は寮から家に帰りたいと時々いわゆるわがままを言い、駅や自宅付近まで理事長に車で送っていってもらうことを求めたが、理事長の態度は冷めていて私を蔑んでいるように感じた。いわゆる言葉などによる洗脳と実際の本心との違いに気が狂いそうになっていく。

好きな人なんて思いつかない私は夜の理事長とは違う正体不明の別人の気配に“いしだ壱成”と名付けることにした。


 敬愛の念を思い描いていた理事長先生に初めて誕生日のための手作りお菓子をこしらえた時、

 「手抜きなの?」

 と言われた。それは理事長の好きな和菓子だった。

 2度目の誕生日会に作ったケーキは豪華な二段のフルーツデコレーションケーキだった。理事長の好きな葡萄のデラウェアとなんだったかな、缶詰のフルーツを散らしてあった。理事長は要らないという嫌そうな顔をし一口もケーキを食べなかった。

 3度目以降はイチゴのデコレーションケーキ。夏だったのでイチゴは手に入らないのでわざわざ長野の夏のイチゴを自前で購入した。それも喜ばれず食べなかった。

初めてフリースクールの生徒の誕生日ケーキ用に“モンブラン”を本格的に完成出来た時は、先生たちがかなり態度が悪く怒っているようだった。

そうして自分の存在意義を求めながらフリースクールでの日々が過ぎていく中で私はある日、

 「なんでこんなものを作らなきゃならないの。」

 と叫んで冷蔵庫を軽く蹴飛ばした。たった一人でフリースクールの生徒のためにバースデーケーキを作っていた時だった。

 声はどこかに漏れて聞こえていたんだろう。先輩たちに会ったときにもう彼女らは怒り顔で

 「ケーキなんて作らなくていい!」

 と罵られた。まだ大学も卒業できなくフリースクールを辞められないわたしはなんとか感情の隙間に入り込んでケーキ作り担当の仕事を失わずに作ることを辞められなかった。でも、もうきっと永遠の終わりを感じていた。


 別のいつかの日にはフリースクールの先生は変なことを言った。

 「おしゃべりしながら男女ペアになって散歩しなさい。」

 と。

校舎の周りは、一般の住宅街が並ぶ。どこかの企業もいくつかある。そんな中でおしゃべりなんてしていいのかな?していいとしてどれくらいの音量と内容ならいいのかな?答えが分からないので私は声を失っていた。隣の男の子は不機嫌な顔をしているようにも見えて彼もまた黙って歩いた。

(そういえば、フリースクールに入寮したばかりのころに初めて会う男の子との恋愛を勧められたっけな、理事長に。わたしは郷に従うつもりでいたからそれを演じたけど、隣にいる彼だって今は勉強したいはずなんだろうな。)

 校舎に戻ってきた時、先生は怒鳴った。

 「何でしゃべってこなかったの!」

 ますます意味が分からなくなった。


 私はの終わりに女の先輩に冷蔵庫の前でキスをした。一緒に過ごしたお礼だったし、おいしい賞味期限切れのお菓子を分けてくれたお礼だった。

それから私は

 「スキャンダルを起こしたい。」

 といった。いわゆるラブスキャンダル。

 「そしたらフリースクールには居れなくなるね。」

 先輩は言った。

(そうなんだね。)私は空っぽだった。

もし、天皇誕生日に理事長先生の不純異性交遊しているという事実を聞かなければこの場所から逃げられない、ただの弱い女の子だった。

でも、それはそれまでの人生への清算の始まりだった。

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