三日目:三月十二日

 翌日、葬式は午前中から行われた。天気は昨日の天変地異がまるで嘘のように思えるような晴天であった。もちろん昨日の事が紛れもない事実であることは、寝起き頭に耳にしたテレビのニュースから確認していたが、それ以降は誰もテレビをつけようとせず、浩司も昨日から斎場を離れる機会が無かったため、やはり昨日と今日という現実の間には、大きな断絶があるような気がしてならなかった。地震の影響で未だに首都圏や一部の交通機関に障害は残っているようで、急遽葬儀の時刻を遅らせそれを知らせるための電話に明け暮れると言ったトラブルこそあったものの、それらを除くと極めて平凡な、ありふれた一日が続いているように思えた。


 弔問客が集まりはじめると、浩司は飲みすぎでクラクラする頭を首の上で踏ん張らせながら、受付に訪れる人々に次々と礼をすることとなった。浩司の隣には真琴が立ち、同じように機械的にお辞儀を繰り返している。幸い、母から思い切り叩かれた頬からは赤みが引いており、黙っていれば弔問客は、妹がこの歳で壁まで吹っ飛ばされるほどの勢いで頬を張られたとは思うまい。浩司は、母と妹が昨晩二人きりでどのように過ごしたのか非常に興味があったが、当然そんな事を聞く度胸も暇も浩司にはなく、また真琴にしても未だに心に引っかかるものがあるのか、今朝から誰に対しても必要以上の会話を許そうとはしなかった。それは母にしても同じで、真琴にも浩司にも敢えて話しかけようとはしなかった。浩司はあんなにも大きかった母の声が、今日は踏切と歩行者信号の点滅音とを比較したくらい小さく、張りも無くなっているのに気付いた。


「……家、どうだった?」


 弔問客が列が途切れた瞬間を見計らって、浩司は真琴に耳打ちするように聞いた。それは母との関係性の事か、地震による被害の程度の事か、測りかねるような姑息な聞き方だった。


「そうでもなかった。食器棚の、お皿が一列分落ちて割れたくらい。浩司の部屋は知らん。」


「……あ、そう。」


 真琴は素っ気なく答えた。浩司は、今日の妹からは隙というものが感じられず、年甲斐もない寂しさを覚えた。それは子供時代、弄りがいのある友達にある日突然大人びたように相手にされなくなり、悪戯心を所在無くひっこめた時のような感じだった。


「……チラッと見てくれてもよかったじゃん。」負け惜しみのような気持ちを隠しながら浩司は言った。


「なんでよ。やだよ、あんたの部屋なんか見るの。」


「よく本取ってくて言ってたじゃん。」


「入りたくて入ってる訳じゃないし。」


「……あ、そう。」


 浩司は、妹の本音に些かのショックを受けた。そして、愛嬌の無い辛辣さは容易に人の心を壊すものだと感じた。


「そうだ……カラス、いなくなってたよ。」


「ああ、昨日の朝怪我してたカラス。怪我じゃなかったのかな。」


「そうみたい。」


「よく天変地異は動物が先触れになるって言うから、そういう事だったのかもな。でも本当にそんな事あると思わなかったな。ひょっとして、あれかな、お祖父ちゃんが俺らに知らせようとしてくれたとか――。」


「あのカラスは、お祖父ちゃんじゃないよ。」


「――うん。知ってる。」


 じゃあ祖父はどこにいったのか――そんな答えを出すのも、答えを探そうとするのもナンセンスな問いを押し殺し、浩司は居並ぶ人々に目を向けた。


 祖母は、上等な喪服の着物と、いったいどんな織り方をしたら絹がそんな輝きを放つのかと疑いたくなるようなキラキラした白い帯を合わせて、記帳台に立つ母の横、やって来た弔問客がまず目を留める所に陣取っていた。祖母の顔は、顔の皺を徹底的に隠すように上塗りされた化粧で、果たして祖父と祖母のどちらが亡くなったのか分からなくなる程だった。一目でわかる塗り物っぽさで一番目に付く所に立つ祖母は、好意的に言っても『食い倒れ太郎』や『カーネル・サンダース人形』といったマネキンの類のように見えた。


 だが弔問客らは最初にそんな祖母を見る羽目になっても、笑いを吹き出す事も動揺する事もなく、神妙な顔で「ご愁傷さまでした」と繰り返していた。そうした弔問客の態度もあって、浩司はやがて祖母の厚化粧に滑稽さ以上の深刻さを感じるようになった。それは、何も祖母だけが特別なのではなく、一定の年齢を超えると人間は自己の尊厳を保つために敢えて過去に反した行動を取らざるをえなくなるのではないか、祖母の年齢に近い弔問客らはその事を理解しているのではないかという事だった。


 浩司には家族が皆、一晩会わない間に何かしら変わってしまったような違和感を抱えていた。それは昨日という一日の間に積もり積もったものが、夜を明かすことで表出したという事かもしれない。もしくは浩司にとって、家に帰らずこの斎場で親族と、祖父の棺桶と共に夜を明かした事が想像以上に異質な時間の流れであったためにそう感じるのかもしれない。何れにしても浩司は、家族の中では唯一同じ時間を共有し大きな変化を感じない父の純一には、安心感にも近い共感を抱いた。


 その父は昨夜から普段のように、否、普段以上に寡黙であった。テレビを見て、浩司や親族らと災害について感想や意見を交わす事は幾度かあったが、規模や被災者数、今後の心配を医療関係者らしく淡々と語る様からは一切の感情の起伏を感じさせず、実際に話していた時間や量に反して寡黙な印象を強く残した。それは夜が明け、母が着替えを届け、いざ葬儀が始まるという段になっても変わらず、父は普段通りの平静さを貫いているように思えた。


 葬式がはじまると、再び僧侶が経を読み上げはじめ、単調なリズムの中、弔問者が順番に焼香を上げた。浩司にはこの一連動作が、果たして昨夜の通夜と何が違うのか、どうして繰り返す必要な事があるのかという事が疑問であった。こうもやる事が同じなら、わざわざこんな大変な時に通夜も葬式も両方行う必要は無かったのではないか、交通機関の乱れの激しい中で二度も人を集める必要は無かったのではないか、そうすれば今頃は自分も東京に戻る方法を真面目に検討することができていたであろうに――浩司はそんな事を考えていた。


 そして長い読経と焼香の列が終わると、僧侶から祖父の冥福を祈ると思わしき言葉が読み上げられた。しかしそれは聞きなれない言葉や抑揚であった上に、祖父の名前の代わりには聞いたこともない戒名が読み上げられたらしく、終始理解できない言葉を聞き流しているうちに僧侶の最後の仕事は終わっていた。浩司はいつだったか、母が『長い戒名を買うために寺に高い金を払っている』と祖母の事をぼやいていたことを思い出した。そうして買った戒名は恐らく何本も並んだ卒塔婆のうちのどれかに書かれているのだろうが、それがどれで、何と読むのか浩司には分からなかった。それ故に、発音を聞いたこともない漢字の羅列がどうも祖父の姿とは結びつく名前とは思えなかった。


『葬式の最後の最後で、なんだか遠い他人を送り出しているような気分になったな。』浩司はそう感じた。




 僧侶が仕事を終え、出棺の前に喪主である父が田宮家を代表して集まった人々に挨拶をする時間になった。父は誰に促されるともなく進み出て祭壇の前に立ち、人々に一礼した。人前に立つことに慣れた、自然ではあるが威厳と誇りに満ちた人間の立ち居振る舞いだった。前に立った父は、しばらく一言も発さず、眉一つ動かさずに、ただ祖父の棺を背に立ち続けていた。それは厳粛な沈黙でもって、父なりの最後の弔いと、祖父への別れを告げるかのようであった。


「……本日は、父、田宮李一のためお集まりいただき、誠にありがとうございます。」


 しばらくの沈黙の後、父は淡々と語りはじめた。


「昨日、大変な地震が発生しました。ご存知の通り父が亡くなったのは七日です。しかし私事のため、式を一週間近く後ろ倒しにした結果このような日になってしまいました。皆様には大変ご迷惑をおかけしました。しかしこの大変な時に、多くの方々にお越しいただき、お別れができた事、父も大変喜んでいると思います。」


 昨日の災害の事、訪れた弔問客への御礼を述べた後、父は故人・田宮李一がどのような人物であったのか、説明をはじめた。最もそれは、訪れた人ならだれでも知っている事――つまりは、若くして南洋装具を興した事、事業を拡げ多くの顧客・従業員を抱えるようになった事といった祖父の社会的な業績――を、端的かつ儀礼的になぞる話であった。そして話は、祖父の晩年に至った。


「――ご存知の通り、父は早くに身体を患い、長く不自由な生活を送っておりました。それでも、享年九一の大往生を遂げることができたのは偏に、皆様の深いご愛情のおかげだと思います。私は――」


 今まで淡々と話していた父の声はそこで力んだようにどもり、口を噤んだ。そして眼鏡を持ち上げ、ハンカチで眉間を摘まんだ。


 それは、浩司にとって生まれた初めて目にする父の涙だった。


「――失礼。私は、結果として父の興した家業を継ぐこともなく、今こうしております。その選択を後悔した事はありませんが、私は、私の人生は、父に何も返すことができない人生でした。だから、こうして父のため集まってくださった皆様に、そして献身的に父に尽くしてくれた家族に、深く感謝申し上げます。皆様のおかげで、身体を患ってもなお父の人生は豊かなものであったと思います。誠に、偉大な父親でした。そんな父を支えてくださった皆様に、改めて感謝を捧げ、私の挨拶とさせていただきます。」


 父は時折ハンカチを目に当てながらも、今度は言葉を詰まらせることなく、挨拶を終えた。感動的な父のスピーチに対し、親族や弔問客らは激励のような拍手で応えた。


 しかし浩司には、父の胸中が図れなかった。祖父が孤独な晩年を送っていたこと、見舞いに訪れる親族もほとんどおらず、最期の瞬間も一人であったことは当然父も知っているはずなのに。なのにどうして、それが世辞や建前だとしてもあんなことを言えたのだろう。少なくとも浩司の目には、父の涙は悔恨や慙愧の念ではない、故人との別れを悲しみ、故人に感謝する、そんな思いが純粋に溢れた涙のように思えた。果たしてどんな気持ちで、そんな涙を流しながら心にもない謝辞を言い続けることができるのであろうか。


「……お父さんが泣いてるとこ、初めて見たね。」


 隣で真琴が、浩司にだけ聞こえるような小声でそう言ってきた。


「うん……なんか、父さんも人間だったんだな、って。」


「そうだね。なのに今まで、さ。お父さんって、強かったんだね。」


 真琴の言葉は、浩司より遥かに的確に、真理を突いていた。浩司は、二五にもなってやっと父の精神的な強さを実感した。今までの感情を抑え、冷静に思えた振る舞いもすべて、喪主としての務めを果たすための父の強さだったのだと今更ながらに気付いた。そして、そんな事にも今まで思い至らなかった自分の幼稚さを恥じた。


 しかし、それならば、涙を浮かべながら語った親族や家族への感謝も、強さのみから生まれた詭弁であったのだろうか。それだけは、浩司には承服する事ができなかった。




 出棺の時間が来た。集まった人々が祖父と最後のお別れをする時間が過ぎると、彼らに見守られる中、浩司は家族と、幾人かの葬儀会社の職員と共に祖父の棺を押し、霊柩車へと載せた。霊柩車は最近、特に東京の方ではめっきり見かける機会の少なくなった黒壇の宮型霊柩車であった。恐らくは霊柩車一台借りるにしても、祖母と母の間では熾烈な価格交渉が繰り広げられたに違いない。子供の頃は霊柩車を見かけるたびに、あの金色に輝く鳳凰やら欄干装飾がベタベタ張り付いた荘厳な車の中が気になったものだが、二五にもなって初めて見た霊柩車の中は、金細工はおろか漆塗りも絹の敷物もなく、アルミ製と思しき骨組みと移動床が剥き出しとなった、酷く殺風景なものであった。


 霊柩車に祖父の棺を納めると、集まった人々は自然と霊柩車の両側に道を作るように並んだ。列の中からは、時折嗚咽や鼻を啜る音が聞こえた。浩司は、先程中身を見たときはあまりの無骨さに幻滅すら覚えてしまったが、こうして離れたところから外見を見ると、傷やくすみ、指紋汚れの一つすら残さない程に磨き上げられた漆塗りの車体や彫刻、金色の装飾が息を飲むような美しさを放っていることに感心した。それは埃っぽく霞んだこの田舎町には不釣り合いで、家族や会社の禍根、大災害で混乱する社会から、祖父の魂を間違いなく浄土に導いてくれそうな気がした。残される人々がそういう気持ちで故人を送り出せると思えば、霊柩車の装飾というのもあながち無用の長物とは言えないと感じたのだった。


 クラクションが鳴った。霊柩車はタイヤで小石を踏み潰すミシミシという音を響かせながら、ゆっくりと発進した。表の道では葬儀会社の人が歩行者や通行車両を止めていたため、霊柩車は不格好に停止することもなく、滑らかに車道に出て火葬場の方向に走りはじめた。それを見届けると、集まった人々は口々に葬式の感想や地震の話題を言いながら、斎場の中へと戻っていった。浩司の家族を含む親族の一部は、この後何台かの車に分乗し火葬場に向かう事となっていた。しかし浩司は、その中で一人だけ建物とは逆方向に歩く人物を見つけ、歩み寄った。二ノ宮であった。


「二ノ宮さん。」


 浩司が声をかけると、二ノ宮は帽子を取って礼をした。二ノ宮の帽子を取る動きは、今日も変わらず自然で気品を漂わせていたが、浩司はその動作に油が切れたようなぎくしゃくとした歪さを僅かに感じた。二ノ宮は見つかってしまい罰が悪いというような微笑を浮かべていた。今日の葬儀には、記帳から読経の間は二ノ宮は現れていなかった。


「浩司君、こんにちは。見つかってしまいましたか。」


「今まで、どちらにいたんですか。」


「帰ろうとしておりました。ただこれから出棺だと思うと、どうしても気になってしまって。」


 二ノ宮は霊柩車の去った方角を見つめた。それは恩人であり、生涯消えない罪を共に背負った戦友との最後の別れを受け入れたような眼差しだった。


「私など、あの方にお別れをする資格も無いような者ですが、やはり後ろ髪を引かれてしまいました。いけませんね。」


「どうして、そう思ったんですか。どうして祖父に会えないと。」


「……私は、あの方が生涯背負い続けたものを、身勝手に自分だけ降ろそうとしてしまいましたから。」二ノ宮は悲しそうに微笑んでいった。「でもそれも失敗した。こんなに決まりの悪い事はありません。」


 浩司は、それは違う、と言いたかった。浩司は、自分と二ノ宮は似ているような気がした。浩司は祖父の死に目に会おうとしなかった負い目と、祖父が抱いたかもしれない怒りに囚われ、二ノ宮は未だに六〇年以上前の過ちの罪悪感と、祖父への恩義と義理に囚われている。そして二人とも、直接祖父の心中を聞いた訳ではない。もう話す事のできない人間の、語られることのなかった胸中を想い、自分自身の後悔によって縛られている。浩司が『お祖父ちゃんが怒っている』という真琴の言葉とテレビの中の津波が頭から離れないように、埃っぽい倉庫の中で権利書を握りしめ男泣きしながら詰め寄った祖父の姿が、二ノ宮の心を縛っているように思われた。


 しかし、自分自身の心を安らげるような言葉すら持たない浩司が、二ノ宮に対して何を言えるわけも無かった。


「……これから、お帰りになるんですか。」


「ええ、福島に。」


「大丈夫なんですか、その……交通手段とか。」


「はは、まあ、何とかして帰りますよ。……帰らなければなりません。」


「その後は……。」


「……やれることを、やっていきます。あなた方のお力にはなれませんでしたが、私にも、あの福田の土地にも、まだ使い道があると思いますから。」


 二ノ宮はため息交じりで、しかし深刻さを感じさせないような調子で言った。


「別の場所で暮らそうとは思わないんですか。今なら土地も家も手放して、別の場所に移り住んでも、誰も気にしないと思います。そうすれば、祖父から……。」


 『祖父から逃げる事だってできる』、浩司はそう言いかけた。しかしそれを口にするという事が、自分にとってどうしようもなく残酷で取り返しのつかない変化を起こす気がして、浩司は口を噤んでいた。二ノ宮は、そんな浩司に対して諭すように微笑んだ。


「色々あって流れ着いたあの場所ですが、随分長い間世話になりましたから。『南装』が李一様や茂さんにとってそうだったように、私には福島に思い入れがあります。あの土地のため、何かをしなければ……あとどれだけ働けるかは分かりませんが。」


 母が浩司を呼ぶ声がした。それを聞いて二ノ宮は、「それでは私はこれで。」と言って帽子を被り、今度こそ斎場を去っていった。雲一つない空の下、岩槻の古びた人形屋が立ち並ぶ長い通り道を二ノ宮は駅の方角へ歩く。少し足を引きずりながら、ゆっくりと、振り返ることなく歩んでいく二ノ宮の後姿を、浩司はしばらく見つめていた。




 火葬場は斎場から車で小一時間ほど、郊外の小高い山を登ったところにあった。火葬場には広く清潔な墓地が併設されており、エントランスをくぐってすぐの待合室には、大胆に自然光を取り入れるガラス製の壁、幾つもの丸テーブル、カップ式のコーヒー自動販売機、マガジンラックや大きな液晶テレビが置かれており、まるでカフェか真新しいオフィスかと見紛う程だった。自動ドアを一つくぐったところに、病院のように真っ白な内壁とリノリウム床に囲まれた火葬炉の部屋があった。祖父の棺はその部屋の真ん中に安置されていた。想像よりずっと清潔感のあるその部屋の、壁の一角だけ業務用エレベーターが付いたような箇所があった。立ち合い予定の人物が全員到着したことを告げると、火葬場の職員がボタンを押してエレベーターの扉を開けた。それこそが火葬炉であった。


 浩司達は、祖父の棺の小窓を開け、最後の別れを行った。小窓から見た祖父の顔は、一昨日の納棺時よりも更に丁寧に死に化粧で整えられており、浩司には祖父が棺の中で若返ったように感じられた。こうして現実とは違う時間法則の流れる場所で、安らかな顔で眠る祖父が、今から灰になるというのは想像もできなかったし、想像もしたくない事であった。祖母や真琴は、祖父の顔を見てまた泣きはじめた。母や茂叔父、そして付き添いの数名の親族は、綺麗な顔だとか、いい葬式だったとか、話し合っていたが、その言葉の節々にはどこか祖父を労うような調子が感じられた。


 祖父の棺を火葬炉に収め、扉が閉められた。職員に促され、父が心なし強張った顔で壁に取り付けられたボタンを押した。遠く離れた場所で空調のボイラーが動く時のような音がした気がしたが、それ以外の動作音や、火が焚かれるメラメラといった音は一切しない。そうして、祖父の火葬は柔らかく温かい沈黙の中で開始された。


 浩司は、こうもあっけなく人間の身体が焼かれるものかと少し驚愕した。そこには死が持つ残酷さも厳かさも何も無く、それ故に浩司は、この火葬の時間が葬式という儀式の一環というよりも、残された者たちが気の済むまでお別れを告げた人のカタチを、その人の死を受け入れ、葬儀の事後処理と納骨という次のステップにスムーズに移らせるためのショートカットのように思えた。


 よく火葬場の煙と共に死者の魂は天へと昇っていくという迷信を耳にするが、浩司には今この瞬間、火葬場の煙が上へ上へと昇っていくのではなく、音もなく地中に溶けていっているのではないかとさえ思えた。そう思うと自分が立っているこの床も、この大地そのものも祖父の一部であり、自分達はこれから永遠に祖父に見張られているということにでもなるのであろうか。


 浩司はあまりに飛躍しすぎた想像を追い払った。そしてこんなにも荒唐無稽な想像に耽るという事は、自分が思ったよりもセンチメンタリズムに陥っていることの示唆であるように思われた。真琴から悪い影響を受けすぎだ、これが終わればすぐにでも変わり映えしない日常がはじまるのに、いつまでも感傷に浸るなど益体無いことこの上ない。浩司はそう自分を戒めた。


 居心地の悪いほど綺麗な待合室で、昨日の映像や記者会見を垂れ流すテレビを横目にただ待つだけの時間は一時間程度で終わった。浩司達は先程の火葬炉のあった部屋の、更に隣の部屋に通された。その部屋では台の上に、青白くカサカサとした物体が、木枯らしに荒らされた後の落ち葉のように乱雑に散らばっていた。それが祖父の遺骨であった。骨の拾い上げは二人一組で一つの骨を順番に拾うが風習らしかった。まず父と祖母が、次に母と浩司が骨を拾う。竹製の箸で祖父の遺骨に触れた時、浩司はその手触りと軽さから燃え尽きた炭を連想した。そのように軽く脆い骨を、二つの箸で一つの骨を摘まむという慣れない動作で運ぶために、浩司は力加減を誤り箸の中で祖父の骨が音もなく二つに割れた。


 浩司は、祖母や真琴が骨を運んでいる最中にまた泣きはじめ、骨を折りはしないかと危惧したが、二人が涙を見せることはなかった。一しきり泣ききって心の整理がついたのか、それとも目の前のカサカサした物体が最早祖父とは感じられないかであろうか。


 浩司は後者であった。そして祖母や真琴も同じ気持ちであると仮定するなら、火葬が感情のショートカットであるという浩司の考察は的を射ていたことになる。二人は晴れて祖父との別れを乗り越えた事になる。しかし祖父の死に対して整理が必要なほどの悲しみも芽生えない内にショートカットボタンを押された浩司の心は、ただただ虚しさで干上がっていた。


 骨の拾い上げは、父が祖父の喉仏を拾い、最後に浩司達全員で火葬場の職員に深々と頭を下げる事で終了となった。斎場に戻るにあたって、浩司が骨壺を、真琴が遺影を持つこととなった。浩司が恐る恐る布に巻かれた陶磁器の容れ物を抱えた。のっぺらぼうの円筒状の壺には、当然ながら祖父の全ての骨が納められている訳ではなく、手に感じる重力は全てが壺のものと思えた。


「流石長男、責任重大だな。しっかり運んでくれよ。」


 名前も知らない親族の男性が浩司に言った。浩司としては骨壺にも中身の骨にも祖父の存在を感じることができず、感覚の乖離に直面した。だが、やはりそう言われるからにはこれも大切なものとして扱わなければならないのだろうと感じ、浩司は骨壺を抱える位置を少し高くして腕に力を込めた。


 浩司はふと今が、ひいては先程の骨を摘まみ上げていた時が、随分と久しぶりに祖父に触れた瞬間であったことに気付いた。生身の祖父に触れたのは何年前、あるいは十何年前であったろうか。それはいつであったろうか、祖父は何をしていた時であったろうか。施設暮らし特有の少しアンモニア臭い祖父の身体が、今は無色無臭の炭塊となって浩司の腕の中に納まっている。恐らくではあるが、浩司の記憶にもない最後に祖父に会った浩司は、祖父の臭いも、歪に痩せ細った身体も好ましく思わなかったであろう。


 祖父も、祖父の周りで世話をする母や施設職員も、不自由な身体に命と人生を繋がせる事に必死であったはずだ。そうして誇りある醜さを選んだ祖父の身体を愛することができなかった浩司が、今、腕の中に抱える祖父の骨に対しても何の慈しみも抱けないというのは、矛盾しているようにも思えたし、当然であるようにも思えた。


 せめてこの骨壺を大切に家まで運ぶことができれば、祖父を愛したことになるであろうか。浩司は一瞬そう考えたが、止めた。死者の魂を欺こうとするのは、愚かな行為だ。そしてそれ以上に愚かなのは、死者を欺くことで、自分の愚かさに許しを与えようとする行為だ。


 浩司はせめて、祖父を愛せなかった過去にも現在にも目を逸らすまいと思った。手と腕の力を緩め、骨壺を楽な位置で抱え、そうして腕の中のただの陶器の鉢にかかるあるがままの重力を感じた。そうして抱えた祖父の骨壺は、腕の中でぎゅっと抱きしめたときより、遥かに重く感じた。




 火葬場を出ると、斎場で待っていた親戚の一人が迎えの車を回していた。元々車二台で分乗してやって来たというのに、わざわざ帰りだけ車を増やす必要があるのかは疑問であったが、親戚は、「だって帰りは一人増えるだろ」と言った。その馬鹿馬鹿しさに母はゲラゲラと笑っていた。


 帰りの車が二台から三台になったために、真琴や祖母は母の車に、茂叔父ら親戚たちは迎えに来た車に乗ることになり、父の車に残ったのは浩司だけとなった。火葬場を後にした車列は来た道と同じ、緩やかな丘の尾根を下るような峠道を降りていく。木々の隙間から、時折遠くに岩槻の街並みや線路や鉄塔が見えた。浩司は車の助手席で、窓の外を流れるそんな景色に目をやっていた。浩司と父しかいない車内は静かだ。迎えにきた親戚の気遣いは、冷静に考えれば有っても無くても変わらない無駄なお節介と言えるであろうが、こうして無用な会話や啜り泣きから遠ざかれることは、今は浩司にとってありがたかった。


 既に祖父の遺骨に対して無用なプレッシャーを感じるのもやめた浩司は、既に明日からの事をぼんやりと考えながら流れる景色に意識を任せていた。東京への帰り方、地震で荒れたであろう自宅や店の整理、今月残された生活費、先延ばしにしていた確定申告――全てこれまでと何も変わらない日々を明日へ、また明日へと継ぎ足していくためだけの差し木で、何を生み出すでもない、しかし目を背けては生きていけない大切な事であった。


「……明日には帰るのか。」


 車内の沈黙を破ったのは、父の方からであった。


「うん。店の方も大変になってるかもしれないし。」


 浩司は、車の外を流れる景色から目を動かすことなく答えた。


「古本屋だったね。大丈夫だったのか、向こうの方と連絡はついたのか。」


「分からない。携帯持ってないんだ、お爺ちゃんだから。家電も店の電話機にしか登録してないし。」


「今の人はそういうものなのかね。」


「特殊だと思うよ。俺、ほとんど一人で店預かってるような感じだから。開けるのも閉めるのも一人だし、普段連絡付かなくても困らなかったから。」


「そうか……頑張ってるね。」


 頑張ってる、の一言が妙にむず痒くて居心地が悪い気がして、浩司は話題を変えようと思った。


「そっちは?病院は大丈夫だったの。」


「まあ。病院は、もともと、ほら。災害に強く作られてるから。誰か欠けても、きちんと回るようなシフトも組まれてるし。」


「……昨日、遅くまで色んな人、来てくれてたね。」


「ああ。みんな、仕事の後に駆けつけてくれた。ありがたいことに。」


 そう言う父の声には、建前でも謙遜でもないしみじみとした感謝の色が満ちていた。


「みんなにも、浩司にも迷惑をかけたね、今回は。父さんの仕事のせいで。」


「……ああ。葬式が延びたこと?仕方ないよ、予想できるわけないもん、こんなの。」


「ああ……でも、そのせいで、真琴も母さんに……。」


 浩司はそれで、昨日母が真琴をぶった件を父が気にしているのだと気付いた。傍目から見れば、真琴の繊細さが悪い方向に作用しためにあんな不謹慎な発言をしたと思われるのは当然であろう。浩司は、その原因の全てを妹に押し付けていくのはあまりにフェアでないと思い、父にあの発言の背後を話す事にした。


「父さん、真琴が言った事だけど実は――。」


 浩司は全てを話した。自分も真琴も、祖父の死に目に駆けつけなかったことにそれなりの負い目を感じていたこと、そんな妹を励ますために、自分が太宰なんかを引用して、死者が何かの姿を借りて現れるなどと言ってしまったこと、母と話して、祖父の死に際には誰も立ち会えなかったと知ったこと、そして祖父が、そんな自分達に怒っているのではないかと二人で思っていたこと、全てだ。箇条書きのような浩司の話を、父は黙って聞いていた。そして全てを聞き終わったとき、小さなため息をついて一言、


「あほだなあ。」と言った。


「親父がそんなこと思う訳ないさ。」


「そう……なのかもしれないけどさ。お祖父ちゃんの事、知らないんだから。俺にも、真琴にも分かるわけないよ。」


 浩司は窓ガラスにもたれ掛かるようにして首を縮めた。浩司も真琴も、祖父の事を知らないからこそこんなにも悔やんでいるのだ。


「父さんはさ……なんでさっきああ言えたの。」


「いつ。」


「お葬式の、最後の挨拶。お祖父ちゃんが、みんなのおかげで幸せだったって。ほんとはずっと施設に一人で、顔みせるのも母さんぐらいだったのに。」


「うん……そうだね。」


 父はしばらくの沈黙の後、言葉を探り探り選ぶように話しはじめた。


「確かに、最期の瞬間は寂しい思いをさせたと思う。それは私のせいだし、母さんや、お袋のせいでもあると思う。でも、父さんはそれであの人の人生が悲しいものだったとは、思わないよ。」


「……最期の瞬間だけを切り取って判断しちゃいけないってこと。」


「うん。まあ、そういうことかな。」


 父の言う事は理解できた。それは晩年の孤独な思いをした祖父の姿も、苛烈な兵士だった祖父や、手段を選ばずに会社を立ち上げた祖父、障害が悪化し家に居場所を無くした祖父と同じように祖父の人生における一側面に過ぎないということだ。しかし、一側面と言い張るには祖父が施設で孤独な日々を過ごした年月はあまりに長いのではないか。そして、死の間際に抱く感情というのは矢張りその人の人生にとって大きな意味を持つのではないか。浩司はなんと言葉にすればいいか迷っていたが、父は浩司の心中を察したように言葉を続けた。


「それにね、親父は長い間施設に入っていたけど、その時間は別に悲しいものじゃなかったんだよ。」


「どういうこと?」


「……一度、親父が真琴をお袋と間違えたことがあってね。」


 それは、浩司が岩槻に帰って来た日に真琴から聞いた出来事に違いなかった。


「それ以来、真琴はお見舞いを嫌がるようになって、あの子には本当に悪い事をしたけど……それも、親父にはあの子が一番綺麗な頃のお袋に見えたからなんだ。」


「…………。」


「つまり……私は、お年寄りで似たような人を何度か見たことがあるけど……歳を取ると、人生で一番楽しかったり、キラキラした思い出が強く残って、それ以外のことが曖昧になってしまう人がいてね。周りは寂しいけど、でも、本人にとってはそれでもいいんだ。」


「若い頃のお祖母ちゃんは、人生で一番大切な思い出だった?」


「多分ね。だから私は、母さんからその話を聞いたとき……実は、安心したんだ。親父の中には身体が悪くなってからの意地悪なお袋じゃなくて、綺麗なお袋がちゃんと残ってたんだな、って。」


 浩司は何も言えずに、窓の外を見続けていた。もしそうだとしたら、祖父にとってどんなに幸せな事であったあろう。それは自分達にとっても、救いであった。かつて真琴が傷付いたように、祖父の思い出から自分達が消えたとしたらそれは悲しい事だが、祖父の困難に満ちた人生を知った今、浩司はそれを差し置いても祖父の幸福を願っていた。


「父さんはさ……どうして会社を継がなかったの?」


 浩司は何故かは分からないがそう聞いていた。今まで気にしたことも無かったが、こんなにも祖父の事を思いやる父が家業を継がなかったのが、不思議に思えた。


「実家にいづらかったから?」


「それもある。親父とお袋をもう見てられなかったから。でも……。」


 父は、少し間をおいてから言った。


「実は、知っちゃったんだよ。親父の会社の秘密を。」


 浩司は一瞬、全身の血流を止められた思いがした。


「高校の頃、親父が酒に酔った勢いで……。詳しくは言い難いんだけど、親父は実は大層酷い事をしていて、それを知って親父と大喧嘩した。地元で会社の跡取りと言われてることが恥ずかしくもなった。」


 浩司は確信した。父が知った会社の秘密とは、昨日二ノ宮から打ち明けられた内容そのものだと。二ノ宮が祖父との約束を果たしに来るより何十年も前に、父は祖父の口からその秘密を打ち明けられていたのだ――酒に酔った状況ということから、どこまで本心かは分からないが。


「……それで家を出て医者に?」


「そう。寛二さんっていう、親父の弟さん――茂くんのお父さんに話を聞いてもらって、それで決めたんだ。寛二さんは、戦争中に衛生兵だったんだけど、私もそんな風に人を助けて幸せにする仕事がしたい、って言った。そしたら寛二さん、応援するから後の事は任せろ、ってね。」


「お祖父ちゃんは、反対は?」


「……されなかった。私に腹を立てたのか、あの話をした時から諦めてたのか。」


 浩司は窓ガラスに頭を持たれかけるのを止めた。車のシートに背筋を預け、真横の父の様子に神経をとがらせた。


「おれっ……多分、同じことを昨日二ノ宮さんから聞いた。」


「…………そうか。」


 父は少しも動じる事無く運転に集中していた。父の昔の戦友が尋ねてきたという当たりで、察しがついていたのだろうか。


「二ノ宮さんは、自分が死んだら家族に打ち明けてほしい、って言われたって……。」


「……そうか。……きっと、親父もしんどかったんだろうな。誰かに聞いてほしかったんだろうな。」


 浩司も同じことを考えていた。祖父は、自分が犯した罪の重さを忘れたわけではなかったのだ。むしろ生涯それを背負い続ける覚悟だったのだ。そしていつか自分を裁いてくれる人を望んでいた。そしてそれを、家族に委ねたのだ。ならばきっと、父が家を飛び出したとき、祖父は悲しむと同時に安堵したのではないだろうか。自分が犯した罪の重さに対しての答えを、たった一人の息子から与えられたことに。


「父さん……お祖父ちゃんの夢って、聞いたことある?」


「……いいや。……分からない。」


 そこまでの苦しみを追って、祖父が叶えたかった夢が何であるかはもう誰にも分からないのかもしれない。もしかすると財産や名声かもしれないし、家族を養うというささやかな幸せかもしれない。もしくは父と同じように、誰かを幸せにする仕事を成し遂げたかったのかもしれない。それが何で、叶えることができたのかはもう分からない。だが浩司は、少なくとも祖父の人生が幸せなものであったのだとしたら、その夢には価値があったと信じたかった。


「――ありがとうな、浩司。親父の事をそんなに考えてくれて。」


 父は突然そんな事を言った。ありがとう、などと言われる筋合いが自分には一つたりとも無くて、浩司は思い切りかぶりを振って否定したい思いだった。


「浩司がそうやって考えて、お前の中で親父が生きているって思うんだ。」


「……お祖父ちゃんは死んだよ。俺は何もしてあげられていない。」


 浩司は自分の発した言葉が、自分の心の堰にヒビを入れるのを感じた。不覚にも目頭が熱くなった。思い返せば浩司は、一度も『祖父が死んだ』と口にしたことが無かった。浩司は祖父の死を受け入れたつもりでいただけで、未だにその現実から距離を置いていたのかもしれない。なのに、ただ一度口にするだけで、自分の中の現実を搔き乱す言葉があるのだと、浩司は初めて思い知った。


「でも、親父が残したものはある。会社は、もう駄目かもしれないけど。私達が覚えている間は、親父は心の中で生きているから。だから、あの人の人生は幸せだったと、信じてあげてほしい。……でもね、逆の事を言うようだけど、お前には自由に生きてほしい。親父は戦争で苦しんで、身体も不自由になった分、自由に生きようとした。倫理的には許されない事かもしれないけど、それでも今までの家や自分の限界を超えて自分の夢に挑もうとした。父さんも一度家を飛び出して、色々自由にやった上で、なんだかんだこの家に戻ってきた。だからお前にも、家のこととか、会社や私の仕事とか、気にせず自由に生きてほしいんだ。そうすればお前にも、自分だけの人生が自然とできるはずだから。」


 父の話を、浩司は何も言わずにじっと聞いていた。瞼の中には今にも火を噴きそうな熱いものが込み上げてきていた。身動ぎ一つせずにじっと前を見つめているが、既に視界には景色など入っていなかった。ただ、父の温かい言葉と、膝の上の祖父の骨壺の重みを同時に感じ、それらが浩司の心の、今まで自分自身ですら気付かず扉を閉ざしていた日の当たらなかった部分を、こじ開け、熱い風を通そうとしているのを感じていた。


「あのさ……父さんから見て……お祖父ちゃんって……どんな人だったの?」


 今にも決壊しそうな心で、浩司は聞いた。聞かなければならないと思ったからだ、浩司が記憶すべき祖父の幸福の形を。


「そうだね……私が生まれた頃にはもう体が悪くなりはじめてたけど……。とても、明るい人だったよ。社員の人達と、飲み明かすのが好きな人だった。飲むといつも機嫌が良くなって……歌を歌うのが、好きな人だった。」


 浩司は、瞼から溢れる熱いものを流れるがままに感じていた。嗚咽や泣き声も抑えても、ただ涙だけが雨上がりの泉のように滾滾と流れ出て止めることができなかった。父はそんな浩司の様子に気付かずか、気付かないふりをしてか、黙々と運転を続けていた。車は長い峠道を降りおえたところだった。ここから斎場までは、車で田園地帯と街中を半時間程だ。それは、今まで感情のやり場に不器用であった浩司にとって、思いの丈を流し尽くすにはあまりにも短い時間であった。そんな浩司を思ってか、車は田園風景から徐々に新しい建物が増えていく道を、他の二台の車のはるか後方をゆっくりと進んでいった。


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