第43話 東郷 真人の決意

 しばらくの間沈黙が流れる。二宮さんと奏ちゃんをどっちを選ぶかという問いに俺は答えることができなかった。


「はあ……私と付き合っているんだから、私を迷わず選んで欲しかったけどなー」


  奏ちゃんは足をブラブラさせながら、不満気にため息をついた。それはそうだ。俺が今付き合っているのは上条 奏。本来なら彼女に向き合うべきなんだ。他の女の子にうつつを抜かしている場合ではない。


 だけれど、俺の気持ちは揺らいでいた。俺にはどうしても二宮さんを放っておくことができなかった。


「真人君。言っておくけど、二宮さんの誤解を解くのは優しさでもなんでもないから。気のない女子にそんなことして、やっぱり付き合いませんなんて残酷なことはして欲しくないの」


 まるで俺の心を見透かしているかのような言葉だ。二宮さんの誤解を解くということは最後まで責任を負え。暗にそう言っているように聞こえた。


 結局、その日は気まずい雰囲気のままデートを終えた。俺は一体どうすればいいんだろう。中途半端に浮ついた気持ちで奏ちゃんと付き合うことはできない。奏ちゃんと二宮さん。どちらかを選ぶ時が来ているんだ。


 俺は自室にこもり、一人で思案した。俺は一体どうするのが正解なんだろう。誰を選ぶのが正解なんだ。


 世間一般の男なら間違いなく奏ちゃんを選ぶだろう。彼女はとても美人で頭もいい。昔は性格がアレだったけれど、俺が記憶を失ってからは、記憶が戻るように協力してくれることもあった。


 だけれど、俺には二宮さんを切ることはできなかった。二宮さんは世間一般的にはブスだと揶揄やゆされるレベルの顔だ。だけれど、性格は優しくて俺のことを想ってくれる存在だ。記憶が戻った今、彼女に対する思い入れだってある。


 俺は二宮さんを理不尽に振ってしまったという負い目がある。彼女に気を持たせるだけ気を持たせてから振るという最低な行為をしてしまった。俺の気持ちとしては、その埋め合わせをなんとかしてあげたい。


 だけれど、奏ちゃんが言うにはそれは優しさではないと言う。付き合う気がない相手に気を持たせるようなことは残酷なことなんだ。責任を取るんだったら中途半端なことは却って彼女を傷つける。


 悩んでも悩んでも答えは出なかった。人生において重大な決断を俺は今しなければならない。今までなんとなくで生きてきた俺。なにかに真剣に打ち込んだこともない。勉強は苦手だったからやらない。スポーツはそこそこできたけれど、部活動に打ち込んだ経験はない。だって、運動すると疲れるし、体育会系特有のノリにもついていけない。


 高校だってなんとなくで決めた。ただ単に仲の良かった梅原と同じ高校に行きたいというしょうもない動機だったな。


 そんなただなんとなくで流されて生きてきた俺が、今人生において重大な選択をしようとしている。一度決めたらもう取り返しがつかないことだ。


 みんなはどうやって恋人を決めているんだろうか。俺はただ単にメンクイなだけで、顔の好みで異性を選んでいただけだった。だけれど、2人と付き合ってみて彼女たちの内面にも触れて、それなりにデートもして思い入れも出てきた。2人の顔に優劣が付けられないように、2人の思い入れ、愛着というものにも優劣をつけることができない。


 だって、俺は2人とも真剣に向き合っていたんだから。事故にあう前は二宮さんと本気で付き合っていたし、事故にあってからは奏ちゃんのことが好きになってしまった。それもこれも俺が二重人格だったせいだ。そして、その人格が統一されたことでこんなややこしい問題が起きている。


 俺は紙とペンを取り出した。紙を縦線を引いて二分割にする。そして、左側に奏ちゃんの好きな所、良い所。右側に二宮さんの好きな所、良い所を箇条書きにして書き始めた。


 頭で考えていたって整理がつかない。こうなったら、紙に書いてスッキリさせるしかない。俺はとにかく思いつく限りの彼女たちの長所を書き殴った。


 それでも自分の気持ちに整理がつかなかった。俺は、なんて優柔不断なんだろう。こんな経験は初めてだ。2人の異性を同時に好きになってしまうなんて。


 俺はメモ書きした紙を手で握りつぶしくしゃくしゃにした。丸まった紙をゴミ箱に投げ入れる。ダメだ。これじゃあ解決しない。


 なにか2人の決定的な違いというか。そういうものがなければ話にならない。なんだろう。2人の決定的な違いって……


 奏ちゃんは顔もスタイルも良くて男子にモテる。二宮さんは正反対で男子には全くモテないタイプだ。


 その一点でなにが変わるのだろうか。俺が本当に付き合いたい女子のタイプってなんだろう。今までは顔しか評価対象になかったけれど、内面を評価対象にした時に挙がるものはなんだろう。


 そう考えた時に俺の考えはすっとまとまった。俺の中で1つの答えが導き出される。俺はその答えに素直に従うことにした。これ以上考えていても堂々巡りになるだけだ。だったら、俺はこの直感に賭けてみたいと思う。


 俺の心臓がドクドクと脈打つ。この選択肢が本当に自分にとって正しい益をもたらすのかわからない。不安がないわけではなかった。1つを選ぶということは1つを切り捨てるということ。そして、誰かを傷つけるということだ。


 俺は自分の頬を叩き気合を入れた。よし! 迷いは晴れた。俺はきちんと答えを出した。俺が選んだのは――

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