第40話 もう一人の自分
俺の名前は東郷 真人。二宮 舞という女の子が好きな一般的な男子だ。みんなと違うところがあるとすれば、二重人格だということ。もう一人の人格もいることから、俺が真人Aでもう一人の方を真人Bということにした。その方が分かりやすい。
真人Bの方は上条 奏という子が好きなんだ。そして、困ったことに俺ともう一人の人格では好みのタイプがまるで正反対なんだ。
俺は二宮さんと付き合っていた。けれど、ある日交通事故に遭ってしまいそのまま意識を失うことになってしまった。俺が意識を失っていた間に目覚めたのがもう一人の人格真人Bだ。
真人Bは俺が眠っていたことをいいことに、二宮さんと別れて上条と付き合いやがったのだ。そのせいで、俺は付き合いたくもない女子と付き合うハメになってしまった。
どうして、こんなことになってしまったのか。お互い好みが似通っていて、「まあ上条もいいよね?」って思えるくらいだったら良かった。だが、残念ながら俺は上条のことをブスだと思っている。まあ、胸は上条の方が大きいけれどそんなのは誤差の範囲だ。そんなことで妥協はしたくない。
それに俺には二宮さんとの付き合ってきた日々がある。思い出もあるし、思い入れや愛情だってある。よく知らない相手ならまだしも、一緒に過ごしてきた時期が長い人をそう簡単に切ることができない。諦められないんだ。
なんで俺はあの時事故に遭ってしまったんだ。そうすれば、もう一人の人格が目覚めることもなかったし、俺が二宮さんと別れることもなかった。否、俺が事故に遭ったまま目覚めなければ丸く収まっていた問題かもしれない。本当に辛い。
俺は憂鬱な気分のまま、人格が目覚めてから初めて学校に行った。あんまり休みすぎても単位的に困るからな。高校で留年は流石に笑えない。
俺は教室に入るなり、自分の席についた。すると既に登校していた梅原が俺の傍に近づいてきた。
「うぃーす。真人。元気かーい?」
「お前はいつも元気そうで羨ましいな」
俺はとてもじゃないけど元気じゃなかった。事故で長い間眠っていて、目覚めたら自分に新しい人格が芽生えていた。それだけでも混乱するのに、自分が知らない内に彼女と別れていて、好みでもない女子と付き合っていることになる。そんな状況に耐えられる人間なんているのだろうか。
「なんだ。お前元気なさそうじゃないか。どうした? 腹でも痛いのか?」
「いや、そういうわけではないな。でも、心配してくれてありがとうな梅原」
「お、おう。なんか今日のお前気持ち悪いな」
「なんだよその言い方。ぶっ飛ばすぞ」
久しぶりに会話する梅原。こいつは変わらないな。少し安心した。
「おっと。俺はそろそろ退散するぜ。じゃあな」
「あ、おい」
梅原が急に去っていった。なにがあったのだろうか。
「真人君。おはよう」
「え。か、上条!?」
上条が俺に話しかけてきた。まあ、俺の彼女だから当然と言えば当然か。
「どうしたの真人君? 今日調子おかしいの?」
「え? いや、別におかしくはないはず」
「だって、真人君。私のことを上条って呼んだ。いつもは奏ちゃんって呼んでくれるのに……これじゃあまるで昔の真人君みたい」
そうなんだよ。俺は昔の東郷 真人なんだよ。記憶が戻ったんだ。だから、もうお前のことは好きでもなんでもない。
そう言おうとしたその時だった。俺は背後から誰かに頭をガツンを殴られたような感覚を覚えた。
そして俺の意識がすーっと手放されていく。俺はそのまま背後に引っ張られていった。そして、俯瞰で自分自身を見ているようなそんな不思議な感じがした。
「ああ。ごめんごめん。ちょっと寝ぼけてたよ。奏ちゃん」
「寝ぼけてた? そうなんだ」
(こ、これは……真人Bが俺と強制的に入れ替わったんだ。ちくしょう。勝手に俺の体の主導権を握りやがって。返せ! それは俺の体だぞ)
悪いな真人A。お前が奏ちゃんに真実を打ち明けようとしたから人格を交代させてもらった。俺は奏ちゃんと別れるつもりはないからな。
(くそう。人格の交代は俺の精神に負担がかかる。何度も頻繁にやるわけにはいかない。精神に負荷がかかると肉体にどんな悪影響を及ぼすかわからないからな。ここは真人Bに譲るしかないか)
ガラっと扉が開いた。二宮さんが教室に入ってきた。彼女は俺の傍に近づいてきた。奏ちゃんと一緒にいるのにも関わらず、俺と奏ちゃんの間に入ってきて……
「東郷君。私ね。東郷君のことをスッパリ諦めようと思うの。今まで東郷君のことを忘れれなかったけど。もう、東郷君のことを想うのはやめにするんだ」
(俺はまたハンマーで殴られたような衝撃を受けた。え!? どういうことだ。これじゃあ二宮さんとの復縁は望み薄ってことになる)
真人Bの俺としては好都合だけど、二宮さんがこんなことを言うのにはなにか訳があるのか?
「東郷君は最初から私のこと好きでもなんでもなかったんだよね? そんな相手に好かれても迷惑だよね? もし東郷君の記憶が戻れば、私にもチャンスがあると思ったけれど。記憶が戻ってもチャンスがないなら諦めるしかないよ」
(違う! 記憶がなくなる前の俺は本当に二宮さんのことが好きだったんだ。どうして、どうしてこんな誤解が起きてるんだ)
「えっとその……」
俺はどう喋っていいのかわからなかった。ここで追い打ちをかけるように別に二宮さんのことは最初から好きじゃなかったと言うのは簡単だ。ただ、それではあまりにも二宮さんにも、もう一人の俺にも申し訳がなさすぎる。かと言って、二宮さんのことは好きだったとも言えない。今は奏ちゃんの前だ。
「じゃあね。東郷君」
なにも喋れないでいる俺と奏ちゃんをおいて、二宮さんは自分の席に戻っていった。俺はどうするのが正解だったんだろう。
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